青道高校の高いレベルが常に維持される理由は練習試合の多さに起因する。練習試合を多く行うだけのほかの高校とのつながりの多さ、それを維持してきた指導陣の努力からきている。前任の榊監督時代から脈々と受け継がれてきたそのつながりが相手が2軍という条件であろうとも練習試合を組むことを可能にしてきた。
一年生が2軍のメンバーに加わってから行われた練習試合は四試合。
1軍争いをしてきたメンバーの成績は拮抗していた。
まずは投手陣。
最も1軍に近い男、川上憲史。
右のサイドスロー投手で、抜群のコントロールとスライダーを操る技巧派投手、ここ四試合で先発二試合、中継ぎで二試合、合計19回と3分の2を投げて12奪三振、三失点。先発からロングリリーフまで起用にこなして監督に強烈なアピールに成功していた。
二人目は沢村栄純、貴重なサウスポー投手。ナチュラルなムービングボールを操り、二試合を先発し11回と3分の1を三奪三振、三失点に抑えるという活躍。多くの改善点を見せるも、御幸のフォローが込みでしっかりと抑えて見せた。
そして最後の一人が降谷暁。150キロ近いストレートを操る速球派投手、しかしその弱点も大きかった。一試合目を投げるために肩を作っている間に爪が割れるというアクシデントが発生した。そのために登板はわずか二試合で六回にとどまった。それでもその僅かなチャンスで自らの可能性を示す1失点8奪三振という結果を見せた。
これらの結果を踏まえて、今チームに必要な選手として考えられたのは五試合目の国士舘戦先発を任されたのは川上で六回からのリリーフは沢村に託された。降谷はこの四試合の間に1軍争いから脱落した。
次に野手陣。
まず結果が明白になってしまったモノから……
セカンドのポジションで安定した守備と、チームには欠かせない小技を扱う木島と、小湊の戦いは小湊の勝利という結果に終わった。小湊は木島に負けない守備を見せ、なおかつ木島以上の打撃センスを見せつけた。9打数7安打、ダメ押しの1盗塁、この成績に対して木島は7打数、2安打に終わってしまった。
最後の試合を前に木島自身が今の青道に必要な選手は自分よりも小湊だと確信してしまい、監督に直訴しにいった。小湊をベンチに入れるべきだと、勝敗は決した。国士舘戦を前に小湊はベンチ入りを決めた。
そしてもう一つの戦い、この戦いはこれまでの争いとは違った。ポジションではなく役割をかけた戦い。代打の切り札の座をかけた戦いは熾烈を極めた。
岩崎は12打席で7安打1HR、これに対する前園は15打席で8安打2HR、パワーでは前園、バットコントロールでは岩崎という評価で、甲乙つけがたくこの試合のでき次第でベンチメンバーが決まるという状況で迎えた国士舘戦、両名スターティングメンバーに名前を連ねた。
1軍確定組の御幸がここ5試合2軍で試合に出続けた感想として、川上は十分に1軍クラスの実力を身につけていた。おそらくその実力は丹波さんに迫りつつあるだろう。最も丹波さんの隠し球を抜きに計算したらではあるが……それでもいまの川上は十分に1軍クラス、国士舘の投手には捉えることはできない、そう考えていた。
その考えを証明するかのように川上は打者を抑えていく、正直予想以上の投球を披露する。その目玉になったのが以前岩崎との対戦で空振りを奪ったあのスライダー、水木のスライダーを参考に投げられたスライダーはコントロールを度外視して全力で曲げるスライダー。俗にパワースライダーと呼ばれる変化球を初見で捉えることは困難。国士舘は三振を積み上げた。
そして打撃陣はというと初回からしっかりと得点を挙げた。一番打者の小湊が出塁すると三番の岩崎が長打で得点を挙げれば、前園がホームランでしっかりと全員を返した。国士舘の投手は追い込まれたらアウトコースへと逃げるスライダーを投げるという傾向を把握されてからは止まらない打線が得点を挙げ続けた。
しかし岩崎と前園の間には目に見える結果が出始めていた。
岩崎は3打席目以降、インコース攻めで完全に封じられてしまったが前園はそのインコース攻めを完全に攻略し2本のホームランを放った。
この二人の戦いは前園に軍配が上がった。
そして投手陣の戦いでは六回を投げて無失点に抑えた川上と、三回を投げて一点を失ってしまった沢村。しかもその失点の形が悪かった。不慣れな中継ぎにボールが軽いという弱点を突かれての失点先輩からベンチ入りの資格を奪い取れたのは小湊だけだった。国士舘との試合は7対1という結果に終わった。しかし試合の観客は一向に減る気配を見せず、次第に増えつつあった。
野球王国という雑誌で記者をやっている峰も上司に掛け合い、何とか許可をもらって駆けつけた。この日の青道野球部にとってのメインイベント、桐生高校との練習試合が始まろうとしていた。
この試合でなぜここまでの人があつまるのか全くわかっていない男がいた
「なぁ春っち、なんでこんなに人が集まってるんだ。言ったってただの練習試合だろ?」
これまでまともに野球を見たことがない沢村栄純だ。
「栄純クンは知らないんだね……今回の対戦相手、桐生は春の甲子園で優勝した夏の甲子園の大本命。そしてそこの四番の岩崎さんとうちのエースの水木さんは幼なじみで、同年代の選手の中だと両方とも頭一つ抜け出た存在なんだ」
「水木さんって金丸と同室の先輩だよな……俺ちゃんと投げてるとこ見たことないかも」
「そうだね、最近故障がちだし別メニューでの調整が多いみたいだね」
頭の中にある水木のイメージを思い起こすも春一の言うようなエース像が出てこずうなる沢村、そんな沢村に小湊はさらなる爆弾を落とす。
「ほら、栄純くんと同じクラスにいる岩崎勤君は水木さんを慕って青道にきたらしいよ」
この情報は沢村に二つの衝撃を与えた。
「岩崎が!!……岩崎?春っち、さっき言ってた桐生の四番の名前って……」
「……知らなかったの、桐生の四番は岩崎実、勤君のお兄さんだよ」
ダウン中に騒ぎすぎたのか周りから人が集まってくる。
「そう俺のくそったれな自慢の兄貴が、怪物‘岩崎実’だよ」
渦中の人物岩崎勤に
「お前らはよいかな試合始まるぞ、特に沢村お前は絶対水木の投球を見た方がええ」
面倒見が良い前園
「今日のあいつはちょっとすごいぞ」
その顔はまるで野球少年のようだった。