監督のコネで推薦してもらった高校は監督の母校らしく、ここ数年甲子園から遠ざかってこそいるが甲子園で準優勝した経験がある東京の古豪”青道高校”。そこが俺の進学先になるが俺の実家は京都、そこで親ともかなり険悪な雰囲気になりながら話し合った結果、進学先の青道高校の学生寮で三年間を過ごすことにした。もう荷物は大体向こうに送っているので後は自分が行くだけ、入寮日の今日始発で東京に行くため朝早くに家を出ると玄関では汗をかき、息を切らせているジャージ姿の幼なじみにしてライバルの姿があった。あえてその姿を無視し駅に向かい歩き出す。
「おまえがどこに進学するのか知らないが、甲子園で待ってるぜ。今度はあそこで勝負しようぜ」
振り返ることはせず、けれども少しだけ足を止め右手を挙げ少しだけ振った。
「アルプスで応援しといてやるよ」
そのまま駅に向かって歩き出した俺の後ろからつぶやきが聞こえてきた。
「……甲子園に出場しなきゃ野球部はアルプスに来る時間もないだろ、普通にいえよ」
伝わってしまったことに少しの恥ずかしさを感じながら薄ら笑いを浮かべ立ち去った。岩崎の反対方向に走っていく音が少しずつ離れていった。
さて、新幹線の中視線を感じる。さっきから何度か目が合ってるんだがそのたびに逃げられる。ストーカーか何かかと最初は思ったが、どう見ても相手は男、それも坊主頭のだ。なんとなくどこかで見たような気がするような、しないような。
前、泉さん(岩崎の彼女)に言われた言葉をなんとなく思い出す。
「優大はかわいい顔つきしてるんだから服装に気を遣えばモテると思うよ」
……おいおい、モテル相手が男なんてことはないだろうな。いや、気にしないことにしよう。気にしたら負けなきがする。ポケットからスマホを取り出しプロ野球のニュースを見る。
大物ルーキーや移籍した選手などのキャンプでの情報が報道される中、最も気を引いたのはやはり投手のそれ。中でも一番気になったのはやはり平成の怪物と呼ばれた投手のモノ。全盛期の輝きを失おうとも様々な経験という何にも変えられないモノを持っている投手だ復活を願う声は多い、というより投手王国と呼ばれた球団には復活を願われる投手が多い。8回の男だったイケメン速球派投手や最多勝を二回とった技巧派エースなどほんともう一度輝いてほしい、特にイケメン。
あれだ、関西の人間なんだから阪神ファンだと思うなよ。周りが阪神ファン過ぎて引いちゃうんだよ。周りの熱意について行けないんだよ。甲子園とか行ってみ、ヤジがすごすぎてついていけない。
新幹線なら意外と大阪から東京は時間がかからない、こんなことを考えている間につくぐらいには時間がかからない。
東京は初めて来たが今はスマホで検索すれば目的地に行くことは簡単なためほとんど迷うことなく目的地に向かう。しかし、感じる視線が全くなくならない。ついに姿を隠すこともやめ堂々と後ろを歩いてきている。しかも道を一度曲がるたびに目つきが険しくなっている。
「……さっきから後ろをついてきてるやつ、何のようだよ」
青道高校が見える場所まで来て、いい加減にめんどくさくなり振り向いて正面から向き合う。
慌てた声での返事が帰ってきた。
「べ、別につけとるわけちゃうわ。俺は前園健太、対戦経験もあるやろが」
顔をよーく見る、そういえばこんな強面の顔したやつが……
「……あー、俺に三打席連続三振されたやつか。なんでこんなとこにいるんだよ」
「やかましい、あの試合おまえのストレートに反応できてたのは俺だけやったんじゃ」
やばいやつだという危険がなくなったため早く学校に行くことにした。
「それで高めのストレートで空振って、低めの変化球に手が出なかったんだろうが」
「うるさぁい!!……俺は青道にいくんや。おまえ桐生から推薦もらってたんちゃうんかい。何でこんなとこおんねん」
左手で頭をかきながら答え、青道高校の敷地に足を踏み入れる。
「おれも青道だよ」
本気で驚いたのか前園の声のボリュームが上がる。
「ほんまかぁ!!おまえが来たなら、甲子園出場…いや優勝も」
騒ぎ散らす男の横を無言で歩いて行き、寮の部屋割り表を見つける。
「おまえほんとうるさいね。ほらもうついたぞ、おまえは……一番最初の部屋じゃん。俺は、あった同室は東清国さんと滝川クリス有……知ってる?」
まるで信じられないようなモノを見るかのような目で
「あほか、おまえしらんのか。東清国言うたら今年のドラフト候補にもあがっとるスラッガーやろが。あの流しながらもスタンドまで楽に運ぶホームランはすごいねんぞ。なんで知らんねん」
ごまかすために話をそらそうと次の名前を出す。
「じゃあこのクリスさんは?」
さすがに知らないのか前園も眉間にしわが寄っている。
「それは俺だな。ようこそ青道高校へスーパールーキー」
振り返るとそこには身長は同じぐらいだが、がたいがよく、おそらく外国の血が入っている男と、そこからさらに縦にも横にもデカイ男が立っていた。
両方ともかなりの汗をかいており、練習開けだということがわかる。
「は、初めまして!!自分は前園健太と言います。よろしくお願いします」
前園が完全に上がってしまいながら大声で挨拶をしたため横にいた俺も流れで挨拶を
「初めまして、自分は」
しようとした。しかし、おそらくクリスさんと思われる外国人風の先輩が手を挙げることでそれを遮り俺の台詞を引き継いだ。
「水木優大。全中決勝でノーヒットノーランをやった投手だろう。俺は滝川クリス有、クリスでいい。こっちの人が東先輩だ」
このクリス先輩の言葉に東先輩が反応する。
「なんやクリス、こいつのこと知っとるんか」
「ええ、この間の水木がノーヒットノーランをやった時の投球を動画で確認しましたから。……正直打つイメージができませんでしたよ」
俺を置き去りに話は進んでいく。
「そないすごいんか。……今ならどうや」
東先輩が浮かべた意地の悪い笑顔にクリス先輩は苦笑しながら
「正直わかりません。それに、どうせなら打つよりも受けてみたいですね。俺はキャッチャーなので」
と答えていた。
「投げましょうか、俺」
すっとでた言葉だった。しかし、この言葉を言った瞬間先輩二人からの視線の圧力が増す。
「怪我開けであんまり投げれてないんで今の調子を確認しときたいんですよ」
増していく圧力がすっと軽くなる。いや、研ぎ澄まされる。
「ええやろ。俺がバッターボックスに立ったる。クリス、おまえがキャッチャーやれや」
東先輩は先にグラウンドに向かい。クリス先輩はボールを渡してきた後、防具を着け始めてしまった。
「大変なことになってもうた」
一人取り残されてぽつり声を漏らした前園に声をかける。
「キャッチボールの相手してくれ」
グラウンドの方からとんでもない素振りの音が聞こえてくる。
「はやく肩つくんなきゃいけないんだからさ」
防具を着けたクリス先輩が戻ってくるまでに投げること十数球。怪我していた肘や肩の調子は悪くない。
「待たせたか、じゃあ行くか。球種は何を投げるんだ?」
グラウンド、鋭いスイング音のする方に足を進める。
「スライダーとカットボール、後はスローカーブですね。サインは簡単でいいですよ」
歩いてくるのが見えて東先輩が威嚇のつもりか素振りのスピードをさらにあげる。
「早かったのう、おまえら。ほな早速やけど始めよか」
うれしそうに笑いバットを振っている東先輩を置いて打ち合わせの続きをする。
「楽しそうっすね、あの人」
「ああ、今あの人監督からバッティング練習を禁止されているからな」
そう、東先輩は体質的に体に肉がつきやすくオフの間に大きくしすぎた体を絞っている途中であり、彼はこの体質にプロに入ってからも悩まされることになる。
「いいんすか、これ」
クリスさんはこの質問に肩をすくめホームベースに歩いて行った。
まずは初球、アウトハイでギリギリボールになるボール。
怪我をする前のボールとは違い若干のシュート回転がかかってしまったボール。しかし、三塁側から最大限角度をつけられたボールは恐ろしいスイングスピードのバッドの上を通った。
(怖えぇ)
二球目はカットボールをアウトローへ堂々と見逃される。
三球目はスローカーブをインコースに、ボールゾーンからストライクゾーンに入ってくるボール。それを引きつけて恐ろしいスイングスピードで持って行かれる。あたりの大きさなら完全にホームランだったがライト線を切れていった。
これが勝負ならツーストライクワンボール、ここは決め球のスライダーを決めるしかない。ストレートのサインを出すクリス先輩に首を横に振り、スライダーのサインにうなずく。二球目と同じコース、アウトコースと読み切り大きく踏み込んだ東先輩のバットからさらに逃げるように大きく曲がったスライダーは空振りを奪いワンバウンドしキャッチャーミットに収まった。
「俺の勝ちってことでいいですか」
マウンド上で不適に笑って見せた。
さて、浅尾も岩瀬も引退してしまいましたね。
長い間現役お疲れさまでした。
来年以降はコーチとか監督として活躍してほしいですね。
来年から中継ぎ陣はどうなるんでしょう