高校野球と中学野球の違い、それは体ができているかどうか。男性の成長の最も大きいのは中学時代でそこで成長の大部分を終える。そのため高校野球では中学での野球とは違い成長した体でプレイし、練習を行う。しかしほとんどの高校一年生は成長していても高校野球に通用する体にまだなっていない。そのため青道高校でもほとんどの一年生が夏まで体作り中心のメニューを行う。ただしまれにいるのだ、入学直後から高校野球に通用するような連中が。
青道高校野球部がここ数年間甲子園から遠ざかっていた理由の一つにスカウトでの敗北というのは必ずあるだろう。多くの名門や強豪と呼ばれる学校はスタメンやベンチメンバーに2年生や1年生が数名、名前を連ねる。しかしここ数年3年生を押しのけレギュラーになったのは現3年生の東に現2年生のクリスに結城のみという結果。これが甲子園に行けない理由かと言われればそうとはいえないが、甲子園というのは一発勝負という性質上ほんの僅かなナニカがないだけで届かない。これがその僅かなナニカでないと誰が言えるか、誰もいえないだろう。
甲子園に出場することを至上命令としていた青道高校では、今年かなりスカウトに力を入れていた。しかも去年のスカウトは大外れだと言われていたため力の入れ方は半端じゃなかった。
それでも片岡監督にとってここまでというのは想定外だった。
ここ数日で一年生を見ていたが即戦力クラスが水木に御幸と2名、倉持や白州など戦力として考えられるメンバーも多い。
ほかにも数名使えそうな掘り出し物がいるかもしれない、何よりも水木に御幸この2名をほかの高校にデータをとられずに試したい。そのために紅白戦をやるのは自然な流れだった。
普段なら練習の主役として動いている一軍メンバーがBグラウンドで裏方の仕事を行っていた。普段控えメンバーに世話になっているという思いが強い分、こういった機会では一軍メンバーはほかの高校よりも細かく仕事を行う。二軍と一軍の間にある互いへのリスペクト、それが一つ一つの行動に込められている。そんな一軍メンバーだからこそ二軍メンバーは普段の練習をサポートしながらも腐らずに練習に励み、チャンスを待つ。ようやく来たチャンスを彼らは逃がさない。
野心たっぷりのまなざしが一年生をにらみつける。そんな中、不適に笑う生徒が一名。
中学時代、圧倒的なマウンドさばきでチームを全国優勝に導き、怪我を隠しながらノーヒットノーランをやり遂げたこの選手を水木優大という選手を、正直、監督として導ける自信がなかった。この大きな才能を開花させられるのか確信が全く持てなかった。
そのため彼を推薦してくれという話を断ろうとしていた。そんな自分の考えは笑いながら否定されたが。
「思ったよりもちゃんと監督をやっているじゃないですか、感心しますよ。ただあの子の才能が開花しないなんてことはあり得ませんよ。彼はそんなサイズの男じゃない。私はそういった男がいることをあなたに学びました、あなたも勉強させてもらいなさい」
高校時代の恩人といえるだろう。生意気な一年生だった自分とバッテリーを組み、スタメンとの関係性に気を回してもらった。自分という投手のことを考えてもらいながらもキャプテンとしてチームを引っ張り、四番を打っていたこの先輩のすごさを知ったのは自分がキャプテンを任されてからだった。正直今では頭が上がらない先輩になっていた。
そんな彼からの推薦を受けた彼には入学前から見ていた。入寮日の東との勝負もだ。僅か4球、しかしそこには人を魅了する何かがあった。
正直この紅白戦で当て馬になってもらう二軍メンバーには申し訳なく思うが、それでもその投球を見たかった。おそらく、あの決勝でのノーヒットノーランを見た時点で私は魅了されていたのだろう。
二軍メンバー
一番 楠(遊)
二番 小湊(二)
三番 伊佐敷(中)
四番 増子(三)
五番 宮内(捕)
六番 坂井(左)
七番 門田(右)
八番 山田(一)
九番 丹波(投)
一年生メンバー
一番 倉持(遊)
二番 白州(中)
三番 水木(投)
四番 御幸(捕)
五番 前園(一)
六番 麻生(左)
七番 三浦(右)
八番 木島(二)
九番 樋笠(三)
一回の表
二軍の先攻め、一番の楠は二軍ながら内野の花形、ショートを任されており、その身体能力は高くこれと言った特徴はないが、何でもこなせる好打者。スイングスピードも速く、足もある、並の中堅校ならクリンナップを任されてもおかしくないレベルの打者。
そんな楠への水木の初球はインコースへのストレート。インハイへ糸を引くように吸い込まれていき、バットが空を切る。二軍ベンチにざわめきが走る。
僅かな間も置かず二球目が投じられる、続けてインコース、それもストレート。一球目で軌道を見ていた楠がバットを振る、完全に捉えていたが、僅かにシュート回転しタイミングと芯を外されボールはファールグラウンドを転がる。
三球目、ここまでの二球と違い水木が御幸のサインに首を振った。プレートの三塁側一杯一杯を踏み、右バッターのアウトコースへ角度を目一杯使ったボールはバットすら振らせることなくミットに突き刺さった。
二番の小湊は守備と選球眼に優れた小技を使いこなす昔ながらの二番。ストレートで押してくる水木に対し難しい球はカットして粘ること五球目、狙っていた伸びてこないストレート。シュート回転しながら入ってくると狙ったボールは僅かに体から逃げるように動いた。
シュート回転するボールをうちに行ったバットの先端にボールが当たり平凡なセカンドゴロに終わった。
三番の伊佐敷は一、二番の打席をみて初球に的を絞っていた。ここまで八球でボール球は一球のみ、そこで初球を強く振ったバットはボールの下をたたき、ふらふらっと上がったボールを前進したファーストの前園がつかみ三者凡退に終わった。
一回の裏
一年生チームで一番の倉持の特筆すべきポイントはその俊足。一年生の身体能力テストで圧倒的なそのタイムはチームでもトップ。その上スイッチヒッターとして左右どちらでも打てるという強烈な個性。その分期待も大きな選手だが、二軍チームの投手丹波のこれまでの野球人生で見たことのないような高さから落ちてくるカーブの前に手も足も出ず三振。
二番の白州も全体的に高いレベルでまとまった選手だが、丹波のドロップカーブを捉えることができず二球で追い込まれ、140キロ近いストレートに詰まらされてしまいあっけなくツーアウト。
丹波はマウンド上からおまえが点をやらんと言うなら俺もやらんと言わんばかりに次のバッターの三番の水木を強くにらみつける。
その視線を軽く受け流しつつ右バッターボックスに入るこの男、投球に隠れがちだが実はバッティングも相当のモノである。
何せ中学時代は全国優勝したチームの三番を任され、怪物と評された男の前を任されていた男なのだ。ホームランや長打こそ少ないモノの出塁率の高さは実はあの怪物”岩崎 実”よりも高いのだ。
初球、ドロップカーブ、ピクリともせずに見逃す。二球目アウトコースへのストレート、完全に振り遅れたファール。
ストレートにタイミングが合っていない、しかし単調に続けたのは間違いだった。
一二塁間を突き破るグラウンダー性の打球、この試合一本目のヒットでのランナー。しかも次が四番打者、しかし御幸は初球のカーブを引っかけセカンドゴロ。あっさりと討ち取られた。
始まったのは息詰まる投手戦。
初めて見るドロップカーブを打ちあぐねる一年生たちを相手に三振の山を築きあげる丹波にたいし、ストレートを主体としたインコースとアウトコースの組み立てで巧みに抑えていく水木の投手戦。
この試合が大きく動くのは五回の表。