ひねくれ者の大エース   作:鈴見悠晴

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紅白戦の結果チーム事情も相まって一軍昇格になった。正直うちの投手事情は強豪にふさわしいとは言えないだろう。

まず、エースの今川さん。世にも珍しい左のアンダースロー投手。カーブとスクリューを丁寧に低めに投げ分けることでに抑える技巧派。なんだが、むらっけがすごい。いやほんと癖がすごい。

調子いいときは強豪相手に九回一失点で完投したり、完封する投手なんだが、調子が悪いと公立校相手に五回四失点ぐらいの試合をざらにやる。プロのスカウトの人が調子いい時を見て喜び舞い上がり、調子が悪い時を見て顔を青くさせているのを入学からすでに何回見たか……

次の二番手投手が丹波さん。この人もなぁ……悪い投手じゃないんだよ。安定感とか今川さんとは比べる必要がないぐらいあるし、(比較対象がおかしいだけである)ただシンプルに集中力がない、いや足りない。

おっと勘違いしないでくれよ、別に貶してるわけじゃない。マウンドの上は異常につかれるんだ肉体面より精神面が、特に強豪校ともなると一球一球にしっかりとしたものを込めないといけない。これがつかれる。だから多くの投手は自分の中に余裕を作る。別に手を抜くわけじゃない。本気でやるが全力じゃないというだけ。丹波さんはこれができていない。全員に本気の全力でやっている。これが悪いわけじゃない、でもそのせいで代替七回に崩れるというだけで……

さてここまで先輩をボロカスに言った俺はどうなのかというと、三番手投手 水木雄大。

中学時代のけがを引きずり大体百球をめどにフォームを崩す地雷投手。うーんこの……

マジで弱点らしい弱点が投手のこの高校、ほんと戦犯かましてますわ、この投手陣。うん、俺らなんだけどね。

 

さぁ、そんな俺達がしている投手陣で挑んだ青道高校の関東大会。一回戦の相手は名門、後橋郁恵高校。

先発は今川さんで 青道 対 後橋 のこのカード観客も、ベンチも、たぶん選手も、あと本人も乱打戦を予想していた。

結果はまさかの一方的な展開、いや何があったら今川さんが六回終了までパーフェクトできるんだよ。

いや理屈はわかる。あまりの球の遅さに打ちごろと打ちに来る、でもあの独特の軌道をとらえきれない。そうこうしてるうちに点差が開く、さらに焦る、打てないの繰り返し……いやでもそんなことあるのか、ちなみに結局八回に打たれてノーノーもパーフェクトもなくなったが完封勝利という完ぺきな結果を残した。

 

やったでこれで甲子園も夢やない‼

と多くのファンやobも期待(何度目かわからない)したのだが……

 

慌ただしげに動くベンチ

「水木、すぐに肩を作れ。丹波準備できてるな行くぞ」

今川さんは確変に入ったのか並み居る強豪を蹴散らしたが準決勝の市大三校戦で突然の大乱調。一回の表からフォアボールを出し二失点、三回までに五失点。対するこちらは二年生エースの真中さんの前に三回二得点に抑えられている始末。

この流れのなか丹波さんは三回一失点の好投。

俺の公式戦初登板は六対四の七回の表から相手は市大三校。舞台としては完ぺきだね

 

 

 

 

初級、アウトコースのカットボール。コースは完ぺき、クリスのミットもほとんど動かない、しかし変化しなかった。振りぬかれたバットから快音が響く、スピードの乗った打球は幸運にもサード正面。

この打球にホームからクリスがマウンドに向かう。

「大丈夫か、さすがのお前でもこの場面に緊張したか?」

「緊張はしてないんですけど、カットボールは使い物になりませんね。やっぱり付け焼刃じゃなかなか通用しませんね」

「わかった、それ以外の球種で組み立てよう。練習通りに構えたところに投げてこい」

 

クリスはこれまでの練習で一つの確信を得ていた。それは水木のカットボールはストレートの調子を反映しているということだ。その理由は水木のカットボールを投げているときの感覚に起因する。水木はカットボールを手首の角度で曲げる感覚で投げている。ただストレートが指にかかっているときはこの手首の角度の調整がうまくいかない時が多い。今日の水木のカットボールの調子は最悪、つまり推測ではあるものの今日のストレートの調子は最高ということだ。

美しさすら感じるような糸を引くようなまっすぐ。

実をいうとクリスの推測は実に的を射ていた。水木のカットボールはわずかな感覚の差しかストレートとの違いがなく、けがからの復帰後に身に着けた変化球ということもありその日の調子に最も影響されやすい球なのだ。

二人目のバッターをストレートだけで簡単に追い込んで最後はスライダーであっけなく三振。

三人目もストレートとカーブをインコースに集め、最後はアウトコースの逃げていくスライダーで二者連続三振。

水木の仕様に気づき、そのうえでベストの配球を考え出す。クリス様様である。

 

 

さて、野球というスポーツでは投手と野手どちらが有利だろうか?意見は分かれるだろうが一つだけ確かなのは大戦回数が多いほど打者が有利になっていくという点だ。

ここまで市大三校の真中は六回を四失点で打者はもうすでに五巡目に入る。

つまり、いつ崩れてもおかしくないということだ。

青道高校で一番を任されている長峰のバットが振り切られていた。

強豪校のショートを勝ち取り不動の切り込み隊長となったこの男は天才的な感性を持つバッターで、走攻守に文句のつけようのないドラフト候補。

青道の核弾頭はインハイのストレートをスタンドに運んでいた。

この後も真中は三番のクリスに四番の東、五番の結城に連打を浴びマウンドから引きずり降ろされた。

くしくも水木と同じ七回からマウンドに上がったのは同じ一年生の天久光聖。彼の決め球もまた水木と同じ、スライダーだった。

水木と同じように三者凡退で締めた天久はにらみつけるかのように水木を見つめ、その視線は確かにぶつかった。

 

八回の表、下位打線の市大三校は相手投手が一年生なところに付け込み、ゆさぶりをかけようと先頭バッターが初球セーフティバントを仕掛けるもきれいに裁かれワンアウト。何せ中学二年までショートで大会ベストナインにも選ばれるような男、フィールディング能力の高さには定評がある。

しかし下位打線がヒッティングをでは望みがない。そう思わせるほどにこの日の水木のストレートは伸びていた。

結果三者凡退。水木、天久両投手は互いの投球を意識しあい、両者最後の回を三者三振で終わらせた。

 

 

 

「東京は広いすね。あんな投手がいるなんて知らなかったですよ」

バスの中、隣のクリス先輩に声をかける。

「まぁそうだな。だが中学時代はあそこまでの選手とは思わなかったが……お前を意識したんだろうな」

「いやぁ東京も楽しめそうだ。…げ、あいつまた打ってやがる。スレが盛り上がってるねぇ」

スマホを片手に成績を確認していると目の前に別のスマホが差し出された。

「よかったじゃないか、お前もネットニュースになってるぞ」

 

『次世代の東京BIG3‼ 天久、水木、成宮、徹底比較』

 

「ネットユーザーは気が早すぎますね。この成宮って誰です?」

「稲城実業の選手だ。この選手に関しては俺よりも御幸のほうが詳しいがな」

クリスさんがスマホを操作し画像を出す。

「へぇ、初対戦を楽しみにしますか」

 

この日は完ぺきな勝利を収めた青道高校。なお決勝で帝東高校に負けました。

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