ひねくれ者の大エース   作:鈴見悠晴

7 / 23
始まる夏、狙う頂点

夏来る。全ての高校球児たちの晴れ舞台、甲子園。そこへの出場権はトーナメントの一番上、頂上に立つモノだけが手にすることができる。

ついに始まった、甲子園の切符をかけた大会、その一回戦のマウンドを青道高校は一年生に託した。

 

二十人、高校野球でベンチ入りできる人数だ。青道高校は三年生だけでも三十人近くいて、その約半数が一軍として公式戦に出たことがない。

そんな中、高校最後の公式戦、最後のメンバー発表。最後までベンチにも入れない、そうして高校球児としての三年間を終えていく。それでもそんな三年生は一人も練習を休むことなくグラウンドに出てきていた。声を出し、グラウンドを整え、試合に出るメンバーのために必死にサポートに回っていた。

 

このマウンドは、そんなほかの部員たちが立ちたいと願い、立てなかった場所だ。

 

「あちいな、ここは」

グラウンドで最も高い場所に立った男の背中には18の数字。

サイレンとともに青道の夏が始まった。

 

二回戦、都立由良高校

シード校として二回戦からの出場、相手も一回戦を制してここに立っていた。相手はシード校だが、こっちには一回戦を勝ち抜いた勢いがある、初回に相手投手を打ち崩せれば……そう思い試合に臨んだ。

彼らにとって相手投手が一年生だというのも追い風だった。彼らの中では勝手に一年生投手は打ち崩せるという考えがあった。しかし、蓋を開けてみたら初回に絶望感を突きつけられた。

特別早いわけではないのに、なぜか誰もバットに当てられない。ボールを見て、当てに行くことすらできていない。

面白いように三振の山が築かれていった。

その秘密は変化球にあった。まず変化球とは何なのか、例えばスライダーという変化球一つとっても投げる投手が変われば全く別物になっている。その理由はその投手のフォームに、手の握り、ほかには指の長さなど上げだしたらきりがない。

本人も意識したことがないが、水木の手は非常に大きく、腕も長い、そのため腕を鞭のようにしならせて投げることで発生する遠心力をうまく使えれば、その変化球は非常によく変化する。

彼の投げる変化球は二つ、スライダーにカットボール。このうちカットボールは本人のその日の調子に左右される不安定な球だが、スライダーは大きく、鋭く、切り裂くように変化する。

このボールを打つことのできるバッターは残念ながら由良高校にはいなかった。しかもついていないことにこの日の水木のカットボールは縦の変化が強烈に強かったこともヒットが出なかった理由の一つだろう。

 

逆に打線は長峰、東、クリス、結城と強力なメンバーが活躍。長峰はサイクルヒット、東は二ホーマーの活躍。

圧倒的な強さで一回戦を制した青道高校。その中核をなしているのは、その打撃陣だ。全国的に見ても圧倒的なその打撃陣、その打撃陣の中でも先頭に立ち、チームを引っ張り、そして支える長峰がこの試合でひときわ輝きを放っていた。

しかし、この男とにかく地味である。れっきとしたドラフト候補ながら、スカウトマンとコアなファンにしか知られていないレベルで地味である。

その理由はプレー内容、まずバッティング、打率こそ四割近く打っているが長打はほとんどなく、ホームランは都市伝説レベル。消極的な盗塁に、積極的な走塁は玄人の評価は高めるが素人の目にはとまらず、守備ではショートという花形でありながらファインプレーはほとんどない(できないとは言ってない)。

そんな長峰がこの試合ではサイクルヒットを達成し、三つのファインプレーでノーヒットノーランに貢献した。

 

そんな長峰はいつも通り日課のグローブの手入れを行っていた。

丁寧に、丁寧に磨き上げていく。タオルが汚れて、グローブにつやが出てくればそれで終了。

「いい加減自分で磨いたら」

同じ内野手の東を目の前にしてあきれたように差し出されたグローブを受け取る。

「何やぁ、ちゃんとおまえが磨き終わるん待ったやろが、峰」

長峰は目線を合わせることもなく磨き始める。

「自分でできるようにならないとプロになってからどうするんだ。やり方は亮に教えてもらえよ」

自分が普段使っているモノよりも大きいグローブに油を塗り込んでいく。

「おまえが教えてくれるんちゃうんかい」

「やだよ、おまえ覚えないだろ」

騒ぎ出す東に、それを無視する長峰。ドラフト候補の二人が騒ぎ出すことで、気まずくなった部屋の中、小湊亮介は普段の笑みを若干引きつらせていた。

そんな中ノーヒットノーランを達成したエースは同学年のキャッチャーを相手に笑っていた。

「おまえ外野手似合ってたぞ、そのままコンバートしたら良いんじゃねーの」

クリスとのスタメン争いに敗れながらも、その勝負強さを生かすべく外野手として練習し、この初戦で起用されたのである。

「おまえさぁ、よくそんな笑えるよな」

「そらおまえ、代打出されてアンだけ自信たっぷりに出て行って、最終的には防具まで着けようとしてたのに外野に出されたんだぞ。お疲れ様」

彼の笑いはまだまだ終わらないだろう。

 

 

「今年は面白くなりそうだ」

月刊野球王国の記者、峰は一野球ファンとして今年の夏を楽しみにしていた。

まずは西では新しい怪物、岩崎擁する王者桐生学園。そこに今年が最後の甲子園になる怪物、ナンバー1スラッガー海野率いる明暗。関西の新旧怪物の戦いも見てみたい。

初の甲子園優勝を狙う、新進気鋭 福岡工業。南の風を運ぶ沖縄の江南高校。

東では熾烈な戦いを広げる東京代表に、春の甲子園で波乱を呼んだ群馬代表、未知数の北海道代表。

ほかにも様々な強豪が鎬を削っている。

こういう年ほど自分たち記者がどういった記事を書くかがその年の盛り上がりに直結する。

「もうひと頑張りしようか」

コーヒーを飲みきりパソコンの前に腰を据えた。

この年彼が書いた多くの記事が、この後多くの高校球児、運命に影響を与えた。

そしてこの年から高校野球のレベルが非常に上がったといわれる。その理由はとある男が高校球児の目標になったから。

峰の記事はどうやら一般受けはしないモノの経験者には良いらしい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。