Misfortune Destroyer   作:綿四森

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亀更新。ストックなどなし、是非もなし。

五話で終わると思っていましたが、一話分のプロットが一話分じゃなかった。
何を言っているかわからないと思うが(ry
たぶん一章数話で五章程度続きます。


第一話、日常パート。


1st:Blood
虚実


「おーぅ! 雪風!」

 

 ウサギめ。廊下を速足で歩いていた雪風は気だるげな息を漏らした。

 手を振るいながら飛び跳ねる島風。こちらへ寄ってくる動きに合わせて長い髪が暴れ、それはそれで別個の生物であるような印象を受ける。ひらひらと軽く手を上げ応じる雪風だが、足を止めようという気は微塵もなかった。

 話をする気はありません、とボディランゲージにて示しているのだが。それに構わず不満そうな顔をした島風は彼女の周りをぴょこぴょこと跳ね回り始める。邪魔だ。

 大方待たされたことが不満なのだろうが、今日待ち合わせをした覚えはなかった。自業自得だろうに。

 

「鬱陶しいです、島風」

「ォウ、塩対応! 速足だね。なに、お腹すいてるの? 実は私も! 今から食堂でしょ? 一緒に行こ!」

「……好きにしてください」

「あー、と。なんかお疲れ気味? もしかして演習連戦上がったばっか? ……そっか、そりゃごめんって、無視しないで!」

 

 無言で頷けば島風は速度を合わせて隣へ並ぶ。厳しい相手とではなく、模擬弾では負傷はしないとしても五連戦すれば流石に疲労は溜まる。少なくとも、雪風もテンションの高すぎる誰かさんを相手にしたくない程度には疲れていた。

 時刻は正午を回って少し。腹の底から唸りを上げる雪風の向かう先に待っているのは、次の戦場だった。

 弱肉強食の摂理が渦巻き、ただ己の欲を満たしに矜持と意思が交差する。

 

 その場所の名を食堂という。

 

 ――――連戦明けの赤城がくる。

 たったそれだけ、されどそれは泊地に暮らす者共からすれば災厄とさして変わらない。

 まだ奴は装備の手入れをしているが。のろのろと歩いていたら残りすべてがなくなることだってあり得る。今日のC定食は月に一度もないトンテキなのに。

 鎮守府敷地内で畜産も水耕栽培も行っているとはいえ、合成でない本物の肉は未だ貴重。艦隊ごとに配給の分量が決まっているのだ。よりによってそんな日の演習午前の部、雪風は常に赤城と艦隊を組んでいた。

 既にある程度なくなっていることを思えば汗が引くのを待つ余裕だってないだろう。

 雪風の目がこうもぎらつく理由などそうそうない。

 

「ワォ、今日はヤバい方かぁ。……確保しとこうか?」

「お願いします。C、次点でB。大盛りで」

「まっかせてー!」

 

 速きこと島風のごとし、とはよく言ったものだ。全力で走り去る影の小さくなるスピードに一種の感嘆を覚え、足を緩める。これで昼食は確保、と安堵の息を吐く雪風の横をごう、と暴風が突き抜けていった。直後、ドップラーのかかった驚愕の声が窓ガラスを揺らした。

 

「ぉぉおおうっ!?」

 

 やっぱりだめだったか。揺らめき消えていった影が脳裏に悪夢を蘇らせ、思わず天井を仰ぐ。食べるのが早ければおかわりも早い大喰らい。尽きていく残弾。是非もなし。運動後の赤城は餓えに理性を奪われたハイエナのようなものだ。

 カラカラと気の抜ける音を鳴らす台車を雷が無表情で転がしすれ違っていった。ため息しか出ない。

 保険をかけておいて良かった。あっさりトンテキを諦めた雪風が食堂に到着する頃には、既に腹を膨らせた赤城が見るもうんざりする数の丼と皿を積み上げ終えていたことは想像に難くない。

 

 

「いやー、ごめん。てかナニアレほんとに空母?」

「たぶん……。まあ想定はしてましたので」

 

 二匹のサンマが啄まれ、身を解される。焼き加減はミディアム程度だろうか。パリッとキツネ色の焦げ目の付いた皮から旨味を凝縮した汁が溢れ出す。そこにつけ合わされるのは瑞々しく輝く大根おろし。腸の僅かな苦みを新鮮な大根のさっぱりした味が中和し、程よい塩加減が旬の旨味を増幅している。最高だ。

 煮干しで出汁を取ったらしい汁で口を漱ぐ。何より、季節は秋。

 

「サンマは旬ですからね」

 

 そう言う雪風の頬は僅かに持ち上がっている。その間にもサンマの解体は進んでいく。好みにもよるが、ポン酢や醤油などを使うのははむしろ無粋であろう。そう思い調味料の類は一切使わなかったが、正解であったらしい。

 旬の魚の持つ上品でいて、いっそ暴力的ですらある脂の旨味が味覚を侵食してくる。米の代用品の遺伝子組み換えの粟と麦は大量生産品だけあって大味だが、それが不思議と何とも言えないハーモニーを形成している。さらには空腹というスパイスが加わり、もはや箸が止まりそうにない。

 その様子を見た赤城が生唾を飲んで再び立ち上がる。周囲が俄かにざわめき、各艦隊の秋月型が失神する。誰もが惨劇を予感した!

 

「……おいしいですね」

「何回目さ」

「おいしいものは、何度食べてもおいしいものですよ」

「そうだけど、そうじゃなくって。うん、まあいいや」

 

 一部を除いて、だが。当たり前だが食料は貴重。必要以上の暴食が許されるわけもなし。霧島が赤城の背後から右腕と首根っこを掴み、担ぎ上げてどこかへ連れて行く姿を島風は若干青ざめ呆然と見つめる。また説教か、と誰かが声を漏らすが雪風にはまるで気になりはしなかった。

 サンマの解体はいよいよ大詰めを迎える。残ったのは頭部と胴体の骨だけ。雪風の箸が眼孔の斜め下後方のくぼみに刺さり、ねじるようにして皮を引き裂き蓋を上げる。そう、目当てはとろけるような食感の頬肉だ。それが終われば目の奥。眼球だって珍味だ。

 

 気が付けば秋刀魚はただ骨とエラが残るのみとなって頭部ですら原型が分からなくなっていた。

 もう少し食べたかった。そんな不満を脳が訴える。つまり、満足だ。大満足なのだ。次にサンマを食う時もさぞ美味かろうと期待が高まるというものだ。その口元がにやけていることを雪風は知らない。

 食事の余韻に沈黙だけが流れ、ほぼ同時に湯呑の緑茶を口に含む。何か話題はないか、と目を向けると島風がそれなら、と頷き口を開く。

 

「午後の演習だけどさー、なんか知らない?」

「なにがでしょう?」

「うーん、知らなさそうだなぁ。いやねえ、今日の午後は一戦しかしないから資源消費が少なくて嬉しいって潜水艦たちが話してたんだけどさ。いつも午後は五戦あるのに今日だけ少ないってことはなんかあるでしょ? 多分。雪風、最近演習の回数増やしてもらうようお願いしたって言ってたじゃん? その辺何か聞いてるんじゃないかと思ったんだけどなぁ」

「……いえ、特には」

「だよね。うーむ、残念」

「でもそれを聞くならもっとふさわしい相手がいますよ。ほら、後ろ」

 

 腕を組んで唸る島風。どうやったのだか、妖精によって資源が生産されるようになってから資材が過度に減少したという話は聞いたことがないし、遠征による加算だってある。まあ確かに変な話ではあるが、そういう話は自分ではなく秘書艦様に聞けばいいだろう。

 近付いてくる見覚えのある銀髪の彼女に向け、雪風は片手を上げる。器用に右手だけでトレーを持ちながら、まあいいでしょう、暇だしと承諾の意を口にする。

 

「そりゃ、午後のは軽量弾を使った実弾演習だからよ。んなことそうおいそれとできないわ。ぉっと、隣失礼するわ」

 

 雪風から見て左前、島風の隣の席にサンマの乗ったトレーを置き、右手に湯呑を持ち直して茶をすする。先の戦闘以来、その髪は右耳辺りから左肩まで斜めに短くなった。左腕もギプスを填めたまま。一時的なものとは分かっていても痛々しい。

 実弾、と聞いて顔色一つ変えない雪風とひぇっと小さな悲鳴を上げ表情を引きつらせる島風。実に対照的な二人を叢雲は楽し気に見つめる。

 

「うっげぇ……。そういうことか……」

「相変わらずヘタレねぇ。ま、せいぜい気張りなさい」

 

 言われた意味が分からず、ぽかんとした表情を晒す島風。ギギギ、と音がしそうな動きで叢雲に顔を向けるが冷ややかに細められた目と視線が合い、気まずそうに目を泳がせる。

 

「……え?」

「島風、あんた参加よ」

「のぅっ!?」

「雪風の方は随分と余裕そうね。幸運艦は伊達じゃないってことかしら。……レベル上げを進言しに来た時も思ったけど。まさかあんた、調子に乗ってないでしょうね?」

「別に……。「雪風」のような幸運艦を更に強くすることは艦隊にとってメリットのはずです。皆さんの力になれるなら屁でもないってだけですよ」

 

 幸運艦の攻撃は当たりが良くなりやすい、という迷信があるからあながち嘘ではないはずだ。尤も、雪風は誰かのために己を顧みないような性格ではないし、アーカイブの秘匿データを閲覧するという目的も別にあるけれども。

 雪風自身、幸運や運命などの類は信じないたちなのも些細なことだ。

 

「……あんたそういうタイプじゃないでしょうに。まあいいわ。確かに80を超えると上がりにくいのは事実ね。そういうことにしてあげる。あんたもヒトヨンサンマルにはゲートに待機しておきなさい。相手は全員上限解放済み、かつ今回は四対四の演習になるわ。……まあ、勝てないでしょうけど」

 

 相手が四人。そこに疑問を覚えた。

 基本的に演習は異なる提督麾下の艦隊同士で行われる。仮に今回もそうだとして、今回に関してはごく一部の艦隊しか参加しないとみえる。実弾で演習を行うという割には、今艦娘で犇めく食堂の空気に緊張の糸が張り詰めた様子はないから雪風はそう考える。だが、それが妙な話なのだ。

 

 鎮守府全体で見ればレベル上限解放者はそれこそ何十人と在籍している。

 しかし、だ。そのうち三人以上を麾下とする提督は果たして何人いただろうか。それも、そういう提督に限ってレベルが解放されているのは戦艦や空母であることが多い。戦艦は味方殺しのリスクを考えれば参加は無い。仮に空母四人ならば、勝つも負けるも蹂躙戦。大した経験を得られるでもなく、明らかにリスクに見合わなさすぎる。防空射撃演習を反復した方がいいだろう。

 

 そうなると、まっとうに戦闘になる艦隊で該当するところがない。複数の提督麾下の艦娘による即席編成か、他の鎮守府から呼んだのだろう。

 前者なら連携はある程度無視することになるだろうから、新米とベテラン程の実力差がある相手。レベルにすれば最低でも160以上を見積もる必要があるが、そこまで高レベルの艦娘自体ほとんどいない。可能性は低めだ。

 では後者なら。なるほど、自分たちでは抵抗ができても勝ち目は薄い相手も普通に居ておかしくない。学ぶべきところも多くあるのだろう。

 雪風はくりくりと目を瞬かせる。

 

「四人……? そんなレベルの高い艦隊、となると空母の皆さんでしょうか?」

「それ死なない程度に半殺しにされるだけじゃん、やだー……」

「そんな無益なことはしないわ。今回は他所の鎮守府から呼んだの。というか雪風、あんた大方想像ついてたんでしょう? 油断も隙も無い。濃密な戦闘経験を積んであんたたちのレベルを一気に上げるって目的もあるからしっかりねじ伏せられて今後に活かしなさい」

 

 叢雲はじっとりとした目を雪風へ向ける。流石に編成だったり所属だったりを教える気はないらしい。

 

「……にしても、叢雲さん。そろそろ二週間ですけど、ギプスはまだ取れなさそうですか?」

「ああ、まあこの後ドックで修復槽に浸かる予定だから今日までね。被弾した分、深海棲艦の霊子に汚染されてたみたいでね。もう少しで治療不可になるとこだった、って医療班に怒られたわ。除染にここまでかかったのは初めてよ、まったく」

 

 おかげで暇でしかたないわ、と叢雲は言う。普段、秘書の業務に戦闘にと引っ張りだこだからそう思うのだろうか。確かに普段からあくせくと動き回っている印象を雪風は持っていた。思えばこれまで長話をした事も作戦前や作戦中くらいしかなかった気がする。

 だとすると、怪我を喜ぶようで悪いが正直丁度よかったのかもしれない。

 

「不躾な質問なのですが。叢雲さんは今の戦い、どう思いますか?」

「本当に急ね。どういう意味かしら? ……まあ、正直かなり面倒ね。明らかに戦力の生産性で負けているもの。どういう原理か忘れたけど、妖精さんが資源を自動生産できるようにしてなきゃもう詰んでたんじゃない?」

 

 考え込むように遠くを見てわずかな間沈黙し、叢雲は改めて語りだす。

 

「深海棲艦はこちらに攻めてきていない限り、なぜか一定エリアからは出てこない。だから何かを守ってると考えられている」

「根拠地ってやつだよね」

「ええ。けど本質的には生産プラント、あるいは母体のようなものだという説もあるわ。なんにせよ、よほど近付かれたくない何かがあるのは間違いない。とはいえシーレーンが断絶されてるのは由々しき問題だし、深海棲艦が侵攻してこないのも防衛線を敷いた上で向こうの戦力を日々削っているからってだけよ。……戦い続ける限りは負けはしないが勝てもせず、互いに戦力の補充はかつてより容易。まさに泥仕合を続けることになる」

 

 戦線を維持すること幾星霜。民間へは資源、食料その他の海外からの輸出入が途絶えて産業の衰退が始まり、その癖軍部は謎の技術による補給があるため余裕はなくとも困窮するでもない。実際に国土が爆撃されたりという大きな被害が無かったからだろうか、いつしか国民が戦時中と自覚し辛い構図の出来上がり。

 食料やエネルギー資源、はたまた貴金属など様々なものが手に入らないことへの不満は膨れる一方、今よりもっといいものを手に入れたいという欲は尽きないものだ。幸いなのは日本の技術者たちが諸々の低コスト化に腐心していてくれたことだろうか。

 人間という生き物は頭のいい分疑心を持ちやすい。政治的意図であったり、はたまた荒唐無稽な噂であったり様々な思惑が渦巻くのもわけないことだ。

 

「正直なところ、このまま前線を抑えていても内側で自壊するだけね。言い方は悪いけど、もう既に人類は負けたようなものよ。それも自業自得でね」

「……そうですか」

「ええ、惚れた弱みがなきゃ戦わないもの、私は。……ふむ。あなた「艦娘」って何だと思う?」

「人が兵器として生み出した、深海棲艦とは似て非なる存在。あるいは心を持った戦争人形、でしょうか」

「…………。それはなぜかしら?」

「かつての大戦で艦艇に残さされたごちゃ混ぜの思念からサルベージした霊子を魂の代用とし、資材を素材に錬成した器と結び付けて作られた生きた兵器、でしたか。結果的に私たち艦娘は量産可能。同じ名前、同じ姿の「自分」が無数に存在し得ます。まさに、人形でしょう?」

「なるほど。まあ分からないでもないわ。でもあんたみたいな「雪風」、他に何人も居たら怖いわ」

 

 叢雲は右前髪を指先で触る。

 けろりと放った言葉は貶しているように聞こえなくもないが、この場合真逆の意味を持つ。

 

「うん、つまりたとえ他の「雪風」がマネをしたって仲間とは思えない、私の仲間はあんただけ、と。素直じゃないよね」

「島風。あんた今日の演習で無様を晒したら覚悟しておきなさい。特別強化合宿を実施してあげる。殴りながら撃てるようになるまで近接戦仕込んでやろうじゃないの」

「え、ヤダ」

「逃げたら川内と二人で夜間哨戒に出すわ」

「もっとヤダ!」

 

 島風の顔色が青くなる。島風は戦闘が苦手なのだ。連装砲ちゃんに戦闘を任せ、本体である自分は速力を活かして全力で逃げ回る程に。いや、運用方法自体は正しいのだろうが、問題は非常にヘタレで本人が戦闘中使い物にならないことだろうか。

 相手の砲撃にビビり、過剰に走り回って燃料を消耗しノーダメージなのに航行できなくなり曳航されて帰還したことがあり。先日も深夜トイレに行った帰り、山城に遭遇し幽霊と勘違いして気絶したらしい。

 まあ、それもまた個性だろう。今のままなら連装砲ちゃんが倒された段階でブートキャンプは避けられないが。

 

「島風、あんたもうレベル50超えたじゃないの。いい加減少しは自分でも戦いなさいな。というか、本人は逃げ回ってただけでここまでレベル上がるって逆にすごいような……?」

「それだけ必死、ということですよ」

「……ああ、うん。理解したくないけど納得した」

「しょーがないじゃーん、痛いし怖いんだから」

 

 島風は肩を落とす。本人的にも気にしているところではあるのだ。臆病なほうがより長く生き残るものだから気にすることはない、と雪風は思うけれども。

 島風は自分の強みは分かっているのに、ヘタレな性格が災いして戦闘経験を大して積めずレベルが上がるのも非常に遅い。逃げ回ってばかりだからみんなに迷惑をかけている、と悩みを聞かされることもある。尤も、この友人は戦闘関連の話になるとすぐ逃げるきらいがあるから改善しないのだが。

 運がいいのか悪いのか。まあ……妥当か。そう考えて雪風は席を立つ。

 

「お先、失礼しますね」

「あ、じゃあ私もそろそろー」

 

「……その手じゃサンマを解すの大変そうですね。島風、折角だから代わって解したらどうでしょう?」

 

 島風を静止し、叢雲にアイコンタクトを取る。折角だからついでに相談なりしたらいい。何、人が疲れてるのに鬱陶しく跳ね回られた仕返しでは断じてない。いい笑顔でサムズアップを向けられた島風が「裏切られた!」と言いたげな目をしているが無視を決め込む。往生際が悪い。

 

「あら、それはありがたいわ。こんな状態だと私生活も大変でね。サンマを一尾分解すとか考えたくなかったのよ。……あら、何? 何か不満げね?」

「イエ、なんでもありません」

「そう。いつまでもヘタレられてちゃ困るし、あんたのようなタイプの取れる戦術をいくつか軽く講義しましょうか。艦種的にはちょっと違うのが使う方法だからアレンジしてもらうことにはなるけど、それもいい勉強になるでしょう。逃げ一辺倒じゃ今日にも周りが困るわよ? 開幕攻撃に関してはそれもありだけどねぇ」

 

 フン、と鼻を鳴らしてから雪風を一瞥。

 

「ええ、それはもう。じっくりとお願いします」

「なんで雪風が頼んでるのかなぁ」

「任せなさい。常々もったいないと思ってたのよ」

 

 始まった戦闘講座にムンクの「叫び」のような表情を見せる友人を尻目にトレーを返却に向かう。

 演習まであと一時間半もない。雪風は少ない情報から敵戦力の考察を進める。駆逐艦「島風」は高速であることに目が行きやすいが、それだけではなく重雷装というコンセプトもあったはず。叢雲の発した言葉から察するに相手は雷巡が一人は居ると見た。

 だが重雷装であることは逆に言えば誘爆のリスクが上がるということ。多くても二人までしか来るまい。むしろ、もう一人の代わりに空母を入れるのが王道だろうか。潜水艦は多分居ない。駆逐相手の演習ではただの的にしかならないからだ。駆逐二人を含むこちらを叩き伏せれるということは軽巡や重巡をメインとした水上部隊、だろうか。

 

 携帯端末を開いて装備換装の申請を送り、レッグポーチから茶色い粉の封入された瓶を取り出した。




鉄火散り、飛沫が上がる海の上。
機銃が唸り、鉄の雨降る空の下。
ファンブル。クリティカル。
戦いの盤上は二つの賽の判定次第。

次回、「開戦」
雪風のスコープに嘲笑が覗く。


などという次回予告を考えてみたり。
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