Misfortune Destroyer   作:綿四森

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バトルパートにつき、苦手な方はご注意ください。
主人公最強じゃないのが苦手な方もご注意ください。

この辺からねつ造、もとい独自設定が顕在化してきます。


開戦

 暁と響が赤レンガの倉庫前で燃料と弾薬を運んでいた。午前中もやっていたのにご苦労様だ。

 徐々に冷え込み始めたからか二人ともスカーフで首元を覆っているが、柄なしアースカラーなせいでどうにも男性用に見えてしまう。そういえば、昼間すれ違った雷も似たようなスカーフを首元に巻いていたか。流行りなのかもしれない。

 くだらないことをつらつらと考えながら雪風はコンクリートの地面をカツカツ鳴らした。

 

「ふむふむ。大体想定通りですか。相変わらず読みが良いことで」

 

 穏やかな風の吹く桟橋に立つ四つのシルエット。その者たちの背負った艤装を見てこりゃついてますねぇ、などと青葉が笑う。

 普段のパパラッチ像が印象に強く残る彼女ではあるが、意外と真面目なのか移動中の今も右脇に抱えた武装へ取り付けたフォアグリップとスコープの具合を確認して確認を進めている。

 

「ついとるともついてへんとも言えるやろけどなぁ、こりゃ。空襲でどこまで削れるか、ちゅうのは期待はせんようにな。防空艦がおるし、そんな甘い相手でもなさそうや。……ほいで、ホンマに先制雷撃はほったらかしてええんやな?」

「ええ。雷撃である以上、島風の逃げ足なら被害なく防げるはずです。対処に無駄弾を割くなら攻撃に集中してください。今回のメイン火力なんですから」

「うぅ……。ほんとにやるのー?」

「なんにせよ、やるしかあらへんよ。なあに、安心しい。うちも空母の端くれや。序盤はせいぜいおちょくったろうやないか」

 

 ウケケケ、と笑って見せるのは龍驤。未だに顔色の悪い島風を気遣ってか、背中をぱしぱしと叩いていた。それに少し遅れて連装砲ちゃんが中身満載のドラム缶をどこか引いた様子で運んでくる。

 

「さてさて、そろそろ気を引き締めてくださいよ。――――ども、演習にいらした皆さんで間違いないでしょうか」

「いかにも、クマ」

 

 会話を続けていたらしい彼女らがこちらを向く。誰がどの艦か、それそのものは見ればわかる。しかし総じて見知った姿とは違う空気を纏う。愛らしい、というより凛々しいという言葉が似合うだろう。

 雪風は内心感嘆の息を漏らす。

 

「旗艦の青葉と申します。以下三名は龍驤、雪風、島風。本日はお日柄も良く。胸を借りるつもりで精一杯挑ませていただきます。よろしくお願いします」

「ご丁寧にどうもクマ~。編成は旗艦球磨、北上、木曾、天龍クマ。貴艦隊の参考になるかは分からんクマが、まあよろしくクマ」

 

 向き合い、敬礼を交わす。その間――――雪風はどうしても、相手艦隊の右手首に一瞬目が引かれた。いや、正しくはそこに密着した黒い腕輪に、だ。

 

 ――――着用されだしたのは七年前だったか。

艦娘の艤装に融合して何やら改変を起こし、レベルキャップを外す効果があるとか。ケッコン指輪の代用品だ。重婚に対する忌避感や指輪の絶対数が足りていない、などいろいろあって多用されると聞く。聞いた相手によっては目を逸らすので多少の嘘があると見たが。

 ともかくそれを手に入れることが第一の目標だけあって気にはなる。

 

「さっさとやろうぜ。さっきから血が疼いてんだ。……クク、なんだお前怖いのか? 大人が子供相手に本気になるか。殺しゃしねェから安心しなよ」

「お、お手柔らかにおにぇがいします」

 

 どこか妖艶さを孕んだ好戦的な笑みを浮かべた天龍に島風がドン引きして噛む。それに気を良くしたのだろう。三日月に口元を歪ませた天龍をもう一人の眼帯を付けた艦娘が小突いて諫めた。

 

「いや、脅かしてどうする。でも変わってるな……。普通、島風っていうともっとこう、生意気なイメージがあるんだが。それに……なるほど? なんつーか、目つきが不知火みたいな雪風だな」

「……そうですか。まあ、そんなこともあるでしょう」

「ふぅん、確かに。君、ほんとに雪風? 不思議な雰囲気してるよ」

 

 同じ陽炎型の姉妹艦ならそういうこともあるだろう。体のつくりも恐らくはそう違いはないわけであろうし、建造時の誤差で似たりしてもおかしくはない。いや誤差があれば建造に失敗するらしいのだけど。

 

 そういえば、今日は妖精さんを乗せていないから楽だな、などと思う。

 万が一の時艤装の爆発だったりを遅らせることができて便利とはいえ、機動性を重視したければ正直邪魔。

 なので降ろしたのだ。艤装の中でミンチになりでもしたら申し訳ない。あれが死ぬのかは分からないが。

 

「その辺にするクマ。そろそろ開始時間クマ」

「演習用の緊急通信チャネルは……あ、大丈夫でしたか。ではこの辺で」

 

 諸々の確認を済ませて両艦隊は水面に飛び降り、脚部艤装から推進力を生み出す。目指す位置はちょうど鎮守府正面海域の東西。数分かけて配置につく。

 もはや互いの姿は肉眼では米粒ほども見えない。そうして互いの艦隊が準備を完了した旨を管制に伝えられて。

 

<<両艦隊、配置完了確認しました。カウント、開始します>>

 

 五から数え下ろされる中、目を伏せる。本日六度目だからアドレナリンが途絶えていなかったのだろうか。

 深呼吸と共に意識が暗い底まで降り、一気に視界が開けるような感覚。爪の先から毛の先まで神経が通ったような深い集中状態に入る。

 ニィ、イチ。丹田からぞわぁと熱が全身へ広がり鳥肌が立つ。

 

 ゼロ。心の内で唱えたそれと同時、インカムからのブザーが鼓膜を揺らす。

 

<<始めてください>>

 

「皆さん、作戦通りに! まずは艦載機攻撃を囮に強襲します! 青葉に続いて下さい!」

「さぁ仕切るで! 攻撃隊、発艦開始や!」

 

 青葉が水偵を出し、それに遅れて龍驤の甲板から艦載機が発進する。流星に彗星、紫電と大盤振る舞いだ。幾条もの残影が三時方向へと空を走る。それとは少し逸れ、雪風たちの艦隊は二時方向へと針路を向け速度を上げる。

 

 作戦は単純だ。

 艦載機を飛ばしたしばらく後に島風と雪風は本隊を離れて南東方向へ進路を転換、緩やかに曲線を描いて航行し真東に相手艦隊と相対する。

 その間に青葉、龍驤は相手の北方向まで回り込み爆撃と狙撃による急襲を開始、削り取る。

 この段階での狙いは相手の武装を破壊することだ。装備の威力が意図的に下げられた状態で一撃で倒すのは無理、なら武器を奪い時間をかけて嵌め殺せばいい。

 安直な考えだ。

 

 ただ、どうにも嫌な予感を雪風は拭い去ることができないでいた。なにか、こう、見られているような感覚が先程からして消えないのだ。

 相手の様子は双眼鏡の倍率を限界まで上げて覗けば何とか見えなくもないが。見たところ、まっすぐ西へと進んでいるようだ。まだこちらの動きは察していないということだろうか。いや、それにしては陣形がおかしい。最初は複縦陣かと思ったが、二人を前に横並びにして残りが縦一列に続く形か。――――警戒陣?

 

 嗤っていた。

 姿だってはっきりと見えたわけではない。だが、一瞬球磨と目が合った気がして総毛立つ。

 しかも気のせいでは無い。まずい。

 

「っ! 敵艦隊、こちらへ進路変更! 距離およそ五〇〇〇! 補足されています!」

「んな!? 嘘やろ!? まだ肉眼で見える距離やないで!? っちぃ、この距離やと素では艦載機が応答せん!」

 

 青葉が艤装のフォアグリップを握りスコープを覗いて顔を引きつらせる。ガジャリ、と艤装が音を立てたのは初弾の装填音か。心底嫌なものを見た、と言いたげに指示を始める。

 

「うわ、マジでこっち来てる。あ、やばそう。作戦変更、龍驤さんは速度を落として艦隊後方へ、距離を保って空襲を続けてください。雪風、島風のお二人は前衛を。倒すことは一切考えなくていいので、できるだけ同じ位置に相手を縫い留めてください。隙を見て狙撃します!」

「了解。雪風、作戦遂行します」

「し、島風、了解。迎撃行動開始します!」

 

 その間にも敵艦隊はみるみる近付いてくる。

 動き自体は歩いているのか走っているのか、双眼鏡越しにとぎれとぎれの飛沫が見える。

 先陣を切っている木曾と北上は雷巡。目的が簡単に察せられる。

 艤装の航行出力を上げ、島風と共に風を切る。

 

 敵艦隊の魚雷投下、確認。目算で都合六〇以上。

 誘爆を防ぐためか、多少の時間と角度の差を設けて何重にも張られた放射線状の射線はもはや魚雷の弾幕と言って差し支えないだろう。ホーミング機能のないとはいえ、酸素魚雷に余裕がなければこんな贅沢な戦法はできない。これでまだ余力があるのだから雷巡は嫌になる。

 双眼鏡で確認する。範囲と間隔からして完全回避は難しそうだ。

 気付かなければ、緒戦で壊滅していた可能性が高い。

 

「島風、この辺りです」

「……ほんとに大丈夫だよね?」

「大丈夫。投げ切ってから全力で逃げれば巻き込まれることはまずないですよ」

「……うん。やってみる。行くよ、連装砲ちゃん」

 

 腰を落とし一瞬の溜めを作る島風。後ろへ下げた右足からほんの僅かに波紋が広がるのを見届ける。

 爆発。流れる髪を途切れた航跡が追いかける。

 駆ける足で水を連続して爆ぜさせてゆく島風。その遥か先を雪風は双眼鏡へと映しこむ。雷巡二人は三連装砲、天龍は高角砲を展開上してようやく到着した航空隊を返り討ちにしているらしい。球磨は腕を組み、ただ全体を見て航行しているだけのようだ。

 まだ小手調べ、といったところか。

 

 とは言っても、初手は想定済み。

 避けきれないなら軌道を変えてしまえばいいだけだ。

 島風と連装砲ちゃんが爆雷を一セットいくつ、と投下しながらそれぞれ逆向きに縦長の楕円を描いて航行していく。彼女らが合流するときには魚雷はまだ遠いとはいえ、艦娘ではない本来の駆逐艦島風なら被弾、轟沈コースか。

 だが今の彼女は艦娘、人の機動ができる身だ。艤装のかかとをピック代わりに海面へ突き刺し更に上体を低く、反対の足を慣性のままに薙ぎ払う。今や急な方向転換だってお手の物だ。速度を落とさぬまま楕円の中心へと向かう島風。最後に爆雷を投下し準備完了、と一目散に逃げてくる。魚雷が間もなく爆雷投下エリアに接触する。急げ、とジェスチャーして後退、最大速。

 直前、何が起きるか気付き慌てだした球磨に口角が上がる。

 

 魚雷が水中を進む以上、強すぎる海流には抗えない。特に酸素魚雷には追従性能は無いからなおさらだ。とはいえもちろん、爆雷をただ投下したところで魚雷をそらしたりはできないが。ならば多量の爆雷を一斉に起爆して海を吹き飛ばせば、どうなるか。

 

 水底からの衝撃。まるで巨大地震の初期微動だ。海面が丸く消し飛び、深淵が口を開く。大波が生まれ、底へと還っていく。一帯が魚雷ごと喰らいつくされる。

 一瞬とはいえ根源的恐怖を煽られる光景を見てしまった島風が体を震わせた。

 

「よし……成功ですね。さ、早く衝撃に備えてください」

「あ、あわわわわ」

 

 轟!! 足元が揺れる。海の底が燃えあがる。

 雪風は深海から漏れる緋の光に一瞬地獄を幻視した。裁きを待つ罪人のように誰も彼もが跪いたそこへ、消し飛ばされた海が弾雨を孕んで容赦なく降り注ぐ。

 後方から間延びした砲声が響く。外れて水柱、金属音、鉄が弾けて火薬が爆ぜる。片膝を付いたまま、へっぴり腰に蹲る島風を連装砲ちゃんズと支える。濡れた髪を額に張り付かせたまま雪風はインカムのボタンに指を這わせた。通話機能に切り替わる。

 

『雪風さん、島風さん、こちら青葉。狙撃によって武装を一部、破壊成功。龍驤さんによると相手が北に雷巡ペアを出したようです。直にこちらの火力を叩こうということでしょうね。このまま受けてたちますよ』

「……なるほど、こちらに球磨、天龍ペアですか。下手に立ち回れば後ろから魚雷、あるいは唐突に反転して合流、各個撃破を狙われる、か」

『そうなりますね。このまま空から分断するつもりですが、対応には気を付けて』

「了解」

 

 もはや双眼鏡を用いるまでもない。砲を展開した二つのシルエットが灯りをともしながら近付いてくる。仰角を上げての曲射だ。島風の持っていたドラム缶を一つ残して投棄し左右へ分かれて砲撃地点から離れる。

 

 背部ユニットの脇からアームを開かせる。先端に装備したロケットランチャーが覗く。さらに首から下げていた連装砲を右手に構えて右前への推進力を急激に上げる。天龍の砲火を躱すためだ。

 態勢が高いままだったために慣性でひっくり返りそうになるが、足が水面を離れる少し前のタイミングで無理やりジャンプを挟みこみ防ぐ。艦の馬力を瞬間的にフルに使い、空へ。

 派手に動いて目を奪う。

 

「このままヘイトを稼ぎます。島風、サポートを」

『ちょっとまって!? なにやってんの!?』

 

 空中で腰を捻って回転に変化を加える。視界に何かが映ったタイミングで連装砲を乱射。回る視界の中を幾条もの銀閃が通り抜け衣服の繊維を削った。体を屈めて落下に備え、着水。

 

 水飛沫が上がる。背部をユニットを操作し、そのまま横に転がって衝撃を逃がして反転する。ロケットランチャーがバシュバシュと発射音を鳴らす。体を留めぬよう足元で横方向に推進力を生みだし連装砲を構え直す。トリガーを何度も絞り、反動に耐えて何度も何度も炸裂させる。

 

 敵味方の鉛玉が飛び交う中を左右の足で推進力に緩急をつけ若干蛇行する。決して狙わせない不規則な軌道。だがそんな中でも肩を、足を弾丸がかすめて血が漏れる。射撃を続けたまま魚雷発射管を操作し酸素魚雷を投下。その進路は球磨と天龍の間あたり。

 

「? おい、どうした?」

「甘いクマ」

 

 球磨が今の魚雷に向けてではなく天龍越しの水面へと発砲する。爆発で海面と共に金属の破片が舞い上がった。

 そう、雪風は着水に隠して魚雷を発射していたのだ。そして今撃ったもので雪風の装填分の酸素魚雷は尽きてしまった。

 残弾の減ったロケットランチャーを格納し、球磨の艤装が蠢くのを視認して水面を転がる。背の装備に何かが掠める。崩れた体制のままに二人へ向けて放った弾丸は片や刀で斬り落とされ、片や首を傾げて通り抜けさせ無為に終わった。

 

「……あいつ割と容赦ねぇな」

「おかげで実力は分かりやすかったクマ。まあ、そろそろこっちから行くかクマァ」

 

 言うや球磨は魚雷を両手に三本ずつ挟み投げ込む。あらぬ方向へと。動きを制限するにしても方向が適当すぎる。先程までの砲撃が行動を制限するよう行われていたことを鑑みても何か異様で寒気が走る。

 砲撃を避ける。左右へ軌道をブレさせながら徐々に後退した。瞬間に死の気配。

 

 僅かな航跡が視界に入る。雪風はとっさに左右の推進力のバランスを大きく崩してその場から吹き飛び転がる。今しがた居た場所へ六本の魚雷が互いに干渉することなく、別々の方向から殺到する。

 何か細工をしたのか。魚雷を旋回させて狙い撃ってきた、ということらしい。

 

 息つく間もなく天龍が追いすがる。袈裟への一閃、咄嗟に正中線から外し膝の少し上を刃に斬り裂かれる。

 その向こうから追撃のマズルフラッシュが目を焼く。右わき腹に弾丸をめり込ませるまま、推進力を一瞬極大化してバックステップを踏んだ。衝撃に吐き気が催されるがぐっとこらえる。

 

 軽巡洋艦の装甲が反映されている彼女らには手持ちの主砲や島風の連装砲ちゃんたちで手傷を負わせることはそこそこ以上に難易度が高い。事実、連装砲ちゃんたちも散開して射撃を繰り返しているが大体が回避されかすり傷で終わっている。有効打を与えるなら、やはり魚雷だろう。

 だが追撃は止まない。天龍が三基の高角砲から弾をばらまき、隙ができれば球磨が狙い撃つ。リロードする余裕がない。

 右へ左へ、急加速と急停止を交えてひたすら砲弾の直撃を避ける。癖を見切り始めたのか被弾率が上がり、ついに双眼鏡が盾となって砕け散る。破片が頬に、額に傷を作る。

 

「フフッ! やるなッ! 随分と持ちこたえるッ!」

「にしても援護が鬱陶しいクマね。消えろクマ」

 

 連装砲ちゃんの援護を鬱陶しく思ったのか、球磨の単装砲が轟音を鳴らして一度に三体すべてを吹き飛ばす。その瞬間雪風は目を見張らざるを得なかった。音は一回しかしなかったのに、吹き飛んだのは三体とも?いや、単発にしては少し音が長かったか?しかし、島風本人はどこへ行った――――?

 

『今! 雪風そのまま急速後退! 吹っ飛んじゃえ!!』

 

 言葉のままに連続でバックステップし距離を取る。離れたことで視界が広くなり、いくつかの黒い影とそれに引かれる微小な白い線に気付く。まさか。

 右方から合流した島風は珍しくもしてやったり、という表情をしていた。

 

「なるほど、連装砲ちゃんは援護ではなく囮でしたか」

「ごめん、お待たせ。ねぇ知ってる? 酸素魚雷はロングランスとも呼ばれてたんだってね?」

 

 有罪、串刺し刑だよ、などと冗談めかす島風の胸を肘で小突く。どうやら周りを航行して仕掛けてきたらしい。

 天龍と球磨に向かい全周から十五門の装填分、計三十の魚雷が迫る。いわば魚雷でできた渦型の檻だ。雪風が通ったところは丁度魚雷と魚雷の間だったらしいが――――もはや、軽巡洋艦クラスが避けられる幅はないはず。

 

 爆音とともに海面から連続して水柱が立ちあがる。

 ようやくできた隙に素早くすべての武装にリロード、空になったドラム缶を島風から借りる。

 

「行きますよ、島風。きっともう逃げきれません」

「え――――? 今ので倒せたんじゃ」

「そんなかわいい相手なもんか。迎撃されたはず……!」

 

「――――ほう。少しは球磨たちのこと分かってくれたみたいクマね」

 

 嬉しいクマよ、という言葉に反射してドラム缶を突き出し影に島風を押し込む。

 轟音、衝撃。悲鳴を上げるドラム缶を一度は押さえこみ――――追加の衝撃に手を離れて浮き上がる。

 即席の盾を弾き飛ばされた刹那に接近した球磨によって眼前に砲口が添えられる。ドラム缶が回り、球磨の後ろに飛沫を上げた。

 偶然見えたその表面の弾痕に、雪風はようやく得心した。

 

 なるほど、正面に立った段階で敗北したようなものだったか。

 

「随分、速射がお得意のようですね。砲身が焼けますよ?」

「なに、対処済みだクマ。――――悪いが、終わりだクマ」

 

鼓膜を震わす大音量と共に、雪風の体を衝撃が貫いた。




夕暮れ、海鳥たちが優しく迎える秋の空。
赤いレンガを緋色に染めて、陽炎が立ち昇る。
げに恐ろしきは手負いの獣。窮鼠、猫をも噛み殺す。

次回、「壊滅」
海上に鉄と油のにおいが立ち込める。


ちょっとしばらくストック作ったりするので、次回更新はしばらくお待ちください。

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