ガンダムビルドダイバーズ MOON  ~宵月に笑う~   作:零八式

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3話 「宵闇に飲まれよ」

 そこに居たのは、黒より暗い漆黒の翼を身に纏いながら、宵闇を率いて圧倒的な存在感を放つ黒の堕天使。

 パイロットの衣装も目元まで覆ったシスター服から、ビスチェ風の露出度の高い格好とロングブーツに変わり、背には黒の翼と、堕天使の名に(たが)わぬ出で立ちだ。 

 翼の様にも見える一対のGNシールドに搭載されたGNドライヴからは常に黒い粒子が噴出しており、やがてそれは周囲にへと広がっていく。

 

 『よりによってあの堕天使が相手とはねぇ、だけどっ!!』

 

 ショットランサーを構えた女マスダイバーのジェスタが再び突撃するが、片手で軽々と振るわれた大剣、ソードビットを纏うことにより形成されたGNバスターソード2振りに受け止められる。

 

 「……ふん」

 

 『この力があればっ!! たとえ有名実況者だろうが!!』

 

 ガンプラの出来自体は大した事は無いとは言え、ブレイクデカールで強化された膂力は伊達ではなかったのか、完成度的には遥かに優れている筈のオリヴィエのD・フォールン・クアンタと互角に力比べをしている。

 だが、彼女の笑みは崩れない。

 その間にも周囲には着々と黒い粒子が一つの空間を形成しようとしている(・・・・・・・・・・・・・)

 

 「テラー・L……いや、盟友『幽霊の姫(コープス・フィリア)』よ。時は満ちた。今こそ、偽りの姿を解き放つがよい!!」

 

 「もう演技しなくて良いの? じゃあ……」

 

 その間にもブレイクデカールで強化されたジェスタ二機を相手に取っていた、テラー・Lのアマクサ擬きの外装が突然として燃え始める(・・・・・)

 その青く輝く炎は装甲の内側から発せられており、その炎が一気に燃え上がると偽りの外装が弾き飛ばされ、その内側から真の姿が現れる。

 ぱっと見はクロスボーンガンダムにV2ガンダムのミノフスキードライブユニットを取り付けたシンプルな機体のように見える。

 しかし、その全身からは揺らめく青白い炎が吹き上がり、ムラマサブラスターから出現した14基のビームサーベル全てが波打っている。

 そして、頭部はガンダムフェイスのようで、あえてバイザーを外す事により現出した一つ目。

 

 『今度は神速の幽霊剣姫かよ!!』

 

 「幽霊烏(レイス・コルニグス)……それが、この子の名前」

 

 『どう見てもファントムじゃねぇかよ!!』

 

 突っ込みと共に襲い掛かる二機のジェスタ。

 確かに、見た目としてはファントムガンダムに近い。

 クロスボーンガンダムを素体に使っているのだから当然だろう。だが、そのカラーリングは黒と白を織り交ぜたような独特のカラーリングパターンを持ち、そしてガンダムフェイスでありながらフェイス部分はやや小型鋭角に削られ、敢えて木星機体特有のモノアイを露わにし、ガンダムタイプとしては異形の形相をしている。

 

 マントとゴーグルを脱ぎ捨て、裾が短縮されてミニスカートとなっている純白の花嫁衣装を身に纏い、頭部をベールで覆った幽霊姫こと、フィリア。

 その口にはいつの間にか飴が咥えられ、ムラマサブラスターを構えてただ静かに待つ。

 

 その後は一瞬だった。

 

 両サイドから襲い掛かる二機のジェスタ。

 しかし、片方を刀身ではなくグリップガードで殴りつける事で体勢を崩し、最小の動作ゆえにもう一機にも対処する時間が生まれる。

 脚部の脛が変形し、展開されたまるで鳥の足のような四本爪がジェスタの腕を掴み、それを回し蹴りの要領で振り回して後方のジェスタに激突させた。

 更にその二機は吹っ飛ばされて、オリヴィエが鍔競り合いをしていた女マスダイバーのジェスタに激突。凄まじく正確かつ緻密な操作が可能にした離れ業だ。

 その光景を、コジローはただ唖然と眺めるしかなかった。

 

 「す、すげぇ……」

 

 「まだ我らの神罰は終わりではない……宵闇に飲まれよ。お前達に本物の恐怖を教えてやろう」

 

 その瞬間だった。

 D・フォールン・クアンタの周囲を覆っていた黒い粒子が一斉に空間に散らばり、その黒色粒子の雲がジェスタ三機を包む。まるで、突然闇の中に落とされたかのように、三機の視界は黒一色に塗り潰される。

 

 『っ!? 何なんだいこれは!?』

 

 『何もみえねぇ!!』

 

 『クソッ、センサーも死んでやがる!!』

 

 「あの雲の中で、一体何が起きてるんだ……?」  

 

 悲鳴こそ聞こえてくるが、こちらからは辛うじてあの雲の中に三機が取り残されている、と言う事しか判別できない。

 ある程度離れたこの距離でも、それ程までにレーダーが死んでいるのだ。

 

 『……検索した。ご主人、GNステルスフィールドを知っておるか?』

 

 「あぁ、ダブルオーでスローネドライが使ってた奴だろ?」

 

 『恐らくじゃが、あれはそのGNステルスフィールドに指向性を持たせて対象に投射、そして一定時間その空間に留まらせる事で索敵を妨害する機能と推測される』

 

 コジローの疑問の呟きを要検索と判定したハロサメがデータベースをチェックし、その中にあった類似の現象を挙げて推論をする。

 その作業の手早さに、オリヴィエは感嘆の声を漏らす。

 

 「ほう、その電子に生まれし妖精。中々の力を持っておるな。その推論はおおよそ的中している。トランザムライザーが対話のための空間を作るのなら、我が作るのは恐怖の宵闇だ」

 

 「……要は物理的に視覚も奪う投射型GNステルスフィールド。相手は自分が何所にいるかも、上も下も分からない」

 

 一々どこか台詞が回りくどい(厨二病的な)オリヴィエに代わって、フィリアが一言でざっくりと説明する。

 その事態に肩を(すく)めるオリヴィエだが、コジローに例の物を準備するように言い渡すと、一人その闇の中に突っ込んでいく。

 

 『うわ!? 何所から来た!?』

 

 『畜生!! 来る方向が分かんないんじゃ……!!』

 

 「……見せられないよ」

 

 闇の中で切り刻まれる三機のジェスタ。

 襲い来るは何所から飛んでくるかも分からない神速の斬撃。

 ブレイクデカールによって強化されているにも拘らず、その装甲には傷が刻まれている。それもその筈、このブレイクデカールにはちょっとした癖があったのだ。

 先程発揮した防御力の正体、それはダイバー(・・・・)が攻撃と認知(・・)したものに対してその無力化が発動するという仕組みだ。

 その工程故にダイバーが認識出来ないほどの神速の一撃や、不意打ち、フェイントに対抗することが出来ず、相手の姿すら見えないこの『宵闇』に包まれた時点で、三人は詰んでいた。

 

 「やれ!! 少年!!」

 

 「チャージは完了しているぜ!!」

 

 その間にも月の送電施設からのマイクロウェーブの照射を中継衛星を経て受けたコジローのムーンXが、背面の二重に重ねて(・・・・・・)背負われた三日月状サイコプレートを展開。それは背部のジョイントに接続され、二つの三日月がX字を構成する。

 そして腹部フレームが上下に延伸、装甲内部に秘匿されたメガソニック砲が姿を現す。

 ムーンガンダムの完成系であるサザビーと、ガンダムXのライバル機であるガンダムヴァサーゴからのインスピレーションを受けた、当機の最大火力兵装。その名も、

 

 『ぶちかませ、ご主人!!』

 

 「サテライトメガソニック!! いっけえええええええええええええ!!」

 

 ドッ、オオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 マイクロウェーブの力を得て強化されたメガソニック砲が青白く光るビームを放ち、事前にオリヴィエから伝えられていた空間に収束照射で放たれる。

 サテライトキャノン並みの破壊力を持っていながら、範囲を絞り込んだ故に本体への負担が少なく、マイクロウェーブさえ届く位置ならエネルギー切れやパワーダウンはまず起きない。しかもモード切替で拡散照射も可能と、まさしく最後まで取っておくに相応しい、ガンダムムーンXの切り札兵装。

 

 『なっ、何の光だああああああああ!?』

 

 宵闇を晴らすほどの青白い光が、マスダイバー達を包み込む。

 暗闇に覆われてからのこの眩い光を発するサテライトメガソニックのコンボは、目の慣れが追いつかないと言う意味合いでは視覚的にも相当効いた。

 それを攻撃と認識できず、撃破されていく二機のジェスタ。

 辛くも一機は直撃を逃れていたが、既に両腕は切り落とされ、両足も今のサテライトメガソニックで焼かれている。

 

 『くっ!? こんな、こんな筈じゃ……!!』

 

 「止めは私が……?」

 

 フィリアがムラマサブラスターからロングビームサーベルを形成して切りかかろうとするが、その瞬間、ソロモンが文字通り『割れた』。

 まるで卵の殻を割るように、表面を食い破って現れたのは、本来このミッションの最終ボスを務めるはずだったビグ・ザムだ。

 しかしその機体色は緑ではなく、マスダイバーのガンプラが纏うオーラと同じ、どす黒い紫色。 

 

 「ほう、チャンピオンから前例は聞いていたが、いざ対面してみると中々どうして」

 

 『ちょっ!? またあいつを相手にしろって言うの!?』

 

 「汝らの愚行が招いたことであろう? 聞けば、お前は再犯だそうじゃないか。しかし、今日の我は少し寛大だ。尻拭いくらいはしてやろう。そこで見ておれ、愛無き者よ」

 

 四肢を破壊されたジェスタはもう脅威ではないと認識したオリヴィエは、止めを刺そうとしたフィリアやサイコプレートを畳んでいたコジローに、援護を頼むとだけ言い渡すと、最大戦速でビグ・ザムの上方まで上り詰める。

 その間にも降り注ぐメガ粒子砲や脚部のクロー型ミサイル。

 フィリアは数発を全身に装備された自前のIフィールドで逸らすが、その間にも本来構造上連射不可能なはずの対空ミサイルが牙を向く。

 しかし、

 

 「えい」

 

 彼女はその瞬間、手に持っていた四肢の無いジェスタを投げた(・・・)

 

 『あっ、ちょっ、私は……ッ またかああぁぁっぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!????』

 

 ブレイクデカールによる防御力向上も意味を成さず、胸部のコックピットを基点にその全身をクローに突き刺されるジェスタ。

 これがGファイターなら宇宙に放り出されるだけで済んだかも知れないが、仮に戦場の宇宙で放り出されたとして、生きていられるのはコーラサワー程の幸運が無いと無理だろう。

 バグの影響で再び脱出することも叶わず、哀れ、愛無き女マスダイバー=サンはしめやかに爆発四散した。

 その間にもターゲットから外れていたオリヴィエは、一振りのGNバスターソードを軸にその周囲に全身に備えられた合計24基のソードビットを剣状に展開、その全てがGN粒子で結ばれ、一振りの巨大な剣を構築する。

 

 そして彼女はそれを、ビグ・ザムに向かって投擲し、その後方から追いついて柄を蹴り抜く(・・・・・・)

 

 「無双に猛る我が絶技の前に懺悔せよ!! 奥義、『アグニカリバー・Nemesis』!!

 

 黒いGN粒子によって構築された巨大な一振りの剣。その名はかつて、かのアグニカ・カイエルが持っていたとされる二振りの剣のうちの一振りから拝借したものだ(諸説あり)。

 粒子を纏い巨大な質量の塊と化したGNバスターソードに、D・フォールン・クアンタの蹴り抜きが合わさり、その一撃の前にはありとあらゆる防御が意味を成さずに叩き斬られる。

 

 真っ二つに両断され、崩れ落ち爆発四散するビグザムを背景に、『Mission Clear!!』の音声だけが虚しく響き渡った。

 

 

  ◆◆◆

 

 

 「本当に済まなかった。同胞を欺いただけにあらず、あの様な事態に巻き込んで。この通りだ」

 

 「……ごめんなさい」

 

 受付のロビーに戻ると、本来の姿のままで対面したオリヴィエとフィリアはコジローに対し謝罪の言葉を述べた。

 彼女ら自身もかなり上位のハイランカーである、それ故にそのような二人が初心者と偽ってミッションに出向いていたと言うのはかなりの問題行為だろう。

 しかし、コジローは依然としてポカンとしているだけだ。

 

 「近頃、下位ランカー向けのミッションにマスダイバーによる乱入事件が起きていると聞いてな。同志であるキョウヤからの依頼でその調査をしていた。しかし、我のこの姿は少々目立ち過ぎる。そこで、偽りの姿を持って事件の調査を……少年?」

 

 「オリヴィエ、多分右から左」

 

 思考がフリーズしているコジローの頬をフィリアがツンツンっと突くと、そこでようやく我に帰ったコジローが慌てふためく。

 

 「あっ、あれ!? えーっと、何の話でしたっけ? アハ、アハハハッ……じゃなくて」

 

 憧れの人を前に緊張し、そのあまり謝罪の言葉をうっかり右から左に流しかけたコジローであったが、ちゃんとその耳には届いていた。一度深呼吸をし、体勢を整える。

 

 「謝罪なんてとんでもない。それに俺、オリヴィエさんに憧れたから、ここまで来られたんだ。だから、むしろ俺は--------」

 

 そこまで告げたコジローに、オリヴィエはふっと手を伸ばし、人差し指をその口に突きつけた。

 そのどこか悪戯っぽい仕草に、コジローの頭脳が再びフリーズする。

 

 「我の戦の記録(投稿動画)がそなたの希望となっていたとは、記録者(投稿主)冥利に尽きると言うものだ。そなたが次に口にしたい言葉もおおよそ察しが付く。だがその言葉は、どうか来るべき日まで取っておいて欲しい」

 

 「来るべき日……?」

 

 「来週、オリヴィエが開く夜会の話。要は入団資格を勝ち取ってからお礼は言ってくれって事」

 

 いつの間にかお菓子を頬張っていたフィリアが、思考がフリーズしかけているコジローに彼女の言葉を要約して伝える。

 どこから菓子が出てくるのだろうかと一瞬考えたが、ここはMSを突如召喚するようなGBNだ。お菓子程度のオブジェクトが突如現れても不思議ではない。

 

 「そう言う事なら、俺……絶対勝ち取る!!」

 

 「あぁ、楽しみにしているぞ。では、夜会でまた会おう」

 

 そう言って二人は自らのフォースネストへとその姿を消し、程なくしてコジローもGBNをログアウトした。

 

 この事件を機に、『宵闇に月が現れた時、お前はもう死んでいる』なる格言が生まれたとか。

 

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