ガンダムビルドダイバーズ MOON ~宵月に笑う~ 作:零八式
「何と言うことだ……まさか、我々『組織』の中に裏切り者が出るとは……っ!!」
その身にスーツを纏い、髭の生えた顔に帽子を携えたナイスミドルは、海上を疾走するドートレス・フライヤーのコックピットの中で焦っていた。
こみ上げてくる怒りと焦りで、操縦桿を握っている腕がわなわなと震えている。
「我々が極秘に開発していたアレが何者かによって奪われ、しかもよりによって、この様なゲーム空間に放り込むなど……!!」
「どうします? 室長」
「決まっている!! あの男から貰った例の物を使うまでだ!!」
その男達が操る機体のコンソールには、本来あるべきではない紫色のコンソールが表示されていた。
男達は何の迷いも無くそのスイッチを押すと、機体全体を紫色のオーラが纏い、加速力が先程よりも向上し、その速度を生かしてある一点にへと向かっている。
「何としても回収せねばならん……アレは、まだ未完成なのだからな……っ!!」
◆◆◆
「……どうやら、彼女が起きたみたいだよ。
「そのようだな、
その二人の男は、オリヴィエ主催のイベントによって立ち入りが制限されている海域ギリギリのラインに存在する無人島の一端から、乗機の超高性能カメラによってムーンガンダムの改造機に乗った少年が金髪の少女を解放している姿を確認した。
その兄弟の乗機は二機ともガンダムフレーム採用機体であり、兄の機体は暗い血の様な赤色をしており、ガンダムバエルの様な翼状の大型ウイングスラスターや、追加の腕部展開式延伸フレームと小型クロー、そして太刀を備えた近接型汎用機となっている。
もう一機の彼の弟の乗機はあまり手の加えられていない脚部の形状から、アスタロトオリジンがベースになっていることが窺えるが、肩部のウイングこそ取り払われているが上半身はより重装甲になっており、背部に搭載した電磁砲内臓のクローアームと大型バックパックが目を引く。
そして両機とも共通装備として陣笠の様な追加センサーと、陣羽織の様な追加装甲を身に纏っていた。
「フフフ……早く
「弟者よ、事はそう急く物ではない。今しばらくは、我々も大人しくこの世界を楽しむとしよう……おや?」
赤い陣羽織を羽織い、高足の天狗下駄を履いた兄者と呼ばれた男が双眼鏡で動きのある方向を見やると、そこには紫色の物々しいオーラを纏う三機のドートレス・フライヤーの姿が。
「やれやれ……お偉いさん達はどうやら待つと言う事が出来ない様だ」
「だけど、これで少しは
「さて、どうかな?」
兄弟はそのマスダイバー達を見てみぬ振りをすると、その場を飛び去った。
◆◆◆
「ふぃ~っ……やっと見つけたぜ、GXビットとその残骸。こんだけあれば、優勝間違い無しだぜ」
海上に回収したGXビットを引きずり上げ、それを砂浜に寝かせると、戻って来ていたXファルコン尾部から伸びるワイヤーで括る作業をしているコジロー。
一時間近くかけて捜索し、彼が海中から引きずり上げたのは、ほぼ無傷のGXビット3機とその他残骸。
それらをワイヤーで括り、ムーンXのバックパックに括り付けていく。
「しっかしコジローさんよ。自分の大事なイベントだって時に、こーんな美人な彼女拾うなんて、お前いつから抜け目の無い奴になったんだ?」
「そ、そんなんじゃねぇよ。ただ、成り行きでこうなっちまったって言うか……」
「私がお願いしたんです……コジロー、迷惑ですか?」
「いや、俺達は別に責めてるわけじゃないんだ。残骸の位置も教えてくれたし、助かっているよ」
括り付けの作業を順調に進めつつ、コジローは答える。
先程、海中でこれらの残骸を回収していた時にコジローがカプセルから回収した金髪の少女、ルチアは彼と共にムーンXに搭乗していたのだが、その際にレーダーの探知範囲より早くその残骸や、武装データの入った宝箱の方向を言い当てていたのだ。
半ばムーンXの制御AIと化したハロサメは、あくまでムーンX自体が探知した物を読み上げているに過ぎない。
そして現在彼女は、コジローと一緒にワイヤーを運んだり等して作業を手伝っていた。
「ふーん……ま、人の恋路を邪魔すると風雲再起に蹴られて地獄に落ちちゃうからなぁ……そう言う事にしといてやるか。あたしはハーラ、リアルじゃコジローのダチだよ」
「私はルチア。コジローの……友、達?」
「……よしっ、終わった!! サンキュー、ルチアのお陰で早く終わったよ」
ワイヤーの括り付けが終わると、コジローは座っていた彼女に手を差し伸べる。
一瞬コジローの方を見上げる彼女だったが、彼女は両手でその手を掴むと、少し考え込むようにしてからこう告げた。
「手、暖かい……少し熱いくらいに。貴方の楽しみ、伝わってくる」
「え? あ? やっぱり分かる?」
その言葉にコジローは照れくさって左手で後頭部を掻きつつも、ルチアを立ち上がらせる。そのまま二人はガンダムムーンXに乗り込み、サイコウェーブを発生させてゆっくりと飛び上がる。
本来であればXファルコンと合体して運搬するのが最も効率が良いのだが、ルール上最終的に
「残り時間まであと十分ちょっと!! けど、これでゴールまで一直線だぜ!!」
「……!! 左に避けて!!」
「へ?」
「左!!」
『後方よりミサイル接近!! 数6!!』
ルチアの警告から秒も経たずしてハロサメの警告がコックピットに響く。後方から迫るのは
すると、丁度岩場の一際突き出た岩にミサイルが激突し、その爆発が連鎖して残りのミサイルも誘爆した。
「あっぶねー……ナイスだぜ、ルチア!! この辺の地形、知ってたのか?」
「……まだ、来ます」
「ちっ!! しつけぇ奴らだぜ!! コジロー!! 振り落とされんなよ!!」
その後も幾度にも渡って襲い掛かる長距離砲撃。しかし、その度にルチアの指示した方向に回避すると、砲弾は自ら避けているかの様にことごとく外れていった。
まるで、ニュータイプの予言の様だ。
そんな光景に驚くやら感心するやらの二人であったが、既に攻撃を仕掛けてきていた相手はレーダーの検知範囲内にいた。
後方から迫るのは、やや派手な色使いのキャノン砲の付いたドートレス・フライヤー三機。しかし、そのどれもが禍々しいオーラに包まれている。
「ちっ!! 人型の分際でアタシのXファルコンに追いつこうなんて……って、何だありゃあ!?」
「あいつら、マスダイバーかっ!?」
『そこの機体!! 今すぐ機体を停止してソレを渡したまえ!! 悪い様にはせん!!』
「誰がっ!!」
Xファルコンの装備する四基のうちの二基の拡散ビーム砲が後方を向き、ビームを拡散モードで放つ。しかし、ブレイク・デカールによって性能が底上げされたドートレス・フライヤーはそれらの攻撃を難なくかわし、先頭の一機はサーベルを引き抜いて接近戦を挑もうとする。
「アレを避けた!?」
『あくまで抵抗するか、なら致し方あるまい!!』
更に加速度を上げたドートレス・フライヤー三機。Xファルコンとの距離は完全に詰められ、アンテナを増設した指揮官機がビームサーベルを振るうと、ムーンXが身を捻ってかわす。しかし、リアスカートに備えられたワイヤーがその一撃で蒸発してしまい、括っていたお宝が落下してしまう。
「しまった!? お宝が!!」
『ちぃ、外したか!!』
室長と呼ばれたナイスミドルの男は舌打ちをすると兵装をマシンガンに持ち替え、こちらに無数の銃弾を浴びせてくる。
対して、コジローは、落下したお宝を回収すべくXファルコンから分離。背部のサイコプレートを展開して最大出力で力場を発生させて海面スレスレで何とかお宝のキャッチに成功した。
「あぶねぇあぶねぇ……、ハーラ!! 今助け-----」
『あたしは置いて行って来な、コジロー!! 何も考えず飛べ!! お前はこの日を、ずっっっと待ち望んでたんだろ!?』
「けど、いくらお前でもマスダイバー三人相手は……」
『はっ、アタシを舐めてくれるなよ? これでもあのランディさんに色々仕込まれてるんでね!!』
すると次の瞬間、Xファルコンの四つの武装ユニットが
その一つ一つがワイヤーの様な物で繋がれており、メビウス・ゼロのガンバレルの応用なのは想像に難くない。
因みに先程お宝を括りつけていたワイヤーは、この装備の予備を流用した物だ。
『くそっ!! 反応が五機に増えやがった!?』
『落ち着け!! 只のこけおどしだ!! あんな無人攻撃機に遅れを取る我々ではない!!』
『ご覧の通りさ。アタシ、結構つえーんだぜ?』
四基の武装ポッドの操作をしつつ、本体でもバルカンの牽制射撃を浴びせるハーラ。
通信モニターに映る彼女の表情は余裕に見える笑顔だったが、それはあくまでコジローを安心させるための作り笑いだ。
しかも、マスダイバー達も怯んだのは最初の一瞬で、すぐに対応され始めている。
そして、残り時間は僅か四分足らず。
「あの人なら、大丈夫です。あの子も、まだ飛べるって言ってます」
「ルチア……? 分かったよ。俺、二人の言葉を信じてみる!!」
コジローは二人の言葉を信じ、自分の目標を達成させるために進路をゴール地点に向ける。サテライトメガソニックで飛べるだけのエネルギーは無いが、ホバリングモードでなら十分に間に合う速度でゴール地点まで飛ぶことが可能だ。
三日月状のサイコプレート二基に赤い光が灯り、発生した力場がムーンXを加速させる。
「絶対、戻ってくるから!!」
最大戦速で飛翔し、その余波が海面を波立たせる。
道中で他の参加者に抱えているお宝を狙われそうになるが、腰部バルカンで威嚇射撃をして怯ませつつ、その脇を潜り抜ける。
しかし、やはり他の参加者達もそう易々と諦めきれるものでは無いのか、ゴール地点に近づくにつれて攻撃がエスカレートしてきた。
最終的に正面に立ち並び、道を阻んだのは30機以上のMSだ。
「なんて数のMSだぁ……って、怯んでる場合じゃないのよね!!」
「皆の欲望が……聞こえてきます。他人を貶めてでも、あの人の元に居たいと言う欲望が」
「このぉ!! 渡すもんかぁ!」
正面に迫ったジェニス風アーマーを纏ったザクⅡの顔面に加速の乗ったパンチを差込み、吹っ飛んだ先にいた後続機体も無力化する。マシンガンの集中攻撃が襲い掛かるが、その程度でムーンXは止まらない。正面のヒートホークを構えたオレンジ色のジェニスの両足を、ビームソードで切り裂く。
「こんな所で、負けてたまるか……やられるもんかぁ!!」
大型ヒートソードで切りかかって来た、角の生えた重装甲の赤いジェニスに対して、右肘に搭載されたバタフライエッジ改で初撃を受け止め、そのまま右手を振り払うと原典よりも大出力、大型化した最早ビームソードと言っても差し支えの無い大型の刃が右足を切り裂き、コックピットを貫く。
「待たせるものかぁ!!」
後方から迫り、手を伸ばして来る二機の紅白のジェニスに対してサイコプレートを切り離し、それをぶつける事で接近を阻むと、普段あまり使わないバックパックに備えられたスラスターを最大出力で吹かす。マスダイバー三人相手に残って時間を稼いでくれたハーラの為にも、壇上で待っていると言ってくれたオリヴィエの為にも、これ以上二人を待たせる訳には行かない。
残り三十秒、ムーンXはお宝の付いたワイヤーを握ったまま、被弾を気にせず残りの追撃を振り切ると、ゴール地点である島の砂浜に半ば不時着するようにしてゴールした。
その証に、コンソールに普段ミッションで見るものとは違う『Mission Clear!!』の表示が通知される。
「やった……やったよ、俺……」
「……あの人が、危ない」
「そうだった!! 急いで戻らないと……」
友人を助けるために機体を起き上がらせようとするが、思うように動かない。
それもそのはず、いくらそこそこ頑丈な部類に入るムーンXでも、流石に無理をさせすぎたからだ。被弾を無視して突っ切った為に装甲の至る所に弾痕や切り傷が刻まれ、この機体の攻走守の要である二枚のサイコプレートも、数百メートル離れた海中に水没。そして使用可能な武装はバタフライエッジとビームソードのみと、慢心相違と呼ぶに相応しい状態だった。何とか立ち上がるも、それが精一杯だった。
「くそっ!! これじゃあ、ハーラを助けられない……!!」
『よくやった、少年。その強き思い、確かに見させてもらった。君の役目は、我が取り次ぐとしよう』
その労いの言葉と共に、空を覆う宵闇。
それは、マスダイバー出現の知らせを受けて運営席から飛び出してきた漆黒の堕天使、オリヴィエのD・フォールン・クアンタの物だった。
漆黒の粒子が形成する翼をはためかせ、堕天使はハーラの救助に向かう。
海中に踝のやや上まで沈めた状態で立っていたムーンXがそれを見送ると、その横にはいつの間にか白紫の幽霊烏がいた。
『おめでとう、コジロー。まだ、動ける?』
「ありがとう、フィー。けど、ムーンXはもう限界だぜ……」
「いえ……もう少し、あと少しだけ。この子は頑張れます」
『それに、この島がゾンダーエプタ島だってこと、忘れてない?』
コジローはその言葉の意味が一瞬分からなかったが、その言葉の意味を理解するとフィリアの操るレイス・コルニグスに支えられながら、埠頭へと足を進めた。