ガンダムビルドダイバーズ MOON  ~宵月に笑う~   作:零八式

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7話 「私に、引き金を」

 

「さて……少年は我の期待通り、盟友の座を勝ち取ったようだな」

 

 あふれ出る宵闇を纏い、その粒子が作り出す翼をはためかせて高速で目標へと飛翔するのは、コジローが大量のポイントを確保してゴールした事を確認して微笑むと、その隣を飛翔する機体に目をやる。

 機体のベースはモンテーロで、素体こそ特に変更点は無いが、機体の最大の特徴とも呼べる両肩部のウイングは鳥のような翼に換装されており、その機動力が底上げされている。カラーリングは頭部や胴体の追加アーマーと合わせて銀とオレンジのツートンで彩られており、その手には先端が螺旋状に捩れたジャベリン、と片手で持てるほどに小型化された鷹の意匠が施されたガトリングガンを持っていた。

 ひどくシンプルだが、それ故に高い拡張性を持つその機体の名は

 

 「ふっ、このてぇんさい(・・・・・)ビルダーの誇るビルドモンテーロには劣るが、あれだけの攻撃を受けてもまだ動ける頑強さは認めよう」

 

 「おや? 天才ビルダー(ジーニアス)と呼ばれるそなたが褒めるとは、珍しいこともある」

 

 「それだけ、彼のポテンシャルには期待出来る、と言う事だ……見えてきたぞ!!」

 

 結われた金髪を肩に流しながら、他称天才(・・・・)ビルダーことヘンリー・ニックは飛翔形態であるビルドモンテーロ ガトリングホークアーマーの持つウイングガンダムの持つバインダーを参考にした飛翔ユニットである両肩部の大型ウイングスラスターを用いて加速し、先制打とばかりにガトリングガンを放つ。

 放たれた丁度100発(・・・・・・)の弾丸は武装ユニットを二つ失った赤い戦闘機、Xファルコンに襲い掛かるどす黒い色のオーラを纏ったドートレスフライヤー三機に全弾直撃し、有効打を与え、更に追撃とばかりに連結されたジャベリンを------

 

 「ジャベリンはぁっ!! こう使うっ!!」

 

 -----リーダー機と思わしき機体目掛けてブン投げた。

 それに気が付き、僚機のドートレスフライヤーが間に入ってシールドで受け止める。流石にバルバトスのメイスめいた質量は持ち合わせていないので、そのまま体勢を崩す事は出来ず、ジャベリンはシールドに突き刺さって止められた。

 

 『なーにがジャベ……っ!?』

 

 その一撃を防ぎ、天狗になっていた男の声が突如驚きのそれに変わる。なんと、あろうことか螺旋状に捩じれていたジャベリンの先端が高速回転(・・・・)し、シールドを貫通してきたのだ。予想外の事態にシールドから手を離すのが遅れ、手首から先を失ってしまう。

 

 『な、にぃ……!!』

 

 「はははははっ!! 私はてぇんさい(・・・・・)である!! アニメと同じように行くと思うなよ、ジャベリンがシールドで受け止められるのならぁ!! それごと穿ってしまえばいいだけの話だろうがぁ!!」

 

 高らかに芝居がかった口調で語りながら、てぇんさい謹製である回転穿孔式投擲槍……またの名をドリル・ジャベリンを空中でキャッチすると先端からビームワイヤーを発生させ、それを振り回して体勢を崩し、時間を稼ぐ。

 

 「そこの機体!! 足止め大義だった、今のうちに離脱しろ!!」

 

 『ありゃあモノホンのビルドモンテーロかぁ!? 流石にこれ以上はきついところだったぜ!!』

 

 二基の武装ユニットを破壊され、機体も所々被弾がかさんでいたハーラは、宵闇の夜会メンバーであるヘンリーの機体、ビルドモンテーロをその目で確認すると、全速力で空域を離脱した。

 それと入れ替わるようにD・フォールン・クアンタとビルドモンテーロが突撃し、斬撃を浴びせる。

 

 『ぐっ!! こんな時に宵闇の夜会の大将のお出ましだと!?』

 

 『我々はあるものを探しているだけだ。どうか邪魔はしないで頂きたい』

 

 「残念ながら、夜会はもう終焉の鐘を鳴らした。あの少年が自ら体を張ってな」

 

 『ちぃっ……ターゲットを追うぞ!! まだこの機体性能なら---』

 

 三機のドートレス・フライヤーは、オリヴィエ達を無視してスラスターを全快に吹かし、トランザムもかくやと言うほどのスピードと加速を見せる。ブレイクデカールによる不正強化があればこそなせる技だ。しかし、その先には既に漆黒の雲が迫っていた。視界内にいきなりの障害物出現に焦る三機。しかし、当然そのスピードを殺しきれるはずも無く、三機は雲の中に突っ込む。それは、事前にオリヴィエがゴール地点であり他の参加者も集まるゾンダーエプタ島へのルートを塞ぐために撒いていた物だった。

 

 『何だっ!? 何が起きている!?』

 

 『室長!! レーダー反応、エラーを吐き出しています!!』

 

 『畜生!! 進んでも進んでも闇しか見えない!!』

 

 レーダーも死に、視界も不明瞭で定かではない。ましてや、この三人はガンダム作品に詳しい訳でもなければ当然ガンプラバトルなどやったことも無く、GBNに関しての情報も殆ど疎い。それ故に、この黒色GN粒子が生み出す宵闇の正体も突破法も見抜くことは叶わず、暗雲の中で右往左往する。

 

 「盟友ヘンリーよ、哀しき者(マスダイバー)達の位置は分かるな?」

 

 「最大濃度ではないのだろう? それに、この形態は斥候目的でもある。センサー類もそこまで柔ではないよ」

 

 「ふむ。さて……哀しき心の持ち主達よ、例え悪鬼羅刹に堕ちようと、我の元に居たかったというそなた達の思いは素直に喜ばしいと思う」

 

 オリヴィエの声は、宵闇を構成するGN粒子に乗ってマスダイバー達に四方八方から投げかけられる。ありとあらゆる方向から来る音声を異常強化された音響センサーが全て拾ってしまうために全く意味を成さず、とある旧ザクが見せた対マドロック戦のような芸当はプレイヤースキルがあっても出来る事は無い。しかし、三人のうちの一人が突然冷静になってこう呟く。

 

 『彼女……何か勘違いしてないすか?』

 

 「しかし、我はこの飽くなき世界(GBN)を純粋に楽しんでいる身だ。そして、その気持ちを共有出来る者こそ、盟友の座に就くに相応しいと考えている。よって、その様な無粋な力を行使する者は我らには不要だ」

 

 『いや……俺たち、室長に言われて探し物してるだけなんだけど……』

 

 「さらばだ、哀しき者達よ!!」

 

 その声と同時に襲い掛かる、斬撃、銃撃、斬撃。ブレイクデカールで強化されていると言えど、衝撃まで完全に殺しきれるわけではない。何処から襲い掛かるかも分からない攻撃は着実にダメージを与えていく。しかし、決定打にはまだ遠かった。決定打となりえる必殺技であるアグニカリバー・ネメシスは全てのソードビットを使う関係上、宵闇との同時使用は出来ず、ここで使えばマスダイバーを取り逃がす可能性もある。

 

 『舐め……るなぁっ!!』

 

 「っ!!」

 

 止めとばかりに振り抜かれたD・フォールン・クアンタのGNバスターソードが、室長と呼ばれる男のドートレスフライヤーに受け止められた。まぐれなのか、狙ってやったか分かっていないが、彼女はそれとの押し合いを始める。

 

 『舐めてくれるなよ、小娘。これでも私は研究者でね、剣の振り方の分析さえ出来てしまえば、こちらのものだ』

 

 「ほう?」

 

 『それに、我々にはこんなお遊びに付き合っている時間など無いのだよ!!』 

 

 室長は両手でGNバスターソードを挟んだかと思うと、自機の膝に数度叩きつけてそれをへし折った。

 ブレイクデカールで強化されたガンプラだからこそ成せる芸当ではあるが、二人はそこで違和感を感じる。

 

 「こいつら、今まで相手にしてきた奴らより性能が高い。ガンプラの出来はそうでも無いくせに」

 

 「恐らく、良質なブレイクデカールを積んでいるのであろう。それだけ資金やらを割けるからには、相手は大人と見ていい……か」

 

 オリヴィエは少しだけ素に戻って分析すると、もう片方のGNバスターソードを構えて再び宵闇からの奇襲攻撃に移る。その顔には、どこか嫌悪の念があった。

 

 

 「だから大人は、好きじゃないんだ」

 

 

 ---------------

 

 その頃、ゾンダーエプタ島では暗がりを証明で照らしながらのムーンXの補修作業が行われていた。勿GBN内の出来事なので、やっている事自体はドロップパーツの付け替え程度だ。 

 損壊したメガソニック砲の代わりに先程拾ってきたお宝であるGXビットのサテライトキャノンの砲身をムーンXに担がせ、背中には回収班が拾ってきてくれたサイコプレートが装備されている。

 他にも外部電源などで無理やり出力を維持させるなど、ムーンXは今、まるで未完成DXもかくやと言った具合のケーブルまみれとなっていた。

 

 「準備OK、後は撃つだけ」

 

 「これ、ほんとに大丈夫なのかぁ?」

 

 「爆発はしない……多分」

 

 その貧相な見た目に不安を口にするコジローだが、そうも言ってられない。あの先には自ら危険を買って出た友達が、そして恩人がいるのだから。

 せめてあの自分達を襲ってきたマスダイバー達に最後っ屁ぐらいかましてやる、と息巻くコジロー。

 しかし、困った事に目印になるであろう『宵闇』が空の闇にまぎれて全く見えず、照準に難儀していた。

 大雑把な方向は分かるのだが、オリヴィエ達は現在『宵闇』の中で戦っているので通信のデータリンクも確立できず仕舞いでいる。

 これでは、撃つ事ができない。

 

 「コジロー……困っているのですか?」

 

 「あ、あぁ。けど、闇雲に撃ったら、オリヴィエさんにまで当たっちまう……どうすれば良いんだ……っ!!」

 

 撃ちたいけど撃てない、そんなジレンマに痺れを切らすコジロー。

 その時、操縦桿を握るも震えていた彼の右手を同乗していたルチアが握り、そして目を合わせてこう言った。

 

 「私に、引き金を」

 

 「え? ルチアが、照準を? そんな事、本当に出来るのか?」

 

 「私なら、当てられます。信じて、貰えますか?」

 

 真剣の面立ちでコジローを見つめるルチア。

 コジローは今日出会ったばかりの、その整いながらも可愛らしさのある顔立ちのルチアに見つめられて頬を赤くするが、それを頭を振って抑えると、操縦桿から手を離し、操縦を彼女に代わった。

 

 「分かった!! 全く、今日は信頼のバーゲンセールだぜ!!」

 

 「ありがとう……未来予測演算、起動」

 

 ルチアは目を閉じると、一度息を吸ってからキラ・ヤマトも顔負けのスピードの早口を呟いた。

 

 「敵勢指数予測取りつつ、機体接地状況及びコリオリ偏差の再設定、戦闘空域確認MS反応5内味方2、機体性能分析結果よりこれらの要素を考慮に入れた上での運動予測パターン演算開始、算出した合計78573通りの回避パターンのうち46430通りを削除、更に搭乗者心理グラフ要素を加えて演算開始、32142通りを削除し、絞込みを終了、演算結果に基づき銃口を右に4.15上に5.17に修正開始、サテライトシステムオンライン」

 

 「え? な、な、何?」

 

 「……演算完了しました、15秒後に引き金を引けば当たります。13、12、11……」

 

 「お、お、お、おう!!」

 

 コジローは訳が分からなくなりながらも彼女を見守り、操縦桿を握るルチアは時を待つ。

 その間にもマイクロウェーブの受信は完了しており、全身のエネルギーコンダクターが青く輝く。

 しかし、コジローはふとルチアのその細い手の上に自分の手を重ね、共に操縦桿を握り、彼女はそれを不思議そうに眺める。

 

 「?」

 

 「へへっ、やっぱり自分の機体を、友達に任せっきりってのはどうもね……引き金は、俺達が引く!!」

 

 「……撃てます」

 

 「いっけえええええええええええええええええっ!!」

 

 二人の指が同時に動き、トリガーを押し込む。

 砲口に光が満ち、開放され、一斉に放たれた高密度のエネルギーが青い一筋の光となって洋上を駆け抜けた。

 

 

 ---------------

 

 

 『小娘の悪あがきも、ここまで……!?』

 

 宵闇の中で鍔競り合いを繰り広げていたオリヴィエは、宵闇の中でも最も外側に配置されていたソードビットが高エネルギー体の接近を知らせたのを確認すると、すぐにドートレス・フライヤーを蹴飛ばして体勢を崩させてから高空へ飛翔する。

 そして、刹那の間をおいてマスダイバーの操るドートレス三機は、宵闇ごとサテライトキャノンの光の渦に飲まれて消えていった。

 

 「今の一撃は、一体どこから……?」

 

 『オリヴィエ、平気?』

 

 「フィーか、今のサテライトキャノンについて説明が欲しい」

 

 『コジローがやった。あと、何か二人乗りになってる』

 

 『よかったぁ~、オリヴィエさんにはちゃんと当たってないぜ!!』 

 

 オリヴィエの通信ウィンドウに表示されるムーンXのコックピット。そこには侍風の装束を纏った少年ダイバー、コジローが、同乗していた薄手のワンピースを纏った金髪の少女にハイタッチをする姿があった。

 少し意外そうな表情をするが、すぐに戻すとコジローを褒める。

 

 「島から撃ったとして、この距離であそこまで正確な狙撃をやってのけるとは、大したものだよ、君は」

 

 『俺だけじゃない。同胞達がパーツを持ってきてくれて、彼女が照準を合わせてくれて……皆の力があったから、オリヴィエさんを助けられたんだ』

 

 「随分謙虚じゃないか。だがまぁ……後の語らいは我が居城(フォースネスト)で聞こう。そして改めて祝福しよう、新たなる盟友の誕生を!!」

 

 徐々に日が昇り行くローレライの海上空で、彼女は両手と翼を広げると、撮影ボタンを押してから高らかに宣言する。

 

 「聞け!! 我が盟友並びに同胞諸君!! 我らが宵闇の夜会は今宵堕天使オリヴィエの名の下に、新たな盟友を迎え入れた!! 紹介しよう、新参ながらもその信念の強さで盟友の座を勝ち取った侍を!!」

 

 この結果発表の瞬間をもって、コジローとその同乗者ルチアは正式にフォース『宵闇の夜会』のメンバーとなった。

 だが、この時彼らはまだ知らない。まさかこの少女が、後にGBNに大きな波乱を持ち込む事になることを。その物語へのシナリオが、動き出してしまったことを。

 

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