ガンダムビルドダイバーズ MOON ~宵月に笑う~ 作:零八式
翌日 宵闇の夜会 フォースネスト 堕楽園
「……ほんとに入れちゃったんだよなぁ、俺」
その翌日、学校を終えてGBNにログインしたコジローは、まだ誰も来ていない空中要塞型フォースネスト『堕楽園』のコテージに感慨に耽りながら身を置いていた。その正面に広がる庭園は観賞用のハンガーも兼ねられており、そこには彼の愛機、ガンダムムーンXが鎮座している。小規模とは言え、花畑の上に立つガンダムは、まるで地球に帰還したELSクアンタの一場面を想起させる。
「イベントの後に開かれた宴じゃあ、
「コジロー……呼びましたか?」
「ル、ルチア!? いつのまにここに!?」
さっきからずっとです、と答えてコジローの座るベンチに腰掛けるルチア。突然の彼女の登場に、コジローは思わず慌てて髪形を気にする、が、ルチアは特にこれと言ったことも無くただ何かを見ており、自然とその横顔を眺める形になる。宝石のように綺麗なアメジスト色の瞳と、腰上まで届く程に長く、綺麗な金髪、そして、若干あどけなさを残しながらもどこか凛とした、そしてどこかさびしそうな表情。
それらに吸い寄せられるように、コジローは自然と彼女の隣にまで距離を詰めていた。
「……?」
「え? いや、ははっ……何見てたのかなーって、気になって、さ」
「……昨日の、写真です」
いつの間にか真横まで迫っていた事を誤魔化す様に笑うコジローだが、ルチアは特にそれを咎める様子も無く、彼にもその写真を見せる。そこに映っていたのは、昨日の宴の時に撮影された複数枚のスクリーンショットだった。新メンバーであるコジローとルチアを入れた新たな宵闇の夜会メンバーの集合写真、シャンパンを渡されるも勢いあまって自分の顔に噴射するコジロー、それを笑うフィーと、とぼけ顔のルチア、いつの間にか結成されたルチア親衛隊の皆さん……そんな楽しそうな光景を映したスクリーンショットが、合計15枚ほど記録されていた。
「私は、ずっと一人でした。暗い暗闇の中で、ずっと。けど、昨日のあの時は、心理グラフが振り切れるくらい、熱がありました。これは、一体何……?」
「そーいうの、多分『楽しい』って言うんじゃないかな?」
「楽……しい? これが、楽しい……」
疑問ではなく、ただ噛み締めるように呟くルチア。
抽象的な、それでいてどこか機械的な用語の混ざる不思議な話し方をするルチアだが、コジローは特にそれらを気にする事も無く、彼女の話を聞く。
コジローがオリヴィエに多少の無理を言って二人乗り運用という事で彼女の入団の許可を貰ってくれたこと、ゲーム上とは言え、様々な料理を口にした事、他にも色々だ。
それほどまでに彼女にとって、昨日と言う日は特別な一日となったのだろう。
「……不思議、です。コジローと話していたら、また心理グラフに乱れが……」
「思い出話でテンションが上がるってのは、よくある事だぜ? 乱れって言う程の物でも無いと思うけどなぁ……そうだ、ルチアはこの後空いてる?」
「はい、特に予定の様な物は……」
ポンと手を打ち、ベンチから立ち上がるコジロー。
それと連動するかのようにコジローら謹製のAI、ハロサメの制御でムーンXが立ち上がると、花を踏まないようにこちらに向かって歩き、立ち膝を付いて右手を差し出す。
機体の指に足を掛けた所で振り向くと、ルチアに向けて手を差し伸べる。
「ちょっくら遊びに、行くか!!」
◆◆◆
海底都市 リュグージョ・タウン
海底に聳える都市郡、リュグージョ・タウン。そこはクロスボーンガンダムDUSTに登場するムラサメ研究所の近くに建てられているのではないかと噂される施設群をアレンジした物で、中央には町のシンボルとしてサイコガンダムこと、ムラサメが祭られている。
どこか古めかしくも、独特の和風の風情を残した町並みの中で、コジローは団子屋の座椅子に座ると、頭を抱えていた。
(……って、勢いで誘ったは良いけど俺デートとかした事ないんだったぁぁぁぁぁああああああああああ!!)
何しろこの少年、齢十五にして、当然の如く女子とデートする等と言った経験は皆無である。
女子との付き合いも幼馴染であるハラダ以外とはほぼ無く、その彼女自身もどちらかと言うと少年のような活発な少女のため、同性の友人と遊んでいる感覚でしかなかった。
しかし、彼女のどこか寂しそうな横顔を見た瞬間、彼はとにかく何かしてあげようと言う考えで頭が埋まっており、自分にできる思い出作りをしてあげたいと、現在に至る。
こう言った経験ゼロであることを後悔するコジローだが、それでも、と端末を握ると
「……ハロサメ、この辺の店や施設の口コミを全サーチ、高評価順にソートしつつ何と言うか初心者カッ、カッ、カッ……」
『ご主人、何を動揺しておる? 全くしょうの無い奴よのう……』
「しょうがないだろ!! やったこと無いんだから!! つーかAIにんな事でため息吐かれたくねえぜ!!」
手に握る端末に思わず叫ぶコジローだが、ハロサメはそれでも創造主の一人であるコジローに逆らうような事は無く、テキパキとこの海底都市に存在する店や施設のサーチを開始、その情報の並べ替え等を行っている。
その間にも、隣に座っているルチアは首を傾げながらこちらを見つめるだけだったが、その純粋無垢な瞳は今の彼の精神力を削るには十分すぎる破壊力があった。
「コジロー……食べないのですか?」
「……ハッ!? いつの間に置かれていたんだ!? こういう時はやはりアレか!? はい、あーんなのか!?」
「あー、もう、このまま見てたい気もするけど、見てられないなぁ……」
パニくるコジローと無言で団子を頬ぼるルチア。その二人に横から声を掛けたのは、甘味処の店員だった。
いかにも看板娘と言った風情の可愛らしい少女は、黒ウサギのような長い耳が横からはみ出る髪を頭巾で覆い、服装もウサギ柄が散りばめられた着物にエプロンと給仕スタイルだったが、その店員を見てコジローは驚く。
「え? 何でこんな所に、『
「もうウチらは同じフォースの仲間なんだから、そんな風に呼ぶ必要もナシナシ!! 改めてどうも、『宵闇の夜会』最カッワイイ担当のアイリスちゃんでーす!! よぉ-ろしくね♪」
仕事着を脱ぎ捨て、その下から現れた黒を基調とした軍服のようでありながらも、肩の布が無かったり、所々がアイドルのステージ衣装のような可愛らしいフリルで飾られた衣装を身に纏った、頭頂部の兎の耳が特徴の少女、アイリスは二人の前で可愛らしくポーズをとる。
彼女の使用する機体は、高い機動力を生かして重力下ではまるで飛び跳ねるような戦いを披露することや、その服装から『黒兎』の通り名が定着したとされている。
彼女も宵闇の夜会メンバーであるが故に当然、店中の観客から注目を浴びる。
「おぉ!! 噂には聞いていたが、あのアイリスちゃんがこんな所でバイトしていたとは!!」
「何て言ったって、彼女この甘兎園の看板娘だからね」
「やべぇ、サイン貰わなきゃ……」
「うわ、やっば……と言う訳で店長!! ごめーん!! ちょっと新入り隊員の面倒見てくるから、今日は早めに上がるねー!!」
そう言ってアイリスはコジローとルチアの手をとると、騒がしくなってきた店内から正に脱兎の如く逃げ出す。その折、若いっていいねー、と人知れず誰かが呟いた。
◆◆◆
「……出てきなさい? そこに居るんでしょ、商売人さん?」
その頃、建物に囲まれた薄暗い路地裏では、白い制服の上にマントを羽織った一人の少女が、誰もいない虚空に向けて叫ぶ。フードを羽織り、顔を隠したその少女が合図とされているブーツで地面をコツンコツンと鳴らす仕草をすると、一際影の暗い部分からその人物達は姿を現した。
一人は現在ビルドダイバーズに所属するクノイチ風の見た目の少女ダイバー、アヤメ。そしてもう一人は、長身の人物で、足元まで覆う程長いマントでその身に纏い、フードの下には紫色の炎が吹き上がる骸骨の仮面を付けている。そんな見た目が見た目な為に、その幽霊の性別は誰にも分からない。
「貴方が噂の『
『ククッ……これはファッションのようなものでね、皆好きだろ? 典型的な悪役ファッションて奴をさ。さて、約束通り一人で来たようだな。IDも事前に知らせて貰ったものと同じ、と……さてアヤメ君、例のパスコードを』
「……受け取りなさい、これがそうよ」
くぐもった声で笑いながら返す幽霊《ゴースト》と、口数も少なく仕事を淡々とこなすアヤメ。
その少女はアヤメからパスコードを受け取ると、突然
『さて、私の気まぐれでここで一つ、君にクイズを出そう』
「もう取引は終わったでしょう? あまり留まるのは良くないんじゃないの?」
『まぁ、そう言うな。正解の暁には、私の独断で料金の半分を君に返却しよう。さて問題、このブレイクデカールを購入するものは皆、様々な欲を抱えている。勝利に対する執着や、ライバルへの復讐、妬み、そんな様々な感情だ。では本題、私が抱えている欲は何だと思う? ヒント、今言った物の中に答えは無いよ』
マントの少女は30秒ほど黙考するが、とうとうその口が動く事は無かった。
『残念、時間切れだ。まぁ少し難しかったかな? では、良い夢を』
しばらく歩いて、その幽霊の横についていたアヤメは珍しく仕事内容以外のことを口にする。
「さっきの質問、答えは何だったの?」
『おや、アヤメ君の方から話し掛けて貰えるなんて珍しいねぇ。その珍しさに免じて、特別に教えてあげよう』
「私の抱える欲、それは底知れぬ破壊衝動だよ」
◆◆◆
そして……
「ごめんねー、フィーにオリヴィエちゃん。うちの買い物に付き合わせちゃって」
「なに、偶にはこうして盟友達と
「新作のお菓子買えたから、良い」
「さぁてさて、お次はルーちゃんの服、変えよっか!! 見たところ服装アクセサリは初期に設定できる奴から特に弄ってない様だし、どうせならウチに並ぶくらい最カッわいくいこうじぇい!!」
「じぇ……じぇい?」
「あのー……一つ突っ込んで良いか……?」
街を歩いていたら合流したオリヴィエとフィリアが加わり、賑やかになる宵闇の夜会女子一向。その後ろでワナワナと震えるコジロー、正確には彼のその両足。しかし、それは決して怒りや妬みからではない。何故なら、今の彼の全身には……
「何で俺が全員分の荷物を持つ羽目に!? すげぇ動きづらいんだけど!!」
そう、両手には大量の紙袋が装備され、背中には箱ものを紐の襷掛けで背負い、前にも小形の箱を同様に装備していることから機動戦士Zガンダムに登場したMS用大気圏突入様装備、『バリュート』に見えなくも無い。
全員分の荷物をいつの間にか持つ羽目になっていたコジローは、息を荒げながら彼女らに付いていっていたのだ。
「そんな律儀にフルアーマーみたいに纏うから……」
「大体、少年も何故わざわざ
「それにここ、電脳空間の中だから重くは無いはずだよーって、面白そうだから黙ってたんだけどね♪」
「おいィィい!? 何で誰も突っ込んでくれなかったの!? 言われてみれば、確かに重量はそれ程でもないな」
コジローは意識を変えると、突然軽くなった、と言うよりは元来質量のほぼ無い物体を全てアイテムストレージに放り込み、一気に軽装になる。重いと思うから重いと言う、曰くプラシーボ効果と言うものだ。しかし、このGBNでは現実とは感覚や体の使い勝手が違う。アイリス達はコジローに遠回しにその事を伝える意図もあって黙っていたのだが、それが彼に通じたかは定かではない。
そうこうしている内に、商店街の一角の和服屋に到着した。
「ルーちゃんはコジローちゃんとムーンXで一緒に乗るんだし、和服で合わせた方が良いよね~」
そう言ってアイリスはルチアの手を引いてその和服屋の中に入ると、あれでもないこれでもないと叫びながら服選びを進めていく。声の内容からして、アクセサリ選びも平行して行っている様だ。
店内がそれ程広くない故に、残りの三人は外で待たされている。
「盟友アイリスは、ああいった物に親しくてな。我らのこの装束も、大元以外は彼女に見繕って貰った物だ」
「ファッションセンスに関しては、このフォース一だから……」
「へぇ~……あっ、決まったみたいだぜ」
しばらく待っていると、満足げな表情を浮かべたアイリスが出てきた。
「おっまたせ~!! いや~!! 侍風にするか、クノイチ風にするか迷ったけど、ルーちゃん清楚系な見た目と性格だし侍風の方が良いよね~って事で侍風コーデで決めてみました!! さぁさぁ、とくとご覧あれ~」
アイリスがもったいぶってルチアに重なるように立っているが、やや大仰な仕草でその立ち位置を変える。
彼女の後ろから現れた、装いを新たにしたルチアの姿に、三人だけでなく周囲にもギャラリーで人だかりができる程だ。
金色の髪は銀の髪飾りで彩られ、その額には鉢金が当てられている。紫色の和服を纏ったその上から藍色の軽装な鎧を身に纏い、手にはお飾りではあるが薙刀を持つなど、ルチア本人のミステリアスな雰囲気に凛々しさが加わり、更なる魅力を醸し出していた。
「ウチの考えた最高にカッコ良くて可愛いファッション、略して……最カッわいいでしょ!!」