つぐみ回も今回と次回でおしまいです
早くひまり書きたい。愛してる。
12話 友達になるために
つぐみが、倒れた。
その知らせを聞いたのは、あれから5日後のことだった。
生徒会の仕事と、徹夜での自主練によるオーバーワーク。無理を重ねたつぐみの体は限界を迎え、遂に力尽きてしまったらしい。救急車で運ばれる事態にまでなったと言うことをひまりから電話で聞いた俺は、急いで病院へと向かった。
病院に着くと、フロントに座る巴とひまりの姿が目に入る。
「巴、ひまり」
「陽奈……悪かったな、こんな所まで来てもらって」
「硬いこと言うなよ。俺だってつぐみが心配だし……それに、こうなった原因はきっと俺のせいなんだ」
「陽奈の……?」
そう。俺が。
俺がつぐみに、キーボードを教えたりしなければ。彼女が無理を重ねる事も無かったはずなんだ。
──『絶対に無理はするなよ?』──
あんな言葉一つで、つぐみを止めた気になって、大丈夫だろうと安心して。
つぐみの事を、何もわかっていなかった。
……いや、わかろうとしていなかったんだ。これはその報い、なんだろうな。
俺の自嘲を表情から感じたのだろうか、巴は俺に声を掛けた。
「陽奈、自分を責めるな。オーバーワークは、最終的に自分自身の責任だろう?」
「よく言うよ……巴だって、自分を責めてるくせに」
「っ……!」
今俺に向かって放った言葉は、きっと彼女自身も自分へと言い聞かせているはずだ。幾らドライな巴でも、仲間を、大切な幼馴染が倒れたのを本人のせいにしたりするわけがない。
「……互いに言えた話じゃないけど、自分を責めるのも程々にな?」
「あぁ……ありがとう」
俺の問いかけに、巴は笑う。
かく言う自分の思考は、もう自嘲から脱却しきっていた。倒れてしまったのは大変だが、ここからどうリカバリしていくかを考えていかなくては。少なくとも3日は安静だろうか、本番直前の3日は大きい……どこかで取り戻せるか。
そんな事を考えていると、先程から全く口を開かないひまりの様子が気になった。
「ひまり?」
「え……あぁ、ごめん、どうしたの?」
「いやいや、君の方こそどうしたんだよ」
「えと、ちょっと考え事……えへへ」
「ならいいんだけど。そういえば、蘭とモカは?」
「先にスタジオに行ってたらしくて、そこで待機してるみたいだよ」
「なるほどな、じゃあ巴とひまりはそっちに向かって先に練習しておきなよ」
「えっ……?」
「心配で落ち着かないのはわかるけど、本番も近いんだ、ちょっとだけでも練習してた方がいい」
何度も重ねるようだが、本番は近い。
つぐみには申し訳ないが、僅かでも練習の時間を削る程の余裕は、『Afterglow』にはない。
故に俺は、彼女達にとっての最善を提案した。
「……わかった。陽奈は?」
「俺は少しつぐみの所に顔を出したいんだけど……面会は出来そうなのか?」
「うん。もう意識は戻ってるみたいだよ?」
「なら良かった。つぐみは俺に任せてよ。君達は、自分のやるべきことを、ね?」
俺の言葉に巴は頷く……が、ひまりは何やら不服といった様子で俺の方を見ている。
「……ひまり?」
「珍しいね。ハルちゃんがつぐを気にかけるなんて」
「えっ、いや、そうか?」
「そうだよ。ハルちゃん、つぐとの距離感を測りかねてたでしょ?少なくとも1人で面会に行こうなんて思う程つぐと仲良かったかなーって。何かあったの?」
「えーっと……」
鋭すぎませんか??幼馴染の勘、ってやつだろうか、まるでエスパーかのように俺の心境の変化を言い当てたひまりに、俺は内心激しく動揺する。確かに以前の俺ならば、つぐみの面会に1人で行こうなどとは考えなかったはずだ。1人で行っても、特に話す話題も無く気まずい空気が流れるだけだろうから。
「……まぁちょっとこの前練習に付き合ったんだよ、キーボードの」
「えっ?個人練?」
「うん」
「2人で?」
「う、うん」
「ふーん……」
質問を重ね、ふとそっと横へと視線を流したひまり。別に悪いことをしたわけではないのに、俺はどうにも居心地が悪くて咳払いをする。ややあって、ひまりは俺に向き直ると笑顔を浮かべた。
「なるほど!うんうん、良いことだと思うよ!」
「何の話だよ」
「何もない!じゃあ私達練習行ってくる!はら行こ、巴!」
「あ、おい待てよ、ひまり!」
足早に病院を去って行くひまりを、巴が慌てて追いかける。一体何だったんだ……?考えても答えは出ない。とにかく今はつぐみの所へと急ごう。
「すいません、えっと……はざ、わ、つぐみの面会をお願いしたいんですけど」
受付へと向かい、つぐみの名前を告げようとして、俺は彼女の名字すら満足に覚えていなかったことに気づく。内心驚きながらも、面会証を受け取り、教えられたつぐみのいる階へと向かう。
ゆっくりと上昇を続けるエレベーターに乗りながら、俺は1人考える。
ひまりの言った通り、俺はつぐみとの距離を測りかねていた。だが、それはつぐみに限ったことじゃない。ひまり以外の4人……巴はその中でも頭一つ抜けているが、彼女達は果たして俺の中の何なのか、3年に渡る付き合いの中でも未だに把握できていない。彼女達を、友達と呼んでいいものか。そしてそれを、彼女達は望むのか。
そもそもとして、俺には友達を作ることに抵抗がある。
小中学校に渡るからかいの中で、俺に友達と呼べる人物は限られたものになっていた。少なくとも、俺を名前でからかってくるような奴等を、俺には友達だとは思えなくて。そんな思いは、俺の“友達”という概念のハードルを跳ね上げていた。だから『Afterglow』の皆も、“
彼女達が、今まで俺を馬鹿にしてきた様な奴等と同列だとは、微塵も感じてなどいない。ひまりの、大切な幼馴染の親友だ、疑う事などありえはしない。
しかし彼女達は、本当に俺と友達になる事を、望むのだろうか。
彼女達にとっても、俺の認識は“
巴とモカは、好意的に俺に接してくれている。普通に話しかけてくれて、軽い冗談で俺を笑わせてくれる。だがそんな好意を、俺は『ひまりの幼馴染だから気を遣ってくれているのではないか』と、考えてしまう時がある。その思いは、巴にすら未だに
だが蘭とつぐみ……特に蘭は、俺をどこか苦手にしている様な節が時折見られた。会話がないわけじゃない。寧ろ話す時は普通に話す。だがそれだけ。どこか間に壁を挟んだような接し方を、俺は2人と繰り返してきた。自分が万人に好かれる人間とは思っていない。寧ろ、2人の接し方の方が普通に思えるほど、俺は自分に自信などない。
でも──この前のつぐみは、違った。
俺なんかの話を、メモまで取って真面目に聞いてくれて。
俺の冗談に、拗ねたように怒って。
悩みが晴れた瞬間、楽しそうに笑って。
知らなかった。真面目な顔、少し拗ねた顔。楽しそうに笑う顔……つぐみの、色々な
久しい感覚だった。
──
つぐみに湧いたこの“情”に、名前はまだ付けられないけれど。
それでも俺の背中は、確かにその“情”に押されて、今彼女の元へと向かっている。
エレベーターが開き、再び俺は歩き始めた。数十秒も経たずに、俺は彼女の部屋へと辿り着く。
「……はぁ」
緊張している。卑屈なもう1人の俺が、心の中で躊躇させる。でも、それじゃあ何も変わらない、何も始まらない。意を決して、俺は戸を叩く。
「はーい」
返事を確認し、俺はドアノブへとその手を伸ばした。
あと1話投稿するかもしれないです。
新たに高評価をくださった、
チンx4パレードさん、本当にありがとうございます!
次回もよろしくお願いします!