夕暮れの君は、美しく輝いて   作:またたね

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セーフ!セーフ!!

ひまり誕生日記念連続三話投稿です。


望んだコトバ

 

 

13話 望んだコトバ

 

 

「あ、陽奈くん!来てくれたんだ!」

「よ。思ったより元気そうで良かった」

 

 部屋に入った俺を、笑顔でつぐみが迎えてくれた。倒れた時は意識を失っていたらしいが、こうして笑いかけてくれた所を見ると、幸いにも大事には至らなかったらしい。

 しかし彼女の右腕には点滴の針が刺さっており、顔色は普段よりも青ざめている。まだたまだ本調子には程遠いようだ。

 

「大丈夫か?つぐみ」

「うん、今は大分落ち着いてる……心配かけてごめんね?」

「おう、心配した。凄く心配した」

「うぅ……ごめんってば……」

「ははは、冗談だよ。心配したのは本当だけど」

 

 わざと心配した事を強調するとつぐみは露骨に泣き出しそうな顔をしてしまった。

 

「……反省、してるんだろ?」

「……うん」

「何がいけなかったのかも、わかってるな?」

「はい」

「じゃあ俺からは何も言わない。早く元気になりなよ。せっかく合法的に学校休めるんだ、今の内に羽伸ばして、たくさん寝るといい」

「……はい、ごめんなさい」

 

 不服そうな返事だが、今回のことで皆に迷惑をかけてしまった事を重々理解しているのだろう、反論はなかった。これで無理を重ねようものなら某ガンジーさんも素足で逃げ出すレベルで平和主義の俺も、本気でつぐみを叱りつけねばならない所だったよ。

 

 ……それに。

 

「……謝らなくちゃいけないのは、俺の方だよ」

「え?」

 

 そうだ。結果的に見れば、俺がつぐみにキーボードを教えた事は、つぐみの無理を助長する形になってしまった。教える時期を間違えた、と言う他ない。本番を間近に控えたこの時期に、つぐみに新しい事を教えて、無理をするなと言って聞くはずがなかった。

 

「俺は君に、キーボードを教えるべきじゃ──」

 

 

 

「──言わないでッ!!!」

 

 

「え……」

 

 突如大声を張り上げたつぐみが、俺の言葉を無理矢理遮った。

 

「違う、陽菜くんは何も悪くない……!悪いのは、全部私なの」

 

 首を大きく横になり、全身で俺の言葉を否定するつぐみ。その様子を俺は只々黙って見ることしか出来ない。

 

「本番が近づいて、勝手に焦って勝手に無理して……本当、馬鹿だよね、私」

 

 つぐみは笑う。

 しかしその笑顔は自身を嘲笑っているようにしか見えない。

 

「……でも、私は嬉しかったの」

「……!」

「陽奈くんが私に色々な事を教えてくれて。自分の世界が拡がっていくみたいで、嬉しかったの、楽しかったの……!

 

──陽奈くんとちゃんと“お友達”になれて、嬉しかったのッ!!」

 

「っ……!」

「だから陽菜くん、言わないで……“教えるべきじゃなかった”なんて、言わないで……っ、無かったことになんて、しないでっ……」

 

 零れ出した涙を、つぐみが左手で拭う。止まらない激情が、絞り出すような嗚咽に乗って俺の心に叩きつけられる。その様子から、俺は目をそらす事が出来なかった。

 

 “友達”。

 

 彼女は今、俺に向けてそう言ってくれた。

 俺がずっと恐れて……ずっと求めていたその言葉を。

 

 

 

 一緒に居て、楽しいような人間じゃない。

 

 

 

 こんな女っぽい名前をした捻くれた俺は、君達5人の間に割り込めるような大層な人間じゃない。

 

 それでも。

 

 君がこんな俺を認めてくれるなら、友達だと言ってくれるなら。

 

 俺は勇気を出しても──良いのだろうか。

 

 

 そして俺は、つぐみの右手に、そっと触れた。

 

「っ…陽菜くん……?」

「ごめんな。君がそんな風に考えてくれてたなんて知らなかった。俺で良ければ、また色々教えるし、練習にも付き合うよ。だからつぐみ。

 

──俺と友達になってくれないか?」

 

「……!」

 

 俺の言葉に驚いたように、目を見開いたつぐみ。気付けば、彼女の涙はもう止まっていた。それからしばらくしてつぐみは──。

 

「──ふふふ、あはは……!」

 

 大声を上げて、笑い始めた。

 

「な……!べ、別に笑わなくてもっ」

「ははは!だって、私はもうそのつもりだったのに、なんか恥ずかしいよ」

「うっ……ごめん」

 

 ジト目で俺を睨むように見つめるつぐみ。以前までのどこか遠慮した様子から、明らかに接し方が変わった。それは俺たちの関係性か、少しだけ変わった事を意味しているのだろう。

 

「あーあ、私は友達だと思ってたんだけどなー。残念だよ」

「う、うるせえよ……俺にも色々あるんだよ」

「ふふふ……じゃあ」

 

 

 そしてつぐみは笑う。

 

 それは先程の自嘲めいたものではなく、今まで見たこともないような、可愛らしい笑顔で。

 

 

 

「──いつかその“色々”も、私に教えてくれたら嬉しいな。

 

 

私達は、“友達”なんだから」

 

 

 

「……ああ、いつかちゃんと、君には話すよ」

「えへへ、やったぁ!」

 

 満足そうにガッツポーズをするつぐみ。

 俺はそんな“友達”の様子を、笑顔で見守っていた。

 

 

 

 

「じゃあ俺、そろそろ帰るよ」

「あ、ごめんね!長く引き止めちゃって」

 

 それからしばらく、つぐみと他愛ない話で打ち解けた。病室を訪れて30分と言ったところだろうか、えらく濃密な時間の様に感じた。

 

「気にしないで。とにかくつぐみはちゃんと休め。いいな?」

「もう!何回も言わなくてもわかってるってば!」

「何回も言ったのに聞かなかったのはドコのドイツだよ」

「うっ……す、すいませんでした」

「……休んだ分は俺も練習に付き合うから、とにかく今は本当に回復に専念してくれよ?」

「うん、今回のことで流石に反省したよ……」

「なら、いい。じゃあまたね。今度はひまり達と一緒にみんなで来るよ」

「うん!楽しみにしてるね!」

 

 笑顔で手を振るつぐみに会釈を返し、俺は病室を後にした。

 病院を出る道すがら、俺は病室での出来事について考える。今日起きた事は、俺にとっても、彼女にとってもきっといい事だったはずだ。つぐみの頑張りすぎ(オーバーワーク)に関しての心配は、解消されたと言っていい。

 

 残す懸念は──蘭の事のみ。

 

 だがこれに関しては、殊更俺が介入する事ではないだろう。

 

 これは彼女自身の問題で、関わりの薄い俺が何かしたところで、何かを変えられるとは到底思えない。“他人事”と言ってしまえば何処か冷たい様に聞こえるかもしれないが、事実この問題に関しては俺は本当に蚊帳の外だから。

 

 でも──つぐみとの会話を通して、俺は彼女達と友達になりたいという思いを自覚した。

 

 だからいつか蘭とも、しっかり話そう。

 蘭とも……キチンと“友達”になりたいから。

 

 そんな後ろ向きか前向きかよくわからないような思いを抱きながら、俺は帰路に着く。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな“いつか”が、直ぐ側に迫っている事に。

 

 

 

 

 俺はまだ、気づかない。

 

 

 

 





陽奈の『Afterglow』への思いを、再確認するキッカケになる、つぐみとのストーリーでした。こんな長丁場になる予定ではなかったのですが……蓋を開けてみれば全部で5話。必要な話だったとはいえ、作者自身もつぐみがヒロインかと錯覚しそうになるレベルでした。

新たに高評価をくださった、

わるわるさん、本当にありがとうございます!

皆さんがくださる定期的なお気に入りや感想、評価のおかげでここまで短いスパンで投稿することができています。本当に感謝の嵐です。

次回もよろしくお願いします!
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