お待たせしました。
17話 信じてる
「うぅ〜緊張する〜っ!!」
「ひーちゃん気を確かにー。わたしらの出番はもう少し先だよ?」
「だっ、だってえ〜……」
それから時は流れ、ついに今日は『ガルジャム』二次予選本番。控室は息苦しい熱気に包まれ、気を抜けば雰囲気に飲まれてしまいそうな程だ。それは彼女達『Afterglow』も例外ではなく、ひまりとつぐみは目に見えて緊張している。普段と何も変わらないように見えるのはモカだけで、巴も若干落ち着きなくスティックをクルクルと回しており、さらにはあの蘭も指先を軽く合わせて瞳を閉じ、ゆっくりと深呼吸をしている。
かくいう俺もただ冷静を装っているだけで、指先は胸にかけられた『関係者』用のネームプレートを弄んでいる。彼女達の気負いの影響を、俺自身がモロに受けてしまっていた。
今日は彼女達にとって運命の日。本選出場の件もそうだが、蘭の父にバンドとしての活動を認めて貰えるか。それも今日のライブの出来の如何に掛かっている。そう考えて仕舞えば、緊張するなという方が無理だ。文字通り、この二次予選には『Afterglow』の“命”が賭かっている。
かける言葉が見つからない。そんな中俺たちに口を開いたのは。
「みんなどーしたの。今日世界が終わるわけでもあるまいし」
「モカ……?」
「蘭。そんな怖い顔しないの。スマイルスマイルー。わたし達は、“いつも通り”でしょ?蘭がそれを疑ってどうするの。自信持って。蘭には、わたし達がついてる」
真顔なのかよくわからない顔で、モカは蘭にピースサインをしてみせる。それを見た蘭は、微かに表情を緩ませた。
「……何それ、全然わかんないし」
そう呟く蘭の声色に、喜びが混じっているのには、皆気づいている。
「……でもなんか、勇気でたよ。ありがと、モカ」
「いっつもそんな風に笑ってれば可愛いのにー」
「うるさい、一言余計っ」
「ほげぇっ」
ニヤけ面で茶化してきたモカの頬を、蘭がアイアンクローの要領で握っている。素っ頓狂な声を上げたモカの様子が面白くて、蘭以外の残りの皆が笑った。
「……わたし、今でもビビってる。こんなに震えてるのは今まで初めて。でもわたしの側には、“いつも通り”皆が居る。だから……大丈夫だよね?」
そこで言葉を止め、俺達に笑いかけてみせた蘭。しかしその表情から溢れる不安を隠しきれていない。らしくない。そう言ってしまうのは簡単だが、今回彼女を襲うプレッシャーは普段の比ではない。言うなれば、首筋に刃を突きつけられた状況で、普段通りに歌えるか、と言う話だ。動揺するなと言う方が無理がある。
「──だ、大丈夫だよっ!」
そんな空気の中、声を出したのはつぐみだった。
「つぐみ……」
「蘭ちゃんの言う通り、蘭ちゃんの後ろには私達がいるから……!
「っ……!」
これからも。
その言葉に、つぐみの思いの全てが込められていた。
「今日で終わりなんて、絶対にならない!私達は、これからもずっと一緒に居る!だからお願い、信じて蘭ちゃん。頼りないかもしれないけど、私達はずっと蘭ちゃんの背中を支えてあげるから……!」
つぐみが必死な様相で蘭に告げる。
その鬼気迫るような熱気に当てられた蘭は一瞬驚いた表情をした後、つぐみに優しく微笑みかけると一度だけ大きく深呼吸をした。
「……つぐみはスゴイよね」
そう言った蘭の表情からは、もう恐怖の色が抜けている。
「いっつもそう。私達が何かに迷ったとき、道を示してくれるのは、いつもつぐみだった……」
当のつぐみは、蘭の言葉にぽかんとして首を傾げている。
「……
信じてる。普段は気恥ずかしがって、蘭は決して口にする事はないだろうその言葉に、皆は驚きを隠せない。
だがその言葉は、皆の心を奮い立たせるには充分過ぎた。
「っしゃぁ!一丁やってやろうぜ!」
「なんだか急に楽しみになってきたよ!」
巴とひまりが笑う。それを見たモカとつぐみも、笑みを浮かべる。緊張と重圧に萎えかけていた心が、蘭の
「『Afterglow』の皆さん!準備をお願いします!」
その時、遂に彼女達の待機番が来た。
誘導に従って皆が部屋を去っていこうとする。その背中に、俺は一言だけ声をかけた。
「皆!頑張れよ!」
「おう!しっかり見てろよ陽奈!」
皆を代表して、巴が俺に言葉を返した。残りの皆が、後ろを振り返り俺に笑顔で手を振る。その中で、蘭だけはこちらを無言で一瞥し、何も言わずに再び部屋の外へと体を向け……やはり俺の方へと向き直すと、ツカツカと俺の方へ歩み寄って来た。
「ハル」
「な、なに」
「──ありがと」
「へ?」
「…………」
それだけ言うと彼女は俺の胸に拳を軽くぶつけた後、小走りで部屋の外へと出て行った。本当になんだったんだ……?
そんな疑念もそこそこに、俺は彼女達の演奏を聴くべく、ライブハウスのホールへと移動を始めた。
さて、ここで二次選考の軽い説明をしよう。
二次選考は文字通り、『ガルジャム』本戦への選考会ではあるものの、一般公開が行われている。流石に本戦程の集客は見込めないが(『ガルジャム』は幾千人もの人が集まる大規模なフェスだ)、マイナーなバンドやインディーズバンドに興味のあるロックオタクが約200人弱集まる。
人数だけ聞けば存外少なく感じるかもしれない。だが考えて見てほしい。CDデビューもしていないようなバンドの演奏を求めて、200人近くの人数が集まるという事実。そこに『ガルジャム』というイベントの規模や集客力、リスナーからの信用が如実に現れている。
そういうわけで、俺がホールに入るとそこは応援やコールの熱気で満ちていた。むわっとするような空気に若干顔をしかめつつ、俺は待ち人を探して辺りを見回す。すると最後列よりも更に数歩後ろ、熱気に参ってしまったかのような表情で壁に凭れ掛かるその人を見つけた。
「一心さん」
「あぁ、宮代くん。よく見つけてくれましたね」
「いえ。わかりやすいところに居て下さったのですぐに。ちゃんと水分補給してますか?」
「蘭からも家を出る前に言われましたが……正直舐めていましたね。まさかこれほどまでの熱気があるとは」
額を伝う汗を、一心さんがハンカチで拭いながら言う。人数の集まったライブハウスは、冗談抜きの極暑だ。入場の際にドリンクを渡されるが、それだけではまず足りない。体調が優れなければ確実に熱中症を起こす。しかしそれでも、バンド好きな人間たちは、その熱気を求めてハウスへと通うのだ。
そんな環境に慣れてはいないだろう一心さんに、俺は手に持っていたお茶を差し出した。
「本当は持ち込み禁止ですけど……飲んでください。関係者用のドリンクです」
「良いのですか?これは君の物では……」
「貴方に倒れられでもしたら、蘭に合わせる顔がないですよ。それに……ちゃんとアイツらの演奏を聴いてもらいたいので」
「そう、ですか……ではお言葉に甘えて」
未開封のそれを一心さんは受け取り、封を開けて一気に煽った。大概喉が渇いていたのだろう。一心さんが落ち着くのを待って、俺は改めて声をかけた。
「……もう直ぐですよ、蘭達」
「そうですか……様子はどうでした?」
「えらく緊張してましたよ。二次選考そのものにも、一心さんが自分達を認めてくれるかどうかにも」
俺のその言葉に、反応はなかった。一心さんはただ目の前のバンドの演奏を見ている。
「……俗っぽい」
「え?」
「私の“バンド”というものに対する印象です。それはこの場に立っている今尚、正直変わらない」
それはともすれば、この場にいる全ての人間を否定するような言葉。しかしこの人は、そんなことを言いたいわけじゃないはずだ。そう思った俺は、無言でその続きを促した。
「──だが、確かにそこには“熱”がある」
「熱……」
「今日この日に向けて、血の滲むような努力をしてきたことが、素人目に見てもわかります。その熱が心を震わせることも、また間違いのない事実です。現に私の心は、見ず知らずの少女達の歌に、確かに震えた」
淡々と告げられるその言葉は、きっと本心なのだろう。一心さんは尚も続ける。
「知りませんでした。歌が、こんなにも心に突き刺さるものだとは。蘭達も、そうであってほしい。これは私の……“願い”です。私は彼女達に、失望したくない。だが約束は約束だ、微塵でも彼女達に中途半端を感じれば……私は、君達を認める事は出来ません」
「……大丈夫ですよ、一心さん」
俺の言葉に、一心さんは初めて俺の方を向いた。そんな一心さんに、俺は心から笑い掛ける。
「──俺の“仲間達”は、最高ですから」
「……心配、しないのですね」
「してますよ、こう見えても。ただそれ以上に、俺はアイツらを……
「……フフ、君も短い期間で変わったものだ」
一心さんが、今日初めての笑顔を見せた。
そう、俺が君達にかける言葉は、ただ1つだけでいい。
──信じてる。
先程蘭が言ったように、俺も皆を信じている。
俺は本気の努力を重ねてきた君達を、誰よりも近くで見てきた。だから大丈夫。その努力は、決して君達を裏切りはしない。
一度だけ深く息を吐いて、俺は正面のステージを見据えた。
投稿遅れてしまい申し訳ありません……。
リアルが忙しすぎて週一投稿が限界になりそうです。
11月後半からは元のペースに戻していけると思いますので今暫くお待ちを……。
長くなりましたので、二分割させていただきました。
続きは明日投稿されます。
ところで皆さん、主人公の陽奈はどのような容姿をイメージされてますか?感想欄で教えていただければ幸いです。
作者に絵の才能があれば描き表したいのですが……無念です笑
新たに高評価をくださった、
ブラウン・ブラウンさん、本当にありがとうございます!
次回もよろしくお願いします!