新奏開幕です。
ひまりとイチャイチャしたい(血涙》
夏だから?
19話 夏だから?
「ハルちゃーん!」
「帰れ」
「まだ何も言ってないんだけど!?」
1学期が終わり、夏休みに入った7月中旬のある日の日中。例の如く俺の部屋を訪ねて来たひまりに見向きもせず、俺はPCのオンラインゲームに執心していた。本格的に始まった夏の陽気は、ただ外にいるだけで滅入ってしまう程。だから俺は極力外に出たくないのだ。夏場と冬場は基本的にインドア派な俺を、対照的なひまりが外に引き摺り出そうとするのは今年から始まったことじゃない。故に俺は彼女を拒む。ひまりの次の言葉が、容易に予想出来てしまうから。
「遊びにいk」
「いかない。以上。さようなら」
「なんで!?折角の夏休みだよ!?」
「君と過ごしてきた15年間、俺が一度でも夏休みだから外に遊びに行こうと君を誘ったことがあったか?いや、無い」
「1人反語!?どういうこと!?」
俺の言葉に一々大袈裟な反応を返すひまりに対して、律儀だなとか仰々しいなだとか、何処か他人行儀な感想を抱いている自分に気づく。それほどまでに、俺は今猛烈に外に出たくない。今プレイしているゲームのイベントが佳境を迎えている、という理由もあるが。
「要件が済んだら帰ってくれ。俺は今見ての通り忙しいんだよ」
「ただゲームしてるだけじゃん!ねーハルちゃーん、遊ぼうよぉ、ねぇってばーーー!」
耳元でぎゃんぎゃんと叫び続けるひまりをシカトして、俺はPCに齧り付き続ける。今は1日1時間限定の、経験値効率が良いゲリラの時間帯なんだ、これを逃すと次の日まで待たなくちゃいけない。ここでレベルをいくつかあげて、開催中のイベントを有利に周回できるようにしなければ。俺はそこまでガチガチのゲーマーでは無いが、このような経験は、ソーシャルゲームやオンラインゲームに触れたことある人間ならば誰もが経験したことのあることだろう。尤も、ゲームに無縁なひまりにこの思いを理解しろというのは酷な事なのだろうが。
やがて暫くして、ひまりは黙って後ろに数歩下がった。観念したか、そう油断していられたのは一瞬。
ひまりから、とんでもない爆弾が飛び出した。
「───わかった。じゃあ私、脱ぐから」
「………………は?」
咄嗟にマウスとキーボードから手を離し、俺は椅子の回転を生かして最速の振り返りを行う。すると俺の視界には、本当にサマーカーディガンのボタンに手をかけ、今まさにストリップせんとする幼馴染の姿が。
「お、おいひまり!?な、なにやって」
「ハルちゃんが遊んでくれないなら、私ここで脱ぐもん」
「支離滅裂だぞ!暑さで頭ヤられたか!?」
「私は至って正常だよっ!」
「正常な奴は異性の前で服脱いだりしないんだよ!!」
「じゃあ私と遊んでくれるの!?」
「話を聞けええええ!!!」
余りにも話が通じなさすぎて、俺は思わず頭を抱えた。その隙にもひまりはカーディガンを脱ぎ終え、遂にはTシャツすら脱ぎ捨てようとしている。マズイ。本当にこんな所で脱がれたら、色々と問題になる。
「わかった、わかった!行く!遊び行くから!」
──降伏だ。
これが計算された策なら、天晴れと言う他ない。俺の全ての選択肢を毟り取って行くようなその手腕。まぁひまりのことだから考えなしなのだろうが。
そんな俺の降伏宣言を受けたひまりの手が、半分程Tシャツをめくった所で止まっている。そこから健康的で柔らかそうな白い肌やヘソが視界に飛び込んできて、俺は思わず目を逸らした。
「……本当に?」
「あ、あぁ。本当だよ」
「二言はないね?」
「微塵もありません」
「やったー!ありがとう、ハルちゃん!お礼に脱ぐね!」
「なんでそうなるんだよこの露出狂がァ!!」
安堵したのも一瞬、再びTシャツを脱ぎ出したひまりを制止しようと椅子から飛び上がるも、もう遅い。そしてひまりの上半身から、遂にTシャツが剥がれた。先程よりも露出が増えて露わになったひまりの肌を見ぬ様、鋼の理性で目を閉じる。
「っ……!!」
「…………ハルちゃん?」
「何してんだ、早くTシャツ着直せよっ!」
「…………コレ、水着なんだけど」
「……………………はい?」
目ぇ開けるぞ、とひまりに確認をしてから、彼女を見る。
すると確かに下着にしては華美な装飾が施された彼女の姿が目に入った……いや、それでも十分すぎるほどに刺激的な格好な訳だが。ていうかいつの間に下も脱いだんだ。
気恥ずかしながらも、相手は幼馴染だと心に強く言い聞かせ、至って冷静に俺はひまりの水着姿を見る。冷静ったら冷静なのだ。
パステルピンクを下地に、水玉模様があしらわれているビキニタイプの水着。上は縁が半透明のレースがフリルのように飾り付けてあり、中心部に大きな茶色のリボンが付いている。下は腰回りとヘソの下あたりに、小さなリボンが施されてある。
シンプルだが、そのシンプルさがかえってひまりのスタイルの良さを際立てている。冷静に分析をしていると、自然とひまりの水着姿を見ることが出来るようになっていた。中1くらいまでは普通に見られたんだけどな……ひまりの異常な発育が始まってからはまともに直視するのが気恥ずかしくなったっけ。特に学校指定のスクール水着をひまりが着ようものなら、それはもう凶器なんてレベルじゃない、殺戮兵器だ。本人にその自覚がないことがまた恐ろしい。
そんなことを考えていると、ひまりは声を上げて笑い出した。
「ふふふふふふ、あははははは!ハルちゃんってばそんなに焦って面白ーい!ドキドキした?ねぇねぇ、ドキドキした?」
「……………………」
「ちょっと驚かせてあげようと思ったらこんなに驚いてくれるなんて!いやー、家から水着を着てきた甲斐があったよ!」
「………………………………………………」
「と、いうわけで!今日はハルちゃんとプールに行こうと思っ」
「………………………………………………………………」
「は、ハル、ちゃん?」
「……………………」
「も、もしかして怒っていらっしゃいますか……?」
「……………………」
「ご、ごめんなさいちょっとビックリさせて見たくて調子に乗りました待って待って無言でこっちに近寄ってきて何するつもりなの痛いほっぺはほっぺは痛いから抓らないでハルちゃんやめてごめんなさい許してくださいいたたたたたたたたたたたたたた!!」
▼
「うええ……暑いよハルちゃんっ」
「しばらくそのまま反省しやがれ」
俺の目の前には、このクソ暑い夏場に、俺の上下裏起毛のスウェットとフリースを着込んで、右頬を痛々しい赤色に染めたひまりが正座している。勿論冷房を切り窓を全開にして、蒸し暑い風が入り込むようにしている。俺をおちょくった罰だ。暑さに悶え苦しむがいい。
「うう、ちょっと揶揄っただけなのに……」
「まだ着込み足りないみたいだな」
「すいませんでしたっ!」
勢いの良い土下座を見せるひまり。普段と立場が逆だからなんとなく愉悦を感じる。
そしてそのままPCゲームに勤しむこと5分程。例のゲリラも終わったので俺はPCをシャットダウンして立ち上がり、手元に置いていた清涼飲料水をひまりに差し出す。それに気づいたひまりは、驚いたような声を上げた。
「えっ、これ」
「熱中症になられたりしたら困るからな。罰ゲーム終了だ、早く脱ぎなよ」
「ぷぷっ、さっきは着ろって言ったのにやっぱり脱がすんだね、ハルちゃんのえっち」
「やっぱ気が変わった一生それ着てろバカ」
「ごめんってばぁ!!」
どうやら仕置きが足りなかったらしい。ニヤニヤしながら俺を再び弄ろうとしてきたひまりに踵を返すと、ひまりが泣きながら俺の足に縋りついてきた。
「馬鹿なこと言ってないで、さっさとしなよ……プール、行くんだろ?」
「…………え?行ってくれるの……?」
「君が言い出したんじゃないか。それにほら……約束も、してしまったし」
自分で言いながらなんだか気恥ずかしくなってしまった俺は、思わずひまりから目を逸らした。嵌められたとはいえ一度約束してしまった手前、それを無碍にするのはなんとも後味悪い。だから俺は改めて自分から、プールに行くことを提案し直した。
……決して少し楽しみになってきたなんて。
そういうわけではない。断じてない。
「ううう、やったぁー!ハールちゃーん!」
「だからなんでいつもそう飛びついてくるんだよ……!」
今回は反応できた。立ち上がり俺に抱きつこうとしてきたひまりの顔を受け止める軌道で右手を伸ばし、寸前で止めることに成功した……が。
「うわっ!汗やばっ!!ベタべタじゃねぇか!」
「ええっ!?誰のせいだと思ってるの!?」
ぬるりとした不快な感触に、俺は反射的に手を離してしまった。俺の指摘に、ひまりが顔を真っ赤にして──元から暑さで紅潮していたが──反駁する。
「何でこの季節にそんなに着込んでんの?バカなの?」
「理不尽が過ぎるよ!!着させたのはハルちゃんでしょ!?」
「でもその原因を作ったのは?」
「うっ……私、です……って今ハルちゃんも私のこと目一杯揶揄ってるじゃん!!」
「おお、気づいたか。少しは賢くなったじゃないか」
「ばーかーにーすーるーなーーーー!!!」
必死な形相で腕をブンブンと振り回しながら喚いているひまりの様子がなんとも可愛……面白くて仕方がない。俺はそんな
「ごめんごめん、俺が悪かったよ。これでもうおしまいにしよう。いいね?」
「……………………うん」
極めて不服と言った様子だが、継戦の意思は感じられなかったので、これにて終戦。俺は改めてひまりに提案を持ちかけた。
「よし、じゃあプールだな。今から急いで準備するから少し──」
「あ、ちょっと待って!」
その前に〜、と口ずさみながら、ひまりはカバンから手帳を取り出して、あるページを俺に見せつけた……っていうかその前に早くスウェットとフリース脱げよ。見てる俺も暑苦しいわ。
「じゃじゃーん!これを一緒に作ろう!」
俺はそのページにドデカく書かれた表題に目を通す。そこには───。
「──“私とハルちゃんのやることリスト”?」
「そう!ここに私とハルちゃんの予定を書き込むんだよ!」
「……はい?」
非常に申し訳ないが、理解が追いついていない。予定を書き込むって、一体何のために?
「──今年の夏は、ハルちゃんといーっぱい遊びたいから、何をするか先に予定入れちゃおうと思って!やりたいことたくさんあるんだー、バーベキューでしょ、肝試しでしょ、スイカ割りでしょー…」
つらつらとやりたい事を述べていくひまりの言葉は、半分俺の耳には入ってこなかった。俺の胸にあるのは、嬉しいような鬱陶しいような複雑な感情。俺と遊ぶことを楽しみにしてくれている喜びと、俺なんかと遊んで何が楽しいんだという疑問。ひまりの好意を、素直に喜べない自分が本当に嫌でたまらない。
「……いいのか、俺で」
「えっ?何が?」
「ほら、『Afterglow』の皆とかもいるだろ」
「──何言ってるの?私はハルちゃんと行くのを楽しみにしてるんだよ!もちろん『Afterglow』のみんなとも遊ぶけど、それ以上に私はハルちゃんと遊びたいのっ!」
少し拗ねたように頬を膨らませてそう言った後、僅かに頬を染めたひまりが俺に笑いかける。
──いつもそうだ。
俺が喜ぶ事を言ってくれる彼女の言葉を鵜呑みにする事が出来ず、2度3度の確認を通して噛み砕いてからしか呑み込めない。その咀嚼の間に彼女がくれる無償の喜びは形を失い、俺の心に響く事は一度としてなかった。ひまりは純粋だ。そんな事、痛いほどわかっているのに、その優しさすらまともに直視できない自分の醜さを嫌いながらもどうすることも出来なくて。
そんな考えすぎる俺とは対照的に。
──彼女は
ただ俺と居たいからこうして俺の家に来て、俺を揶揄い、俺を遊びに誘う。そこに異性としての感情は無く、在るのはどこまでも続く幼馴染としての延長線だけ。
だから俺は認めない。
気を緩めれば一線を越えそうになるこの心の中の想いを──
何も考えなしに、いつも通りに俺に接しようとして来る君に、俺がどれだけの気を遣っていると思ってるんだ。君は俺に何も感じていないのに、俺だけが君に特別を求めるなんて、そんな惨めな思いはしたくないから。
そんな思いと裏腹に心に居座る。
『側に居たい』という真反対な自分の心。
矛盾塗れな自分の心を、嘲笑するしかない。
泥沼の花畑、豪雨の晴天、灼熱の凍土。相反し、真反対で意味不明、支離滅裂な自分の心。それでもそんな心はやはり、俺という歪んだ人間を形作る要素の一つだった。
きっと俺は、一生このまま生きていく。
醜く、愚かに、報われず。君と言う笑顔の美しい花を、側で眺めるだけで、俺と言う雑草は枯れ果てるのだろう。
──それでもいいと思った。
そう思わせるだけの魅力が、君には在るから。
それが許されるならば、それだけでいいと思ってしまうほど、俺は君に執心しているから。
「……わかったよ。じゃあそれ決めてから行く?」
「うん、そーしよ!ふふふ、楽しみだなぁ〜!」
にんまりとだらしなくニヤけるひまりの顔を見て、俺は思わず苦笑する。そして俺達は夏休みの予定について話し合いを始めた。
何処までも醜く歪んで、矛盾だらけな俺は。
やはり君の隣には、相応しくないと思う。
それでも君が俺を望んでくれるなら。
俺は君の優しさに、甘えてもいいのだろうか。
これはそんな歪んだ俺と君が綴った、とある夏のエピソード。
──俺達の関係を変える、切欠となった物語。
と、いうわけで新奏です。
陽奈とひまり、そしてAfterglowの夏休みの物語です。
シリアス気味な話は今回まで、残りはただただひまりと陽奈が遊ぶお話です!ひまりの可愛さを前面に押し出せていければと思います!
新しく高評価を下さった、
Felishiaさん、ナッティーさん
本当にありがとうございます!
次回もよろしくお願いします!