Afterglowとひまりの魅力を全力で伝えていければと思います。
2話 灰色を彩る
「じゃーん!見てこれ!新商品のチョコレートパフェ!こっちはメロン味のシュークリーム!そしてこっちが」
「待て、理解が追いついてない」
帰路に着いてからしばらく経ち、時刻は夜8時半過ぎ。
今俺の部屋には瞳を輝かせながらテーブル一面にコンビニスイーツを敷き詰めたひまりがいる。
先程パンパンに詰まったコンビニ袋を片手に我が家を
「なんでこんな時間に来た」
「え?だってコンビニに行ったら新商品があったから、ハルちゃんと食べたいなーって思って!」
「……こんな時間に出歩いたら危ないだろ」
「大丈夫だよ、コンビニもハルちゃんの家もすぐ近くだもん!」
純粋に俺に笑いかけるひまりに対して、俺が返すことが出来たのは何処か的外れな指摘。家もコンビニも近いことなんて、わかってるのに。手放しで喜びたくなるようなことを、素面で平然と言ってのけるこの幼馴染のそんな所が、俺はやはり苦手だった。
「ねぇねぇ、ハルちゃんはどれ食べる?」
「……俺はいいよ別に。好きだろ?コンビニスイーツの食べ比べ。昔から新商品には目がないもんな」
「えぇ!いくら私でも流石にこの量は食べきれ……ない、よ?多分……きっと」
「全部食べたいんじゃねぇか」
しどろもどろな返答の後、気まずそうにひまりは目を逸らしたかと思うと、急に勢いよく立ち上がった。
「違う、違うの!確かにこれは私が食べたいものを買い並べてるから私が全部食べ切れるって思われてもしょうがないことはわかってるけど久しぶりにハルちゃんとお話ししたいから二人で食べようと思って買って来たわけで決して私が全部食べてしまいたいとか思ってるわけじゃなくてでもチョコレートパフェの中はビターなのかミルクなのかとか考えてしまってるしメロン味のシュークリームは中のクリームの色もオレンジなのかなとか考えてしまっている自分がいるのも否定しないけどそれ以上に私はハルちゃんと一緒にスイーツを食べたいからこうして沢山買ってきたんだってことわかってほしいって言うかむしろそっちの方が楽しみだっていうか」
「わ、わかった、わかったから!俺これ食べるよ、エクレア、食べるから!」
「えっ、本当?」
慌てて早口で捲し立てるように顔を真っ赤にしながら反駁するひまりの様子をみて、なんだか可哀想に見えてしまった俺は机上に並んでいたものから適当にエクレアを毟り取り、ひまりの眼前に晒す。するとひまりは先ほどまでの動揺がまるで嘘かのように小動物のような瞳で俺の様子を伺った。
「食べるよ、君の思いはわかったし、折角俺のためにひまりが買ってきてくれたんだから」
「やったー!じゃあ私はこれとこれとこれ!」
「……結局殆ど自分で食べるんじゃねぇか」
俺の返答に嬉しそうに笑った後、ひまりは机上のスイーツの中のいくつかを素早く選んで手元へと引き寄せた。普段と何も変わらないその様子に、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「変わらないよな、ひまり。普段は別に大食いでもないのに、スイーツになると急に食い意地張るとことか」
「は、張ってないよ食い意地なんて!私はただスイーツに目がないだけなんだから!」
「それを世間一般で食い意地を張るって言うんだよ」
「むぅ〜〜!」
頬を朱に染めながら膨らませ、如何にも不服といった様子でひまりは俺を睨んでくる。申し訳ないがそんな顔をされても申し訳ない気持ちにはならないし、寧ろもっと弄ってやりたい気持ちが加速するばかりだ。
「ふんだ!ハルちゃんなんて知らない!」
「そうかそうか、じゃあ気をつけて帰れよ?」
「………………やだ」
「なんで?」
「ハルちゃんと……もっとお話ししたいもん」
「……そうかよ。ほら、早く食べよう?温くなっちゃうから」
「うん!いただきまーす!」
その素直な所が、苦手だけど、憎めない。
動揺しかけた心をいつものことだと理性で宥め、俺は尋常じゃない素早さでパフェを食べ始めたひまりを追うように、袋の封を開いた。
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「それでまたモカが私のことをからかってきたの!」
「はは……あの子もあんな雰囲気してからかい上手だからなぁ」
談笑に花を咲かせること、数十分。高校に入ってからの出来事や、ひまりのバンド内での出来事などを話していると、時間が経つのはあっという間だった。会話の割合は俺とひまりで2:8といったものだったが、それもいつものことなので気にしない。あれだけあったスイーツも、気づけば8割が空になってしまっている。もちろん、殆どはひまりが食べた。
「ね、ハルちゃん覚えてる?幼稚園の頃の──」
「あぁ、あれな。あの時は──」
そして話は、互いの昔話へとシフトしていく。
俺とひまりは、幼稚園の頃からの付き合いだ。親同士が友人で、一緒に遊ぶことは勿論、家族同士で旅行することだってあった。最早俺にとってのひまりは家族同然の存在であり、一緒にいることが当たり前のようにさえ感じていた。
しかし、小学校高学年にもなれば、同学年の女子と一緒にいる事に気まずさを感じ始める。ただでさえ“女みたいだ”とからかわれているのに、自分から女子に関わりに行くなんてことをしようと思えるはずもなかった。だから俺も少しずつひまりと距離を置き、普通のクラスの友達レベルにまで関わりを減らしていこうと画策していたのだが……
「ハルちゃーん!いっしょにかえろうよー!」
相手が悪すぎた。そう、コイツは純真無垢の権化こと、上原ひまり。男子の思春期特有の機微なんて繊細なモノに、気付くはずがない。“今までだってそうしてきたから、これからだってそうしていく”。当時のひまりからすれば──もしかすれば今のひまりでもそう思うかもしれない──俺の行動は極めて不自然に映っていただろう。
更にひまりは、同学年でも屈指の可愛さを誇る女子で、ファンも多かった。コイツが放課後俺を迎えに来る度に、俺が同じクラスの男子にどんな目を向けられていたか、是非とも同じ立場になったと思って想像していただきたい。不幸は重なるもので、ひまりのこの行動は、中学に入ってからも続いていく。俺のコンプレックスの一因を担っているのは、本人には言えないが間違いなく彼女の行動なのだ。
そんな彼女に俺が抱く感情は、一言では表せない。
ひまりは、良くも悪くも変わらない。
俺に対する接し方も、気持ちの向け方も、幼い頃から何一つ変わっていない。
ひまりが俺に抱く感情は、家族に対する情愛と何ら変わりないはずなのに、錯覚しそうになる。ひまりの俺への言葉が、態度が、接し方が、そうさせる。自分の感情に素直、そんなひまりだからこそその振る舞いに嘘や偽りがないことがわかるだけ、殊更。
──こんな俺なんかを、1人の男として好いてくれるはずがない
時折魔が差して込み上げてくる
──それでも君を、支えていきたい
そう思ってしまうことは、果たして許されないことだろうか
「──ちゃん、ハルちゃん!」
「え……あぁ、何?ひまり」
「もう、今の話聞いてた?」
「ごめんごめん、ちょっとぼーっとしちゃって」
大分考え込んでしまったようだ……ひまりの話が、途中で聞こえなくなってしまうほどに。
「大丈夫?どこか体調悪いの?」
「いや、本当に大丈夫だから」
「そっかぁ……それならいいんだけど」
これが俺の日常で、これからもずっと続いていくんだろうなと、俺はぼんやりと考える。夢もなければ未来も見えない、俺が歩んできた道も、これから歩んでいく道もきっと灰色なのだろう。
それでも君が、そんな灰色の日常を、笑顔で彩ってくれるなら
それ以上は、望まない
ただそれだけで、十分だから
突然頭を撫でた俺に、ひまりは一瞬不思議そうな顔をしたけれども、次の瞬間にはもう、屈託のない笑顔を俺に向けてみせた。
投稿初日で、まさかこんなにお気に入りと評価を頂けるとは思ってませんでした。
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穂乃果ちゃん推しさん、ヨルノテイオウさん
ありがとうございます、これからもよろしくお願いします。
それでは次回もよろしくお願いします。