夕暮れの君は、美しく輝いて   作:またたね

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ひまり×水着=???


そのままで

 

 

20話 そのままで

 

 

 それからひまりと家で暫く話し合い、俺たちは近くのプールへと向かった。まぁ近くとは言ってもバスと電車を駆使し、約50分弱の時間がかかるわけだが。俺達の近所ではプールといえばこの場所で、俺自身も夏場は毎年ここに通っていた。

 ひまりとの約束の元、半分不可抗力で来ることにになってしまった今回のプール。確かに外出は面倒くさかったが、プールなら吝かではない。水は冷たいから涼しいし、暑さを紛らわすことができるし。別段泳ぐことが得意というわけでもないが、俺は昔から毎年通うレベルで海やプールが好きだった。去年は夏期講習で行けなかったものの、約2年ぶりのプールに俺は年甲斐もなくワクワクしている。そんな思考を遮るように1つの声が響き渡った。

 

 

 

「───おまたせー!ハルちゃーん!」

 

 

 

 ……公共の場で俺の名前を叫ぶのをやめろと何度言えば。これに関してはもう諦めの域に達しているので、強く言及するのは数年前にやめてしまったものの、やはり嫌なものは嫌なのだ。

 溜息を吐き──ひまりと居ると本当に溜息が絶えない──声の主の方を振り返る。そこに居た幼馴染の姿を見て、俺の思考は働きを失った。

 

 日焼け跡など微塵も無い、白雪のような肌の殆どを日に晒し、満面の笑みで俺に手を振るひまり。

 発育の暴力と称するに相応しい、異性の視線を一身に集めてしまうような抜群のスタイル……出るべき所がしっかりと出て、締まるべき所はしっかりと締まっているその姿をカバーする布の面積は、余りにも小さ過ぎる。

 先程家で見たにもかかわらず、やはり目のやり場に困った俺はペタペタとサンダルを鳴らしながら駆け寄ってくる幼馴染を直視することができなかった。

 

「ごめんね、待たせちゃって」

「い、いや大丈夫……っていうか、ずっとその格好なわけ?」

「えっ?プールに水着以外何か着るの?」

「ほら、上に何か着るとか、そういうのは……」

「あー、私ああいうやつ濡れたら重くなっちゃうからあんまり好きじゃなくて。だから今日は持ってきてないかな……もしかしてハルちゃん、この水着嫌い?」

「へ?い、いやそんなことはないけど?」

「よかった!ハルちゃんこっち見てくれないから嫌いなのかと思ったよ!」

 

 それは君の身体のせいです、なんて口が裂けても言えない。あと無闇に屈むな。そのまま俺の顔を覗き込むから見えるんだよ、“谷”が。

 改めて、こんな絶世の美少女が幼馴染で、俺のことを好いてくれている──無論、異性としてではない──事実が信じられない。俺の一生分の幸運の内半分はコレに吸い取られているに違いない。周りの男性から熱心に注がれる妬みの視線を一身に浴びながら、俺はそんなことを考えていた。

 

「それじゃあ、いく?」

「うん!よーし、まずはあそこだ!付いてきてねハルちゃんっ!」

 

 意気揚々と駆け出したひまり。そんな刺激的な服装で走るなよ。本当に自分のスタイルに頓着がないな、ひまりは。ブツが揺れてることに対しても、それを周りがガン見してることも、きっと何も気にしてないのだろう。

 

 でも何故だろうか。周りがひまりに下心丸出しの目を向けていることに対して──無性に腹が立つ。

 

 少しだけ、いや、本当に少しだけだが。

 そんなモヤモヤをかき消すように、俺はひまりの背中を追うように駆け出した。

 

 

 

 

「やっぱりプールといえば焼きそばだよね!」

「……なんで?いや本当に、なんで??」

 

 合流して早々、ひまりが真っ先に向かったのはフードコート。焼きそばを2つ手に抱えて席へと歩く彼女は大変ご満悦の様子。一方の俺は照りつける日差しと、フードコートにごった返す人々の熱気に滅入ってしまっている。あぁ、早くプール入りたい……。

 

「だってハルちゃん、お腹空いてないの?」

「いや、空いてるけど。プール=焼きそばっておかしくないか?」

「全然おかしくないよ!水着を着て食べる焼きそばほど美味しいものって他にある?」

「多分数え切れないほどあると思うぞ」

「えぇー!?どうしてわかってくれないの!?」

「感性が斜めに振り切れ過ぎなんだよなぁ、ひまりは……」

 

 わんわん喚くひまりの姿に苦笑していると、丁度2人分空いていたカウンター席へと辿り着いた。

 

「あ、飲み物も買わなくちゃ!」

 

 着席してから2秒、勢いよく立ち上がったひまりは、俺に『コーラでいいよねハルちゃん!』と言い残すと、答えを聞かずに再び売店へと駆け出していってしまった。本当に落ち着きない奴だ、周囲も何事かと俺に視線を向けている。それに対して丁寧に目礼を返していくと、何かを察したようにその視線は霧散していった。

 

 数分後、鼻歌交じりの上機嫌なひまりが駆け足で戻ってくる。その両手には2人分のコーラが握られていた。

 

「はい、どーぞ!」

「ありがと。じゃあ食べよっか」

「うん!もうお腹ペコペコだよ!いただきまーす!」

「いただきます」

 

 湯気と共に立ち上る濃厚なソースの香りが、俺の空腹を刺激する。そして俺とひまりは焼きそばへと口をつけた……いや、ひまりのペースがやばい。俺が一口食べる間に三口食べてるよコイツ。そんなひまりに、ずっと疑問に思っていたことを口にした。

 

「……っていうか、今日他の皆は?」

「んぇ?ふぉかにぉみんぬぁふとぅえ?」

「口一杯に頬張りながら喋るな。ほら、蘭とかモカとか……『Afterglow』の皆だよ」

「んー!むぁふほぼむぇ!」

 

 ひまりの暗号、ふぉかにぉみんぬぁふとぅへ?(ほかのみんなって?)を無事に解読した俺は、改めてひまりに問いかけた。ちなみにその後はむぁふほぼむぇ(なるほどね)、だ。

 頬をこれでもかと言わんばかりにパンパンに膨らませたとっとこひま太郎は、長い時間をかけてもぐもぐと咀嚼を続け、数十秒かけて飲み込み終えるとコーラを一口含み、ようやっと俺の質問に答えた。

 

「……昨日一応全員誘ってみたんだけど、みんな用事があるみたいで誰も来られそうになかったんだよねー」

「へぇ、珍しいな。全員用事があるなんて」

「うん。まぁ私の目的はハルちゃんとプールに行くことだったから大丈夫なんだけどね!」

「……そうかよ」

 

 ……毎度毎度本当にコイツは。

 満面の笑みで焼きそばを食べ続けるひまりを横目に見ながら、俺も目の前の焼きそばに箸を伸ばした。

 

 

 

 

「っしゃあ!何から行こうかハルちゃん!」

「……元気だな」

「ハルちゃんのテンションが低いんだよっ!」

「俺のテンションは多分君に吸い取られてるんだ」

 

 焼きそばを食べ終え、空腹を満たして上機嫌なひまりはテンションが高い。そんなひまりとは対照的に俺はもう暑さで思考回路が死にかけている。

 

「……ひまりどこいくか決めていいよ。今ちょっと頭回んない」

「えっ、大丈夫?」

「うん。多分水に入ればなんとかなる」

「ハルちゃん河童か何かなの?」

「はぁ?ふざけんなキュウリ死ぬほど食わすぞ」

「自覚あるんじゃん!!」

 

 俺の会心のボケツッコミに、ひまりは笑う。そんな会話もそこそこに、彼女は目の前の案内板に目を通していった。

 

「うーん……本当にどこでもいいの?」

「ああ。ひまりが行きたいところで良いよ」

「じゃあこれにしよう!『アルティメットビックバンアトミックギャラクシードラゴニックトルネードウォータースライダー』!」

「ちょっと待て何だその二郎系ラーメンみたいな全部載せのスライダー」

 

 かの有名なアブラナシヤサイカラメマシニンニクスクナメを彷彿とさせるようなカタカナの羅列。小学生より壊滅的なネーミングセンスだなオイ。しかもそれに最初に乗りたがるひまりも大概頭が壊滅的だな?

 

「ええと……多分あれじゃないかな?」

「……………………は?」

 

 ひまりが指差したのは、俺の背後。その指が示すままに後ろを振り向くと、そこには山があった。一瞬ひまりの言ったことを理解しかねるも、すぐに気付く。彼女の指先──山の中腹に存在する、まるでジェットコースターの如き猛烈な捻りや激しいアップダウンを兼ね備えた……文字通りバケモノののようなスライダーに。

 

「……なん、だ、あれ」

 

 俺が最後にここを訪れた2年前には、間違いなくあんなものは存在しなかった。高さは目測で約20m程だろうか。そして耳を澄ませば微かに聞こえる悲鳴。視覚・聴覚に訴えかけてくる恐怖に、俺は僅かに身震いする。

 

「……初っ端スライダーかぁ」

「ダメ、かな?」

「……いや、全然大丈夫。なんかゾクゾクしてきた」

「ハルちゃんビビりなのに絶叫系大好きだもんね〜」

「別にビビりじゃねぇよ」

「ビビりな河童……ぷぷぷ、自分が驚かす側なのに変なの〜!」

「………………」

「シカトは禁じ手だよハルちゃぁん!?」

 

 喚くひまりを他所に、俺は既に魔のスライダーヘと歩を進めていた。先に言っておくが、俺は残念ながらひまりの言うように、客観的にビビりと言われる部類の存在だ。が、しかしホラゲや恐怖系のアトラクションが大好物なのだ。怖いけど、辞められない……そんな感情を抱いている人間がいて何にが悪い。

 

 ツカツカと歩いている俺の後を、泣きそうな顔をしたひまりが走って追いかけてきた。

 

 

 

 

「はぁ、やっと着いたぁ〜」

「軽く登山だな、コレ」

 

 高度を稼ぐために、スタート地点は山の中に設けられていた。階段を歩く事5分程、ようやく待機場所に着いた俺達は、チケットを購入する。そこから更に待つこと10分、遂にスタート地点へと案内された。

 

「はい、ようこそ!お二人様ですか?」

「あ、はいそうです」

「かしこまりました、お一人様ずつと二人同時どちらになさいますか?」

「あ、二種類あるんですね」

「2人同時でお願いしまーす!」

 

 勝手に決めんなよ、という突っ込みを寸前で飲み込んだ。こういう類の事を訂正しようとすると、高確率でひまりは泣き出す。先出しされた時点で俺の選択肢など無いに等しい。俺は係員さんに向き直り、それで大丈夫です、と伝えた。

 

「二人同時ですね、かしこまりました!それではカップル用のソリをお持ちいたしますので少々お待ちくださいね!」

「へー、ソリに乗って滑るのか……カップル?」

 

 看過できない点があったので訂正しようとするも、もうそこに係員さんはいない。ひまりはどうなのだろうと様子を伺うもまるで気にしていない。本当に、無頓着な奴だ……俺みたいな奴の彼女扱いされてるのに。俺の方がひまりに申し訳ない。

 

「お待たせいたしました!」

 

 しばらくして戻ってきた係員さんは、その手に青色の小さなソリを持っていた。形状は縦長な長方形で、材質はプラスチックではなく、どうやらビート版のような素材でできている模様。そしてその先端に持ち手のような紐がくくりつけられていた。これに2人で乗るのだろうか……?

 係員さんはスタート地点にソリをセットして、改めて俺たちに笑いかけた。

 

 

「それじゃあ、彼氏さんが後ろから紐を持ってあげてくださーい!」

「えっ……!?」

 

 もう彼氏を訂正するのも面倒くさい、そんなことよりも、後ろから紐を持つ……?つまり、俺の前にひまりが座る?この狭いソリの上で?

 

 想像して欲しい。

 

 横幅30cm、縦幅60cm程の、ビート板のような素材でできたソリに、ひまりが前、俺が後ろで座る。その状態でひまりの後ろから手を回し、ソリの前面から伸びている紐を握る。

 

 つまり、ひまりと完全密着状態。

 後ろから抱きしめている形に近い。

 

 ──お分かり頂けるだろうか?

 

 相手は同性ですらなく、ましてや発育の暴力の化身、上原ひまりである。

 

 ──無理だ。色んな意味で。

 

 心が意識せずとも、体が意識する。ナニがとは言わないが。絶対に言わないが。

 

「……なぁ、ひまりが後ろに来ないか?」

「えっ?どうして?」

「ほ、ほら。スライダーって前の方が危ないからここは男の俺が危険な方を選ぼうと思ってだな」

「えー、でも私前の方が良」

「前は危ないですよねェ、係員さァんッ!?」

「は、はい!そうですね、前は最後水に叩きつけられる可能性があるので確かに危ないです!!」

 

 俺のあまりの剣幕に気圧された係員の女性が、ブンブンと首を縦に振りながら俺の言葉を肯定した。

 

「……な?だから俺が前に行くよひまり。いいね?」

「で、でも」

「い い ね ?」

「は、ハイっ」

 

 ……よし、これで後ろからひまりを抱きしめるという羞恥は避けられた。一先ずの危機を脱したことに俺は内心安堵の息を吐く。ひまりは不本意そうな顔をしているものの、必死な俺に何かを感じたのか、執拗に追求して来ることはなかった。

 

 しかしながら、数秒後俺はこの選択を激しく後悔することになる。

 

「よし、いいぞひまり」

「はーい。よいしょっと……」

「っ!?!?」

 

 ソリの前方に座った俺の後ろに、ひまりが着座する。その瞬間俺の背中に訪れた柔らかな感触。その時俺は、己の失策を悟った。

 

 

「それじゃあ、紐を握ってくださいね」

「わかりました!んー届かないなあ……えいっ」

「っ!?!?!??!?!!!?!?」

 

 紐に手が届かなかったひまりが、座る位置を僅かに前にズラした。この僅かが致命的であり、微かに触れていた柔らかな果実が、もはや明らかに俺の背中に当たって形を変えているのがわかるほどになった。

 

 

 ──こっちの方がアウトでは!?!?

 

 

 普段からひまりに抱きつかれて押し付けられることも多いが、今回は間に遮蔽物が無さすぎる。俺の背中とひまりの胸の間にあるのは水着という名の薄い布切れ一枚。こんなもの最早あってないようなモノで、感触がリアルに伝わって来る。後ろから漂う甘い匂いに、頭がクラつく。

 悲しいかな、一瞬で臨戦態勢に陥ってしまった我が聖剣(エクスカリバー)のポジションを刹那で整え、応急処置を行う。俺だって健全な男子高校生だ、幼馴染だといえど許してほしい。ひまりにバレていないか内心気が気じゃないものの、ここまできたら後には戻れない。覚悟を決め、俺も両手でソリの紐を握った。

 

「それではいってらっしゃーい!」

「え、なんか準備はいいですか的なやつはないんですk」

「えーい!」

「わーーーーーーーい!!」

「うおわあああああああああ!?」

 

 俺の質問に答えることなく、無情にも係員さんはひまりの背中を押す。抵抗の間もないまま、俺とひまりはスライダーへと一直線。ソリが着水した瞬間、殺人的な加速が俺たちを襲った。

 は、速いっ、速すぎる!!確かに水流の勢いは凄いがそれを加味しても絶対に水流に対して速度がおかしいッ!!ソリの紐を握りしめ、縦横無尽に振り回される身体をなんとか平行に保つように努めていると、俺はスライダーの下を流れている水の違和感に気づいた。

 真水にしては、不自然な(ぬめ)り。この滑りがこのスライダーの異常な加速の根幹を為している。その滑り、宛らローションのよう。そのローションが促す、スピン・ターン・スライド・ロール……全部載せは伊達じゃない、体内のあらゆる液体がシェイクされて、先程食べた焼きそばが一気に込み上げてくるような不快感が俺を襲う。

 

「わーい!いけいけーっ!」

 

 そんな不快感を感じていないのか、後ろでワイワイと燥ぐひまり。それを注意したいが、そんな余裕すらない。不幸なことにその水が、新たな二次災害を生み出していた。

 

 

 

 ──俺の背中で、ヌルヌルと(すべ)るのだ。スライダーの不規則な動きに振り回される、彼女の豊かな2つの果実が。

 

 

 

 落ち着かねぇえええええええええ!!

 もうスライダーどころの話ではない。速度による恐怖よりも、背中を襲う殺人的な柔らかさと弾力に抗うことの方が遥かに困難だった。

 更に良くないことに、ひまりはもう紐から手を離して俺の胴に腕を回している──即ち、俺は後ろからひまりに抱きつかれているのだ。ひまりからすれば、何気ないいつも通りのスキンシップ感覚なのだろう。だが今、この状況、この格好でそれをやられるのは、色々とマズイ。お、落ち着け……素数を数えて落ち着くんだ……2,3,5,7,11……。

 

「あ、ハルちゃんゴール見えてきたよ!」

「ゑ?」

 

 孤独な数字と戯れて平静を取り戻そうとしているうちに、スライダーの終わりが見えてきた。それを見た瞬間、俺は思わず笑みが溢れる。

 

「──冗談だろ……?」

 

 ──笑みは笑みでも苦笑いだが。

 俺が今視認しているスライダーの終わりは、若干の()()()で道が途切れている。普通の公園にあるようなすべり台が、登り坂で終わることが果たしてあるだろうか。一般的には、地面に平行になる形で終わるだろう。ではそれを登り坂にしたら果たしてどうなるのだろうか。ましてやそのすべり台を滑っている人間が──()()()()()()()()()()()()()()()()()()ならば、どうなるのだろうか。

 

「──飛ぶよー、ハルちゃんっ!」

「気づいてたんなら早く言えやあぁあああ!!」

 

 全力の抗議は既に手遅れ。俺達という弾丸は、速度相応の勢いを以って射出された。

 

「いやっほーーーー!!」

「おわぁぁあああああああああ!!!」

 

 楽しそうに叫ぶひまりと対照的な、情けない俺の悲鳴。実際には数秒だろう滞空時間は、まるで永遠のように思えた。そんな浮遊感が終わると、俺とひまりは思い切りプールに叩きつけられる。それは勢いよく着水しても大丈夫なように、存外深く作られていた。全身を押し出されるような浮力に従い、俺は水面へと浮上する。

 

「っぷはぁっ!!」

「はーたのしかったぁ!」

 

 すると既に浮上していたひまりの姿を見つけた。彼女は如何にも満足といった風に笑い声を上げていて。

 

「ねーねー、もっかい乗ろうよハルちゃん!」

「……悪い、パス」

「えー!?なんでなんで!?

「ちょっと、休憩……」

 

 休まねば、まずい。

 

 ──主にメンタル的な意味で。

 

 

 

 

「はー、たのしかったね!ハルちゃん!」

「…………そうだな、疲れたよ俺は」

 

 それから色々な場所を回る内に、気がつけば営業終了時間間際を迎えていた俺たちは急いで身支度をしませ、今は帰りのバス停へと向かって歩いている途中だった。日中燦燦と降り注いで居た太陽も傾き、青空には茜が差し始めている。

 

「今日は付き合ってくれてありがと。ごめんね、いきなり家に押し掛けて連れ出しちゃって」

「なんだ急に。今に始まった事じゃないだろ?」

「う……そう、だけど……っ」

 

 どうしたんだろう。急に歯切れ悪くなったな。

 

「……今日、割と無理やり外に連れ出しちゃったから、ハルちゃん嫌な思いしてないかなぁ、ってふと思ったの。もしハルちゃんが嫌だったんなら、今度からそういう事はしないようにしていく、つもり、です……」

 

 

 

 

 

「ふふふふ、あははは……」

「な、なんで笑うの!?」

 

 ひまりには申し訳ないが、可笑しくてたまらない。俺からすれば、本当に“何を今更”、なのだ。

 いつもそうだった。やると決めたらやる、何事にも一途な君は思い立てば即行動。脇目も振らず一目散に走り続け、ふと立ち止まって後ろを振り返った時。そこで初めて、“後悔”がきみに追いついて来る。そんな君に振り回された経験は、きっと桁が2つじゃ到底足りない。

 それを今更君が悔いているというのなら。

 反省し、変えていきたいと思っているのなら。

 

 

「……ひまり」

「っ、はい」

 

 俺の声色が変わったことに何かを感じたのだろうか、ひまりが立ち止まってぎゅっと目を瞑っている。

 

 

 俺はそんな彼女の頭を、一度だけ撫でた。

 

 

 

 

 

「──また、遊びに連れてってよ。楽しみにしてるからさ」

 

 

 

「……!」

「後悔なんて、しなくていいよ。少なくとも俺にだけは。俺の前だけでは、ありのままの君でいて欲しい」

 

 紛う事無き本心が、俺の口から零れ落ちた。確かに俺を振り回す君に、多大な迷惑をかけられてきた。幼い頃はそれが原因で何度も喧嘩したことがある。

 

 

 ──それでも俺は、君のそんな所に救われた。

 

 

 鬱屈な俺を縦横無尽に振り回す君の純粋さは、暗闇に溺れた俺の、ただ一つの確かな光だった。

 それは間違いなく、俺には無い、君の魅力の1つだから。

 俺がずっと側に居たいと願う、君という人間を形作る大切な物だから。

 

 

 

「──君はそのままでいいんだよ、ひまり」

 

 

 

 

 俺は君のそんな所が─────。

 

 

 そこから先の言の葉は、今はまだ形を成さない。

 

 

 

「……うん、うん!わーいハルちゃん大好きー!」

「だから飛びついてくんなって……うわっ、髪汗でビショビショじゃねぇか汚ねぇ!」

「どうしてそう何度もデリカシーのない事言うかなあ!?しかもこれ汗じゃないよ、プールで濡れてるだけだよっ!」

「ちゃんとタオルで拭けよバカ」

「それはごもっとも……ふふふっ」

 

 そんなやり取りが面白くて、俺達は2人で笑う。

 

 

 俺達の夏休みは、まだ始まったばかりだ。

 

 

 






宮代陽奈巨乳好き説。あると思います。

新たに高評価をくださった、

エル@EsiRさん、ぶたまん茶葉さん

本当にありがとうございました!そして以前目標に掲げていたお気に入り300件をこえ、400件に到達しました!高評価含め、モチベーションは上がりまくりです。これからもヒソヒソと頑張っていくので応援よろしくします!

それでは次回もよろしくお願いします!

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