夕暮れの君は、美しく輝いて   作:またたね

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メリークリスマス。

まだまだ続く夏祭り。




触れたくて

 

 

23話 触れたくて

 

 

 それから暫く俺達は出店を回り、大量の食べ物を買い漁った。焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、りんご飴、綿飴……正直6人でも食べきれるか怪しい量だが巴、モカ、ひまりが食べ切る気満々なので恐らく大丈夫だろう……大丈夫だと信じたい。

 

「ねぇねぇ!次は何食べよっか!」

「はぁ?まだ食べるのかよ」

「ひ、ひまりちゃんその辺にしとこうよ……」

 

 俺の指摘に同意するように、つぐみは引き攣った笑みを浮かべながらひまりを諌める。無理もない、それほどまでにひまり達が抱えている食べ物の量が凄いのだ。なんてったって、コイツらは律儀に()()()食べ物を買って回っている。つまり、1人一品は確約されているというわけなのだから。蘭なんかも口にはしていないものの露骨に顔を顰めて歩いている。

 

「まぁ確かに、これ以上は食いきれるか怪しいし、この辺にしとこーぜ」

「えぇー、まだまだ美味しいものたくさんあるのにーっ」

 

 そんな俺たちの様子を見かねて、巴が助け舟を出した。ひまりは頬を膨らませながらも多数が反対しているこの様子は本意ではないらしく、若干の不本意を表しつつもこれ以上の買い足しを諦めてくれたようだ。

 

「あ、ひーちゃんそれ持つよー。重いでしょ?」

「あぁ、アタシも持つぜ」

「へ?あぁ、ありがとう2人とも!」

 

 ひまりが抱えていた大量の食べ物を、モカと巴が受け取った。3人で分担、というわけではなく、2人がひまりから完全に持ち去った形となる。持つものが無くなったひまりがあたふたと2人に自分も持つと交渉している姿を尻目に、俺は正面に向き直りながら感慨に耽る。

 

 去年までは、ひまりと2人で回るだけだった夏祭り。それだけで充分楽しかったが、やはりみんなで回るのとはまた違った楽しさがある。俺自身が楽しさを感じるというのもあるが、それよりも。

 

 俺は再び、そっと後ろを振り返る。

 

 そこには心から楽しそうに笑う、幼馴染の姿。

 

 ──その笑顔が、たくさん見られるから。

 ひまりは、よく笑う。『Afterglow』の皆と一緒にいる時は殊更。

 

 ──その笑顔は、俺にとって唯1つの守りたいものだから。

 

 

「ハルちゃん!次はどこに行く?」

 

 そんなことを考えていれば、後ろから追いついてきたひまりに声をかけられる。

 

「んー、まぁとにかく大量に買い込んだ食い物食べる場所探すところからじゃないか?」

「確かに!立ちながら食べるには厳しい量だもんね!」

「……その量を買い込んだのは誰だよったく……」

「ん?何か言った?」

「何も言ってませんよ?」

 

 この話題を続けるのは色々めんどくさそうだった俺は早々に切り上げて後ろを振り返り……気づく。

 

 

 

「……あれ?」

「みんなは?」

 

 

 

 ふと振り返れば、皆の姿が消えていることに気づいた。この場には俺、ひまり、蘭しかいない。

 

「……なんか行きたいとこがあるみたい。わたしにそう言ってからどっかに行ったよ」

 

 俺とひまりの疑問に答えるように、蘭が呟く。

 

「ふーん……どこ行ったんだ?」

「わたしも聞いてない。すぐ走って行ったから見失っちゃった。戻ってくるときに連絡するとは言ってたけど」

「そっか、なら折角だし3人で回るか」

「花火までにみんな戻ってきたらいいねー」

 

 ひまりの呟きに、首肯を返す。こうして俺達3人だけでしばらくの間祭りを見て回ることが決定した。

 

 

 ──その後ろで蘭が頻りに携帯を扱っている様子が、俺には若干気がかりだったが。

 

 

 

▼▽▼

 

 

 

『計画通り、3人で回ることになったよ』

 

 

 蘭から届いたメッセージを見た巴は、ニヤリと口角を吊り上げた。

 

「っし、上手いこと事は運べてるみたいだな」

「ハルちん、本当に気づいてないのかねぇ〜」

「確信はないはずだぜ?そうならないように立ち回ったんだからな」

「でもなんだか2人に悪いことしちゃってる気分だね……」

 

 満足気な巴、やや不安気なモカ、申し訳なさそうなつぐみ。彼女達は陽菜達と接触せぬよう彼等とは真反対の方向へと、人混みに身を隠しながら歩いていた。

 

 4人の考えた計画とはこうだ。

 先ず、陽奈とひまりがどのような接し方をしているのかを確認する為、祭りの途中で会えて蘭以外の3人は2人から距離を置く。そして監視役の蘭が2人の様子をじっくりと観察し、2人の思いを見定める。計画というには余りにも稚拙なものだが、単純かつ明快なそれは現に確かな効果を見せていた。

 最初監視役は責任を取るとの宣言通り巴が担っていたのだが、途中で蘭が自ら立候補した。彼女は4人の中で唯一陽奈とひまりの関係性に思い至っておらず、またそれに疑念を抱いていた。そこで自分の目でそれを確認したい、そんな思いから巴に対して自分から立候補したのだった。

 

「さぁ蘭、上手くやってくれよ……?」

 

 孤軍奮闘する蘭に対し、巴は小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

「ハルちゃん!これ食べる?」

 

 

「あ!ハルちゃん射的だよ!あれ取ってー!」

 

 

「ハルちゃーん!ふふふ、呼んだだけー!」

 

 

 

 

 

 ──これ、もう付き合ってるんじゃないの?

 

 目の前で繰り広げられる余りにも甘々な光景に、蘭は内心で辟易しきっていた。以前までの蘭ならば『やっぱ仲良いなぁ』くらいにしか思わなかっただろうし、ましてや本当に付き合っているわけではないことは重々理解している。

 しかし“2人は互いに意識し合っているのではないか”というフィルターを掛け、改めて2人の接し方を見れば、どうして今まで気づかなかったのだろうと思わず溜息が溢れる。

 以前ファミレスで陽奈とひまりを除いた4人で話し合った際、蘭だけが2人の曖昧な関係性について気付いておらず、またその説明を受けても俄かには信じ難いことだった。故に自ら今回の“監視役”を買って出たわけだが、なるほど確かに皆の言うことは理に適っているのかもしれないと蘭は納得していた。

 

 

 ──少なくとも、ひまりに関しては。

 

 

 蘭はこうも思うのだ。『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』と。

 確かにひまりの方は、陽奈にくっついて回ったり、陽奈にワガママを言ったり、陽菜が喜ぶような事を、意識せずに言ったりしている。

 だが彼の方はどうだろう。楽しくなさそうな顔をしているわけじゃない、寧ろ笑顔も見受けられる。反面、時折影が差したように暗くなる表情が、そしてそれを隠すために必死で作る、どこか苦しそうな笑顔が蘭にはどうしても見過ごせなかった。ファミレスで巴が言っていた事───

 

 

 

──『やっぱり、()()()()()()()、陽奈が』──

 

 

 

 ──この言葉も、今なら腑に落ちる。今の陽奈の表情を見て、可哀想と感じることは極めて当然のように思えた。

 

 陽奈は心の底から、ひまりとの時間を楽しむことが出来ているのだろうか。

 お似合いだし、幸せになって欲しい。

 そんな思いも確かにある。だがそれ以上に、陽奈がひまりと結ばれることで、より苦しい思いをするのなら。それは果たして陽奈に、2人にとって本当に良いことなのだろうか。

 

 ──本当にハルを救いたいのなら。

 

 わたし達がするべき事は、2人を結びつける事じゃなくて、ハルの心の問題を解決してあげる事じゃないの───?

 

 

「……ん、蘭!」

「へっ?」

「へ、じゃねぇよ。返事してくれ。大丈夫か?」

 

 深く考え込んでいた蘭は、目の前まで接近していた陽奈の存在に気づくことが出来なかった。

 

「あっ、ごめん。ボーッとしてた」

「大丈夫か?さっき人多いって言ってたし……人酔いでもしたんじゃないか?」

「い、いや全然。大丈夫だから気にしないで」

 

 ぎこちない笑みを、蘭は陽奈へと返す。自分が発した何気ない一言さえ覚えていて気に掛けてくれるなんて。急速に熱を帯びていく頬を自覚した蘭は、手に持っていたペットボトルで冷やすようにそこへあてがった。

 

 ドクドクと走る自分の心音が、喧騒に満ちたこの空間の中でも嫌に鼓膜を震わせる。煩わしくも心地よい、そんな感情を抱えている自分のことが、蘭にはうまく理解できない。

 

「蘭、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。心配しないで、ひまり」

 

 蘭がそんなことを考えていると、ひまりが心底不安そうに彼女の顔を覗き込んだ。

 それはただ一心に蘭を思っている表情で、陽奈との会話を邪魔されたなんて邪な感情は一切混じっていない。その表情に、蘭は益々わからなくなる。ひまりの真意が──()()()()()()()()()()()()()()が。

 

 ──好きだから、付き合いたい。

 

 自分には縁のない感情だが、世間一般の女子高生の考えは、こういうものなのだろう。自分達の中でも一際女子高生らしいひまりなら尚更そういうふうに考えているのではないか。

 

 彼女は陽奈に、好意を抱いている。

 それは間違いないのだろう。

 だがその好意の正体は、わからない。

 

 そして彼はひまりにどんな感情を抱くのか。

 

 今の蘭では、そこまでしか辿り着けなかった。

 

 

「お、おい蘭。本当に大丈夫か……?」

「……うん」

「どう見ても大丈夫には見えないけど……」

 

 自分は今、どんな顔をしているのだろう。

 2人の反応を見る限り、少なくともまともな顔はしていないのだろう。

 

 ──悔しい。

 

 圧倒的に及ばない、大切な友人への理解。

 これまで他人のことを何もわかろうとしていなかった自分の態度を、嫌でも感じさせられる。

 

 こんなにも一緒にいるのに。

 

 こんなにも大切なのに。

 

 今の自分じゃ──2人は、陽奈は救えない。

 

 

 今でも思い出せる、自分の心に触れた彼の手の暖かさ。悩み、苦しみ、荒んでいた自分を救ってくれたのは、確かにその暖かさに違いなくて。だからこそ。

 

 

 ──彼の心に触れたい

 

 

 そう思うのは、間違ったことなのだろうか──

 

 

 

「…………うぅっ」

「蘭、おい、蘭ッ!」

「蘭!?しっかりして……!」

 

 気づけば蘭の膝は折れ、その場に崩れ落ちてしまった。外気、熱気、人酔い、知恵熱、過度の心へのストレス……様々な要因が積み重なった蘭は自分でも気付かぬうちに体調を崩してしまったようだ。

 陽奈とひまりが、驚愕を隠しきれぬ表情のまま蘭に駆け寄る。

 

「ごめ、ん……」

「謝らなくていい。ひまり、これ持ってくれ」

「え、う、うん!」

 

 陽奈が自分のポーチをひまりに預けると、崩折れた蘭の肩に腕を回し、自分を支えにして立ち上がらせた。

 

「ここで止まってたらかえって危ない。歩けそうか?」

「…………歩ける、よ」

「無理そうだな。ほら、乗れよ」

「えっ、でも」

「いいから。ひまり、俺はどっか蘭が座れるとこ探すから君は」

「うん、わかった。水分を買って、みんなを探してくるよ」

「頼んだ。何かあったらケータイに頼む」

 

 正に阿吽の呼吸。陽奈の言わんとすることを一瞬で察し、ひまりは2人から離れていった。

 その後ろ姿を見えなくなるまで見送った陽奈は、改めて蘭に言う。

 

「ほら」

「……多分重いけどごめん」

「何言ってんだお前」

 

 恥ずかしいしこんな男に負ぶわれるなんて、と言う思いは微塵も消えないが自分じゃ歩けないのも事実。観念した蘭は照れ隠しの的外れな謝罪を陽奈に告げ、ゆっくりと彼の首に手を回した。

 中性的な容姿と華奢な体──本人には死んでも言えないことだ──に反して、自分と比べてやや筋肉質な体。あぁ、やっぱり男子なんだなぁとぼんやりとした頭で蘭は考える。そして訪れる、ふわりとした浮遊感。陽奈におんぶをされていると言う事実に、蘭は益々頬を赤らめる。

 

「……っし、ベンチとか近くにないかな」

 

 そう呟いて、陽奈は歩き出す。

 

 

 かくして、6人は3人へ、3人は2人へ。

 

 

 

 ──夏祭り最大の、波乱が幕を開けた。

 

 

 





おや、蘭の様子が……?(B連打)
遅くなり申し訳ありません。
続きは半分ほど書きあがっているので2.3日以内には投稿します。

新たに高評価をくださった、

Miku39さん、ナウいゆうさん

ありがとうございます!
次回もよろしくお願いします!
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