夕暮れの君は、美しく輝いて   作:またたね

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新章開幕です。



第1奏─“いつも通り”の向こう側
2人の距離


 

7話 2人の距離

 

 

「ハルちゃーーーーん!!見て、これ!!」

「……休日の朝から元気だな、おはよ、ひまり」

「ハルちゃんがねぼすけなんだよ!おはよ!」

 

 元気の良すぎる爆弾が俺の部屋へと投下されたのは、土曜日の11:00(ヒトヒトマルマル)の事だった。無許可で部屋へと突撃してきたことには、最早触れない。前日は溜まっていたアニメの消化の為に朝方近くまで起きていたので、俺は見事にひまりに叩き起こされた。

 ひまりが俺の家に来た理由はわかっている。あの日の練習から月日は流れ、今日は『ガルジャム』の一次選考の結果発表日だ。

 『ガルジャム』は“girls band jam”の略称であり、文字通り全国のガールズバンドが集うイベントで、ガールズバンドの登竜門とも言われる。実際ここからメジャーになっていったガールズバンドも多く、より高みを目指すならば『ガルジャム』は避けては通れない道だ。

 

 そんな『ガルジャム』だが、今年から予選が一次と二次に分けられている。

 一次は動画審査。各バンドごとに一曲を専用のタグをつけて動画サイトに投稿し、そのURLを本部へとメールで送信するという形だ。ここから選ばれた30バンドが二次審査へと進出する。

 

 二次は実地審査。ここでようやく実際に審査員の前で演奏することになる。一次を突破したバンドから出場を勝ち取ることが出来るのは、僅かに12バンド。半数以上が出場を諦める事になる。一次の時点で、応募は数百に及ぶので、その中から厳選されたバンドでも、半分は苦汁を舐める事になるという事実に、実際に出場するわけでもない俺も驚いた。それ程までに狭き門なのだ、『ガルジャム』は。そしてその一次審査の結果発表が今日、というわけである。

 ……まぁ、部屋に入ってきたひまりの様子で、なんとなく結果の想像はつくが。

 

「で、結果はどうだったんだ?」

「じゃっじゃーん!『Afterglow』は、無事一次審査を突破しましたーー!!」

「おめでとう、良かったな」

「これもハルちゃんのおかげだよー!本当にありがとう!」

「痛てて……叩くな叩くな」

 

 喜びの行く先が、暴力となって俺に襲いかかってきた。両手をブンブンと振り回し、俺の肩をリズミカルに叩くひまり。興奮の余り力加減が上手くいっていない。戯れの域を遥かに超えて、普通に痛い。いや、痛いから本当に。マジで。

 興奮冷めやらぬといった様子のひまりの両手首を握りしめ、無理矢理殴打を止める。

 でもまぁ、この興奮も仕方のない事だろう。ひまり含め、彼女達は『ガルジャム』の舞台を目指してこれまで頑張ってきた。そのための第一歩が、今形となったのだ、興奮するなと言う方が酷だ。

 

「改めておめでとう。じゃあおやすみ」

「うん!おやすみなさい!……え?ちょっと!」

「わっ、何すんだよ」

 

 ひまりにお別れを告げて、布団に包まろうとしたのだが、無理矢理引き剥がされてしまった。

 

「まだ眠るつもりなの!?もうお昼だよ!?」

「今はまだ午前中、故にまだ朝だ。証明完了、Q.E.D。Are you OK(理解したか)?」

「するわけないでしょ!?もう!いいから起きてってばー!」

「やめろぉぉぉぉ、寝かせてくれえぇぇぇ」

 

 俺の足を持ってベッドから引き摺り下ろそうとするひまりに、俺はベッドの淵を掴んで全力で抵抗する。頼む、頼むからまだ寝かせてくれ。朝日が昇る時間に寝たんだ、まだまだ眠り足りない…。

 

「ハルちゃん約束したじゃん!私達が一次審査通ったら、私のお願い聞いてくれるって!」

「……したっけか、そんな約束」

「したよ!絶対!」

 

 ……しただろうか。

 記憶を掘り返してみるも思い当たることは……あ、そういえば。

 この前、夜『結果発表が緊張して眠れない』とひまりが家に押しかけてきたことがあったな。その時俺はもう既に眠りについていて、半覚醒の状態のまま寝ぼけてそんなニュアンスのことを言って追い返した……気がする。

 うーん、約束を守らないのは良くないけど、よりにもよって今日か……。

 

「……覚えてないな、そんなこと」

「…………“そんなこと”?」

「え」

 

 覚えてないふりをして誤魔化そうとした途端、長年に渡って磨かれた俺のひまりセンサーが警報を鳴らす。今の口調は、ヤバイ。何度も聞いてきたコレは、俺がひまりの心の地雷を思い切り踏み抜いた時のものだ。

 

「ふーん」

 

 現にひまりは目を細めて、睨むような視線を俺に向けている。冷や汗が額を伝い、心臓の鼓動が早まっていくのを感じた。

 

 

「ハルちゃんは、私との約束を無かったことにするんだ」

 

 

「い、いや、そんなつもりは」

「私との約束は、ハルちゃんにとって“そんなこと”程度のものだったんだね」

 

 

 ほ、本格的に不味い。なんとかしないと、ひまりが本気でキレる。そうなってしまったひまりがどうなるのかは、嫌という程経験してきた。

 た、対抗策、対抗策を!

 

「じょ、冗談だよ冗談!ほら、なんでも言ってみな?」

 

 ベッドから跳ね起き、ひまりの手を握りながら俺は全力でひまりの機嫌取りに走る。

 ひまりは一瞬驚いた顔をしていたものの、直ぐに先程の無愛想な表情に戻ってしまった。

 

「……無理しなくてもいいよ」

「大丈夫だって!無理なんてしてないから、な?な??」

「必死過ぎてバレバレだよ?ハルちゃん」

「うっ……」

 

 ジト目で俺を見つめるひまりに、何も言い返すことができない。しかし先程よりも、幾許か機嫌が良くなったように思える。

 

「はぁ……ごめんなさいは?」

「ごめんなさい」

 

 即答。恥も外聞もない。プライドの全てを捨て去り、三つ指をついて謝罪した。

 

「……まぁ、本気で謝ってるみたいだし、許してあげるよ」

「ほっ……」

「そのかわり!ちゃんと私のお願い聞いてね!」

「あ、当たり前じゃないか」

 

 機嫌を取り戻したひまりに安堵したのも一瞬、次はひまりの“お願い”とやらへの緊張が走る。いったいどんな理不尽をお願いされるんだ……?

 

「買い物」

「へ?」

 

 

 

「──買い物に行こう!ハルちゃん!」

 

 

 

 

 

 

「……ここって、楽器屋か」

「そうそう!ハルちゃんにもついてきてもらおうと思って!」

 

 あれから『支度してくる!15分後に戻ってくるから急いで準備してね!』と言い残し嵐のように去っていったひまり。遅れると次こそ取り返しがつかなくなる為、超特急で用意を済ませると、家の外にはもう既にひまりが待っていた。ベースを抱えてきたから何をするつもりなんだろうと思っていたが、成る程ここなら納得だ。

 

「ベースのメンテ?」

「うん!メンテナンスだけは欠かすなってハルちゃんの遺言、ちゃんと守ってるから」

「勝手に殺すな。生きとるわ」

 

 両手を合わせて空を拝み出したひまりの頭を軽く小突く。

 

「家でもメンテはしてるんだろ?どこか調子悪いのか?」

「んーん。家でも自分で出来る範囲はやってるんだけど、やっぱり本番前の願掛けも兼ねて一回専門家に診てもらおうかなーって……」

 

 そう言いながらひまりが、ケースからベースを取り出して俺に見せてきた。

 確かに本体には傷や埃1つ付いてない。ネックの反りや、弦の磨耗はしょうがないこととしても、この綺麗さはひまりが本当にこのベースを大切にしている証だった。

 

「……ちゃんと綺麗にしてるんだな」

「当たり前だよ!遺言通りにね!」

「だから死んでねぇって」

「あはは!でもハルちゃんホントにずっーーっと私に言ってたよねー。『手入れしないと、“音”が汚くなるからしっかりやれ』って。さすが“音フェチ”のハルちゃんだね!」

「音フェチ言うな。ん……?それ」

「あ、覚えてる?」

 

 ひまりのボケにツッコミを入れながらも、ひまりの指先が、何かを握っているのに気づいた。

 

「……まだ持ってたのかよ」

「当たり前じゃん!ハルちゃんが私にくれたピック!ボロボロだけど、御守りとしてずっと持ってるんだよ?」

 

 ひまりがベースを始めると決めた時、俺が彼女にあげたプレゼントが、ピック。指引きの方がゆくゆくは表現の幅が増えるということはわかっていたが、ひまりは女の子だ。指に怪我でもしたら……とかいう、今思えば過保護にも程がある感情の元渡したそれを、ひまりはえらく気に入ってくれていて。それを見た途端、俺は“あの日”のことを思い出していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

『ハルちゃんは、私がバンドするとしたら何をして欲しい?』

 

 

 

 中学2年のある日。ひまりが俺に問いかけてきた。何を言ってるんだコイツはと首を傾げたが、存外真面目に聞いているのが伝わったので、俺は。

 

 

『んー、バンドのことはわかんないけど、俺はベースが好きだよ』

 

 

 自分の好きな楽器を、ひまりへと伝えた。

 俺は数ある音の中で、ベースの音が群を抜いて好きだった。ベースの無い音楽は、途端に曲としての厚みを失う。厚みのない曲は、耳で聞いた時に迫力を失うのだ。

 ギター・キーボード・ドラム、そしてベース。曲を単純に2つの要素に分解した時、メロディとリズムに分けることが出来る。その中で、メロディを作るのがギター・キーボード・ベース。そしてリズムを作るのがドラムとベース。

 

 もうお分りいただけただろう。

 

 ベースが無ければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 メロディとリズムを、自身の重厚な音で支えるのがベース。しかし、決してベースはメインではない。CD音源では、特定のパートを除いてベースの音は意識しても聞こえるか聞こえないか、そのぐらいの音量で調節してある。それが俺のCD音源を嫌う理由でもあるのだが、その話はまたいずれ。

 

 

 だが、ベースは確かにそこに在る。

 

 例え聴衆が見ているのが、ボーカルやギターだったとしても。

 

 確かに曲を創っているのだ。

 

 

 そんなある種仕事人の様なベースが好きだったから、ひまりにもそんな感じのニュアンスで説明をしたのだが、一通り話を聞いた後。

 

 

『わかった!じゃあ私、ベース始めるよ!』

 

 

  即決でこんな事を言われた俺の気持ちが、わかるだろうか。ひまりが幼馴染とバンドを組むことにしたことは、この宣言の後に聞いたことである。それ自体は別段悪い事ではないと思うし、俺も心からそれを応援していた。問題はこの仕事人の様なベースを、ひまりに務めることができるのか、という点。

 

 

 

 ──断言しよう。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 

 ひまりがベースを始めると聞いて、俺はベースの猛勉強を始めた。ひまりが心配だったからというのと、力になってやりたかったから。ひまりが本気で頑張りたいなら、その手伝いをしてあげたいと思ったから。

 

 しかしそんな俺の支えなど必要としないほど、ひまりはベーシストとしての素質を持っていた。

 

 純粋で素直な性格は、四六時中ベースへとのめり込む熱意へと変わり。

 俺のピアノを真似する内に柔軟になった指は、複雑なフレットを抑える足掛かりに繋がり。

 周りを支えることのできる無意識のリーダーシップは、曲の屋台骨を担う、確かな音へと還元され……という風に。ひまりの持ち得る力の全てが、ベースの才能に転遷されていた。

 

 まさに、音楽の神に愛されているのだろう。彼女は、ベースを持つべくして手にしたんだなと、否が応でも思わされた。

 天才の域までは行かなくても、間違いなく非凡である。俺が好きなベースにここまで真剣になってくれるひまりのことを、嬉しく思う反面。

 

 その異常な才能に、俺は────。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「私がハルちゃんから初めてもらったコレ、2ヶ月くらいでダメにしちゃったんだよねー。あの頃はガチャガチャ適当に弾きまくってたからすぐこんなになっちゃったし」

 

 話し出したひまりは、俺と同じ様に昔を懐かしんでいたのだろう。適当に弾いてた、のレベルが素人のそれじゃなかったことには、触れないでおく。

 

「私がコレを変えたがらなくて、ずっと使おうとしてたのをハルちゃんが止めてくれたんだよね」

 

 ひまりが俺に笑顔を向ける。だが俺は今、どんな顔でひまりを見ているんだろう。

 

「それからもう数え切れないくらいピックダメにしちゃったけど、どうしてもこれだけは捨てられなくて……実は、今でもたまに使っちゃうんだ」

 

 えへへ、っとひまりが舌を出す。

 俺のあげたピックを、こんなにも大切にしてくれていることは嬉しい。だがそれを、素直に喜べない俺の心の卑屈さに、吐き気がする。

 

 “努力する天才”という言葉がある。

 ひまりは地でそれをいく存在だ。

 天才に追いつく為には、努力するしかない。努力すれば、天才に追いつける。そんな言葉は慰めだと、見せつけられる気持ちだった。

 そりゃそうだろう。天才に追いつくために必死で努力する凡才と、努力することが楽しくて仕方ない天才。才能に胡座をかくことなく、努力をする天才に、凡才“如き”の努力で、果たして敵うのか。その差が努力で埋まるなんて、そんなものは詭弁だ。

 

 

 ──じゃあ、凡才(オレ)はどうすればいい。

 

 壁にぶつかった時に、自分の支えになる努力すら否定されてしまうのなら。

 

 そんな存在を間近で見せつけられた俺は。

 

 

 

 

 何を理由にピアノを続けていけば良かったんだ

 

 

 

 恐かった。怖かったんだ。

 ただでさえ女っぽいと馬鹿にされ続けてきて、心が折れかけていたピアノという趣味が、ひまりの圧倒的センスを前にして、恐怖へと変わってしまった。

 ひまりが本気でピアノを始めて仕舞えば、きっとあっという間に俺なんか抜いてしまうだろう。だからこそ俺は、ピアノを……音楽を辞めてしまった。

 

「じゃあ私、これ出してくるね!」

 

 そう言ったひまりは、ベースを戻して受付へと歩いていった。その後ろ姿を見送りながら、俺は再び思案に耽る。

 

 わかってるさ。こんなの、ただの嫉妬だ。

 ひまりがピアノを弾いていたわけでもない。楽器の種類も違うのに俺はひまりの才能に勝手に嫉妬して、限界を感じて、そんな身勝手な感情で、ピアノを棄てた。それでも、そうさせてしまうほどの存在が、あまりにも身近過ぎて。そんな風にひまりを見てしまう自分が、本当に嫌で。

 

 そんな自分が、嫌いだ、嫌いだ、死ぬほど嫌いだ。

 

 ──でも。

 

 そんな音楽を捨てた俺が、未だに音感なんていうちっぽけなモノに縋ってまでひまりを、『Afterglow』を支えていきたいと思っているのは。

 

 

 ──それでもひまりと、一緒に居たい。

 

 

 ひまりと、離れたくない。

 そんな身勝手な感情が、俺を突き動かす。

 そうでもしないと、俺はひまりと居ることが出来ない、ひまりには触れられない。無償で側に居たいだなんて言えないほど、彼女は眩しすぎるから。

 

 だから俺は、支えよう。

 隣ではなく、後ろで。眩しすぎる君だから、俺にはそれが丁度いい。どうかそれだけは、許してほしい。

 

 

「お待たせ!1時間くらいで終わるんだって!」

 

 そんなことを考えていると、ひまりが戻ってきた。再確認した自分の歪んだ思いを心の隅に押しやって、俺はひまりに向き直った。

 

「そっか。これからどうする?」

「んー、ちょっと見て回りたいものがあるから、少しだけ時間もらっていい?」

「いいよ。それがひまりの“お願い”、だろ?」

「えへへっ、ありがとう!ごめんね、少し待ってて!」

 

 手の平を縦に立て、笑顔で感謝を告げたひまりは、二階へと上がっていった。そんなひまりを見送った後、俺は店内を歩き始めた。目的は、あるものを探すため。

 目当ての物はすぐ見つかり、悩むこと数分。ひまりが帰ってこないうちに、さっさと買ってしまわなければ。

 

「すいません、コレ、プレゼントでお願いしたいんですけど───」

 

 

 

 

 

 

「あー!楽しかったー!」

「満足したか?ひまり」

「うんうん!大満足!今日はありがとうハルちゃん」

 

 あれから楽器を受け取った後、暫く辺りを見回ってから帰路に着いた。テンションの高いひまりに付き合っていたが、気づけば夕刻を大幅に過ぎていたことに気づく。しかし夏が近づいたこの時期、空にはまだ沈みかけた夕日が浮かんでいる。

 

「よーし、ベースも万全になったし、『ガルジャム』に向けて練習頑張らなきゃ!」

「やり過ぎも程々にな」

「わかってるわかってる!ハルちゃんも、私の練習に付き合ってくれるよね?」

「ひまりの俺への態度と貢物次第だな」

「えぇっ!?無償じゃないのぉ!?」

「はは、冗談だよ。次の日学校に行けないくらい厳しく扱いてやるから」

「それも嫌だよ〜〜!」

 

 頭を抱えて悩んだように声を上げるひまり。その様子がやはり可愛らしくて、俺は思わず笑ってしまう。そして俺は、ずっとポケットに入れっぱなしだった“ソレ”に触れた。

 今日楽器屋で買ったコレ──タイミングを掴み損ねていたが、今の空気なら渡せる気がする。

 

「ひまり」

「ん?なーに?ハルちゃん」

「えっと……」

 

 ……何を緊張してるんだか。呼びかけた後ひまりと目があったことで、言葉が詰まってしまった。別に大したことをするわけじゃないんだから、ここはサクッと男らしく──。

 

「……コレ、やるよ」

 

 が、駄目。模範解答の、『はいコレ、プレゼント』からは程遠い、ぶっきらぼうにも程がある言葉とともに、俺はポケットからソレを取り出してひまりの掌に乗せた。

 

「えっ……私に?」

「私に」

「プレゼント?」

「プレゼント」

「ハルちゃんから?」

「俺から」

 

 今起きた出来事を、ひまりが少しずつ噛み砕いていく。そしてそれを完全に理解した時。

 

「えぇーーー!!嬉しい、ありがとう!なんで?なんで!?」

「……『ガルジャム』突破おめでとう記念。と、これから頑張れよっていう願掛け」

「わーー本当に嬉しいよ!開けてもいい?」

「どーぞ」

 

 ワクワクが止まらないといった様子で、ひまりが封を開ける。そして中に入ったソレを、ひまりが手に取った。

 

「……!これって……」

 

 

「──()()()。前に俺があげたやつ、もうボロボロだから捨てとけよ。こっちで我慢しろ」

 

 

「うわぁ、ありがとう!!よーし、大切にボロボロにするぞー!」

「おい待て、何だその矛盾」

「大切に使って、大切にボロボロにするんだよ!ちなみに最初のやつも捨てないで墓場まで持ってくから!」

「何だそりゃ……って、結局ボロボロにすんのな」

 

 苦笑と共に呟く。

 大切にするからこそ、ボロボロにするまで使い倒す。実にひまりらしい回答だった。

 

「ねぇ、ハルちゃん」

「ん?」

「……私のベースは、好き?」

「……!」

 

 少し不安げに、ひまりは俺へと問いかける。

 目を合わせず、俯き気味なひまりの態度が、その不安さを如実に伝えてくる。

 

 本当に、嘘が下手だな。

 

 最早、微笑ましいよ。そして俺は、彼女へ告げる。俺の抱える、ひまりのベースへの思いを。

 

 

「──あぁ、好きだ。君のベースが、俺は大好きだよ」

 

 

 ああ、そうさ。どれだけ歪んだ感情を抱えて居たとしても、俺はひまりのベースが大好きなんだ。君がこんなにベースを頑張ってくれてる姿を見るのが、俺にとっての幸せなんだ。

 ひまりが目を見開き、喜びを隠しきれないように表情が笑顔へと変わっていく。そして彼女は、満面の笑みで、俺へと言葉を返した。

 

 

「──私も!私も、ハルちゃんが私に教えてくれたベースのこと、大好き!」

 

 

 そう。君の言葉は、いつも俺を救ってくれる。

 

 悔しいけど、嬉しくて。

 苦しいけど、幸せだから。

 

 

 俺はこれからも、君を近くで見ていたいんだ。

 

 

 

 感極まって飛びついてきたひまりを振り払いながら、俺は空を見る。

 そこには、薄紫に染まり始めた茜空と、俺たちを照らす橙色の夕陽の2つの色があった。

 

 

 ──その色はまるで、俺の心の中のようだった。




こんなにも皆様に読まれていること、本当に驚いています。
これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします!

新たに高評価をくださった、

柊椰さん、パスタにしようさん、けいちょ→さん

ありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!
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