呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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1.5話

 綴が虎杖を任されて2日後、その日は2人共無性にイライラしていた。

 まず、綴が体術の型や呪力のコントロールについて何回言っても直らない虎杖に苛立ち、虎杖も虎杖で上手くできないことに焦り苛立っていた。

 それに加え、映画鑑賞にて虎杖は呪力が乱れると呪骸のツカモトに殴られ、綴は別に好きでもない、楽しみ方がわからない映画を(五条に言われて)強制的に一緒に見せられ、また苛立ちが増していく。

 

「だっから! なんでこんな基礎の基礎もできねぇんだよ!?」

「俺だってちゃんとやってんスよ!」

 

 しかも季節は初夏、蒸し暑い時期だ。

 最悪に最悪が掛け合わされてより大きな最悪が募っていく。

 

「ちゃんとやってんならできんだろ!?」

「なっ!?」

 

 虎杖は綴の指摘に心外だ、と答える。

 事実、虎杖は綴に言われた通り直そうとするのだが、それが上手くいかない。やろうとしないわけではなく、慣れない動きに身体がついてこないのだ。

 

「俺だって! 先輩に言われた通りにしなくても結構動けてるし!」

「そんで産まれたばっかの呪霊に殺されてんだろ? 動けてねぇじゃねぇかよ」

「じゃあ……っ!」

 

 この人は、アレに勝てたのだろうか?あの少年院で敵対した特級呪霊を思い浮かべて疑問をぶつけようとしたが、虎杖は喉の奥にそれをしまい込んだ。

 愚問だ。綴はあの特級呪霊に勝てている。

 こうして修行を付けてもらっていればよくわかる。どれだけ強くなったとしても、この人に勝つイメージが湧かない。

 

「おら、立てよ。また死んでも知らねぇぞ。

 呪力の操作もヘッタクソのくせしやがって、このド素人が」

 

 綴が虎杖の背中を蹴る。

 1発殴ってやらなければ気が済まない。

 そうおもった虎杖は足に力を込めて立ち上がる。綴はズボンのポケットに手を入れたまま虎杖と向き合っており、それを見て虎杖の苛立ちは増していく。

 この人は自分を舐めきっている。

 

 虎杖は今までで1番の力を足と拳に込めて綴に向かった。

 それを見て綴は僅かに目を見開いたが、直ぐに伸ばされた虎杖の腕の横に移動し、背中を向ける。虎杖の腕に綴の両腕が周り、綴の背中と両肘窩が虎杖の腕を挟むような形となった。

 そのまま綴が力も込める。ギリギリと嫌な感触がした時、綴がいったい何をしようとしているかを虎杖は察する。

 

「随分過激な修行してんね?」

 

 その時、綴と虎杖の頭を突然現れた五条が鷲掴みにした。

 

「ご、五条先生!?」

「………」

「とりあえず、綴は悠仁を離してやりな」

 

 綴は五条にそう言われると、虎杖の腕を解放する。

 腕にはまだ痛みが残っており、それをさすっていると綴の舌打ちが聞こえる。

 

「どこ行くの?」

「任務の時間だから」

 

 そう一言言うと、綴はすぐに部屋を出た。

 

「悠仁、骨折れてない?」

「なんとか……てか、マジでやろうとしてた?」

「マジで折ろうとしてたね」

 

 綴は虎杖の腕を折る気でいた。

 おそらく家入もいるからすぐに治るだろう、という考えでの行動なのだろうが、それにしたってそれはやりすぎだ。

 

「ど?」

「何が?」

 

 五条の質問の意図はよくわかっていたが、あえて質問で返す。

 何となく素直に答えるのが嫌だった。

 

「わかってるくせに。

 綴、きつい?」

「そりゃ……手加減無しに蹴るし殴るし…あの人褒めて伸ばすって知らないんすか?」

「うーん……綴はさ、優しいんだよね」

 

 矛盾していないだろうか?

 

「優し過ぎて、厳し過ぎるんだよ」

「どういう意味?」

「そのまんまの意味」

 

 虎杖の頭にハテナが浮かぶが、五条はそれを見て笑うだけだ。

 それに少々ムッとしてしまいつい顔に出てしまったようで、五条に指摘されてしまう。

 

「でも、綴のやり方が悪いのも確かだね。

 いくらなんでも悠仁に当たりが強すぎる」

「当たりが優しい相手いんの?」

「うーん…………………ま、それは置いておいて」

 

 つまりいないんじゃないか。

 虎杖がため息を吐いていると、五条は微笑んだ。

 

「綴には僕からも言っておくよ。

 でも、綴が悠仁のことちゃんと考えてくれてるのは本当だから。

 ただ……なんて言うのかな、悠仁は綴が今まで面倒見てきた子と色々勝手が違うから」

 

 それはいったいどういう意味なのだろう。

 

「綴はどちらかと言うと体の柔らかさやテクニックを使って戦ってるんだよね。

 小さい力で大きい力を制するって感じ。でも悠仁はそうじゃないよね?」

「つまり、俺の得意分野が甘菜先輩と違うから、俺はやりづらくなってるってこと?」

「そういうこと。綴は自分の体格に似通った恵とかしか教えてこなかったから、悠仁にどう教えればいいのかわからないんだよね。

 でも、綴の体術は呪術界きっての体術の名門、甘菜家のそれだから参考になるよ。学んでおいて損は無い」

 

 虎杖が綴の教えをすぐに飲み込めなかったのはそれが理由だ。

 戦闘のスタイルが綴と悠仁とでは全く異なっている。虎杖が剛だとすれば、綴は柔。

 そりゃ噛み合わないはずだわ。

 

「じやあ何で先生は先輩に俺の面倒見せてんの?」

「ん?」

 

 相変わらずニマニマと笑いながら五条はよくぞ聞いてくれました、と言わんばかりの表情をしている。

 

「僕はね、綴には僕と同じ教える立場の人間になって欲しいんだよ」

 

 優しい綴はなんだかんだで人の面倒を見てしまう。

 1度懐に入ってしまった人間には、できるだけ生きていて欲しい。だからこそ厳しく指導してしまう。

 

「でも、そうなったらいろんな子を見ることになるよね?

 自分のスタイルと似通った子が必ず教え子になるとは限らない」

 

 その時、教え方がわかりません。なんてことは通用しない。そうしている間に教え子が死んでしまうかもしれない。

 

「そうなる前に、綴には色んな経験を積んで欲しい」

「甘菜先輩が先生になるの嫌って言う可能性はないの?」

「あるだろうね〜。9割は言うね。

 僕も押し付ける気ないから絶対にやらないって言ったら諦めるけど………押せば折れてくれる気がする」

 

 何故そこまでして綴に教師になって欲しいのだろう?

 

「綴、今はちょっと本調子じゃないっぽいけど……実はめちゃくちゃ教えるの上手いんだよ」

「え?」

 

 想像ができない。

 虎杖は目を丸くさせるが、五条はくつくつと笑うだけだった。

 

 

 

 

 

 

 2日後の昼過ぎ、綴が帰ってきた。

 何も言わず、映画を見る虎杖の隣に座った。

 

「……………」

「……………」

 

 気まずい。

 虎杖は意を決して綴に話しかけた。

 

「あ、あのさ……」

「映画は……」

 

 言葉が被ってしまい、2人共また口を噤む。

 

「……………先輩から言っていいよ」

「手前こそ、なんかあったんだろ?」

「いや…………映画、嫌いなんすか?」

 

 虎杖の質問に、綴は眉をひそめた。

 気を悪くさせてしまっただろうか?焦った虎杖が膝に乗せていたツカモトが動き出し、虎杖を殴る。

 

「だぁ!? 忘れてた!!」

 

 虎杖が起き上がりながら叫んでいると、僅かに笑い声が聞こえてきた。

 綴が笑っていた。

 この人、こんな風に笑えるんだな、とぼんやり思っていると今度は綴から虎杖に話しかけてきた。

 

「別に嫌いじゃない、と思う」

「思う?」

「映画は……多分見たことがないから」

 

 随分と曖昧な言い方をする。それについては尋ねても返してくれ無さそうだ。雰囲気的にもあまり踏み込んで欲しくなさそうである。

 

「どう楽しめばいいのかわからない。

 この動きでこうはならない、銃何発乱射してんだ、敵とそんな簡単に手を組めるはずない、そんな内容ばっかりだ」

「うーん……そう……単純に見てたらいいんじゃない?」

「単純……?」

 

 テレビの画面から目を離さずに綴が尋ねる。

 

「ほら、今の主人公がヒロインを爆発から守ってるシーン」

「普通は全身火傷してる」

「えーと……でも、カッコイイじゃん?」

 

 綴はキョトンとテレビから目を離して虎杖を見つめる。

 

「この主人公はヒロインが好きなんだけど。守って全身火傷、じゃカッコつかないし……うーん……」

 

 難しい。

 映画の楽しみ方なぞ15年間生きてきて人に説明する機会なんてなかったのに。

 もっといい例えは出来ないかと考えていると、綴が先程よりも前のめりになってテレビを見ていた。

 

「……この後、この2人はどうなるんだ?」

「それは見てみないと。俺も初めて見るし」

「結ばれればいいのに」

「え?」

 

 聞き間違いだろうか?

 信じられないものを見るような目で今度は虎杖が綴を見つめる。

 

「好きな人に振り向いてもらうのは、案外難しいから」

 

 まるで実際に経験したことがあるかのような言い方をする。

 

「………じゃあ、一緒に見よう!」

「え?」

 

 虎杖はリモコンを操作し、また初めから映画を再生する。

 

「一応続き物っぽくてさ、今のが1であと3まである!」

「え、あ、あぁ……」

「あ! 俺、コーラ持ってくんね」

「こ、甲羅? 亀の?」

「飲み物に決まってんじゃん?」

「……この世には不思議な名前の飲み物があるんだな?」

 

 え?と虎杖は目をまん丸にさせた。

 

「まさか、コーラ知らない感じ?」

 

 恐る恐る虎杖が尋ねると綴はゆっくり頷いた。

 

 

「え、生き残るよな? ここまで来て死ぬとかないよな?」

「やめてよ! それ死亡フラグ!」

「ふらぐ? よくわからんが、俺の発言で死ぬ確率が上がったのか? なんかの呪言か?」

 

 結局2人はその映画シリーズを3まで見た。

 途中、相棒が死亡したりヒロインが人質にとられ主人公が絶体絶命に陥ったりしたが、結末は大団円。

 ラストは手に汗握るシーンが多数あり、ラスボスに主人公が勝った瞬間、綴と虎杖はガッシリと互いの手を掴みあった。

 

「先輩、映画見るの慣れてきてんね」

「最初は違和感こそあったが……なかなか面白かった、と思う」

 

 何となく喋り方も軟化しているような気がする。

 

「主人公、ヒロインに振り向いてもらえて良かったですね」

「………うん。

 けど相棒が死んだのは納得がいかない。主人公は諦めずに助けに向かうべきだった。あれだけの超人的な力があるんだから」

「先輩、相棒死んだ時めちゃくちゃ荒れてたよな」

「初めからいた登場人物だ。愛着も湧く、それに………」

 

 綴の表情が陰った。

 だが目を数秒閉じてから、綴はいつもの仏頂面に戻る。

 

「………そろそろ五条が来るな。虎杖、片付けるぞ」

「あ、ウッス」

 

 綴は菓子を入れていた皿を持って奥へと消える。

 その間に虎杖はゴミをゴミ箱に入れるためソファから立ち上がった。

 

「や、随分仲良くなったね?」

「うぉ!? な、なんだ五条先生か……」

 

 驚く虎杖を見ながら、2日前のことを五条は思い出す。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「聞いたよー? 綴ってば悠仁に厳し過ぎるんだって?」

 

 小さな墓の前で綴が線香をあげていた。

 

「ここで手を抜いたら絶対に弱くなる」

 

 ほら、やっぱり綴は優しい。

 虎杖をそう簡単に死なせないためにあえて厳しくしていた……のだが、厳しくなっている理由にはほかにもある。

 

「やっぱり、宿儺は憎い?」

「………わかってる。虎杖と宿儺が違う存在だってことは」

「そう?」

 

 それにしては、虎杖を見る目は冷た過ぎる気がする。

 

「綴、悠仁のことをもっとよく知るべきだよ」

「………どうやって?」

 

 今、おそらく綴は虎杖に嫌われているのだと思っている。

 だから余計に虎杖への態度は硬化してしまっている。

 

「映画、一緒に見れば?」

「映画は………」

「昔は呪怨見てピーピー言ってたよね?」

 

 五条の言葉に綴はしばらく考え込むが、どうやら覚えていないようだ。

 

「悪い、あの日までの記憶、結構曖昧なところあるから」

「ま、綴がちっこい時だったから、単純に忘れてるだけかもね」

 

 綴の頬をつつくと、鬱陶しそうに叩かれる。

 

「ま、いい機会だしゆっくり落ち着いて悠仁と話してみたら?」

「………わかった」

 

 一応仲良くしようとする気はあるようだ。

 良かったと胸をなでおろしていると、綴の寝息が聞こえてきた。

 上層部からの嫌がらせとも言えるような任務をこなした後なのだろう。それに加えて呪力を浸かって身体が疲弊しているようだ。

 きっとこの眠りも1時間もしないうちにすぐに覚める。

 熟睡できていないせいで、疲れやすい綴は更に疲れやすくなってしまっている。

 

「綴、悠仁を頼んだよ」

 

 多分綴と虎杖の相性は良いだろうから。

 

続編について

  • このまま続きで書く
  • 新しい小説として書く
  • そんなことより復讐劇の続き書けや
  • すじこ
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