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「あの、尾上先輩は……誕生日に何貰ったら嬉しいですか?」
「………へ?」
突然。尾上にとって可愛い後輩である綴に突然尋ねられた。
「えっと……珍しいね、綴君がそんなこと聞いてくるなんて。
五条先生……の誕生日はこの間したし……別の人?」
綴は大人の知り合いの方が多い。幼い頃から高専に入り浸っていた為、高専にいた当時の生徒や大人からよく構われるのだ。
今回もそうやってお世話になっている人に贈り物をするのかと尾上はぼんやりと思う。
「いや、あの…後輩、なんですけど」
尾上は目を丸くさせた。
「綴君、親しい後輩いたの!?」
「なんですかその顔は?
親しい、とは少し違います。ただ、五条にも祝う用意をしろと言われたんで……でも、何用意すればいいのか」
同年代の欲しいものなんて綴にはサッパリだ。だからといって適当にそこら辺の物を買って渡すのも、綴の道義に反する。
というわけで、そういうことに詳しそうな尾上に尋ねることにした。
「うーん……無難な所も良いけど…その子、どんな子?」
「どんな? あー……黒髪で、最後に見た時は俺より少し背が低くて……」
「外見的な意味じゃなくて!」
というか、その特徴は確か綴の好みのタイプでは?と綴が思いを寄せているのは自分のこととは梅雨知らず、かつて五条の口から語られた綴の好みのタイプを思い出し、そういうことかと頷いた。
「んー……辛気臭い顔してる、奴?」
「なるほど、ツンデレってやつね!」
「つ、つん? よく分からないんすけど?」
何か盛大に尾上が勘違いしているようだが、綴は気付かない。
「名前は?」
「伏黒恵」
「恵ちゃんね!」
いや、そいつ男だから「ちゃん」はちょっと……と言おうとした綴の言葉は外で起こった爆音によってかき消される。
2人が窓の外を見るが、その全容はわからない。
ただ、夜蛾がキレて五条にジャーマンスープレックスをしている、とかなんとかという慌ただしい声が廊下の方から聞こえてきたので、つまりそういうことなのだろう。
「五条先生、次はなにやらかしたのかな?」
「あー、なんか今朝妙に機嫌が良かったですけどね」
「あの人が機嫌いいと、その日誰かがイタズラの餌食になってる気がする」
さてと、と尾上は座っていた椅子から立ち上がる。
「任務、これから入ってる?」
「いえ、特には……」
「じゃあ、誕生日プレゼント、買いに行こ」
ニッコリ微笑みながらそう提案されてしまえば、綴は赤面して頷くことしかできなかった。
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それが伏黒の誕生日の1週間前の出来事であった。
12月22日当日、綴は頭を抱えていた。
「五条、これ伏黒に渡しといて」
「え?」
紙袋に入っているのは実用的に使えるハンドタオル等だった。尾上からはもっと可愛いのにしたら?と言われたが、普段使いできるようにシックな色の物にした。
「ハンドクリームも入ってる。これ小町チョイス?」
「手を(呪術師として)大事にして欲しいって言ったら選んでくれた」
圧倒的に言葉が足りなさ過ぎて尾上の勘違いが加速しているような気もするが、綴がこれでいいと言うのならいいのだろう。
伏黒も綴のことを尊敬しているので、文句も何も言わず受け取るはずだ。
「ところで、綴は小町に恵は男だって伝えたの?」
「?」
「あー、うん。なんでこのチョイスなのかわかったような気がする」
恵、と言う名前は一般的に女性に多い名前だ。それをそのまま伝えるとだいたいが女性だと勘違いするだろう。恐らく尾上はこれにより伏黒を女性だと勘違いしているのだ。
そして綴は名前に一切偏見など持たずにいるため、尾上が伏黒のことを女性だと勘違いしていることに気が付いていないという状況ができあかっていた。
「で、なんで僕に渡したの? 直接渡せばいいじゃん?」
「緊急で任務入った」
「……マジ?
一応空けとくように伊地知に言っといたんだけど」
「連絡くれたの伊地知さんじゃなかった。
明日には帰って来れるけど、今日は無理だから」
綴はそう言いながらテキパキと身支度を整える。
「何処?」
「……北海道」
「また遠い所に……頑張ってね!」
軽い調子で言われ、若干ムカついたがそれよりも北海道の天候などを考えて準備する方に思考をやる。
「でも恵が残念がるね」
「なんで伏黒が?」
伏黒は綴のことを尊敬している。その事を綴は知らないわけではないが、誕生日を祝われなかったくらいで残念だと伏黒が感じるとは思わえない。
「むしろ、俺みたいなのがいない方がいいだろ。
津美紀もいるんだし、俺は不快になるしあっちも不快に思うはずだ」
「そんな事ないと思うけどなー?」
綴は伏黒の義姉である津美紀が非呪術師であるため、苦手意識を抱いている。
五条に伏黒家へ誘われても行かないのはそんな津美紀がいるからだ。会わないことでお互い配慮しようとしている。
だが、津美紀は伏黒が綴を尊敬していることをよくわかっている。そのため、何度も五条に、弟が喜ぶから次は綴も一緒に、とよく声を掛けていた。
それが現実になったことは1度もないが。
「よし」
大き目のバックパックに1泊分の荷物を詰め込んだ綴はそれを背負って部屋を出る。
「いってきます」
「行ってらっしゃい。お土産は白い恋人がいいなー」
「………恋人は売ってないぞ?」
「……うん、まぁそういう返しになるよね。お菓子だよ、お菓子。美味しいやつ!」
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かくして、五条は綴を連れずに伏黒家へやってきた。
「はい、これ綴からのお土産」
「甘菜先輩から?」
伏黒にプレゼントを渡すと、少し表情が明るくなった気がする。
やはり無理矢理にでも連れてきた方が良かったかもしれない。例えその後1週間口をきいてくれなくなろうとも。
嬉しそうにプレゼントの包装紙を広げていくと、そこにはハンドクリームとタオルがあった。
「……なんでハンドクリーム?」
「ほら、綴って呪術師脳だから」
その一言で伏黒は理解した。
つまり、伏黒の武器ともいえる手を大事にしろ、ということなのだろう。
綴からプレゼントを貰えたことは嬉しい。嬉しいが何故ハンドクリームだったのだろうという困惑と、将来呪術師になることに懐疑的な伏黒は少々複雑な気持ちになる。
「珍しく悩んでたよ。
何あげたら良いんだろって。学校の先輩に相談したり、苦手な人混みが出来るような店に行ったり。ハンドタオルとか手触りが気に入らないって、2、3件お店梯子したそうだよ」
それを聞いた途端、スっと綴の好意が身に染みてきた。
「……先輩、いつ帰ってくるんですか?」
「明日には帰ってきてるよ」
綴は非呪術師が嫌いだということは伏黒は知っている。だからこの家に寄り付かないことも。
中学を卒業した途端顔も合わせることの無くなった綴は、今どうしているのか急に思い始めてしまう。
「帰ってきたら会ってあげてよ。多分照れて生返事しかしないと思うから」
「……わかりました」
綴が照れたところなど見たことが無い。だからそんな綴も少し見てみたいと言う気持ちになる。
「あ、そういえば綴の相談に乗ってた先輩さ、恵のこと女の子だと勘違いしてたよ」
「は」
「綴はそのことに気が付かなかったから、会話が絶妙に噛み合ってなくって聞いてて面白かった」
ゲラゲラと笑いながら五条が言う。
コンプレックスとも言える名前をネタにされた伏黒は拳を強く握る。
たとえ五条を殴ったとしても、無下限によって塞がれるのは目に見えてわかっている。ので、五条にとってかなり堪える方法をとることにした。
それは綴に言いつける、ということだ。絶対に次会った時に言ってやる。
続編について
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このまま続きで書く
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新しい小説として書く
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そんなことより復讐劇の続き書けや
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すじこ