「え? 綴先輩、誕生日3月20日なの?」
「意外だってのはよく言われる」
そう言っていると、虎杖の目が輝いているのに気が付いた。
「……んだよ?」
「俺も3月20日、一緒っすね!」
なるほどそれでこんなに嬉しそうなのか。
いや、なにもなるほどでは無い。何故こんなにもこの後輩は自分に対して尊敬の眼差しを向けて、尚且つ誕生日如きでここまでテンションを上げられるのか、ただただ訳が分からない。
「え、わかんない?」
「わからんな。たかが誕生日だろ?」
綴にとって、誕生日とはそこまで重要なことではない。
昔は確かに楽しかった記憶も持っている。
10歳も年の離れた幼馴染が2人もいたものだから、それはもうその日は盛大に祝われた。
もう、随分も前の話だ。記憶も薄くなってしまった。
「先輩さ、尊敬する人と同じ誕生日だったら、嬉しくない?」
「……まぁ、嬉しい、かな?」
もちろん思い浮かべたのは夏油だ。
夏油の誕生日は、2月3日。ふざけて五条が恵方巻を大量に購入してきた日を思い出したが、頭をぶんぶんと振ってその記憶を追い出す。
「俺は先輩のこと尊敬してるから、一緒の誕生日で嬉しい」
「……尊敬、ね?」
果たして自分はそう思われるのに足る人間なのだろうか?
本当は虎杖に気を遣われているだけなのでは?
「あ、先輩その顔信じてないでしょ?」
「気を遣わせたか?」
「なんでそうなんの!?」
ツンツンと綴をつつくと、綴は虎杖を叩いてからポツリと話し始める。
「……俺が尊敬できる人間じゃないことは、俺がよく知ってるからだよ」
何を根拠にそこまで信頼しているのかがわからない。
まだ出会って半年も経ってないような人間だ。
きっといつか失望するに決まってる。
先輩というのはもっと、素晴らしいものだ。
そう言ったが、虎杖の思いは変わらなかった。
「先輩さ、俺と初めて会った時覚えてる?」
「……あの時は、本当に悪かったな」
虎杖に当たりがキツく、ボッコボコにしていたことを思い出して目を逸らす。
「いやさ、あの時は俺、先輩にマジでムカついてさ」
暑かったしね!と虎杖は陽気だが、面と向かって昔の自分について言われて少しショックを受ける。
「でも、今はそれが俺の為だったってのが身に染みてよくわかる。
先輩の扱きがなかったら、ちょっと折れてたところもあるからさ。あの時よりはマシ!って感じでやってる」
「それ、褒めてるようで褒めてないんだよ、馬鹿」
そうは言いつつも、どこかうれしそうである。
綴にとっての先輩は、尾上だ。
その尾上と無理だとわかっていても同じような存在になりたかった。
「先輩は、優しいから」
優しい。
なんて言われる機会はほとんどない。
死んで欲しくないから厳しくすれば、だいたいの人間は自分に愛想を尽かして去っていく。
それを五条に指摘されたこともあったが、「まぁ、それも綴の良いところだしね」と言われて特に改善することは無かった。
「だからそんな先輩と同じ誕生日で、俺は嬉しい」
そうか、としか返事が返せなかった。それも、虎杖に届くか届かないかもわからない小さな声でだ。
「誕生日、生きてたら盛大に祝ってやるよ」
気持ちを切り替えて、綴は立ち上がる。
「え? 先輩はいいの?」
「なんで自分の誕生日を自分で祝わにゃなんねぇんだよ」
スタスタと歩いて行く綴を虎杖は追いかける。
「じゃあ、先輩の誕生日は俺が盛大に祝うよ!
伏黒も釘崎も呼んで、あと五条先生とナナミン、2年の先輩と……家入さんと……とにかく沢山呼ぼう」
そんで、一緒に誕生日を祝おう。
「…………虎杖、それは約束できない」
「え、なんで?」
「俺達は呪術師だからだ」
そう言ったきり、綴はこの話をやめてしまう。
いつ死ぬかわからない呪術師という存在である2人は、いつも死と隣り合わせだ。
宿儺の指だって、いつ全て取り込むかわからない。
だから、なのだろうか。綴が悲しそうなのは。
「それでも、絶対に祝うから」
綴に聞こえないように呟いた。
そうだ、その時は綴の好物のあの喫茶店のショートケーキを買いに行こう。来年には閉店してしまうみたいだが、事前に話しておけば、その日にきっとケーキを作っていてくれるはずだ。
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そう言えば、あの喫茶店はこの辺りだったような気がする。
荒廃した渋谷の真ん中で、虎杖は泣くのをグッと堪える。まだそうと決まったわけではない。だが、最悪が頭をよぎってしかたがない。
「悠仁、どうした?」
「……いや、何でもない」
虎杖は
「よし、行こう」
誕生日おめでとう、悠仁。
そう言えなかったことが、ちょっと悔しい。
照れたようにはにかむ彼がそこにいたような気がしてなりませんでした。
続編について
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このまま続きで書く
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新しい小説として書く
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そんなことより復讐劇の続き書けや
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すじこ