それが何か、知っているものはその場にいなかった。
本人でさえ自分自身の存在を理解しているかは謎だ。
そういう存在として産まれてしまったのだから、無理もないだろう。
それは、目的の場所に来ると辺りを見渡す。
戸惑う人間や呪霊などお構い無しに。ついに見渡すのをやめたそれは、目の前にいる少年に微笑みかけた。
彼がそれを呼んだのだ。
それはそう判断していた。
「綴、先輩……?」
やっと聞けた声に、それは満足したようでニンマリと微笑んだ。
「虎杖、いったいどういうことだ?」
「俺にもよく……でも、この顔は先輩の小さい時の……」
虎杖が東堂の問いかけに答えようとした時、それの後ろから真人が攻撃を仕掛けてくる。
「危ない!」
それに攻撃が当たると思った虎杖がそう言ったが間に合わず、それは真人に吹き飛ばされる。
だが真人は違和感を感じていた。
なんだ、これは?
そう思うと同時に、それが起き上がる。吹き飛ばした張本人である真人を指差しで地団駄を踏んでいるが僅かに「シーっ」という音が口から聞こえてくるだけだ。
どうやら人間達とは違う言語を確立しているらしい。
虎杖はそれを幼い頃の綴と同じ顔をしていると言った。
だがその呪力は全くの別物で、それが綴とは違う生き物であることを決定づけている。
それには真人の攻撃が全く効いていないようだった。
何より真人はそれに対して嫌悪のような気持ち悪さを覚えていた。
これは呪霊だ。
一目見れば誰にだってわかる。
「何なんだよ、これは?」
真人が呟くと、それが「シーっ」鳴きながら人差し指を向ける。
途端に視界が全て黒く塗りつぶされた。まるで水の中にいるような感覚、そして僅かに光を感じる。
「クスクスクス…」
至る所から聞こえる笑い声。
『ねぇ、あーそーぼー』
どこからか声が聞こえたと思ったのと当時に、真人は深い傷を負った。それと同時にあの空間からも開放される。
腹から溢れる血は止まることなくダラダラと流れるのを見て、真人は後ろへ後退する。
自身の考えがあっていれば、それはおそらくとんでもない呪霊だと感じ取ったからだ。
──こんな奴と、まともにやり合ってたまるか!
逃げる真人を見て、虎杖は追いかける。
「待て!」
虎杖と東堂、両者に大ダメージを負わせている真人だが、今の一撃で自身もかなりのダメージを負ってしまっている。
仕方がない。真人は持っていた筒を放り捨てた。
そのことに更に激昂した虎杖は心の中で「後で取りに戻ると」綴に謝り真人を猛追する。
虎杖と真人を見送ったそれは、大怪我を負う東堂に目を向ける。
「よく見ると、確かに綴の面影があるな」
その一言に首を傾げながら、それは東堂が左手を失った傷口に手を添える。
表情は悲しんでいるように見える。いや、ように、ではなく実際にそうなのだろう。
だが呪霊が人間にそこまで心を向けるか、と尋ねられたら首を横に振るだろう。
乙骨と共にいた祈本里香、という前例があるがそれはあの二人だからこその関係性だ。
初対面であるこの呪霊が、東堂に対して友好的に接する意味がわからない。
しかしそれが傷口に障らないように優しく触れているのを見て、東堂はフッと笑った。
「………そういう所も、綴に似ているんだな」
自身のライバルと認めた綴と重ねてはいけないと思っていながらも重ねてみてしまう。
同時に綴とは全く違う呪力でもう彼はいないのだと、会うこともできないのだということを実感してしまった。
「俺は大丈夫だ。
だから、
呪霊は戸惑う。
こんな大怪我をした人間を放っておくことができず、どうしようかと辺りを見渡すがこの場には2人以外誰もいない。
「俺のためを思うなら、あの呪霊から……綴が眠っている筒を、取り返してくれ」
それを聞いて、呪霊は微笑んで東堂の頭を撫でる。それから「任せろ」と言うかのように自信満々に両手でガッツポーズをして東堂のそばを離れる。
トテトテと走る後ろ姿を見て、己の左手を見ると止血されていた。
「あれは、いったい……?」
わかることは、あの呪霊が人間の味方であるということだけだ。
悪意などない、ただただ純粋で無垢で、何も知らない幼い子供のような呪霊。
どうして綴と同じ顔を持つのか、何故呪霊であるにもかかわらず人間に友好的なのか。そして、あれはいったい何から産まれた呪霊なのか。
それを今後虎杖達は知っていかなければならない。
────────────
その呪霊は、自身の名前を『
何故なら自分に助けを求めていた人間達がそう言っていたからだ。
白蜘蛛様は、人間の信仰や畏れ等を糧として成り立つ呪霊だ。白蜘蛛様を信じる人間達は、彼がしっかりと保護し、守っている。
ある一種の神という存在に近いが、その実態は呪霊だ。この白蜘蛛様を形作る残りの要素は、この渋谷に渦巻いた様々な呪霊や人間達の悪意や恐怖といった感情だ。それを与えて自身を強くさせている人間は守らなければならないし、何よりそうやって崇めてくる人間が大好きだ。
人間が大好きだからこそ、白蜘蛛様は人間の味方でいる。
白蜘蛛様を畏れ敬うからこそ、人間にそれ相応の恩恵を与える。
これが白蜘蛛様の呪霊としての在り方だ。
白蜘蛛様が大好きな人間が、願うことがあるならばそれを叶えてやりたいと思うのだ。
トテトテと走っているが、虎杖達にはいっこうに追いつける気配がしない。
いったいどこまで行ったんだろう、と白蜘蛛様が息を切らしていると、おそらく東堂が言っていた筒が落ちていた。
「!」
白蜘蛛様はそれを広いあげて誰に自慢するわけでもないが誇らしげに胸を張る。
流石自分、やっぱり自分は最高なのだ。更に自分に自信がついたところで、白蜘蛛様は意気揚々と虎杖の呪力を堂々と足を高くあげ、歩きながら辿る。両腕が塞がっていなければ、その腕を大きく振っていたことだろう。
走ったところで追いつけないのだから意味が無いと考えての行動だが、白蜘蛛様は今の渋谷の現状がイマイチ理解できていないのが大きいのかもしれない。
ただ「なんかめっちゃ人間死んでるたすけなきゃー」くらいの行動原理だ。
現状を把握することなど後回しでひたすらに走っていただけで、たまたま虎杖の呪力を感知したからその場に赴いた。
それ故に今の白蜘蛛様には緊張感、というものが全くと言っていいほどない。
「……!」
ようやくたどり着いた、と白蜘蛛様が壁からひょっこりと顔を出す。
こそには真人を追い詰める虎杖の姿が見えた。
そんな虎杖の真似をして、白蜘蛛様はシュッシュっとシャドーをして黒閃を出そうとするが上手くいかず首を傾げる。
「?…………??」
自分では黒閃が打てないということがわかるとショックを受けて膝から崩れ落ちる。
「そりゃ上手くいかんだろうな、お前はまだ呪いというものを理解しきれていない」
「!?」
気が付くと東堂が後ろにいた。
白蜘蛛様は東堂に安静にしろ、と言うかのように右腕を引っ張って寝かせようとするが、東堂はそれを制止する。
「お前の術である程度回復した。一体何をしたか、興味があるが……今はそんなことより虎杖だ。
筒も取り返してくれたようだしな」
それを聞いて、白蜘蛛様は今度は東堂に見せつけるかのように筒を両腕に抱いて胸を張る。
「アレはまだ使えるか?」
東堂に尋ねられるが、アレとは真人にした術式での攻撃のことだろう。
白蜘蛛様も自分の術式について完璧に解釈できていないためうまく扱えないが、どういう原理かはしっかりとわかっているつもりだ。
だから白蜘蛛様は首を横に振る。
アレにも色々と面倒な制約があるのだ。
「そうか……なら巻き込まれないよう筒を守っていてくれ。
その中には、俺や虎杖……他にも色んな人々の大切なものがはいっている」
白蜘蛛様は真剣な表情の東堂に頷き、虎杖達が見えるか見えないかの位置で観戦することにした。
続編について
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このまま続きで書く
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新しい小説として書く
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そんなことより復讐劇の続き書けや
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すじこ