呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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甘菜くんの兄弟が出てくるよ!しまった兄弟出したら名字表記したらややこしいやん!
てことで今回から甘菜くんの表記は名前の綴になります。


13話

 この交流戦が始まってから、東京校と京都校両者の教師が控え室に集まっていた。しかしここには招かれていない人物もやって来ていた。

 

「まさか、纜栄(らんえい)さんまで来るとは思ってなかったなー」

「なに、宿儺の器に興味があるからな。なぁ、(あや)

「そうですね、兄様。それに今回は七男の綴と九男の繚介(りょうすけ)も参加致しますしね」

 

 五条の問いかけに答えたのは、甘菜家当主・長男の甘菜纜栄。その後ろに控えているのは長女の綵だ。

 

「我らは宿儺の器に嫌悪は抱いておらんよ、そう警戒するな。彼を否定することは綴を否定することになる」

「相変わらず身内には甘いんですね」

 

 宿儺の器、虎杖を嫌悪していない、という割に目が笑っていないことに気が付いたがそれについては何も言わなかった。

 

 甘菜家、御三家には数えられることはないが、その実力は呪術界でもトップクラスを誇る。

 特徴的な家柄として、兄弟達のだいたいが直接的な血の繋がりはないということが挙げられる。甘菜の兄弟は様々な優秀な呪術師と子供を作り、その子供がある程度大きくなれば親元から引き剥がされ、当主の養子となる。養子となった子供達はそこから当主の座を争うのだ。

 ちなみに、今代の甘菜家の兄弟は男九人、女十一人の二十人兄弟だ。綴はその中で、下から三番目ではあるが実力は上から四番目と、かなり当主に近い。

 

「綴も繚介も、互いに話す機会は少なかったが、仲良くしてくれるとこの兄は安心する! 兄弟は仲が良いほうがいいならな!」

「はい、兄様。繚介にはよく言い聞かせてあります故、心配はいりませんよ」

 

 纜栄と綵は、一部では兄妹の垣根を越えてしまっているのではないかという噂がたつほど仲が良い。そのため、常に共に行動するという異常な兄弟愛を持ち、それを他の兄弟にも教え込んでいた。

 

「本当はそれだけじゃないくせに」

「何か?」

「綴がどれだけ当主争いに絡めるか、見に来たんでしょ?

 纜栄さんは直接綴と戦ったことないですもんねー」

 

 五条の問いに、纜栄は黙る。

 

「そうだな。当主争いは一番下の繚介が十三になったころから始まっているが、綴は全く興味が無いようでな」

「そりゃあ、綴は昔から纜栄さんのこと嫌いだもん」

 

 重苦しい沈黙がその場を支配する。義兄である纜栄と兄のような存在の五条、そして五条の親友であった夏油は昔から綴のことについて何かと彼と対立していた。

 

 甘菜家の人間は、血の繋がりが実兄弟より薄くても、甘菜の人間はそれを遥かに凌駕する繋がりを持っていると信じている。

 

「本当ならば、綴は京都校に入学するはずだったのだがな」

「それは綴があんた達から離れたかったからでしょ?」

「中学の頃にわざわざ京都から埼玉に綴が引越したのは、貴様の手引きか」

「あんなに綴から頼み込まれたらやるしかないじゃん」

 

 あの一帯だけ氷河期に突入している、と巻き込まれないように遠目から見ていた歌姫は遠い目をしていた。

 

 そもそも綴は無理矢理甘菜家に連れてこられたようなもので、そこまで兄弟達に何かを思うことは無かった。なのに過保護で過干渉な義兄弟達にある日嫌気が差して中学入学を気に埼玉に逃げた。それまでも何度も家出を繰り返し、気が付いたら夏油の膝の上で共に授業を受けていたことなんてよくあった。

 それでも家に連れ戻さなかったのは甘菜家の人間が兄弟に甘いからだ。せめて、と使用人は送り込まれていたが。

 

──それでも、綴は自由を欲していた。

 

 一生、甘菜家の兄弟達には理解されない綴の思いを五条は知っていた。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 手のひらから出ていた糸から、振動と呪力が伝わる。

 作戦通り綴は糸を張り、東京校のセンサーとしての役割をこなす。

 

「よし、だいたい張り終えたか。

 向こうで虎杖が東堂と交戦中か……」

 

 京都校への妨害は数が足りている。なら自分は呪霊に当たることにして走り出そうとするが、ある呪力を感じ取り、後ろを振り返る。

 

「………出てこいよ、いるのは分かってんだ」

「流石、綴兄様! 噂は兄様達や姉様達から常々聞いておりました!」

「……やっぱり手前かよ。始まる前から気色悪ぃ呪力垂れ流しやがって……」

「それは、綴兄様が兄弟の俺よりも他の者との交流を優先するからでしょう!?」

 

 甘菜繚介。京都校の一年生であり呪術師としての実力三級程度。正直綴よりはだいぶ弱い。

 深い深いため息を吐いて、綴は繚介の意識を刈り取ろうと拳を構える。それを見て、繚介はパッと嬉しそうな顔をして同じように構えた。

 

「まさか、綴兄様と手合わせができるなんて! 感激のあまり泣いてしまいそうです!」

「そんなに泣きたいなら綵さんのところへ行け。

 俺を手前達の兄弟ごっこに付き合わせるんじゃぁねェよ」

 

 繚介は綴の隙を見逃さず、拳を振るう。だが綴はそんなものを簡単に食らってやるようなお人好しではない。

 ここで繚介を放って呪霊を狩りに行ってもいいのだが、一人くらい京都校の人間を脱落させておこうと綴は技をだす。

 

──甘菜呪流体術・二ノ型 牡丹。

 

 拳を振るい、繚介の身体に呪力を流す。だが繚介も甘菜家の人間。この程度では倒れることは無い。

 

──甘菜呪流体術・一ノ型 蕾。

 

 綴の拳から流れた呪力を、繚介は『蕾』でそのまま受け流した。

 

「───…っ! なかなかやりますね! まさかここまで効くとは思ってもいませんでした!」

「手前、俺を舐めてんのか?」

 

 綴と繚介の戦いはだんだんとエスカレートしていく。だが綴には到底かなわない繚介がだんだんと押され始めてきた。

 この戦いの間にも、綴は他の呪力も感じている。繚介はそれに気が付かないが、綴はだんだんと味方がいる方へといどうしていた。

 

 『蕾』は呪力を受け流す型であるが、弱点がある。込めた呪力が少なければ少ないほど受け流す呪力の量が少なくなり、多くすればするほど量が多くなる。

 どれだけ精一杯呪力を込めても、相手の呪力が自身を上回っていれば上手く受け流すことができないのだ。

 

──とりあえず、伏黒の所だな。加茂対策に繚介(このバカ)を盾にしよう。パンダはまあ問題ないだろう。釘崎のほうには真希がいる……虎杖は……東堂に会うのは嫌だから絶対に行かねぇ……。

 

 とにかく一人でも多くの味方を呪霊に当てられるようにする。もちろん妨害だってするつもりなので、こうして繚介を引き付けている。

 

 だがその時、多にな呪力が辺り一体を包んだ。

 

「何だ!?」

「帳がおりてる!?」

 

 


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