「伏黒と狗巻の所か……おい、手前は呪詛師に当たれ」
「でも兄様!」
綴はすぐに糸から全体の状況を把握して繚介に指示を出す。
「手前が特級呪霊とまともにやり合えるわけねぇだろ」
「………それは、そうですけど。俺は、兄様の役に立ちたい!」
このままでは埒が明かない。だからといって繚介を連れて行く訳にもいかない。せいぜい三級程度の実力しかなく、まだ一年生の繚介が行ってもどうせ足でまといになるだけだ。
「尚更だろ、バカが」
「え?」
「尚更俺の邪魔されねぇように、呪詛師を殺れって
それを聞いた繚介の顔が喜びに染まる。
「はい! もちろんです、兄様!!」
「うるせ」
繚介は手を大きく振りながら、綴に言われた呪詛師の元へ走り去る。厄介な奴に好かれたなー、と舌打ちしてから綴は特級呪霊と戦う伏黒達の元へ急ぐ。
足は速いほうだ。それに加えて糸を使いターザンのように移動もするので、だいぶ早くその場所につくことができた。
「伏黒、真希!」
「甘菜先輩!」
伏黒の状態は、極めて不安定。何かしらの術により上手く動けないと、伏黒の腹から出ている植物を見て判断する。次に真希、こちらもよくはない。腕から大量に出血している。綴はそんな二人の前に庇うように立つ。
「待ってください! いくら先輩でも……!」
「うっせェんだよ。人の心配するより自分の心配しやがれ。
おい真希、その馬鹿つれて逃げろ」
「一人でやる気かよ、あんた」
綴は構える。
一人で戦おうなどとは微塵も考えてなどいない。何故なら糸から伝わる振動が、呪力がこちらへ向かっていると気が付いていたからだ。
「腹は立つけど、今一番心強い」
だが、来るまでまだ時間がかかる。
綴は特級呪霊・花御に攻撃する。
──甘菜呪流体術 弐ノ型・牡丹
今までで一番の呪力を込める。花御はそれを受けて吹き飛ぶが、持ち耐えたようだ。
「かなり頑丈じゃねぇか」
《なるほど、そこの二人よりはできますね》
花御からの攻撃を蕾で受け流し、綴は後ろへ下がる。
「甘菜呪流体術 参ノ型・松葉」
綴は素早く移動し、花御の懐へ入り込むと手のひらを花御の腹に叩き込む。牡丹に比べて痛くもないそれを受けた花御だが、次の瞬間酷い痛みが全身を駆け巡った。
「甘菜の基本は呪力操作……自分はもちろん他の存在にも有効……今お前の呪力をかき乱させてもらった。
お前、丈夫で良かったな? 普通なら今ので五回は死んでいる」
松葉は相手の呪力に自身の呪力を干渉させて暴れ回させる技である。呪力の大きいものになるにつれて威力も高くなる。その時、術者の呪力は相手よりも大きな呪力を流してはいけない。イメージするのは渦潮。
渦潮は流れの速い潮が遅い潮にぶつかり、遅い潮の方に速い潮が曲がることから発生する。松葉の場合、速い潮が相手の呪力、遅い波が自分の呪力となる。
この松葉を防ぐ方法は、同じ体術の蕾だけではないかと、度々呪術界でも議論になることがある。
「おいおい、こんなもんじゃねぇだろ特級呪霊」
不敵な笑みを浮かべる綴を見て、花御は綴を倒すのは容易くはないと考えを改めて対峙する。
伏黒は、そんな高レベルな戦いを見て、まだ自身が綴の足元にも及ばないと感じてしまった。しかし、花御に有効だった松葉は乱発はできないことも伏黒は知っていた。この松葉は恐ろしく集中力が必要で、一瞬でも気を抜いてしまえばその日のうちにもう一度連続して使うことは困難。何より、連発すればそれだけ集中力が削がれてしまう。
《貴方は、自身の生命を削っている》
「………」
《何故、ここへ来たのですか?》
「………」
伏黒と真希にはその花御の問いの意味を理解することはできなかった。ただ一人、綴だけがその問いの真意を知っていた。
甘菜呪流体術と百呪蜘蛛この二つは相性が悪い。普段は呪力操作をして子蜘蛛を押さえ込んでいる。しかしその操作を体術の方に使えば子蜘蛛に使っている呪力に綻びを産んでしまう。だからと言って百呪蜘蛛の呪力ばかりを使えば綴の中にある子蜘蛛が彼の身体を蝕んでいく。
綴の取った対策方法、それは呪流体術を使うその時に、子蜘蛛に当てる呪力を自身の生命力で補おうというものだ。子蜘蛛に意識を乗っ取られてしまうなら、死んだ方がマシだった。
「……うるせぇ。手前は俺の後輩に手を出した、俺の居場所を襲撃した。それだけだ」
綴はまた構える。もう一度松葉を花御に打つ気でいるのだろう。それを察知した花御は後ろへ下がる。もしもこれを何度も受けてしまえば祓われはしないだろうが、動きを封じられると感じた。
もちろん、綴は花御の動きを封じるつもりでいた。今倒せなくても、帳の外にいる五条なら祓えると確信していた。
──その五条はなにしてやがる? 全くこちらに来た気配がねぇぞ?
他の教師達は来ている……となると、五条は今回のこれが生徒の成長に繋がるとおもっているか……この帳が特殊で五条が入れないのか……後者だな。
恐らくこの帳は中にいる呪詛師のどれかのものだろう。
「もう少し弱らせてから糸で捕縛だな。俺の糸は、切れたことがない。一度捕まれば逃げられない」
──とはいえ、ここでコイツをこれ以上弱らせられる自信が無い。どちらかといえば俺は技術での攻撃だから、相手にそれほどダメージを与えられない。今余裕ぶってみせてはいるが……はよ来いや東堂、この糞野郎が。
東堂の人格は認めてはいないが悪い奴ではないし、純粋に彼の強さは認めている。その東堂がこの場に向かっている。だから早く来いとさっきから思っているのだが一向にこない。虎杖も東堂と一緒に動いているがこない。来たら額を叩くことを心にきめる。
──黒閃、やるか……。
あまりにも集中力を使う黒閃は綴にとってご法度。しかしここで負けるよりはマシだと、構えを松葉の構えから黒閃を扱う際に使っている構えにする。
覚悟は決まった。
その瞬間、東堂と虎杖がこの場に到着したことに気付き、腕を下ろした。
「おっせぇんだよ!! 何してやがった、東堂! 虎杖ぃ!!」
「遅れました!! 大丈夫っすか! 甘菜先輩!?」
「やはりお前だったか!
「うるせぇ! 叩くぞ!!」