呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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16話

 目が覚めるとそこはよく知る自室だった。

 辺りを見渡すと、何故かいる東堂に戸惑う。

 そして綴はそのまま何故か東堂に引きずられて部屋を出た。

 

虎杖(ブラザー)の所へ行くぞ、甘菜!」

「なんなのこいつ」

 

 綴は頭を抱えて面倒くさそうに東堂の後ろをついて行く。

 着いた場所は伏黒の病室だ。確かあの特級呪霊によって深手を負ったんだったか……とぼうっと考えていると東堂がそのまま病室に入っていった。と思ったら虎杖と東堂が猛ダッシュで病室の窓から出て行った。虎杖は綴に気がつかなかったようだ。

 

「………なんなのあいつ」

「あ、甘菜先輩」

 

 伏黒と釘崎は綴に気が付く。

 

「自室療養じゃ……」

「成り行きだ」

 

 そう言うと、綴はたまたま(・・・・)持っていた硝子の瓶を伏黒と釘崎に渡す。

 

「これは?」

「金平糖」

 

 二人は目を丸くして綴を見る。このチンピラ系呪術師と言われる綴が金平糖……?

 なんか文句でも?と言われるが二人は全力で首を横に振る。こんなところで綴に額を叩かれてなるものか。というより……これは綴の見舞いの品なのだろう。硝子の瓶をもう一つ持っているのが見える。これはきっと虎杖の分だったのだろう。

 伏黒と釘崎は金平糖のお礼にと、先程まで三人で食べていたピザを勧める。伏黒は食べないだろうな、と思い食べないなら後でまた何か持って行こうと思っていたのだが……。

 

「ん、食べる」

「え?」

 

 あの綴がピザを食べた。

 

「………なにこれ?」

「え、甘菜先輩食べたことないの? ピザですよ、ピザ」

「ぴざ? …………ん、美味い」

 

 それどころか一切れ食べ切った。あの味の濃い物が嫌いな甘菜綴が、ポテトチップスなどの菓子類は愚かクッキーでさえ躊躇うあの甘菜綴が。

 

「伏黒、あんた凄い顔になってるわよ?」

 

 釘崎に指摘されて伏黒は我に返る。

 

「じゃあ、俺はそろそろ帰るわ」

「え、もうですか?」

 

 できればもう少し話をしたい。今回の呪霊との戦闘で自分はまだ綴の足元に遠く及ばないということを理解し、強くなりたいと思ったからこそ出た言葉だった。その伏黒の気持ちを察したのか、綴は深く溜息を吐く。

 

「ならその面どうにかしてから来いや」

 

 伏黒の頼みを一蹴りすると、綴は病室から出て行った。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 嘔吐く。

 先程食べた物は全く消化されていなかった。

 騙し騙しで食べていたが、一口入れた時から吐き出したくて仕方がなかった。

 誰にも見られない場所に移動していたが、結局廊下で蹲り吐いてしまった。何か拭くものはないかと視線を上げると、そこには五条がいた。

 

「なんだよ」

「綴、いつから(・・・・)?」

「……よく、覚えてねぇよ」

 

 五条はもう綴がまともな食事をできていないということに気が付いてしまった。

 何故もっと早く気が付けなかったのかと後悔する。

 綴は親友の忘れ形見のようなものだ、大切にしたいと心の底からそう思っている。だが上手く伝わらない。いや、恐らくその五条の気持ちは綴に伝わっている。だが綴にそれを受け入れるつもりがないのだろう。

 何故なら五条の唯一の親友が夏油傑であるように、綴が唯一緒にいて唯一安心できる人物は夏油傑だからだ。何年経とうと、夏油が綴を殺しかけても、それこそ夏油が綴を殺してもそれは変わらない。殺されても、綴は何の未練もなく死ぬだろう。一年前の百鬼夜行がいい例だ。

 

「家入の所へ行こう」

「……何しても無駄なのに?」

 

 夏油が姿を消して、俯く綴を五条は無理矢理でも立たせて引っ張ってきた。伏黒や乙骨、虎杖のような後輩と接して行くうちに、同級生達と打ち解けて行くうちに前を向くようになってきていた。しかし、ここに来て、自分の死期を悟り出してまた俯くようになった。

 

「点滴打ってもらおう」

「……………うん」

 

 何とか綴は立ち上がると歩く、フラフラとした彼の手を五条は引っ張る。

 夏油がいなくなったあの日(・・・)こうやって綴の手を引いていたっけ。そんなことを思い出しながら家入の所へ向かう。

 

 

 綴はもう長くない。それを知らされてからもう十年程経とうとしている。綴の呪いを解く術は未だに見つからない。

 過去、百呪蜘蛛以外の三十蠱毒に巻き込まれた人間は多数いた。そのどれもが悲惨な末路を辿る。この蠱毒を止めるために多くの呪術師が命を散らし、今では百呪蜘蛛以外には存在していないとされている。

 呪術界のトップ達は、綴が最後の三十蠱毒を祓うことを期待している。先人達が記したとおりに綴に子蜘蛛を祓わせようとする。子蜘蛛を祓う、つまりは子蜘蛛を食べることだ。それを知っていて、仕方がないことだと必要な犠牲だと切り捨てた。

 だが、五条はそんなことを認められなかった。あのクソ生意気な弟分でも、いざ死ぬかもしれないとなった時五条の身体は自然と動いた。

 できるだけ子蜘蛛を食べさせない。それは綴にとっての苦行である。子蜘蛛は封印し綴から遠ざけた。この祓うことができない呪いを祓う方法を探すことにした。

 

 だが、今回の件で高専から複数が流出した。特級呪物・両面宿儺六本と呪胎九相図一〜三番。そして、今まで高専が捕まえて封印していた三十蠱毒・百呪蜘蛛の子蜘蛛全てだ。

 嫌な予感がする。五条は綴を握る手に力を込めた。

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