呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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ちなみに甘菜が出てくるのは16話以降のイメージで書いてます。


01話

「いや、これはねぇだろ」

 

 その死体を見て、甘菜はポツリと呟いた。緊急の仕事だというので辿り着くとそこには心臓のない死体が無残に転がっていた。そしてその傍には、同じ学校に通うよく知る後輩がいた。番傘を開いてその後輩の目の前に立つ。

 

 

「死んでんのか?」

 

 東京都立呪術高等専門学校3年、甘菜綴。

 

「はい」

 

 東京都立呪術高等専門学校1年、伏黒恵

 

「そうか」

 

 甘菜は死体にまた目を向ける。

 自分の()()()()()()()()()()()()()。でもそうならなかった彼に、甘菜は手を合わせた。

 

 これは無い。

 

 彼と伏黒、そしてもう1人の1年だけで特級に挑ませた上の連中に対しての言葉だ。そのせいで、また1人死んだ。何度も何度もこれを繰り返した。

 

「……とりあえず、帰るぞ」

「はい」

 

 甘菜は背負っていた筒を地面に置く。すると筒はガタガタと動き出したかと思うと、人ひとりが中に入れる大きさになった。その中にその死体を入れた。

 ああ、またこの中に人が入った。座らせれば、成長期の青年ですらすっぽりと入ってしまう。そういう意図を持ってこの筒を持っている訳では無い。筒、というには無理がある大きさになったこれを、皆は棺桶だと呼んでいたし、自分もそう思う。

 

「名前、なんだっけ?」

「……虎杖…悠仁です」

 

──イタドリ、か。

 

 この少年の関わった事件…宿儺のことは報告書で読んだ。

 最近まで一般人だった彼のことを一方的に知っている。今回の件、どれだけ辛かったのだろうか。どれだけ怖かったのだろうか。どれだけ逃げたかったのだろうか。どれだけ死にたくなかったのだろうか。

 

「良い奴でした」

「そっか」

「死んで欲しくはなかった」

「そっか」

 

 吐き出すように、絞り出すように声を出す伏黒に甘菜はそれしか言えなかった。また、こいつの前から救いたいと願った善人が消えたのか、と。

 

「……伏黒がそう言うなら、会ってみたかったよ」

 

本当に、

 

やってられないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──と思ってたんだわ」

「うん、ごめんね! 事情が変わったんだ!」

 

 イラッとした甘菜は目の前の男を殴る。

 

「え? すまん、少し雑音が酷くてな? もう1回言ってくれねぇか?」

「もちろん」

 

 男、五条悟は甘菜に胸ぐらを掴まれながら先程伝えたことをそっくりそのまま、また伝える。

 曰く、今回の件で死んだはずの虎杖悠仁は生き返り、現在は記録上では死亡扱い、だが裏では五条と修行中だそうだ。

 

「生き返ったカラクリはわからん、と……それで? なんで俺にこのことを?」

「綴には、ぜひやってもらいたいことがあってね」

「嫌な予感しかしない」

「素敵なことさ」

「マジで言うとんのか」

「マジさ」

 

 悔しいことに、甘菜は五条に対してのノーとは言えない。かつて甘菜は五条に助けれらたことがあり、その時の恩は一応感じている。

 

「……死んだ時、筒の中くらいには入れてやる」

 

 せめてもの嫌味を五条に言ってみるが、それでも五条の飄々とした態度は崩れない。

 

「うん、ありがとう。でも僕最強だから、死なないよ」

「俺より長生きするだろうしな」

 

 そう言うと、少し五条の顔が鋭くなった、ような気がする。

 

「な、なんだよ……」

「綴、冗談でもそれ(・・)はやめてくれ」

「………悪かった」

 

 やっぱり五条悟は苦手だ。

 

「それで? やって欲しいことって、なに?」

 

 

 

────────────

 

 

 

 甘菜と対話を終えた五条はふぅ、と息を吐く。甘菜とは昔からの付き合いだ、感覚的には弟に近い。そんな彼に久しぶりに会った、この半年は立て続けて任務へ出かけていたのだ。上はどうやら、甘菜と自分が顔を合わせる時間を極力減らしたいようである。

 

 しかしそんなことを許す五条悟ではない。

 甘菜にはもちろん味方になってもらう。呪術界の腐った部分を、他の学生よりも甘菜は見てきた。そんな甘菜なら、絶対に味方になってくれる。

 

「さて、悠仁には僕の他にもう1人先生がつくよ」

「先生が?」

 

 虎杖悠仁。甘菜が気にしていたことを思い出す。きっと伏黒のことがあるからだろう。彼が虎杖を連れて帰ってきた時、背負った大筒に虎杖を入れてきた。この筒は甘菜が作った特殊な筒で、外からも中からの衝撃に強い作りになっている。中身は……いや、今はやめておこう。それよりも、今は虎杖に甘菜のことを紹介しなくては。

 

 

 

「甘菜綴君だよ! これから僕がいない時は、彼が悠仁の面倒見てくれるから!」

「何勝手なこと言ってくれやがりますか手前は」

 

 甘菜に太もも辺りを蹴られた五条だが、あっけらかんとして笑っている。そんな五条を無視して、戸惑いを隠せていない虎杖を見る。

 

「……………マジで宿儺の器なのか?」

「虎杖悠仁です! えーと? 甘菜…先生?」

「悠仁、その子3年生の先輩だよ」

「あ! じゃあ甘菜先輩か!」

 

 思ってたよりも元気な虎杖を見て、少し戸惑った甘菜だが、すぐにいつも通りの仏頂面に戻る。と、虎杖が甘菜をジッと見て、ソワソワしているのを見た。

 

「……なに?」

「いや…呪高専(ここ)に来て、初めての先輩だなーって」

 

 2年の先輩ならいたけど、3年の先輩も初めてだ。と付け足す虎杖を見て伏黒の言葉を思い出す。良い奴だ、と言っていた。伏黒の言葉を疑う訳では無い、だからといって信じる訳でも無い。だからこそ、甘菜は虎杖に会えると五条から聞いてノコノコ着いてきたのだが……なんとなく、伏黒が言っていた意味がわかったような気がする。雰囲気、というか…上手く説明は出来ないが、虎杖は確かに良い奴ではあるようだ。しかし……。

 

「聞いてねぇぞ、五条」

「言ってなかったからね」

 

 虎杖を鍛えるなんて聞いてない。そんな面倒なことしたくない。

 

「でも恵は鍛えてくれたじゃん?」

「お前、三日三晩頭下げられたことあるか?」

「ないね」

 

 鍛える、といっても甘菜には式神のことはよくわからない。簡単な式神なら扱えるが、そもそも甘菜に刻まれている術式はそれではないのだから、当たり前なのだが……。

 

「悠仁、彼と腕相撲してみてくれない?」

「腕相撲?」

「うん、全力で」

「いいの? 先輩折れたりしない?」

「舐めてんのかはっ倒すぞ」

 

 虎杖は甘菜の体格を見てそう言った。コイツは今ここで黙らせないといけないと、甘菜は確信する。

 お互い向かい合い、手を組む。五条が2人の手を掴む。これで腕相撲をする準備は整った。

 

「じゃあ……Ready…GO!」

 

 その合図で2人は力を腕に込める。虎杖だって言われた通り全力だった。だが勝負は10秒も経たずに幕を下ろすこととなった。

 虎杖は気が付いたら床に転がっていた。机は見るも無残な姿になっていた。

 

「なにか、言うことはあるか?」

「イエ、ナニモゴザイマセン」

 

 舐めてるつもりはなかった。しかし甘菜は虎杖よりも細かったため、負けることが想像できなかった。

 

「……虎杖」

「は、はい」

「俺は体術・捕縛が専門の呪術師だ」

「はい」

「そんな俺が手前みてぇなド素人に負けるわけねぇだろうがよ、クソボケが」

「は、はいっ!」

 

 般若のような甘菜に虎杖は顔を青ざめさせながら謝る。

 

「ったく。これで交流戦間に合うのか?」

「間に合わせるさ」

 

 だから力を貸してくれ、五条はそう言う。あまり乗り気ではなかった。しかしあの1回で、虎杖には可能性があることがわかった。おそらくそれをわからせるために急に虎杖と腕相撲をするように言ったのだろう。

 伏黒に体術を教えたのは、式神使いにも関わらず接近戦でも戦えるようにしたい、という意気込みを伝えられたから。なら、虎杖はどうなんだ?

 

「………条件がある」

「条件?」

手前(テメェ)が卒業するまでに、俺に勝てるようになること」

「え、それでいいの?」

「自信が無いならやめとけ」

「いや、やる!」

 

 やる、とハッキリ言った。アレを見てもやると言った。虎杖は甘菜の事情は知らない。その条件がどんな意味を持っているかも、虎杖は知らない。




さて、こっからどうするかな。
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