呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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20話

「くっそ、引きずんな!」

「強制連行ー」

「しないからな! これ以上面倒なことはしないからな!!」

「その台詞、いつまで持つかな?」

「なんでキメ顔なんだよ腹立つなおい!!」

 

 綴は五条に襟を掴まれて廊下を引きずられる。目的の場所はどうやら一年のクラスのようだ。

 この男、いい加減にどうにかせねば。しかしそれができない自分に歯痒さを覚える。助けて夏油さん俺にこの人のお守りは荷が重いです。

 

「はいこれ資料ね」

「は?」

 

 五条から手渡されたのは、例の生徒の資料だった。それを五条に引きずられながら読む。

 

 乙骨憂太。一年生。呪力、問題ナシ。戦闘経験、ほぼゼロ。特級呪術師。特級過呪怨霊・折本里香に取り憑かれている。

 資料を見て読み込めた綴は眉間に皺を寄せる。

 

「特級呪術師なら俺が出る幕ねぇだろ」

「いやいや、綴には憂太と一度会って欲しくてね」

 

 何を考えているかわからない五条を無視して、綴は更に資料を読む。途中で「げ」という声が五条の耳に聞こえた。恐らく綴が苦手なものの名前を発見したからだろう。

 

「いい加減、そう邪険にするのはやめた方がいいと思うよ」

「なんで?」

「曇りなき眼。

 でも、そろそろ人付き合いとか見直していかないと苦しくなるのは綴だよ」

「なんで? どうせすぐ死ぬ(・・・・)のに」

 

 五条は顔を顰めたが、すぐにいつもの胡散臭い笑みを浮かべる。

 

「大丈夫、そうなる前に僕がどうにかするから」

 

 綴はその言葉を信じてはいないのだろう。

 

 

 

────────────

 

 

 

「というわけで! 特別講師の甘菜綴君です!」

 

 ハイテンションの五条。嫌悪感を隠そうとしない、真希、狗巻、パンダ。何が何だかよくわかっていない憂太。そして面倒くさそうに五条の隣で資料を読み続ける綴。

 

「憂太以外のみんなは知ってると思うけど、二年生で階級は準一級! 捕縛と体術が専門の呪術師だ。憂太と、余裕もあれば他の子達も面倒見て貰えると嬉しい」

 

 前半は一年生達に、後半は綴に向けて五条は言う。

 

「嫌です」

「真希と同じ」

「しゃけ」

「えぇ!?」

 

 憂太は同級生達の反応に驚く。

 

「俺だって嫌だよ。なにが楽しくて手前らみてぇなクソ共にあれこれ教えなきゃなんねぇだよ。」

「うーん、相変わらず口が悪い。綴、笑顔笑顔」

「張り倒すぞ」

 

 綴は無理矢理頬を引っ張って顔を笑顔にさせようとする五条の脳天に手刀をキメる。

 

「酷い! 昔はこーーーんなにちっちゃくて可愛かったのに!!」

「その頃あんたと会ってねぇよ」

 

 親指と人差し指を使い、1センチ程の大きさを作り綴の目の前にずいっと持っていくが、綴はそれを叩いた。

 

「とにかく、憂太にとって綴から教わることは多いと思うよ。

 強くなるために、綴は必要だ」

 

 

 

 

 そう言われて放り込まれたのは、校内にある道場。

 

「貧弱だとは聞いてたが……ここまでとは思いたくなかった」

 

 そこにはボコボコにされた憂太の姿があった。それは一方的なリンチだ、誰が見てもそう言える。

 

──正直、真希さんよりもキツい。

 

 というのも、未だに綴が両手を使っていないからだ。だというのに憂太の攻撃は綴にかすりもしない。

 

「……五条、帰っていいか?」

「うーん、憂太はどうしたい?」

 

 憂太は五条の問いかけに迷う。強くなるためには、綴が必要だと五条は言った。大きな壁だ、それに怖気付いてしまっている。怖い。だがそれと同時に、やらないと何も進まないと理解した。

 

──この人を超えたい。

 

 普段の自分であれば、考えないようなことが頭に巡る。

 

「お、お願いします」

「………めんどくせぇ」

 

 その一言を聞いた後、憂太の視界は暗転した。

 

 

 

「やり過ぎ」

「うっせぇよ。ここまでやりゃ、もうやる気も起きねぇだろ」

「いや、それはどうかな?」

 

 五条の言葉を無視して綴は壁に立て掛けて置いた筒を取り背負うと、その場から去っていった。

 

「でも、筒を置くくらいには本気になってくれたんだろう?」

 

 それにしても、と五条は憂太を見る。

 里香が一切出てこなかった。綴がここまで憂太をボコボコにしたのは、恐らく里香の存在を確認するためだ。だが出てこなかった。いや、出られなかった。

 

 恐らく、誤って綴を殺せば里香はもちろん憂太にも綴に取り憑いている子蜘蛛の脅威に晒されることとなるからだろう。

 三十蠱毒百呪蜘蛛は一匹だけなら四級程度の呪霊。しかし百体全てが集まれば特級レベルになる。更に恐ろしいのは、祓えばその人物に呪いが掛かり子蜘蛛へと変貌する。人が食べる食事をだんだん受け付けなくなり、同じ子蜘蛛を貪る。

 子蜘蛛が子蜘蛛を食べ、強い個体が大きくなり、成体となり、また更に強い蜘蛛を生み出すために百体の子蜘蛛を産む。

 三十蠱毒の被呪者は最終的に個を失うのだ。呪術界が生んだ最悪の呪術。それが三十蠱毒。

 

「彼女でも、その脅威は変わらず………大丈夫、きっと間に合う」

 

 自分でも分かるくらい、声が震えていた。

 

「きっと綴の呪いを解呪する方法があるはずだ」

 

 死なせてたまるか。

 

 

 

......................................................

 

 

 

 一年前のことを思い出しながら、綴は呪霊を祓った。

 そういえば乙骨はあれからどれほど強くなったのだろうか。まだ負ける気はないがそろそろ危ないかもしれない。

 と、その時綴のスマホに電話が入る。

 

「もしもし甘菜です」

『ああ、良かった通じた。伊地知です』

 

 伊地知からの突然の電話に綴は何かあったのかと尋ねる。

 

『それが、津美紀さんの件で……』

 

 話を聞くと、現在寝たきりの津美紀にそれとは別の呪いが掛かっているということ、伏黒が津美紀の護衛を求めていること、現在手の空いている呪術師では手に余るということ、綴の任務がそろそろ終わる頃なのを思い出し電話をしたということ。

 

「確かに任務はさっき終わりました」

 

 伊地知は断られることを前提で津美紀の護衛を綴に頼んでいる。綴は非呪術師に興味がほとんどない。最近ようやっと真希との関係が改善されたほどだ。

 

「……………わかった。すぐにそっちに向かう」

 

 綴は筒を背負い直して車に乗り込む。

 

『……え?』

「文句あるんですか?」

『いや、いやいや!! 無いよ!?』

 

 無いけどその答えがあまりにも意外過ぎた。

 

『それじゃあ、場所を伝えますから……』

 

 電話を終えた綴は深くため息を吐いた。

 

「眠い」

 

 津美紀がいる病院に着くまでの間、綴は目を閉じて眠ることにした。

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