呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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21話

【一年前……】

 

 今日も今日とて修行の日々。憂太は綴に思い切り投げ飛ばされて床にへばりついた。

 しかし憂太は立ち上がる。綴と初めて組手をした日、憂太は綴に体術を教えてもらうことを頼み込んだ。そんな憂太に、綴は──。

 

「俺が卒業するまでに俺に勝つこと、これが条件だ」

「え」

「無理ならやめとけ」

「いや、えと……や、やります、よろしくお願いします!」

 

 憂太の返事を聞いた綴の顔は不機嫌丸出しだった。ちなみに後日、五条から聞いた話だがもしも条件をクリア出来なかったらみかんの皮をむく時汁が飛び散る呪いを掛けるとか呟いていたらしい。地味に嫌な呪いを掛けようとしてくる。

 

 そんな日々の連続だったが、綴は最近憂太を迎えに来るようになった(ほぼ強制連行だが)

 真希達はそんな綴にブーイングするがひとたび睨みつけられれば全員すぐに大人しくなる。どうやら彼らは綴に相当なトラウマを抱いているようだ。じゃあブーイングなんか辞めればいいのに、と言ったことがあるがどうしても引けないところがあるらしい。

 

「綴は一年生達をボッコボコにしたことがあるからね」

 

 なんでもないように五条は憂太にそう言ってみせた。

 真希も狗巻もパンダも、その強さや凄さは憂太がよく知っていた。入学したての後輩になんの躊躇もしなかったらしい。

 

「でも、何も理由なくそんなことする人には……」

「その辺もちょっと込み入ってるから……でも綴は悪い子じゃない。不器用だけど、なんだかんだで優しい子だよ」

 

 綴のことを語る五条の雰囲気はなんだか柔らかい気がした。

 

「その綴は今任務何だけど、連絡がつかなくなってるらしいよ!」

「ええ!?」

 

 憂太はその詳細を五条から聞かされる。

 綴との連絡が取れなくなったのは二日前。大した任務ではないだろうと言われていた、実際に呪霊はすぐに祓われた。だが綴は行方不明となった。

 

「憂太、真希、パンダ、棘は綴の生死を確認。できれば綴が何故行方不明になったかの理由解明。これが今回の任務だ」

 

 集められたのは一年生全員。あの綴が行方不明になるような案件だ。彼らは気を引き締める。

 場所は自殺の名所と呼ばれる橋の下。

 

「普通なら一級呪術師案件だ。もしも自分達だけでは無理だと判断した場合、すぐに引き返すこと。いいね?」

 

 帳はもう降りている。

 

 

 

────────────

 

 

 

「何だこれ」

 

 それを呟いていたのはいったい誰だったか。帳の中にあったのは夥しい数の蜘蛛の巣。空間は歪んで最早原型を留めていない。

 

「さて、あの人はどこにいるんだか……」

「とりあえずこの蜘蛛の巣には気を付けよう」

 

 蜘蛛の巣に触れないように慎重に進んで行く。時折何かを削るようなゴリゴリという音が聞こえてくるが、その正体は確認することができない。一言で言えば気味が悪い、こんな場所に綴は二日間もいるのだ。早く綴を助けに行かないと。

 

「うわっ」

 

 パンダの驚く声を聞いて、全員がそちらを見る。そこにいたのは光を通さない程真っ黒で小さな蜘蛛、互いを攻撃しあっていた。それが何十匹もいれば誰だって悲鳴をあげる。しかもだ、なんと一匹が死ぬと近くにいる小さな蜘蛛がこぞってその死体を食っているではないか。蜘蛛達がいなくなると、そこにはなにも残っていなかった。

 

「なんだ、ここ……」

 

 憂太が呟いた時、蜘蛛がこちらを見た。一斉にキリキリと言う威嚇音を出す蜘蛛を見て四人は戦闘態勢に入るが、憂太の脳内に里香の声が届く。

 

《憂太、ダメ!》

「みんな、待って!」

 

 憂太は里香の声を聞いてすぐに三人を止める。

 

「どうかしたのか、憂太?」

「里香ちゃんがダメだって……この蜘蛛、なにかあるんじゃ……っ」

 

 しかしそう言っている間に蜘蛛は憂太の方へ向かってくるではないか。

 

「な、なんで!?」

「とにかく逃げるぞ!」

 

 しかし帰り道は塞がれ、奥へ奥へと誘導されてしまう。意外と蜘蛛は足が速く、追い付かれそうになった。その時、四人の身体が宙に浮き、上へ引っ張られた。

 

「何やってんだ、手前ら」

 

 憂太達を釣り上げたのは呪霊対策のゴーグルを付けた綴だった。

 

「甘菜先輩!? 無事だったんですね!?」

 

 憂太は半べそをかきながら綴の無事を喜んだ。特に怪我をしている、という訳でもなさそうだ。

 

「ここはいったい何なんですか?」

 

 真希が綴に尋ねると、綴は至極面倒くさそうに答える。

 

「手前ら、三十蠱毒の子蜘蛛を知ってるな?」

「アレですよね、百匹の蜘蛛が共食いする……」

「呪術界でも知らない人がいないほどの呪いですよね?」

「しゃけ、しゃけ!」

 

 だがそんな有名な呪いでも憂太は全くわからないのであった。それを察したのか、綴は三十蠱毒について説明する。

 

「祓ってはダメな呪い?」

「祓うということは、つまり三十蠱毒の元になったものになる、ということだ。

 三十蠱毒には犬や百足、毒蛙……まぁ、蜘蛛以外はもうとっくの昔に祓われてこの世には存在しない」

 

 綴曰く、元々は千年ほど前に呪術師が開発したとされる呪いだったそうだ。余りにも強力な呪いの王である両面宿儺を祓うため開発されたという説もあるが、その辺りはまだハッキリとはしていないらしい。らしい、というのもこの三十蠱毒の資料はとても少ないからだ。

 どんな理由で開発した三十蠱毒かわからないが、その恐ろしさを最初に味わったのが開発した呪術師だ。この三十蠱毒に使われた虫等は初めは特別な力を持たない変哲もないものだ。その内の一つが呪術師を恨み、呪術師を呪った。

 

「そうして制御する呪術師が死んで三十蠱毒は各地で猛威を奮った。祓うと子蜘蛛になる。

 一番美味しく感じるのが同じ種類の蠱毒だが、放っておけば飢餓を埋めるために人だって呪いだって食べる。

 呪い側にとっても呪術師にとっても迷惑極まりない呪霊だよ」

 

 綴に連れて行かれた先には数人の一般人の姿があった。どの人達もすっかり疲弊しきっている。

 

「ここの橋に来た自殺志願者だ。

 コイツらのせいで思うように動けねぇ。手前らさっさと連れて帰れ。五条には子蜘蛛が出たとだけ伝えてくれたらいい」

「あんたはどうすんだよ」

「………残る。

 さっき言ってた、乙骨を狙っていた理由は恐らく折本里香だ。奴らはより強い呪力に引き寄せられる習性がある。まぁ、これは誤って両面宿儺以外を狙わないようにした対策の名残なんだろうが………とにかく、手前らがここにいても迷惑だ」

 

 シッシッといかにも早く帰って欲しそうな綴だが、当然納得ができない。確かに足でまといかもしれない。なのにこの人をここに一人置いていくことなんて憂太にはできない。きっと他の皆も同じはず……。

 

「よし、行くぞ憂太!」

「え!?」

 

 見るとパンダが自殺志願者達を担いでいるではないか。

 

「待って! 皆、甘菜先輩置いてく気?」

 

 綴は当然なことだと、全員が逃げれる道を探り始める。

 そもそもこういう時のために周りには冷たくしていたのだし、真希に至っては呪力も持たない、呪具が無ければただの一般人だというだけで普通に嫌悪の対象だった。

 

「っんなわけないだろ?」

 

 真希の一言に綴の顔は強ばった。

 この馬鹿今なんて言ったんだ?

 

「っつーか先輩、スマホは?」

「は?」

「スマホ! スマートフォン! 現代社会の便利機器!」

「……………ああ、携帯電話」

「あんた未だにガラケーなのかよ……」

 

 真希の勢いに押されて綴は携帯電話を取り出す。

 

「それで五条に連絡とればいいんじゃないですか?」

「………」

 

 すっかり携帯電話のことを忘れていた。パンダに言われるまでそのことを思い付きもしなかった。いや、連絡したからといって子蜘蛛がどうなるわけでもないんだが。

 

「とにかく! 私達はあんたをここに置いていくつもりは無い」

「甘菜先輩、とりあえず連絡取ってみたらどうですか?

 五条先生はあれでも心配してると思うんです」

 

 憂太にそう言われて携帯電話を開く綴だったが……。

 

「………………………あれ?」

 

 カコカコという音が聞こえたと思うと、綴の口から疑問の声が聞こえてきた。

 

「いや、こうだった…か? んん?」

 

 まさか、という視線が綴に集まる。

 

「あ」

 

 嫌な予感。

 

「すまん、なんか画面暗くなった」

 

 何やってんだこの人は。

 結局真希が五条に電話しました。




綴は機械音痴
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