呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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22話

「とりあえず、ここから出るぞ。

 この一般人共を避難させる。そっからは五条と相談して上手いことやる。いいな、絶対に子蜘蛛に攻撃するな。あの大きさだと簡単に祓える」

 

 一般人は全員で三人。二人はパンダが抱えもう一人を真希が背負う。

 綴はこの後輩をどうにか子蜘蛛と関わらせないように努めるつもりだった。綴を置いていく気がないというのなら、出てからまた入ればいい。綴が拒んだとしても上層部はそう言うだろう。

 

「狗巻はパンダと真希のサポート、俺と乙骨は狗巻にできるだけ呪言を使わせないように子蜘蛛を意地でも近づけさせないようにする。

 この程度の子蜘蛛なら少し脅すだけでも怯むから、必要以上に追うな」

「はい!」

「すじこ!」

 

 四人の返事を聞いて、綴は先頭に立つ。あらかじめ糸は張っているため、手のひらから伝わってくる感覚で内部の構造は知っている。ナビゲートは充分できるはずだ。

 綴が走り出すと、パンダ、真希、狗巻、乙骨の順番で着いてくる。

 

 しばらくすると後から子蜘蛛が二匹顔を出した。できるだけいない所を選んで進んでいるが全部を捌くのは無理だ、どうしても情報に漏れが出る。一つの場所を見るためには全ての場所から感覚をそらさなければならない。

 

「ひっ!」

 

 乙骨が出遅れた。綴はすぐに後ろへまわり糸で子蜘蛛を拘束する。

 

「手前が怯えてどうすんだよ!?」

「す、すみませんっ!」

 

 思い切り額を叩くと、乙骨は涙目になる。綴は先が思いやられると、元いたポジションに戻る途中で綴はこのイライラを発散させるべく、目の前にいた後輩に目をつけた。

 

「狗巻、乙骨のサポートはしなくていんだよ。さっき、乙骨のために呪言使おうとしたろ。手前がすんのはパンダと真希のサポートだ! 乱すな油断するな、下手すりゃ死ぬぞ」

「明太子!?」

 

 狗巻の額も叩く。

 

「真希! 後ろをチラチラ気にすんじゃねぇ! 鬱陶しい!」

「イッ!?」

 

 真希も叩く。

 

「パンダ……は、特にないが発散させろや」

「なんで!?」

 

 理不尽にも額を叩かれ蹲る四人を後目に、綴は行くぞと言いまた走り出した。

 

「頭割れるかと思った」

「平手なのに殴られたみたいに痛い」

「しゃけ、しゃけ……」

「俺なんかめっちゃ理不尽なんですけど?」

 

 ヒソヒソと話し合う後輩達を睨みつければ、四人ともまた元の位置にそそくさと戻る。

 それからは順調に道を進む。初めは苦戦していた乙骨だが、次第に呪力を放出して子蜘蛛に敵わない相手であることを知らせることができていた。

 子蜘蛛は殺した相手を子蜘蛛にするが、殺された子蜘蛛は祓われたこととなり自我を失う。子蜘蛛の目的はより強くなるために食い殺し合うことだ。

 

「無駄な時間食ったじゃねぇか。

 いいか止まるな何があっても持ち場離れるな」

 

 怖い。乙骨は般若のような人相をした綴に震え上がる。しかし乙骨を助けてくれていたこと、一人づつ悪かった点を教えたりと、面倒見はいい人だ(パンダは思い切りとばっちりだが)

 

「見えた、出口だ!」

 

 あと少しで外に出られる。綴は出口の前に立って殿をする。パンダと真希、狗巻が帳から出ていよいよ乙骨というところで、綴の悲鳴を乙骨は聞き、後ろを振り返る。今まで見てきた子蜘蛛よりも大きな子蜘蛛が綴に噛み付いていたのだ。

 

「甘菜先輩!」

「早く行け! 止まるな!!」

 

 ここで、もしも綴の言う通り帳から出たら綴はどうなるんだろうか。乙骨は迷った、その時足に違和感をおぼえた乙骨が足元を見ると、子蜘蛛達が糸で乙骨の足を縛っているではないか。

 

「あ、甘菜先輩! 足が!!」

「何やってんだ手前はぁ!?」

 

 子蜘蛛を振り払った綴が乙骨の元へ駆けつけようとした時、上から大きな何が降ってきた。

 

 

 

......................................................

 

 

 

【現在・病院内】

 

 

「………」

 

 久しぶりに見た津美紀は、何をしても反応が無かった。つい二年前までは伏黒のことで相談してきていたというのに、その口が動くことはない。

 用意されていた椅子に座り、津美紀を観察する。流石にずっと寝たきりだったため、痩せてしまっている。自分のことは棚に上げるがとても体調が良いようには思えない。

 

「……不思議な感じだ」

 

 自分にとってどうだっていい存在は、死んだって構わない。だが何故だろう、伏黒が助けを必要として、津美紀を守らなければならないとなった時、綴はほぼ迷わずに津美紀の護衛を承諾した。前の自分には無かった変化だ、きっと良い方向に変わっているんだろう。

 夏油は昔、どうしても非呪術師が大嫌いで何を言われても頑として守るだなんてことするつもりがなかった綴に、弱者生存、呪術師は非呪術師を守るべき存在だと何度も言った。

 尊敬する夏油の教えの中で一番理解ができなかった。それでもその教えを綴は守った。だから子蜘蛛が出たあの任務でも一般人を助けることを決めたのだ。そのせいで上手く動くことができなくなってしまったが。

 

 綴は辺りに糸を張る。姿が見えずとも呪力は感じられる。恐らくこれには意味がない。それでも何かできることは無いかと、綴は考える。本当に何をしているんだか、自分でも呆れてしまう。

 

 ん?と綴は糸を張った後に違和感に気が付いた。

 

「まじかよ」

 

 すぐにそちら(・・・)へ向かいたかったが津美紀の護衛を放棄するわけにはいかない。綴は苦虫を噛み潰したような表情を見せるがその場からは動かなかった。

 

 

 

 それからどれほど時間が経っただろう。気が付くと病室の扉を伏黒が開けて入ってくるところだった。

 

「甘菜先輩」

「終わったのか?」

「はい」

 

 そうか、と言うと綴は椅子から腰を上げて伏黒の元へ向かう。

 

「……ま、ちょっとはマシな(ツラ)になったか」

「え? それってどういう……」

「その感覚を忘れんじゃねぇぞ」

 

 伏黒が綴に質問しようとすると、綴は伏黒の額を叩く。訳も分からず呆然とする伏黒だが、綴はさっさと病室を出ていってしまった。

 

「………マシな面…か」

 

 普段から綴には「その面が気に食わない」と額を叩かれる伏黒だが、今回はそこまで痛くなかったような気がする。それに嬉しかった。綴に少しでも認めてもらえた気がした。顔が少しニヤけてるのが自分でもわかった。

 

 

 そんなふうに伏黒から思われているとは梅雨知らず、綴はこの病院の問題の場所へたどり着いた。そこは個室のようで、女の子のクスクスという笑い声が聞こえてくる。誰かと話しているようだが、綴にはそれを気遣う余裕はない。

 躊躇なく扉を開けると、笑い声がピタリと止まる。

 

「……だれ?」

 

 ベッドの上にいたのは幼い少女。そしてその膝の上にいたのは、丸くて黒い、大人の頭とほぼ同じ大きさの同類(・・)だった。

 

《初めましてだな、兄弟よ》

 

 綴は我慢できずにそれを鷲掴みにして地面に叩きつける。

 

「なぁにが、兄弟だ!」

「もち丸!」

 

 少女はベッドから降りるとそれ(子蜘蛛)に駆け寄った。

 有り得ないと綴は頭を抱えるが何度見ても目の前に広がる光景は変わらない。

 

「しっかり使役されてやがる……」

 

 ベシャッと潰れた子蜘蛛だが、徐々に元の形に戻っていっている姿が腹立つ。

 そして、少女の呪力はかなり強力なものであることがわかる。だが、その姿から少女がただの一般人であることがわかった。だからこそわからない。この子蜘蛛は少女に使役されている。

 それは子蜘蛛を生み出した呪術師ですら出来なかった術だ。それを、この何も呪術を学んでいない少女が使役しているだなんて。

 

《まあ話しは聞いてほしい》

「……なんで使役されてんだ?」

《キミ、私の話し聞く気ないな?

 まあいいさ、私が彼女に使役されている理由……それは、彼女が可愛かったから……っ!!》

「ロリコンじゃねぇか!」

 

 綴はまた子蜘蛛を地面に叩きつけた。

 

「もち丸、大丈夫?」

《大丈夫さ、マツリが私の手を握ってくれたらね》

 

 それを聞いて綴はまたキレた。

 

《ええい! 私の話しを聞きたまえよ!》

「いちいち癇に障るようなこと言ってる手前のせいだろうが!

 そんで? これはどういうことだ?」

《話せば長いが……》

「三行で話せ」

《マツリがちっちゃい頃の私を飼う。

 マツリが可愛い。ずっと一緒にいたい。

 マツリと契約したよ、やったねハッピー!!》

「今この場で食ってやろうか……?」

《まってまーーって!! 悪かったからこれ以上マツリの前で無様な姿にしないでくれ!!!》

 

 綴はあまりの出来事に頭を抱え、そして携帯電話を取り出した。

 

「もしもし、五条? ………助けて」

 

 五条に助けを求めるくらい、割と綴は限界だった。

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