呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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23話

「──えーと……どういう状況?」

 

 五条が病室にやって来ると、ちょうど綴が怒りながら黒い物体を床に叩きつけるところだった。五条の問いかけにグリンと振り返り、綴は目を血走らせながら「俺もわからねぇよ!!!」と叫んでココ最近で一番の八つ当たり(飛び蹴り)を五条に食らわせる(避けられたが)

 

「綴が僕に助けを求めるくらいだから、ヤバい案件だとは思ってたけど……ヤバいの方向性が違うよこれは」

「どうするべき? 祓う? 祓う?? これ祓おうぜ? 今すぐ食うから」

「綴の殺意が天元突破。

 食べるのは駄目だからね。ひとまず落ち着いたら?」

 

 そうする、と言い綴は病室を出て行く。

 病室に残ったのは五条ともち丸と呼ばれた子蜘蛛、そしてもち丸を使役しているマツリだけだ。

 

「……使役されている理由は聞いた。随分その子のことを気に入っている」

《────》

「えーとね。《まぁな、マツリのじゅりょく、は私の腹をみたす?のに、じゅーぶんにあるからな》だって」

 

 なるほど、使役者と同類(子蜘蛛)にしか言葉が通じないのか。

 

「君はマツリちゃんだっけ?」

「うん、夏岸(なつぎし)(まつり)です!」

「歳はいくつ?」

「えーとね……五歳!」

「お父さんやお母さんは?」

「いないよ?」

「なるほどー……お前、食ったな?」

《────》

「?」

 

 子蜘蛛は飢えると人や他の呪霊を食べる。カマをかけて言葉がわかるはずがないのにあからさまに狼狽したということがわかった、ということは正解だったようだ。なんてわかりやすい呪霊なんだろう。

 しかしここまでの大きさになっているということは綴ほどとは言えないが、それなりに子蜘蛛を食べている。

 

「クソがっ」

「おかえり」

 

 そうこうしているうちに、綴がペットボトルに入ったジュース類を三本持って帰ってきた。まさか知らないうちに自販機も使えるようになっていたとは。昔は爆発するからと言って近寄りもしなかったのに…………次はどんな嘘をついてやろうかな?

 

「なんか失礼なこと考えてたろ?」

「ナンノコトカナー?」

 

 五条はジュースを受け取ると本題に入ろうと声を掛ける。マツリはいちごオレに気を取られているようだ。

 

「もち丸だったかな?」

《餅のように柔らかいからもち丸だ》

「メカ丸と被るから改名しやがれ」

《無茶を言うな。キミ、さてはこのもちもちパーフェクトBODY(ボディ)が羨ましいのだろう? キミは人型だ、無理もな痛たただただ!! やめっ! 頭が潰れ!? マ、マツリー!!》

「綴ステイ」

 

 もち丸の言葉は綴が同時翻訳することで五条との会話が成立する。途中でそれを放棄されるのは不味いので、できるだけ綴の癇に障るようなことを言わないで欲しいものだ。一応マツリがいるのだが、言葉足らずで言葉の意味がわからないので、発音も曖昧、変な所で言葉を切るのでスムーズに話を聞くには綴の翻訳が最適だ。

 

「もち丸! これおいしい!」

《そうか、良かったな。兄弟よ、褒めて遣わす》

 

 我慢の限界だった綴は、「うがぁぁぁあ!!!」と五条も初めて聞くような声を張り上げてもち丸を床に叩きつけた。本日四回目である。

 

「話進まねぇ……」

「もう頭空っぽにした方がいいと思うよ」

「そうする」

 

 もち丸の話を聞くと、マツリは昔三十蠱毒を生み出した呪術師の子孫であり、その先祖返りであるそうだ。マツリとその家族自体は呪術界とは繋がりはなく、ただの一般人。先祖返りしたマツリを初めは呪ってやろうと画策するものの、その純粋さと優しさに惚れ、百匹揃い、且つマツリがある程度大きくなってから身体を皮として使ってやろうと考えたらしい。

 

「──五条、やっぱり食うか祓うかした方がいい。

 子蜘蛛はどこまで行ってもただの畜生だ。折本里香みてぇに、憑いてる奴絶対に守ろうだなんて意思はねぇだろうし、隙があれば百匹だとか成長してからだとか言う前に食うぞ」

 

 その畜生の兄弟に呪われている綴だからこそ説得力がある。首筋には前相変わらず忌々しい刺青が見える。

 

《そんなことはない、私はマツリがとても大事だ》

「うるせぇよ、ロリコン(畜生)が」

《食物前提でお付き合いしたい》

「──~~っ!」

「綴、翻訳ー、翻訳翻訳〜」

 

 怒りのあまり翻訳を忘れていた。

 

「うーん、どうするべきか……」

「乙骨と虎杖の時みたいにどうにかするのか?」

「ま、あの二人よりもマツリの方が受け入れやすいだろうね。

 飢えなければ主に被害に合うのは被呪者だ。ただ……」

 

 それでは百匹しかいない子蜘蛛を二人が奪い合うことになる。高専が封印していた子蜘蛛は全て盗まれている。オマケに綴が食べた子蜘蛛は三十匹以上、子蜘蛛の残りが少ない。

 それに、いつ許容量を超えるかわからないと度々上層部でも議題に上がる。今は甘菜家という後ろ盾があるが……もしも綴の後釜、呪われている訳ではなく使役している人間、更には三十蠱毒を生み出すほどの実力を持った呪術師の先祖返りが現れれば、恐らく綴は虎杖の時と同じように消されるだろう。

 かといって、この少女を見捨てることはできない。

 

「……ま、死期が早まるってだけだろ? 俺がやるべきことはその時まで変わらない。むしろホッとしてるよ」

「悪いけど、綴には僕よりも強くなってもらって後輩達を育ててもらう予定だから」

「俺が指導者とかマジ無理だわ」

 

 綴はこれを奇跡(・・)だと信じた。三十蠱毒の使役がどんなものかは前例がない。だがこの使役が成功すれば?マツリがこの子蜘蛛共を本当の意味で統制できたら?

 それに、これは呪霊操術だ。かつての師を思い出し、綴はもしものことを考えてしまう。あの人のように、完璧に呪霊操術をマスターして、子蜘蛛と主従関係をハッキリとさせてしまえれば。

 

「………」

 

 いや、なにを考えている?

 今一瞬なにか(・・・)に思考を奪われなかったか?

 とにかく自分はこのもち丸をはやく祓ったほうがいいと………考えているはずなのに?この一連の思考、もち丸を祓わない方向で考えていなかったか?

 

「綴、幸いマツリともち丸は今のところ一心同体という訳では無いらしい。食べた数もそれなりで、綴よりは少ない。いざとなったら引き剥せるだろう。

 この子もこちらに引き込んじゃおうか」

「俺、これ祓おうって……」

「え?そんなこと言ってたっけ?」

「わざとらしい……」

 

 綴は頭をボリボリとかいてから、深くため息を吐きながらわかったよ、とぶっきらぼうに返した。

 

「よし、じゃあマツリともち丸を見つけた綴に二人のこと任せるから」

「え?」

「じゃあ僕はこれで! あ、上層部(馬鹿共)のことは任せて、説得はちゃーんとするから!」

「は?」

 

 まさか、まさかまさかなのか?

 

「マツリちゃん、このお兄ちゃんは甘菜綴君。君のお師匠になる人だ」

「おししょー!」

「それからもち丸、片腕上げて僕と同じ言葉を繰り返してくれ。

 綴は兄弟、食べ物じゃない」

《綴は兄弟、食べ物じゃない》

 

 それだけ言い残すと五条は消えた。

 残るのはやたら高い声で自分をおししょーと呼ぶ少女と、その腕にすっぽりと収まり兄弟と呼んでくる黒い物体だけだった。

 

「五条────!!!」

 

 そして綴はストレスで血反吐を吐いた。

 

 

 

......................................................

 

 

 

【一年前】

 

 

 綴と乙骨の目の前に現れたのはでかい蜘蛛だった。

 

「ま、まさかこれも……」

「子蜘蛛だな」

 

 こんなにでかいのにまだ子供であると言われ、乙骨は戦慄する。生体になればどれほど大きくなるんだろうか。

 

「数的には……十七前後ってところか」

「え、なにが?」

「食った数だよ………やっぱり、ここらの蜘蛛全部食ってやがるな」

 

 現在、綴の食べた子蜘蛛の数はこの子蜘蛛とほぼ変わらない。

 

「食い方悪ぃからデブるんだよ」

 

 綴の挑発を受けたのか、子蜘蛛が糸を吐く。乙骨の足元に絡みついた糸を取って乙骨を抱えると、綴は腕から糸を出して上に避ける。

 

「いいか、絶対に出てくんな。できるだけ戦いを見るな」

「そんな! 先輩一人でそんなこと……っ」

「余裕だっつーの。舐めんなボケ」

 

 綴は子蜘蛛に見えない場所に乙骨を放り捨てると、子蜘蛛と対面する。乙骨がコチラを見ていないことを確認してから綴は足元にいた小さな子蜘蛛を食べた。

 子蜘蛛同士、食べた数が似通っている場合力は拮抗する。ここは少しでも食べて相手と差をつけないと負ける。

 五条や学長の夜蛾にはこっぴどく叱られるだろうが、この場合は仕方がないだろう。ということにして、今回のことは見逃してもらえないだろうか。無理か。




五条悟はとんでもないものを置いていきました。
それは、綴のストレスです。
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