呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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25話

「おぇ」

 

 好物を吐き出してしまった。せっかく買ってきた物なのに。

 現在、綴が食べた子蜘蛛の数は三十四匹。最近まではたったの十七匹だったのにだ。上層部からの命令と強い術式研究を推し進める甘菜家からの圧力により、綴は一気に人から遠ざかった。それに加えて、先日の夏油の件で綴はすっかり参ってしまったのだ。

 

「12月24日、か……」

 

 カレンダーを見ると、もうそれは明日に迫っている。

 夏油は宣言した。12月24日、東京・新宿と京都に千の呪いを解き放つ。百鬼夜行を行なうと。

 綴は正直夏油と戦う気などなかった。そんなことできるはずがない。総力戦だと言われたが覚悟ができるはずがなかった。

 

「何でだよ、傑兄ちゃん」

 

 いつの日か、夏油を面と向かってそう呼ぶことは無くなった。小学2年生になってから、途端に気恥ずかしくなったからだ。それに幼心に"さん"を付けて読んだ方が師弟関係のようでかっこいい、等と思ったのだ。まだ夏油のことを忘れることが出来ない自分に腹が立つ。

 

──仕方がないだろう? 大好きだったんだ。

 

 眠れない夜を綴は過ごした。

 

 

 

 翌日、綴達は新宿にて夏油一派を迎え撃つ準備をしていた。今二年生達は京都に遠征中だったが、綴は任務と体調不良のためついて行けなかった。

 新宿内に糸を張っていく。一度に一箇所しか感知することができなかったが、先日食べた子蜘蛛のおかげで一度に全ての場所の呪力を感知できるようになっていた。

 その場に座り込んでしばらく目を瞑りその時を待つ。その間、まだ夏油が呪詛師になっていない頃を思い出す。なんてことはない、ただの日常の一つ。夏油が綴の右手を持ち、五条が左手を持って、ブランコのようにゆらゆらと綴を揺らして遊んでくれていた時のこと。よく強請ってやってもらっていたっけ。二人ともノリが良かったから断ることなんか無かったし、むしろもっと面白い方法はないか模索していた時もあった。

 

「……来る」

 

 綴は同時に感じた呪力により、目を開けた。

 

「数多数、呪力それなり、夏油さん………がいない?」

「綴も気が付いたか」

 

 すぐ側にいた五条も、ここに夏油が来ていないことがわかったようだ。

 

「おかしいよな?」

「あの目立ちたがりが前線に出てこない……京都の方なら何かしら連絡があるだろ」

 

 二人が何かあると警戒心を上げる中、伊地知が走ってやって来た。どうやら五条に報告があるようだ。その間、綴は糸の範囲を伸ばしていく。その中には高専も入っていた。ここまですると身体の節々が痛んでくる。

 

「綴!」

「!?」

 

 急に五条に引っ張られた綴は、パンダと狗巻の元へ連れて行かれる。

 

「今から三人を呪術高専に送る(・・)

「はぁ!??」

 

 夏油は呪術高専にいると、五条はそう言った。そして最悪の場合乙骨と真希が死ぬであろうと。五条は夏油一派の中にいる異人の呪詛師を倒してからこちらに向かうようだ。

 綴は最悪を考えた。人の死は多く見てきたつもりだ。それなりに長い付き合いをした人物もその中に入っている。それなのに綴は乙骨が真希の死を考え、サッと血の気が引いてしまった。出会って、まともに交流したのはここ数週間のことだ。しかし綴はハッキリと「それは嫌だ」と思った。

 

「綴、一年生達を頼んだ!」

「わかった」

 

 綴の返事を聞いてから五条は三人を呪術高専へ術で飛ばした。

 

 

 

......................................................

 

 

 

【現在】

 

 夏岸祭が病院にいた理由は両親を何者かに殺害され、彼女は精神的に参ったダメージにより虚空に話しかけ、もち丸という架空の友人を作ってしまっているから……ということらしい。

 マツリの両親は親族とは殆ど縁を切っており、誰がマツリを引き取るのか揉めていたようだ。

 そこに現れたのが五条悟と名乗る胡散臭い男。なんとこの男、マツリを引き取ると言ってきたのだ。胡散臭いが彼は高等専門学校の教師と言うではないか。しかも知り合いに専門の医師がいるそうだ。

 しかし何故縁もゆかりも無い五条がマツリを引き取ると言い出した?その質問をぶつけると、マツリの両親とは交流がありもしもの時はマツリのことを任されているのだ。という冷静に考えると色々と嘘くさい話だが、厄介者を押し付け合っていた親族からすれば手を挙げて喜ぶほど、違和感など感じていなかった。

 

「そんなわけで! 今日から呪術師見習いの夏岸祭ちゃんでーす!!」

「マジでやりやがったこの男!」

 

 そしてそのマツリを綴に押し付けてくるのは目に見てえいる。

 

「おししょー! ふつつかもの、ですが、よろしくお願いします」

《世話になるぞ、兄弟》

「あーもー、何が何だかー!!」

 

 綴は頭を抱えて叫ぶ。最近こんなことが多いような気がする。

 

「あ、それから一年と二年が一級呪術師に推薦されたから、そっちの修行もよろしくー!」

「は!? それも!? 待て待て! いくら何でも今の俺には重労働だし、なにより俺学長に根回し……」

「え? ナンノコトカナー?」

 

 残念、五条はこんな奴だ。無責任に色んなことを押し付けていった五条はそのままどこかへ行ってしまった。

 夜蛾に後輩や同級生との接触をできるだけ無くしたいと言っていた。夜蛾も渋々ではあるがそれを了承してくれたはずだ。きっとこれは五条の独断だろう。

 

「あ、甘菜先輩マジでいた!」

 

 五条と入れ替わりのようにやってきたのは一年生達だった。

 

「……もう、どうにでもなりやがれってんだ!!」

 

 とりあえずこのイライラをぶつけるべく、虎杖、伏黒、釘崎の順番で額を叩いた。あまりの痛みに床に崩れ落ちる三人を見下ろして、綴は修行の準備に取り掛かる。

 といっても綴がやれることは少ない。準備中に時間ができれば五条も手伝うという旨のメールがきていたから、そこまで深く考えなくてもいいようだ。なら初めからそう言ってくれと壁をぶん殴る。

 

「先輩、あの子誰?」

 

 もう虎杖と馴染んで肩車してもらっている作務衣姿のマツリを釘崎が指差しで質問する。

 

「コイツも今日から一緒に鍛える。夏岸祭だ」

「マツリです! おししょーのでしです!」

《マツリの嫁、もち丸です》

 

 もち丸は綴に踏み潰された。

 

「手前ら一年共の面倒を見ろと言われたが、基本的に各自好きなことしてりゃいいよ」

「じゃあ先輩に挑んでもいいっすか!?」

「その場合強制的に俺から一本取らないと出られない道場にシフトチェンジする」

「何その仕様!?」

 

 各自それぞれ組手をしたり思い思いにしている間、綴はマツリの相手をすることになる。

 

「腕もうちょい上げろ」

 

 まずは構えから。見本を見せながらゆっくりと教えていく。

 マツリが子供だからか、虎杖や伏黒の時よりもだいぶ優しい教え方をしている。

 

「こう?」

「次は上げすぎ……そう、基本はそれ。あとは……」

 

 その様子を見て、虎杖はなんとなくモヤッと煙のように現れた感情に戸惑った。

 

「どうした、虎杖?」

「や、なんでもない!」

 

 今のはいったいなんだったのだろう。と考える間もなく、足元にいた蜘蛛の呪霊に虎杖は驚く。

 

「びっっくりしたぁ!!?」

《ほう、懐かしい呪力を感知したと思ったら……両面宿儺だな。

 初めまして私は三十蠱毒の百呪蜘蛛、もち丸だ。母の腹の中で貴方の呪力はよく感知していたぞ! しかし産まれてビックリ、その頃には貴方はバラバラにされて封印されたというでは無いか!》

 

 当然、虎杖やその中にいる宿儺にもち丸の言葉が通じるはずもなく。もち丸は虎杖に指(?)を差して「ぎゅーぎゅー」鳴く蜘蛛である。もちろん宿儺はこれが子蜘蛛であることに気が付いたが、毛ほども興味がなかった。なんなら伏黒をガン見してた。

 

《しかもなんだね、その姿! 人の身体に入り、しかも乗っ取れないとは! 我が兄弟も似たようなものだが、それでも呪霊の王かね!? む!? 何をする両面宿儺の器! 私のもちもちPerfectBodyを鷲掴みにするでない!!》

「せんぱーい、この怪生物なんスか?」

「マツリが使役してる呪霊だ。あんま触んな、汚れるから」

 

 「ぎゅーぎゅー」いいながら、やれやれというポーズを取っていたもち丸を鷲掴みにして綴に見せる。しかし綴は助けるどころか、もち丸を遠回しに汚いと言った。

 

《マーツリー!!!》

「あ! もち丸ー! わたし、かっこいい!?」

《かっこかわいいよー! 私のマツリー!!》

 

 マツリに助けを求めたが、マツリの満面の笑みを見れたのでもうなんでも良くなったもち丸であった。

 

「アイツ、まじで埋めてこようかな?」

 

 綴の呟きは聞こえないふりをしてもち丸はマツリに愛を叫ぶ。

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