この後にハロウィンできたらいいなー。
そんな大きな事件があってから、あと2ヶ月ほどで1年が経つ。
甘菜綴は大の字に寝そべり、その周りを五条悟とその五条に任された(強制的)1年生達と夏岸祭が取り囲んでいた。
「悠仁が呼びに来たから何事かと思ったら……何やってんの?」
「くっ! 殺せ!!」
「いや、殺せじゃなくて」
来る日も来る日も1年生とマツリの面倒を見る日々に、綴はついに壊れた。虎杖1人見るのにも精一杯だった綴からすれば、同時に4人は流石にキツかった。虎杖曰く、自分達がここに来た時点でもうこの状態だとか。
「そもそもおれの任務どうしたよ!?」
「そこはほら、僕の人脈で」
「人脈あっても人徳ないくせによく引き受けてもらえたな!?」
「綴は人脈も人徳もないよな!」
五条が綴の両腕を引っ張り無理矢理起こそうとするが、綴は逆に下へ五条を引っ張る。ただ、綴の体重が軽いため五条が本気を出せばすぐに引っ張り上げられてしまうだろう。
「甘菜先輩めっちゃ楽しそうだな」
「何を見たらそんな感想言えんのよ」
虎杖の感想に釘崎が突っ込む。
「え? 伏黒もそう思わね?」
「まあ……いつもよりかは、テンション高い気がする」
「あー、はいはい。あんた達が甘菜先輩のこと大好きなのはわかったわ」
綴がここまでテンションが高くなっているのは、久々に五条を振り回して構って貰えているからなのだが、五条はそれを知らないし綴は言うつもりなどない。どんな人間でもたまには子供に返りたいのだ。
五条が綴の「あー…」という間の抜けた声と共に、綴をついに引っ張り上げたのを綴と五条のやり取りを静観していた虎杖達は見て、綴の周りへやってきた。
「とりあえず組手してろ」
心做しかゲンナリした様子の綴が五条に吊られながら言い渡す。
「はい!」
「なんだ虎杖」
「ずっと組手しかしてません!」
「アドバイスとかしてるだろ」
いや、そういうことじゃなくて。と言いたくても綴に威圧されて黙るしかなかった。
まともに指導しているのはマツリくらいだ。他はもう基礎が出来ているのだし、と基本放置。チラッと見て良くない箇所を指摘する程度。この男、指導者として全く向いていない。
「え、今までずっと? ウケる」
「ウケないでください」
五条は綴に苦言するどころか、ただ笑うだけだった。
この頃にはもう虎杖も釘崎も五条が綴にめっぽう甘いことに薄々気が付き始めていた。伏黒はすでに知っていたことだが毎度毎度呆れてしまう。他の生徒に比べると5割増くらい綴に構いたがって、何かと特別扱いしているのが五条悟という男だ。
しかし、綴が本気で1年生達を教える気がないことを察した五条は、流石にこれは良くないと、五条なりに綴を説得してみることにした。
「そっかー、綴には無理だったかー」
つーん、と素っ気ない態度をとる綴に、五条はイラッとするがすぐに綴に気付かれないようあくどい笑みをその顔に浮かべた。
「これでも頼りにしてたんだけどなー、綴なら余裕でこれくらい出来ると思ってたんだけどなー。そっかそっかー、綴はそうやって出来ないことから逃げるんだー」
「は? 逃げてねぇし」
よし食い付いたぞ。
「えー? だって自信がないから適当に3人をはぐらかして、終わらせようとしているんだろ?」
「ちげーし、勝手なこと言ってんなよ」
「ならちゃーんと相手してあげられると思うんだけどなー?」
「できるし、クソ余裕だわ」
五条はそう言った綴の肩をポンと叩き「ならできるよね?」と伝えると、綴はハッとする。しまった、つい"できる"と言ってしまった。しかも"余裕"だとも言ってしまった。
恐る恐る
虎杖達の方を見ると、虎杖は目をキラキラと輝かせ伏黒も何となく嬉しそうにしているようだ。
やられた。言質を取られた。まずい。様々な思いが頭の中を飛び交う。どうすれば諦めてくれるんだろう?だがそうやって焦る綴を置いて、五条は「じゃ、あとよろしくー!」と去って行った。
「……………………次来たら松葉」
「物騒!?」
長い沈黙の後に綴は仕方なく3人をまともに教えたが、終わった後にはいつも以上に疲れて起き上がってこない1年生達の姿があったという。