29話
昔の夢を見ていた。
「素晴らしい! 君は本当に素晴らしいよ!」
興奮したような男の声が耳に届く。
自分は白い部屋で仰向けになって寝転んでいて、その胸や足、腕には鉄杭が刺さって、まるで虫の標本のようだ。なのに、自分はまだ生きている。
襲ってくる痛みを耐えて、どれだけ死んだほうがマシだと叫んでも繰り返される。
痛い、痛い痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い、痛い。
何年……いや、もしかしたら2ヶ月も経っていなかったかもしれない。だがそれだけ長い地獄のような日々は、まだ10歳にもなっていない子供の人格を壊すには充分過ぎた。その頃になると自分は痛みに叫ぶことも無くなっていた。
あの男はそれが気に入らなかったのだろう。今度は白い杭を持ってきた。
「これは、君の■■■■■だよ。よかったね、これからずっと一緒にいてくれるそうだ」
実に数週間ぶりに声を上げた。殺してやる、とだがそれも虚しく白い杭は腹に突き刺さり、激痛を与えた。
・
・
・
死んでしまえ、死んでしまえ死んでしまえ、あいつら全員死んでしまえ。殺す殺す、殺してやる。ここから出せ。出せ。なんでどうして。痛い痛い痛い。嫌だ嫌だ。
・
・
・
・
・
・
殺して。
・
・
・
白い部屋がの壁が崩れた。
いったいなんだろう、と目だけを動かすとそこにはよく知っている姿があった。
「遅くなってごめん。綴、迎えに来たよ」
自然と涙が溢れてくる。
そこで悪夢は終わり、後輩達の声で現実へ引っ張られた。
「先輩、なんか魘されてたけど、大丈夫?」
「………大丈夫」
とりあえずそう答えてみる。
「ついたのか?」
「ええ、でも……あそこにいるのって、甘菜家の……」
車から降りれば嫌でも目に入るのはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる男だ。甘菜
綴は思わず息を詰まらせるが、すぐに平常時の仏頂面に戻る。
「やあ、綴! 会えるのを楽しみにしていたよ。いったい何年ぶりだ? 大きくなって!」
笑って綴の肩に触れる綱治だが、綴はその行動に鳥肌を立てる。
「任務が目的だ。俺は楽しみじゃなかった」
綴がそう言うと、綱治は残念だと綴から離れる。
「その反応は、まだ
「うるせぇ……今回の任務、アンタとも勿論協力はする。たがそれ以上、おれに関わってくんな」
そう吐き捨てると、綴は綱治から離れて宿泊先へとむかう。
今回の任務は京都のとある山奥での失踪事件。それと同時にその山の近くで失踪者と同じ数の呪霊が確認された。失踪者の捜索と呪霊の討伐。それが任務の内容だ。
「しかし、こんな任務に5人も使うなんて……何処も彼処も人手不足だってのによ」
「先輩、さっきの人は?」
「認めたくはないが、戸籍上では上から4番目の兄貴。伏黒は1回会ったことあるな?」
「まぁ……はい。良い印象はありませんけど」
後を追ってきた虎杖と伏黒、釘崎をチラリと見てから綴は答える。
「できるだけアイツに近寄んな。特に虎杖」
「え!? なんで名指し!?」
「アイツは呪霊研究を主にやってるからな。宿儺の受肉体なんざ、解剖したくてしょうがねぇだろうさ」
下手すれば解剖されると知った虎杖の背中はゾワっとした。マジで?と伏黒のほうを見れば、首を縦に振って肯定される。
「気ぃつけろ。アイツは甘菜の中でも我慢できないタイプの人間だから、寝てる間に首と身体離れてるってこともある」
そう虎杖に言い放つ綴の笑みは、今まで見たことがないほどに悪どいものだった。
────────────
「今回の任務、あんたも着いて行ったら?」
「綴のこと?」
家入梢子の言葉に五条はカルテを見ながらうーんと唸る。
五条が見ているカルテには現在綴が併発している症状が書き込まれていた。
「味覚障害、不眠症、鈍痛、幻聴、幻覚、光過敏性発作……聴覚過敏……増えてるね」
「蛍光灯の音でも気になって仕方がないみたいだ」
過食症までは五条も知っていた症状だったが、ここ数日で聴覚過敏が追加されていた。確かに最近は妙に物音に敏感になっている様子が見られていたが……。
「私の前でも誤魔化していたみたいだが、すぐにわかったよ」
「身長と体重も気になるね」
現在、綴の身長は166cm。2年前は163cmで、ほとんど伸びていない。成長期が始まるのはだいたい12歳からだが……その頃からも綴の身長は1年で1cmから2cm、よくて3cmほどしか伸びないのだ。
「元々身長は高い方だったから、すぐに成長が終わっちゃったっていう可能性もあるかも知れないけど」
「そこは本人も気にしていたな」
それよりも気にするべき点は……。
「46kgか……」
軽い。166cmの標準体重は60.6kg、理想体重でも57.9kgだ。綴の体重はそれを大きく下回っている。この季節になってから作務衣の上に羽織を着たりして誤魔化しているようだがたまに袖から見える腕はとても細い。
「最近は綴の体調のこともあって任務に行かせなかったんだろ? なんでまた、この任務に……」
「僕も断り続けてたんだけど、
上層部は綴を任務に行かせなさすぎだという理由で任務に引っ張りだそうとしていた。もちろん五条も黙っていない。ほかの任務ならまだいい。だが今回の任務はダメだ。そう何度も訴え、交渉するが、今回は相手が何枚も上手だった。きっと飽きる程の時間をこの時のために費やしたに違いない。
「……正直やり過ぎたかな」
「最近の過保護ぶりには本当に飽きれるよ」
綴も引くほどに過保護になっていた自覚はある。過保護だとそういったが、
過保護なのは甘菜家の人間と変わらないが、綴がそれを許容していること、過保護ではあるが過干渉はしていないことで綴は五条に嫌悪感を持つことはなかった。ただ、庇護対象として見られるのは我慢ならないようではある。
「だからこそ、僕がこれ以上綴にあーだこーだ言えば確実に冷たくなる。5割増しくらいで。
最終的に行くと言ったのは綴だ。それにあの3人もいるから綴が嫌な思いをすることには、きっとならないと思う。
綴には、僕や