呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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今回も前章みたいな過去と現在行ったり来たりになると思います。


30話

【12年前】

 

「傑兄ちゃんの嘘つきー!!!」

「ごめん! 本当にごめんね、綴!!」

 

 夏油傑の足にしがみついて離れない黒髪の少年、甘菜綴は長期休暇を利用して夏油に会いに来ていた。この日は、せっかくの休みだし遊園地でも行って一緒に遊ぼうか、と約束をした日だった。

 しかし、そんな夏油に緊急の任務が入り、夜も眠れなかったほどこの日を楽しみにしていた綴は置いていかれることとなった。

 

「任務と俺、どっちがだいじなのー!?」

「なんでそんな言葉知ってるの!? 誰から教わった!?」

「悟兄ちゃんー!」

「さーとーるー」

 

 夏油の部屋での騒ぎを聞きつけてやって来て、勝手に部屋で寛いでいる五条悟を睨みつけるが、五条は何処吹く風。

 

「あのな、綴。別に綴が嫌いだから行くわけじゃないんだ」

 

 出て行かなければならない時間はもうそこまで迫ってきている。夏油はしゃがんで目線を綴に合わせて語りかける。

 

「じゃあ、一緒に遊園地行こ」

「それは……ちょっと」

「やっぱり傑兄ちゃんは嘘つき!」

「うん、本当にごめん!」

 

 前日からあまり好きではないはずの非術師が沢山いるスーパーマーケットへ行き、300円分のお菓子(和菓子が多かった)を買い、明日着る服をこれでもないあれでもないとコーディネートする綴の姿を見ているからこそ、罪悪感が半端ない。

 

「傑ー、綴のことは俺が何とかしておくから、早く行ってこいよ」

「すまない悟! 綴、次は絶対に一緒に行こうな!」

「次っていつー!!?」

 

 綴は五条に抱き上げられ、夏油を捕まえることができない。

 

「綴、呪術は非術師を守るためにあるんだ」

「………うん」

 

 それはこういった時によく夏油が綴に言い聞かせる言葉だ。そしてこの後は絶対に……。

 

「いつもの喫茶店のいちごショートケーキ、買って帰るからさ」

「いちごショートケーキ!」

 

 そう言うと、綴の顔がパッと明るくなった。とある喫茶店でお持ち帰りもできるいちごショートケーキは綴の大好物である。食べることが大好きな綴だが味の濃い物や洋食が苦手だった。だがここのショートケーキはあまさが控え目で綴の舌にもあうようだった。

 

「えー、あそこのショートケーキ全然甘くないじゃん。却下!」

「別に悟に買ってくるわけじゃないからな。綴のために買うんだからな」

 

 この図々しい親友は置いておいて、夏油は綴の頭を撫でる。もっともっと、と強請る綴に構ってあげたいのは山々だがもう行かなくてはならない。

 

「行ってきます、綴」

「行ってらっしゃい、傑兄ちゃん」

 

 綴は素直で優しい子だ。表情はコロコロ変わって、でも1番多いのは満面の笑みだろう。仏頂面をしている時は約束を破られたとか、五条に揶揄われて泣かされた後とか、それくらいしか見たことがない。

 今日は速攻で終わらせよう。夏油は気合を入れて任務へ挑んだ。

 

 

「悟兄ちゃん、悟兄ちゃん、なんで自動販売機っていつも飲み物いっぱいあるの?」

「………」

 

──でた、綴の何故何攻撃。

 

 夏油がいなくなった部屋で、長期休暇の宿題をしていた綴が五条に聞いた。

 もちろん五条にとっても綴は大事な弟分だ。夏油のそれは少し度が超えている部分もあるように感じることもあるが。非術師でなければどんな人間とも仲良くなれる人懐っこさと可愛らしい笑顔は贔屓目なしでもそこらの子供よりも上だ。オマケに小学生とは思えないほどの純粋無垢さから出てくる癒しオーラは誰にも負けないはずだ。

 が、この何故何攻撃だけは五条は苦手だった。

 

──傑はよくこの何故何攻撃にスラスラと答えられるよな。いい加減にしてくれとか思わないんだろうか……?

 

「綴、知ってる?」

「なにを?」

「自動販売機のボタン……あれね、押すとたまに爆発するんだよ」

「え?」

 

 綴の顔はみるみるうちに真っ青になる。

 

「ずっと外にある自動販売機なんか特に。だってそうだろ? 機械を雨の日も外に置きっぱなしなんだから。

 業者は自動販売機を開けられるから、自動販売機が壊れていないか観るついでに飲み物補充してるんだよ。ま、たまにめんどくさくて、悪いところがあってもそのまんまーってこともある」

 

 綴が右手に持っていた鉛筆が机の上にカターンっと音を立てて落ちた。

 

「ちなみに、怪死者・行方不明者のほとんどが呪いのせいだけど………その第2位って……自動販売機爆発事件で起きてるんだって……まあ、政府は隠蔽して……」

 

 綴はカタカタと震え出す。

 

「す、傑にいちゃーーん!!」

「あ、綴!? どこ行くんだよ!?」

 

 綴は思わず部屋を飛び出した。

 夏油に助けを求めて走っていると、呪術高専では数少ない自動販売機で飲み物を買おうとする家入硝子と鉢合わせる。

 

「硝子姉ちゃん! ダメーー!! 自動販売機はダメーー!!」

「ん、綴? どうかした?」

 

 家入にしがみつくと、案の定家入は困惑する。

 彼女にとっても綴は可愛い弟のようなものだ。しがみついてきた綴を抱き上げたところで、追いかけてきた五条がやって来る。

 

「悟兄ちゃんがー、悟兄ちゃんがー!」

「……五条、まさかとうとう犯罪を……」

「違うから!」

「硝子姉ちゃん、ジュースなら作って持ってきた梅シロップあるから、それ飲もうよー。自動販売機爆発するよー」

「え、あの桐箱に入ってたのってまさか梅シロップ!?」

 

 えぐえぐと泣きながらわけのわからないことを言う綴と、胡散臭い笑みを浮かべる五条を見て、また五条が綴をからかったのだということがすぐにわかった。

 

「……五条は帰ってきた夏油に殴られたらいい」

「なんで!? 俺良いお兄ちゃんしてたよ!?」

 

 後日、五条は自動販売機とは別件に、綴に五条の宿題(数学)を教えて解かせていた件で任務から帰ってきた夏油に殴られるがそれは別の話とする。

 

 

 

......................................................

 

 

 

【現在・京都】

 

 

「……また、夢を見ていたような気がする」

 

 綴はまだ日も昇っていない時間にも関わらず、隣で寝ている虎杖と伏黒を起こさないように制服に着替え始める。

 昨日はまともに調査ができず、次の日に改めて調査することになった。今日は少しでもいい、何か成果を上げておかないと綱治に何を言われるかわからない。

 

「しかし、久々に寝れたような気がするな……」

 

 とはいえ、綴が最後に時計を見たのは夜中の3時、それからまだ1時間も経っていない。

 衣類を脱ぐ音でも脳に突き刺さるような感覚を覚えながら着替え終えた綴は、部屋のベランダへと向かった。カーテンを開けて窓の外を見る。街中でよく見かけるような蛍光灯の類はこの辺りにはなく、月の光だけがこの辺りいったいを照らしていた。そちらの方が綴には都合がよかった。

 蛍光灯やテレビの光などを見ていると最近よく頭痛を起こす。まだ事情を知らないものにはバレていないようではあるが、いつバレてしまうかわからない。

 

「んん?」

「悪い、起こしたか?」

 

 月の光が思ったよりも眩しかったのか布団の中で伏黒が目をこすっている。

 

「……まだ4時前ですよ?」

「目が覚めた。もう眠くないから起きてる」

 

 本当はまだ眠い。しかし布団に入っても寝られる気がしないのだ。

 

「そういえば、先輩が寝てるとこ、見たことがないです」

 

 綴が中学生になった頃、当時小学5年生だった伏黒を五条に紹介されてから、2人の交流は始まった。来るものを拒まず、去るものを追わずな綴といるのは結構気が楽だった。伏黒は五条から綴は自分と少し似た生い立ちだと聞かされている。詳しいことはあのデリカシーのない五条にしては珍しく何も言わなかった。

 

「伏黒、俺に付き合って無理して起きてないでとっとと寝ろ」

 

 綴と話すために起きていることを見破られて、伏黒は大人しく布団に入った。

 

「俺はそこまで寝なくても良いんだよ。寝たって、しんどいだけだ」

 

 今日はひどい夢を見たが悪夢を見た訳では無い。しかしいつもはこうではないのだ。だからできるだけ寝たくない。寝る時は何も考えられないくらいどっぷりと眠りたい。

 

──やっぱり、もう1回くらい家入さんに薬の相談するか……病院には行きたくないし。

 

 そんなことを考えている綴の横顔を眺めながら、伏黒はまた眠りについた。

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