呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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32話

 お土産屋に入ると、観光客はチラホラと見える程度だ。特に目新しい物があるという訳ではないが、京都土産としては上々のラインナップだ。

 

「やー、懐かしいですねー。昔は修学旅行でよくこういうよく分からないキーホルダー買ってたなー」

 

 重森が持つ剣のキーホルダーをぼんやりと眺めつつ、綴は店の様子に気を配る。

 

「……おい、店の人に人が少ない理由を聞け」

「え? なんで?」

「この時間帯、もう少し人が入ってもいいはずだ」

 

 コミュニケーション能力皆無な綴は重森に頼るしかない。

 重森はそこに気が付くとは流石京都に住んでいたことはある、と1人で納得して店で品出しなどをしていた店員に話を聞くことにした。

 重森がいなくなってから、綴はまた店内をぼんやり眺め始めた。すると視界の端に見知った姿を捉える。

 

「釘崎?」

「あ、先輩」

「こんな所で何やってんだよ」

「何って、お土産見に来たんです。

 せっかく京都に来たんだし!」

 

 任務先が京都と聞いて、1番喜んだのは釘崎だった。前回の姉妹校交流会では釘崎の盛大な勘違いもあり、京都に行く準備をしていたのに京都に行けなかった彼女にとって、飛びつくほど嬉しい頼りだった。

 

「ま、速攻で片付けられたら観光する時間くらい取れるだろ。

 土産は帰る時でいい、荷物かさばる。帰る時間気にするなら事前に誰に何を買うか決めて在庫がどの程度とか店員に聞いておけばいい」

 

 それを聞いて、釘崎はポカンと口を開け目を丸くして綴を見る。

 

「っんだよ」

「いや、めっちゃ詳しいっていうか。流石京都に住んでいたことはある」

「ちげェよ。五条とか3年の連中に任務先の土産強請られるから、覚えちまっただけだ」

 

 釘崎は綴に額を叩かれた。人の少ない店内ではよく響き、何人かが何事かとこちらを見る。

 

「いったぁ!?」

「言っとくが、京都に住んでるからって土産事情に聡いわけじゃねんだよ。何夢見てやがる?」

 

 叩く理由はあったのだろうか。

 そもそも釘崎は綴のことがよくわからない。顔が良くて、五条とは昔からの付き合いで、2年生にトラウマを植え付けていて、虎杖と伏黒に何故か大尊敬されている。ということくらいしか知らない。

 釘崎と綴の交流は全くと言ってもいいほどない。せいぜい最近の綴主催『五条にムカついたのでその八つ当たり(OKでないと休めません大会)』でボコボコにされたくらいだ。

 

「あの、お土産選びで困っていますか?」

 

 2人が話していると、着物を着たこのお土産屋で1番大人しそうな女性がやって来た。

 

「良ければ、私相談に乗りますけど……」

「えと……じゃあ、とりあえず食べ物でなにか」

 

 釘崎は女性について食品コーナーへ進んで行く。一方綴は店の外に置いてあった長椅子に腰掛けた。

 

「あの方、お連れ様では?」

「え? あー、あれよ、学校の先輩」

「制服姿ですし、やっぱり学生さんだったんですね? でも、今日は平日ですよ? 何をしにここへ?」

 

 えーと……と釘崎は悩む。こういうことは基本窓がやってくれている。下手なことを言ってしまえば不信感を持たれてしまうだろうし、そしたら同じ制服を着ている虎杖や伏黒もとばっちりを受けてしまうのではないだろうか?

 

「学校活動の一環ですよ!」

 

 そこに割って入ってきたのは重森だった。

 

「えーと、貴方は?」

「僕は引率で着いてきてるんです。だから、安心(・・)してください」

 

 女性はホッとしたように胸を撫で下ろす。

 

「す、すみません。実は最近この近くで行方不明者が多発していると根も葉もない噂が立っていて……それに釣られるように、ガラの悪い学生が集まっていて。そのせいでお客さんが減っていて……」

「根も葉もない噂?」

「はい。あそこの山、見えますか?」

 

 店内からでも見える場所に山がそびえているのが見えた。何の変哲もない普通の山に見えるし、女性が言うには実際にそうなのだというが、最近どうやらそうでも無いらしいのだ。

 

「あそこに入った人は行方不明になると……それに尾鰭が付くような形で。今度は行方不明者が多発していると。今度はその行方不明者が化け物になって襲いに来るとか……それを間に受けて度胸試しに来るんですよ」

 

 女性は本当に迷惑しているようで、着けていた前掛けをギュッと握りしめていた。

 

「なるほどね……その噂が嘘なら、あの山入っても大丈夫だね! 

 実は学校活動って、紅葉する前の木々の様子及び市場の調査で、ここが穴場って聞いたからなんですよ」

「そうだったんですね。本当にごめんなさい、勘違いしていて……あなた達も度胸試しに来たのかと……さっきの方、かなりガラが悪そうだったし」

 

 さっきの方、とは綴のことだろう。確かに綴のことを知らない人から見ればただのガラの悪いヤンキーだ。本人はずーっと外の長椅子に腰掛けて、またにあくびをしているようだ。

 

「茶化しに来た人でないなら大歓迎ですよ! お土産のことなら、この私にドンとお任せ下さい!」

 

 先程の大人しさはなんだったのか。女性はやけにグイグイと釘崎に商品の説明を始めていた。しかしそのどれもが今後のお土産選びには欠かせない情報ばかりで、釘崎も楽しそうにしている。

 

「甘菜君も混ざればいいのにー、どうせ五条さんに買うんだか、ら……」

 

 重森が綴の方に目線をやると、そこにはさっき女性が言っていた、度胸試しにきたであろうヤンキー達に囲まれた。

 

──この人、なにやってんのー!!?

 

 

 

 時は少々遡る。

 綴は長椅子でぼんやり外を眺めていただけだ。そこにたまたま通りかかったヤンキー集団。綴はそれも眺めていただけだ。だが、何故かそれがガンをつけていると思われたらしく、いつの間にか喧嘩を売られていた。ので、丁重にもてなした結果何故か兄貴と呼ばれ囲まれていた。

 

「なにやってんの、あんた?」

「知らん」

 

 重森に話しかけられた綴はヤンキー集団に手でどっか行けと伝えると、それを汲んだ彼らがすぐ綴に頭を下げながらそそくさとその場を後にした。

 

「アイツら、度胸試しとかなんとか言ってたが……そっちはなんか収穫あったか?」

「まさにそれですよ。最近の若者に大人気らしいです」

 

 その言葉に綴は馬鹿だなぁ、と溜息を吐きながら思った。

 

「っていうか、なにやったらヤンキーにあんなに懐かれるんですか?」

「喧嘩売られたから回し蹴りした」

「やめてくださいよ。ここで甘菜君に何かあったら、僕が五条さんに殺されるんですからね」

「ねぇよ」

「……」

 

 綴関連で五条が補助監督の人間の胃に穴を開けそうになったことは多々あると、噂では聞いている。

 

「せいぜい俺の事笑いに来てからかわれるだけだ」

「………はぁ…」

 

 綴は五条が自分に妙に甘いことを知っているが、まさか他人が被害にあっているとは思ってもみていないのだろう。そんなところが更に彼らの胃を苦しめるのだ。

 

 

 

......................................................

 

 

 

【11年前・京都】

 

 

 黒いふわふわとした髪を持つ少年、甘菜綴は道の先にいた呪霊を見て固まっていた。

 

「どうしよ……人いっぱいいるし…あんまり祓うとこ見られたくないな……うわ、目合っちゃった、ついてくるやつ? なら都合いいかな?」

 

 ランドセルを背負ったまま綴はうーんと悩む。

 例え非術師が見えないからといって目立つ場所で祓ってしまうのはなんとなく気が引けてしまう。周りに被害を出したくないからだ。

 

「よし、ならこのまま……」

「このまま、どうするの?」

「え? あ、あれ? 夏油さん? なんでここに!?」

 

 振り返ると、そこにいたのは敬愛する師である夏油だった。

 

「あの程度なら綴も祓えると思うけど?」

「うん、出来ると思うよ」

「ならどうしてここで悩んでいたんだ?」

「いや、だって夏油さんいつも言ってるじゃん。非術師は守らないと。俺だと……ほら、失敗するかもだし」

 

 なるほど、と夏油が呟くと呪霊が道にいた呪霊を食い殺した。

 

「これはら良いかな?」

「わ、やっぱり夏油さんすごい! でもいいの? 食べないの?」

「今はそれより綴が大事だから」

 

 綴は夏油にそう言ってもらえたらだけで頬を紅潮させた。

 

「そうだ、夏油さんは任務?」

「ううん、私はね綴に会いたかったんだよ。ただそれだけの為にここに来た」

 

 夏油の言っている意味がよくわからず、綴は首をこてんと傾けた。本当に?自分に会うためだけに?なんの約束もしていないのに?その事実をひとつひとつ噛み締めてから、綴の顔はパッと花が咲くようにほころんだ。

 

「俺のために!?」

「うん」

「俺と会うためだけに!?」

「そうだよ」

「夏油さん! 俺、うれしい!」

 

 綴は夏油に抱きつく。夏油もそれに応えるように綴を抱き締める。そして頭まで撫でられたら今度はデレデレと顔が溶けてしまいそうになる。

 

「最近、五条さんも全然会えなかったから、すごくうれしい。

 あ、五条さんは? 任務?」

「まあ、そんなところかな」

 

 綴と夏油は近くにある公園のベンチに座ろうと手を繋いでから進む。

 

「七海さんも?」

「さぁ、どうだったかな?」

「あ、じゃあ灰原さんは? この前ね灰原さんが混ぜたら美味しくなるお菓子? 持ってきてくれるって………夏油さん?」

 

 夏油や五条の後輩である灰原雄に有名な知育菓子のことを聞いて食べてみたいと思ったが、家の人間に阻まれたので灰原に今度こっそり持ってくると約束をしていたのだ。恐らく綴の口には合わないだろうということは2人共百も承知。しかし好奇心を刺激されてしまったのだ。食べれなければ自分がたべるから、と灰原が言ってくれたので安心してチャレンジできる。

 だが、灰原のことを尋ねると夏油はその場で足を止めてしまった。

 

「………綴、灰原は…」

 

 そこで綴は察してしまった。灰原が死んでしまったことを。

 

「夏油さん、無理、しなくていいからね?」

「綴、強がってるけど目からポロポロ涙が出てるよ?」

「そんなことないもん!」

 

 しかし溢れる涙は抑えられない。それからしばらく、綴は夏油に抱き締められたまま声を押し殺して泣いた。呪術師にはよくあることだ。しかし、辛いものは辛い。

 

 

 この日、綴は人生で最も大きな転機を迎えることになってしまう。

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