呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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33話

「綴、何か飲み物でもいるかな?」

「良いの? でもこの近くに喫茶店ない……あ、自動販売機を!? ダメだよ夏油さん! 爆発する!」

 

 五条に余計なことを教えられたせいで未だに自動販売機は爆発するものだと綴は思っているようだ。

 

「綴」

「なに?」

「私はね、百発百中で安全なボタンを当てることができるんだ」

「あ、安全なボタン……!?」

 

 とてつもなく衝撃を受けた顔をしている。そんなものがあったのかと言わんばかりに口をぽかんと開けている。なるほど、これはからかいたくなるのもわかる。

 夏油と綴はそれぞれ好きな飲み物のペットボトルを持ってベンチに座る。

 

「夏油さん、これからどうする? 遊びに行くなら家に帰ってからじゃないと、みんなに心配されるから……」

「……綴、聞いて欲しいことがあるんだ」

 

 夏油の話しを綴は真剣に聞いた。綴は本当にいい子だ、それがよくわかる。イカれて(・・・・)しまった(・・・・)自分の思想を綴は1度も否定することはなかった。真っ直ぐこちらを見つめる澄んだその目が恐ろしい。

 

「夏油さんの言ってることよくわかるような気がするし、夏油さんに着いていけば夏油さんと一緒にいれるっていうのは嬉しい……俺夏油さんのためならなんでもできるから」

 

 綴はベンチから立ち上がる。いつの間にか夕方になっており、公園を夕日が染めていた。

 

「俺、夏油さんが大好きだから……」

 

 そう言った瞬間、綴の目の前は真っ赤に染まった。

 何があったか自分の胸元を見てすぐにわかった。胸元から腹にかけて大きな傷跡ができて血と(はらわた)が吹き出ている。夏油を見れば、うっすらと笑っているように見えた。

 

「なん、で?」

 

 なんで?どうして?

 綴は立っていられずその場で崩れ落ちる。視界の端にある飛び出て砂まみれになった腸をぼんやり眺めながら、綴は意識を手放した。

 

 

 夏油が高専から去ってから、五条は夏油に殺されかけた綴を探していた。どんなに探しても、綴は生きているという情報しか出てこず日に日に焦りが募るばかりだ。

 最後に夏油に会った時、綴を殺そうとした理由を知っているからこそ、綴はどうしても探し出さないといけなかった。

 

 疑ったのはもちろん甘菜家だ。しかし誰に何を聞いても知らぬ存ぜぬではぐらかされる。

 それならば、と五条はついに京都にある甘菜家に潜入を試みた。

 

 何処も彼処も警備は厚く、普通ならば困難を極めるだろうが、五条は普通ではないのでその警備を何ともないようにスルスルと攻略していく。

 

「そういえば、綴はどうなったの?」

 

 女性の声が聞こえる。綴の名前が出ると五条はその会話に耳を傾ける。

 

「地下で綱治兄様が面倒を見ているとか……」

「綴も可哀想よね、自分の師匠に殺されかけるんですもの」

「だからあんな輩達とは縁を切りなさいと……」

「けれど、綴は最期に甘菜のために死んでくれるのだから、感謝しないと」

 

──は?

 

 綴が死ぬ?

 

 気が付けば五条は地下に向かって隠れもせず走って向かっていた。

 辿り着いた場所にいたのはガラス越しの何かを見る綱治の姿だった。五条に気が付き、相変わらず何を考えているかわからない笑みを五条に見せる。

 

「君も綴を見に来たのかな? この間は上の人間が何人か来たけど……」

 

 五条は綱治を押し退けてガラスの向こうを覗く。

 そこにいたのは綴だ。確かに、自分のよく知る綴なのだが……。

 

「凄いだろ? あれでも生きてるんだよ」

 

 十数本ある白い杭で床に磔にされ血を流し、腕や足は変な方向に折れ、更には黒い蜘蛛に腹を食いちぎられ貪られる綴がそこにいた。

 

「子蜘蛛になってから生命力が凄まじくてね。しかも子蜘蛛に変容せず人間の形を保てているなんて、こんな例は他にはないよ。

 同じ子蜘蛛に食べれたらその生命力に変化はあるのかと思ってちょっとやりすぎた感はあるけど……やはり子蜘蛛には子蜘蛛だね、若干弱ってきてる気がするよ」

「アンタは!! 綴を殺す気か!!?」

 

 それまで怒りで震えていた五条は綱治の胸ぐらを掴んだ。

 

「いや? ただああなってしまった以上、甘菜のために生きてもらうよ。子蜘蛛の力は目を見張るものがあってね。彼らが持つ糸なんてその筆頭さ。あれが欲しいという呪術師もいるが、子蜘蛛を使役するのはなかなか困難だ。

 だから、子蜘蛛の呪いは綴に受けてもらって、甘菜(私達)があの能力を得られないか、と今研究しているとこなんだ」

 

 五条は綱治を殴った。何度も何度も何度も。

 そうして綱治の意識がなくなってから、五条は部屋の壁を壊す。早く、早く綴のところに行かなくてはいけない。なんでもっと早く見つけてあげられなかったんだ。

 

「遅くなってごめん。綴、迎えに来たよ」

 

 精一杯、綴が安心できるように笑いかけてそう言った。

 涙を流して五条を見つめる綴をそっと抱き上げると五条はその場から離れようとするが、足元にいた小さな子蜘蛛はそれを抗議するかのように威嚇しているのがわかる。

 

「………邪魔だ」

 

 五条は子蜘蛛の動きを封じると、それを無視して上へ帰って行った。

 

 

 

......................................................

 

 

 

【現在・京都 宿泊施設】

 

 

「仕入れた情報によれば、今日ひとつのグループが夜に山に入るそうだ」

 

 部屋に集まった4人は、そのグループが山に入る前に怪異の解決に挑むつもりだ。

 

「いいか、早くこの任務を終えて早く帰る。それが今回の目標だからな」

「いえっさー!」

 

 虎杖と釘崎の元気のいい返事を聞いて、綴はよし、と頷いた。

 

「じゃ、各自準備は入念に済ませておけよ、準備が済み次第エントランスに集合。綱治(あの野郎)に絶対に、くれぐれも悟られないように気を付けろ」

「いえっさー!!」

 

 何か質問あるか?という綴の言葉に伏黒が手を挙げる。

 

「呪霊について、何か情報はあったんですか?」

「ない。何とかなるだろ」

 

 この人指揮官にむいていない。

 そういったことは基本よく一緒に任務へ行っていた七海辺りに丸投げしているので、本人が何か作戦を考えるとかはほとんどなかったりする。基本はもちろん抑えてはいるが、それ以外はちゃらんぽらんだ。

 

──五条先生の影響をこんな所に受けなくても。

 

「予想外の事態になった場合は手前らだけでも逃げろ。応援呼ぶなりなんなりしてくれりゃあこっちでなんとかやる」

「あ、大丈夫。そんなことには多分ならねぇと思うから」

「予想外の事態になったらだよ。

 ここ最近で手前らがどれだけやれるかは俺が1番知ってんだからよ」

 

 それを聞いて虎杖と伏黒がそわっと落ち着きをなくす。

 

「まあ、伏黒の言う通りどういうカラクリがあるかほとんどわからん状況だ。必ずスムーズにいくなんてことはねぇだろうな。

 だがこれ以上被害を拡大する訳にはいかねぇ。てことで、頼むぞ手前ら」

 

 

「なーんかね、綴に無視されてる気がするんだけど、君ら何か知らない?」

 

──なんでこんな時に……。

 

 虎杖と伏黒、釘崎は綱治に絡まれていた。

 あと少しでエントランスだが、ここで3人についてくる綱治を無視してもエントランスで待つ綴と鉢合わせてしまう可能性がある。それは何としてでも避けたい。これからの任務で機嫌が超絶悪い綴と一緒になれば前髪付近の毛根が消滅しかねない。叩かれすぎて。

 

「まあ、無視してもらってもいいんだけどさ。

 綴に近付くな。綴から離れろ。早ければ早い方がいい。でなければ後悔するぞ」

 

 そう吐き捨てて綱治は自分の部屋に帰って行った。

 

「本当になんなのアイツ」

 

 釘崎は嫌悪感を隠さず二の腕をさする。

 

「先輩って変な奴に好かれるよな」

「あんたも含めてね」

「え、どゆこと!?」

 

 エントランスに向かいながらギャーギャーと騒いでいると、エントランスからやってきた綴にやかましいと額を叩かれる3人だった。(伏黒はとばっちり)

 

 

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