呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

35 / 111
34話

 その山に入った瞬間、どこか懐かしい気持ちになった。ここは決して悪い場所ではないはずなのだ。ならばなぜ、決して穏やかではない噂が流れ、呪霊が確認されたのだろうか。

 

 それはそうと──。

 

 

「アイツらなんではぐれんだ」

 

 ポツンと山の中で1人で立つ綴は呟いた。後からついてくるような気配もなく、振り返るとそこには木々が鬱蒼と茂っているだけだ。

 迷子になったな、と後輩3人が慌てふためいている姿を想像しながら綴はため息を吐いた。やれやれ全く、自分がいないとこう(・・)だ、仕方の無い奴らめ。

 

 

 一方、その後輩達はというと。

 

「先輩が消えた!?」

「目を離した隙に!?」

「だから先輩から目を離すなと!」

 

 実際に迷子になったのは綴である。

 事前に伏黒に綴がこういった場所でよく迷子になることを聞かされていた虎杖と釘崎だったが、それにしても早すぎる。忽然と消えてしまった綴を思い、3人は頭を抱える。

 まさか伏黒が式神出して全員がそちらを注視したその一瞬で消えるだなんて誰も思わないだろう。

 

「甘菜先輩が迷子になりやすいのは、一緒に任務した時になんとなーくわかってたけど」

 

 虎杖はまだ死亡扱いだった頃の任務を思い出しながらぽつりと呟く。

 気になることがあると一直線。もう子供ではないのだからと、行先を告げずに単独行動。目を離した隙に不良グループに絡まれていた、なんてこともあった。

 

「まだ山に入って30分も経ってないわよ?」

「15分持っただけでも奇跡だな」

「妙に素早いんだよ、何もかもが」

 

 アンタらの尊敬する先輩がそんな奴で良いのか、と釘崎は虎杖と伏黒にいろいろ言ってやりたい気分になった。

 

「とりあえず先輩と合流が優先で。あの人そろそろ糸張るだろうから、それを探しながら……」

 

 言葉を続けようとした伏黒だが、すぐ近くに呪力を感じ取りそちらを振り返る。釘崎と虎杖もそれに気が付いたようで、既に戦闘態勢に入っていた。

 そこにいたのはブリキ人形のように鈍く動く呪霊だった。

 

 

「今、なんか……?」

 

 山を彷徨っていた綴は呪力を感じて立ち止まる。任務の時はいつも付けているゴーグルの位置を少し直してからそちらへ走ろうとする。のだが、別のものも感じ取ってしまい足を止めた。

 感じ取ったものを確認するために綴は山の奥へ進む。その正体は小さな祠だ。石でできたとても簡素なもので変わったことといえば………その祠は壊れていた。

 

「…………」

 

 いったい、なんの為の祠なのか綴には全くわからない。何やら文字が刻まれているが、長い年月雨風に晒されたそれは潰れて見えない。

 

「自然にではこうはならんな……横から、押された……いや違うな、横からハンマーらしきもので叩き壊された……みたいだな」

 

 祠の左側は地面に接しており、その反対である右側に丸いへこみ跡が幾つも見られ、上向きになって倒れている。人の手によってこの祠は壊されたようだ。

 

「アンタも災難だな」

 

 恐らく、ここで()()()()()()()()をできるだけ見ないようにして、綴は祠を起こした。祠の中も散々なことになっており、中に入っていた地蔵の首が折れてしまっている。

 

「………これは流石に直せんな。伊地知さんに手配してもらって……と」

 

 それ(・・)は悪いものではないはずだ。それどころか懐かしいものを感じる。

 いつの間にか、それが綴のすぐそばまで来て顔を覗き込んでいる。異様に大きな目がこちらを見ているが綴は気が付いていない、見えていないように振舞った。ムワッとした息が吹きかけられるが、綴は微動だにしない。そんなことで反応してもっと面倒事を起こしたくはない。

 それより、なんというか……この呪霊に手を出そうなどとはとてもじゃないが思えなかった(・・・・・・)

 

「さて、アイツらどこに行ったんだか……」

 

 立ち上がり歩き出すと、今度は這いつくばりながら綴を追いかけ始める。

 言葉とは裏腹に、綴は山を下山しようと進んでいる。彼らが未だに山の中にいるであろうと確信しているのに、足が止まらない。

 しかし綴はなにも疑問に思わなかった。それが普通だと、この山から早く立ち去らなくてはならないと。

 

「それはちょっと、困るんだよね」

 

 後ろにいた呪霊がなにかによって潰された。

 そして、新たに現れたツギハギの呪霊を確認して、綴は拳を構える。

 

「いいのか? 宿儺(虎杖)じゃなくて俺で」

「いいんだよ。今日は君と話に来たんだから」

 

 あの日、里桜高校で逃した真人がそこにいた。

 

「夏油のお使いでね」

「夏油、さんから?」

 

 綴は思わず拳を下ろしそうになる。しかし、それをグッと堪えて真人を睨みつける。

 

「うん、夏油がねそろそろ決心がついたかなって」

「……つまり?」

「わかってるんだろ? 高専裏切るかどうかだよ」

「夏油さんとはもう決別してる。あの時(・・・)にその気にさせたのかもしれねぇが、俺にその気は全くない」

「夏油に聞いていた通り。でもいいの? もうほとんど()()()()()()のに……」

 

 綴はそう言った真人を鼻で笑った。

 

「───」

 

 真人に放ったその言葉は、他の誰かに聞こえることはなく風に乗って消えてしまった。

 

 

 

────────────

 

 

 

「大丈夫か!?」

 

 一方、虎杖達はブリキの呪霊に苦戦していた。

 というのも、この呪霊が放つ呪力の塊に触れてしまったことで、腕や足が鉛のように重くなり、動きがぎこちなくなってしまっているのだ。

 

「やりにくい!」

 

 早いところ綴と合流したい3人だが、どうしてもこの呪霊が邪魔をする。

 

「コイツが今回の原因なのかな?」

「どうだろうな」

「でも見逃すことはできないでしょ。かといってあの先輩1人にしたままなのも良くないし」

 

 虎杖は右腕と左足に釘崎は右腹、伏黒は右肩に攻撃を受け身体が重くなっている。虎杖は前衛で立ち回っているため、2人よりもより攻撃を受けそうになってしまう。

 するとどこからか、複数の赤ん坊の泣き声が山に響く。

 

「今度はいったい何!?」

「赤ちゃんの声?」

 

 そちらに一瞬気をやってしまうと、ブリキの呪霊はその声がする方へ走り出した。先程の鈍い動きとは違い、俊敏なそれに3人は驚きしかしそれを追いかけねばと、急いで更に山の奥へ入って行く。

 

 赤ん坊の泣き声は鳴り止まない。

 

 ブリキの呪霊はとある場所で止まった。

 

「足元に何かいねえ?」

 

 それは赤ん坊だった。

 しかしただの赤ん坊ではない。呪霊だった。

 

「この山、いったい……」

 

 ブリキの呪霊がその赤ん坊をその大きな口で取り込もうとした瞬間、何故かズタボロになった姿の綴がどこからか現れてブリキの呪霊をぶん殴った。

 

「せ、先輩!?」

「どこ行ってたんすか!?」

 

 声を掛けたが、どこか様子がおかしい。綴はブリキの呪霊の首を持ち、そのまま首をへし折った。それからは何度も何度もブリキの呪霊を踏みつける。何かあったのだろうか、そう聞こうとした時、綴は3人を見て自嘲するかのように笑った。

 

「今回、俺がここに来させられた理由だよ」

「へ?」

 

 腹が立つ。

 

「何が、俺を観察(・・)するためだ。ふざけるな。ふざけるな、ふざけるな」

 

 湧き上がってくるのはただひたすら怒りだ。

 

「そのために、寝てる人間掘り出して、何考えてやがるっ」

「寝ている人間?」

「…………ここに来る前に小さな祠があった。

 聞いた(・・・)話によると、昔この近くで災害が多発していたそうだ。それを収めるために、この土地にいる神とやらに健康な母子を生贄として捧げたそうだ」

 

 生贄、その言葉を聞くと気が重くなった。健康であったはずの子供とその母親を土地のために生贄にしてしまうなんて。

 

「母子は神に同情され、子供と同化し、2度とこのような事がないようにこの村に安寧を与えた。それを祀り、人々が感謝するためにあの祠が造られた」

 

 とされている。

 

「同化とはいかんが、赤子の呪霊の呪力は大きい。それを狙ってこの呪霊がここに来て、人を殺して最期にはお仲間をつくってたってことだ」

 

 そう言うと、赤ん坊の呪霊も綴は祓った。

 どうかあの子が、母親の元へ行けますように………。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。