「だから、隙見せんなっ
「ぐへぇ!?」
今日も今日とて特訓中。ちなみに最近は虎杖も甘菜との試合を、1分持ちこたえることができるようになってきていた。が、それでも勝負になっていないことは事実。
「これで50勝目か……ここまでくるともう、勝つことに躊躇いを感じるな」
甘菜は模造紙に正の字を新たに完成させると、ため息を吐いた。
「うわー、これ勝ち越せんのか?」
「舐めてんのか? 殴んぞ、デコを。
今勝ち越せなくても、俺が卒業までには1度でも勝ってもらうからな。約束したんだから果たせよ」
「出来なかった場合は?」
「足の爪が巻き爪になる呪いを掛けてやんよ」
「地味なのに痛い!」
虎杖を見ると、だいぶ息が上がってきている。そろそろ切り上げるべきだろうと、甘菜は虎杖にタオルを手渡す。それを受け取ると虎杖はタオルで汗を拭いた。
「伏黒の奴には期待してるけど、勝ち越せるか微妙だし……」
ポツリと思っていたことが口に出てしまった。あ、と思った時にはもう遅かった。虎杖は興味ありげにこちらを見ている。
「そーいえば、伏黒も先輩に教えて貰ってたんだっけ?」
「……断っても断っても諦めやがらねぇからな、仕方なくだ」
初めは虎杖と同じ条件で特訓をしていたのだが、一応伏黒は甘菜に勝った、が伏黒にこれで終わりだと告げたのに関わらずまだ足りない、まだ教えて欲しいと言われ、仕方なく条件を更新した。それが『甘菜の卒業までに勝ち越す』ということだ。それを伝えると虎杖はへぇー、と感嘆の声を上げる。
「じゃあ、俺もしたほうがいい?」
「面倒臭いから却下だ。
ちなみに伏黒は寝癖が治らない呪いを掛ける予定だ」
「また地味に辛いものを。
でも、俺も先輩に勝ち越したいかも」
やめておけ、と言おうとしたところでやめた。
「……………虎杖」
「ん?」
「その、両面宿儺をどうにかしてくれないか?」
「あ! いつの間に!?」
虎杖の頬からこちらを見ている宿儺の目を見てギョッとした甘菜は、それを虎杖に伝える。
どうして宿儺がこちらを見ていたのか、それは甘菜にはわからないことだ。甘菜と宿儺には
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「そういえば、甘菜先輩も停学に?」
伏黒恵は気になっていたことを禪院真希に尋ねる。
「いや、あの人は確か長期任務だったはずだから、単純に今は学校にいないってだけだ」
「そうですか」
なら、交流戦には出るだろうか。出なくても近いうちに会えるだろうか。口が悪く無愛想な人だが、その端からは人の良さが滲み出る。無理にあの約束を取り付けた伏黒は、そんな彼なら自分を最後まで鍛え抜いてくれると確信を持っていた。
「そういえば、この間甘菜先輩に1勝したんだっけ?」
「ギリギリでしたけど、なんとか」
「容赦ないからな……あの人」
しかし1勝しただけで満足はしたくなかった伏黒は、追加条件で特訓を続けてもらうことにした。その時の心底嫌だ、という甘菜の顔は酷いことになっていた。その追加条件もなかなかのものであったが、達成するつもりでいる。そうでもしなければ、彼に合わせる顔がない。
「伏黒があの人に特訓をしてもらってるって聞いた時は、本当に驚いたな」
「しゃけ」
「初めは……その、確かに苦手でしたけど」
でもそうでは無くなった。明確な理由はもちろんある。初めて会った時は、その容姿も相成って伏黒が受け入れることができないような人間だと思っていた。
だが、共に過ごすこともよくあったせいで、今ではその印象もすっかり払拭された。
彼は良い人である。良い人にもいろいろ種類があるが、彼の場合は人に厳しくなれる優しさを持つ人間である。嫌な役を引き取る事も多々あるような、そんな人だった。
「──にしても、最近あの人に会わないな…」
「1年の頃はしょっちゅう顔を合わせてたのにな」
「おかか」
「会ったら何でかしばかれてたけどな」
昔から何かと理不尽なのは変わらないのか。甘菜はその優しさに触れる機会がなければ、正直ただのチンピラだ。悪い噂も絶えないほど、周りから避けられていた。入学当初は現在の3年生達とも少し距離を置いていて、2年生の後半で、ようやっとまともな交流が始まったと、伏黒は聞いている。
「甘菜先輩は2年の時、どんな感じだったんですか?」
純粋な興味だ。甘菜が2年の頃のことは噂でしか聞いたことがなかったため、興味があった。
「今とそう変わんないよ」
「そうか? 昔よりはだいぶ丸くなってると思うけどな」
「ツナマヨ!」
「ああ、でもまだちょっと怖いところあるよな」
2年生達は甘菜のことに関して、苦手意識を持っている様子だった。恐らく彼らだって甘菜がどんな人間なのかは知っているはずだ。しかし、それよりも昔のイメージと理不尽さとで苦手意識が払拭できない、といったところだろうか。
「次会ったら何を言われてしばかれるかな?」
「こんぶ、こんぶ……」
「落ち着け棘、やられる時はみんな一緒だ」
掘り返してはいけないことを掘り返してしまったようだ。少し青ざめた2年生を見て、しまったと伏黒は顔を顰めるが、2年生達は気にしていないと否定する。
「確かにあの人は厳しいけどさ、何だかんだいっていつも味方になってくれるしな」
「任務とかでも面倒見てくれるし」
「しゃけ!」
だいぶマシになった顔色でそう言われてしまえば何も言えなくなってしまう。同時に甘菜はそんな優しさをもう少し出していけば、と感じるがそこが甘菜の良い所なので、あえて何も言わないことにした。
「甘菜先輩って、何者よ……」
「チンピラ系呪術師」
「あ、そう」
この会話に参加できなかった伏黒と同じく1年生の釘崎野薔薇は、至極当然の疑問を尋ねるが、サラリと特徴だけ言われてガックリと肩を落とす。
「ま、もし予定が合えばあの人も交流戦に参加するだろ。
野薔薇にはその時に改めて紹介するよ」
「何だかんだ言って、2年連続出場してるもんな。真面目なんだかそうじゃないんだか」
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「…………………今、噂された気がした」
「マジで? 先輩そういうのわかんの!?」
虎杖に勧めれたスポーツドリンクを飲み休憩する甘菜は、さてどうするかと呟いた。
「先輩どうしたの?」
「いや……今年の交流戦に出るかどうかで悩んでる」
「え? 出ないの!?」
「今回は1,2年に任せた方が良さそう、て気になってるからな。3年がいねぇし、俺だけが出てもな……」
この間買ってきていたポテトチップスを食べながら、考える。2年も交流戦に連続して出ているが、今年はやめておこうかと。3年生達とは仲は良いが、2年生にはどこか避けられているように感じる(それは甘菜の自業自得なのだが)なので、3年生が他にいないのに自分が出ても、2年生が困るだけだと甘菜は思っていた。
「俺は甘菜先輩が一緒に出てくれると嬉しいけどな」
「は?」
「だって、先輩頼りになるし」
頼られるのは嫌いではない。頼られるより恐れられることのほうが多い甘菜に、虎杖のその一言は効いた。
「それ、マジで言ってんのか?」
「え?」
「た、頼りになるって………」
「うん、マジ」
甘菜はその虎杖の返答で唸る。参加したいかしたくないかで言えば、そりゃあ参加したい。戦うこと=生きることとなっている甘菜からすればこの思考は当然のことだ。しかし、周りはあまりそれを肯定することはない。戦うことを求められることは少ない。
「つまり、俺に戦ってくれと、そう言ってんのか?」
「一緒に戦ってくれると嬉しい!」
きっと、虎杖が何を言っているか理解はできないんだろう。何故なら、虎杖は純粋に甘菜と交流戦で一緒に戦いたいと思っているだけだ。でも甘菜は、そうじゃない。甘菜はこの瞬間戦うことを
「考えといてやる」
「本当に? やったね!」
答えなんて決まってる。それでも、そんな言葉が出たのは単純に甘菜がひねくれているからだ。