「いや、まいったまいった」
あっはっはーと笑いながら、ボロボロになった真人は思い切り伸びをする。
「
夏油からは綴の全盛期は既に終わっており、その頃からだいぶ弱っていると聞かされていた。虎杖にとっても決して浅くはない関係を持つ綴を
だが結果はどうだ。逆に追いかけ回されてこのザマだ。
「夏油がこっち側に欲しいって言う気持ちがわかる」
────────────
真人と綴の戦闘では、最初こそ真人が押していた。真人とは初対面ではないが、直接対決が初めてだった綴はどう真人が攻めてくるかわからずに防戦一方となっていた。
このまま押し込んでこの男を見るも無残な姿に変えてやろう。そうやって綴の腕を掴み無為転変を行おうとするが……。
「手前……ナメてんのか?」
綴は逆に真人をぶん殴った。
「うっそだろ? 何したんだ?」
無為転変が効かなかった、それどころか真人は口から血を吐き出す。これは殴られたからではない。その前、綴に無為転変を行おうとした瞬間に何かがあった。
綴も虎杖と同じような存在である。そのため魂の輪郭の知覚を行っているのではいか、と疑ったが、その可能性は夏油が否定した。
綴と子蜘蛛は魂を同じにしている。2つの魂が一旦ドロドロに溶けて混ざりあってしまっている。そこから2つを分解することは難しく、これが三十蠱毒の被呪者がそれを解呪することができない大きな要因の1つだ。子蜘蛛の魂を引き剥がそうとすれば、綴の魂も一緒になってしまう。
子蜘蛛と同一個体といっても差し支えない綴は、子蜘蛛の魂を知覚することはできない。ならば何故?
「俺の術式は呪流術。自分の呪力の流れ、相手の呪力の流れすら操ることができる。だから手前が俺に触れた時、俺と手前の呪力の流れを変えた。俺は単純に俺の呪力で手前の呪力を押し返したんだよ」
真人は人の魂に触れる。それを押し返してしまえば魂の輪郭を知覚できない綴でも攻撃可能になる、ということだ。
──慣れんことするもんじゃねぇな。押し返すのは思ったよりもしんどい。しかも特級呪霊、何度もできる芸当じゃない。
それに、もちろんこの呪流術にも
「手前に付き合ってやれる程俺は暇じゃない」
「けどもう少し付き合ってもらうよ。この山がなんでこんな状況になったのかも、知りたいんじゃない?」
真人が切り出したのは
この山にまつわる話を全てを打ち明けると、綴の表情が真人でもわかるほどに崩れた。今すぐに泣いてしまいそうなそんな魂の揺らぎだった。
「それを俺に言ってどうする?」
「毒をもって毒を制す、てやつでこの土地には全く災いが寄り付かなかったわけだけど。その毒が強くなったらどうなるかな?」
「………人をこの山に集めていた理由はそれか?」
「別に俺達が人を集めていたわけじゃないよ?
えーと……確か、甘菜綱治だっけ? この場を整えて、君を観察しようとしていた、ていうのが本当だったら?」
何故、真人がそんなことを詳しく知っているかはこの際どうでもいい。どうせ内通者がいるんだろう。それは前から五条に聞かされているし、その内通者についてもそろそろ解決に向かっている頃合いだ。
「お? なーんだ、
甘菜綴は呪霊だ。真人は綴が人間には見えないとそう言った。
「………答えろ。手前は俺に
パリッと頬が裂ける。そこから覗くのは黒い闇。
「
真人は綴に手を伸ばした。
もしもこの手を綴が掴んだら、虎杖はいったいどんな顔をするだろう。
「嫌だ」
「あ、うん……わかってたけど」
その時にはもう既に先程までの激情はなりを潜めてしまっていた。
ほとんど感情を乗せていないその一言は真人も予想していたことなので、そこまで何かを思うことは無かった。
「その理由はさっきも言った。
俺は今の呪術界がどうなろうと関係ねぇし、勝手にやってろって感じだ。でも、それをひっくり返そうとしてる
綴は構える。
──七海さんから聞いていた通りの術式。きっと俺じゃアイツを祓えない。だが手を抜く気はない。標的変えられて虎杖の方へ行かれるのは面倒極まりない。だから、アイツは俺が強制的に下山させてやる。
「甘菜呪流体術・四ノ型柳」
人差し指と中指、それを揃えて真人の額に打ち込む。
「?」
だが真人にダメージはない。いったい何をしたのだろう?真人は綴に問おうとした時、綴は少し真人から距離を取り、もう一度柳の構えを取る。
「蜂って知ってるか?」
「蜂? 虫の?」
「1回刺されると、身体の中に抗体ができるんだ。そのせいで1年以内…期間が短ければ短いほど身体は過剰反応を起こす。それは抗体が蜂毒と一緒に正常な組織にも無差別に攻撃するからだ。1回目よりも2回目、2回目よりも3回目。多く刺されればその分抗体は増える、強くなる。しかも蜂毒に免疫はつかない。
柳の効果は1年以内。受ければ受けるほど、ダメージは大きくなる。さて、手前はあと何回
祓うことはできなくてもいい。言葉にした祓うという言葉は虚勢だ。それでもいい。今はただ、この呪霊に自分では綴を殺せないと認識させれば、そのまま逃げ帰ってくれたらそれでいい。そこまで追い詰めてやる。
そうして、逃げる真人とそれを追いかける綴の鬼ごっこは、綴の勝利に終わったのであった。
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「彼はどうだった?」
「あ、夏油! 俺1年はアイツに近づけないんだけど!」
真人が受けた柳の数は10にも及ぶ。避けようにも糸のトラップでそれを塞がれるというとんでもないことをしてくるため、何回も受けてしまった。
1回目は痛みも全くなかったのに、3回目になった途端酷い痛みを真人を襲った。3回目の段階でアレなのだからその先はもっと酷かった。
「治せるからいいけど……本当にアレで弱ってるの?」
「弱ってるよ。よほど子蜘蛛に苦労させられているようだ、動きが鈍い。オマケに食事もまともにできないから痩せる一方だし、呪力を使って誤魔化しているけど立っているのも一苦労なはずだ」
全てギリギリで生きている。
それは五条も気が付いているはずだが、どうすることもできない。なぜなら子蜘蛛が綴の生命維持装置でもあることに加え、子蜘蛛と綴は同一個体になってしまっているのだ。そうなってしまえば、いくら最強と名高い五条でも綴の中にいる子蜘蛛を祓うことは限りなく不可能だ。それでも綴を救う方法を五条は探っている。
「全盛期の彼なら、もっと大変だったと思うよ? 何せあの五条悟のお気に入りだ。他のどの生徒よりも目を掛けられている。そんなあの子が、あの程度の強さであるはずがない」
子蜘蛛に身を任せてしまえばあんなふうに弱ったりはしなかっただろう。子蜘蛛の強さを手に入れてもっと強く、より呪霊のようになるのを、綴は拒んだ。
「えらくべた褒めするじゃん? なんで?」
「さあ、なんでかな?」
彼は綴が味方になればきっと呪術師にとっての脅威になると考える。祓うことができない呪いは、それだけ厄介なのだから。なにより、綴が影響を与えた呪術師は少なくはない、五条悟を含める虎杖悠仁、伏黒恵、乙骨憂太に東堂葵。もしかするともっといるかもしれない。
もしも、そんな綴が敵になれば彼らはどんな反応をするだろうか。
番外編の順番決め
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初ケーキを食べる綴
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if夏油が高専からいなくならなかったら
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じゅじゅさんぽwith綴