呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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if夏油が高専からいなくならなかったら。
 本編ではミミナナと夏油出会う→綴と夏油会話の順でしたが、こちらでは綴と夏油会話→ミミナナと夏油出会うという順序になっているifの世界です。

重た以上に長くなった……。


アンケートを設置してからだいたい1週間経ったので、アンケートを終了します。ネタが思いついたらアンケートやろうとおもうので、その時はまたお願い致します。


番外編
夢中説夢


「悟兄ちゃん、匿って!!」

 

 1年生の教室にやってきたのは、ふわふわとした黒髪の男子生徒だった。彼のことを知らない虎杖と釘崎は首を傾げる。

 

「綴、またなんかやったの?」

「3年みんな久しぶりに集まったから隠れんぼしてんだよ! 今さ、鬼が青木だから悟兄ちゃんとこ行けばいいかなって。青木、悟兄ちゃんのこと嫌いだから!」

 

 180cmはある男子生徒はガタガタと五条が陣取っていた教卓の中に入る。

 

「あ、傑兄ちゃんもしてるけど、ここにいるの内緒ね? 実は傑兄ちゃんも鬼なんだ」

「はいはい、君はどんだけ僕のこと信用してないのさ?」

 

 その会話のあと、五条は何事も無かったかのように授業、という名の雑談を再開する。

 

「あの、良いんですか?」

「何が?」

 

 たまらず伏黒が五条に尋ねるが、五条はそれをスルーしていく。この教師、匿う気マンマンである。

 それから何分経っただろう、相変わらず1年生の教室ではたわいもない雑談が繰り広げられている。しかし、それに集中できている生徒はこの中にはいない。何故なら教卓の中にいる3年生が気になって仕方がないから。

 

「悟、ここに綴が来なかったかい?」

 

 すると僧侶が着るような袈裟を身に纏う男が教室にやってきた。この人物は1年生達も何度か会って知っていた。

 夏油傑だ。現在は3年生の担任を受け持っている。五条のブレーキ役として紹介されたが、どちらかと言われればアクセルを踏む五条を煽って更にアクセルを踏み込ませている感があるが、しかし五条よりは大人なのでタイミングや止め時はちゃんと心得ているようではある。

 

「いや、見てないけど?」

 

 と五条は答えるがその人差し指は教卓を差している。

 

「うーん……青木が来れないここかと思ったんだけど……当てが外れたかな?」

 

 ニッコリ笑いながら、夏油は教卓に近づく。

 

「他の3年生は?」

「今さっき秤を見つけたところ。あとは綴だけだよ」

「へぇー。だってさ、綴!」

 

 2人は同時に教卓の中をのぞき込む。

 

「綴みーつけた!」

「あー!! 悟兄ちゃん嘘付いた! 酷いな!」

 

 ハッハッハと笑う五条と夏油はハイタッチをしている。

 

「あーあ、ショートケーキ逃した」

「え、クソ甘くないあの?」

「制限時間内にどちらかのチームが勝てたら事前に申告していたものを負けた方が買うっていうルールでね」

 

 教卓から出てくると、男子生徒は1年生の方を見た。

 

「あ、伏黒じゃん。久しぶり」

「どうも」

「それとー、えーと……新しく入ってきた子?」

 

 伏黒とは前から面識があったようで、互いに挨拶を交わすが虎杖と釘崎とは初対面なので自己紹介が始まる。

 

「虎杖悠仁に釘崎野薔薇ね、おっけ覚えた!

 俺は甘菜綴ね。あ、甘菜ってこの界隈多いから綴でいいよ」

 

 にっと笑う綴と名乗った彼は2人に手を差し伸べる。

 

「うっす、綴先輩!」

「よろしくお願いします」

 

 後輩が増えたーと喜ぶ綴は自分達よりも年下のように見える。その時、子犬のような鳴き声が廊下から聞こえてきた。

 

「あ、青木が呼んでる。行こう、傑兄ちゃん!」

「そうだね、そろそろ授業も進めないと。済まないね、悟。こっちの授業を邪魔してしまって」

「いや、大丈夫大丈夫、大したことしてないから」

「雑談ばっかしてたよ」

「悟……」

 

 じゃあね、また話そうと1年生達に手を振ると綴は走って廊下へ出ていく。

 

 

 

────────────

 

 

 

「綴、また呪詛師を改心させたんだって?」

「話を聞いてたらいつの間にか自首してた」

 

 たまに自分の弟子は悪しき人の心を浄化する術式でも持っているんじゃないかと感じることがある。昔から綴は人の話を真摯に聞いて相談に乗ったりすることがあった。その経験が呪詛師を改心させるのに役に立っているようだ。

 

「あ、美々子と菜々子が新作クレープ食べたいって言ってたから、次の休み出かけてきますね」

「はいはい。綴はあの2人に甘いな」

「だって妹みたいでさ」

 

 美々子と菜々子とは、ある日突然夏油が連れてきた双子の少女のことである。

 やって来た時は綴も驚いていたが、その人から受けたことがよくわかる傷を見てすぐに状況を理解した。献身的に2人の世話をする綴はよく知っている。美々子と菜々子を綴に会わせて本当に良かった。今では高専の2年生として過ごしている2人を思い浮かべて、夏油は笑う。

 

 

 

......................................................

 

 

 

 ()()()()()()()()()、その中には夏油も含まれている。夏油はかつて非術師を排除して術師だけの世界を作ろうという考えを頭に巡らせそうになったことがある。その前に、夏油は綴の元を訪れた。

 綴は非術師が苦手だ。当時まだ小学生だった綴に自身の胸の内を打ち明けた。綴は口を挟まず、うんうんと頷く。

 その後、綴は夏油に付いていくと言った、大好きだからと。

 

──純粋で無垢。重く暗くなった世界を照らしたのはついだって綴だった。こんなに綺麗な子はいったいどんな………。

 

「でもいいの?」

 

 一瞬、良くない考えが巡ったが綴の一言で意識が帰ってきた。

 

「俺は、夏油さんが非術師は守る人だって教えてもらった。夏油さんがどんなことしても、俺はそれについて行くよ。でも、夏油さんにそれを捨てて欲しくない……夏油さんは、夏油さんを殺しちゃいけないよ。そんな気がする。何か、他に方法があるかも、しれないし……俺、そのためならがんばるから!」

 

──いつまでも肯定するだけの子供じゃない、か。

 

 夏油は綴の成長を心から喜んだ。いつか大人になる綴を、夏油は祝福することができた。

 

「綴、ごめんね」

「難しいかもしれないけどさ、2人で頑張ろうよ」

「私にできるだろうか?」

「できるよ! だって夏油さんは俺を助けてくれたんだから。

 あ、でも無理そうなら言ってね! 俺、いつでも準備しとくから!」

 

 綴は夏油の手を引いて公園を出る。夕日に照らされた綴の背中は、とても美しかった。

 後日、任務に赴いた先で2人の少女と出会い、村から虐待を受ける2人を夏油は引き取ることとなった。

 

 

 

......................................................

 

 

 

「傑兄ちゃん?」

「いや、なんでもないよ」

 

 心配そうにこちらを見る綴を安心させるように夏油は微笑む。

 もしもあの一件が無ければ、大人に近づく綴を夏油は素直に喜べなかっただろう。いつまでも子供でいて欲しい。その思いのままに綴を殺していたかもしれない。

 

「じゃあ、面倒見のいい綴に私から何かしてあげないと」

「え?」

「ショートケーキ、食べに行こう。」

「いつもの喫茶店!?」

「もちろん」

 

 ヤッター!と喜び、五条にその連絡をしている綴を見て、夏油は穏やかな気持ちになる。

 非術師は好きか嫌いかで言われれば、嫌いと答えるだろう。だが守るべき存在であることには変わらない。それを捨ててはいけないと綴が言っていたのだからそうなのだ。

 

「悟兄ちゃんも行くって。あそこのショートケーキ嫌いなくせに、いっつも来るよなー。あ、理子ねぇ(・・・・)も呼ぼうよ」

「そうだね。暇してると良いんだけど」

 

 

 

────────────

 

 

 

「悟兄ちゃんにぎゃふんと言わせたい、言わないだろうけど言わせたい」

「………なんの話ですか?」

「思わない? あのニヤけた顔腹立つって」

「今度は何されたんですか?」

 

 椅子に持たれながら綴は伏黒に問う。

 

「俺のヨーグルト、砂糖めっちゃ入れて食ってた。俺でも食べられるかもって七海さんから貰ってたやつ」

「え、それだけ?」

「ただのヨーグルトじゃないんだよ。小分けしたやつじゃなくて大きめの入れ物に入ったプレーンヨーグルト。任務から帰ったら食べようとしてたプレーンヨーグルト。帰ってきたら、食われてた」

 

 味の濃い食べ物、特に洋食全般が苦手な綴にとって、一般スーパーなどで売られている菓子などの既製品は食べれないものがほとんどだ。事情を知る人間はそんな綴の為に食べられそうなものをたまに持ってきてくれる。甘菜家の人間が聞けば卒倒しそうではあるが、そういったものを悪しき食べ物と断定するのはどうかと思う。

 そのヨーグルトを器に入れず容器にそのまま砂糖をこれでもかと言うほど入れて食していた五条を綴は許せないでいた。

 

「俺、非術師の人混み嫌いだからさ。同じ物買いに行けないし、七海さんにもう一度頼むのも、ほら気が引けるっつーか……」

「変なところ律儀ですよね」

「硝子姉ちゃんから見本にするなら灰原さんか七海さんって言われてるから。とにかく、五条に恨み辛みありそうな人集めてるんだけど、伏黒も混ざらない?」

 

 この様子だと、あと何人か綴の呼び掛けに答えているようだ。

 

「具体的に何をするんですか?」

「あれ? 意外と乗り気?

 もちろん計画は立ててある。ぎゃふんとまでは行かないだろうけど、悟兄ちゃんが反省するようなことだよ。俺らもきっと盛り上がる」

 

 

「──てなわけで、1年生の入学を祝してパーティーだ!

 つっても、3・4年生軒並み任務で、2年くらいしか集まらんかったけど」

「いや、じゅーぶんっすよ!」

 

 

 綴の部屋に、1年生と2年生が集まっていた。

 

「傑兄ちゃんは任務帰りに来るって。それまで俺らで楽しんじゃおう」

「あんたもなかなかエグいこと考えるな」

 

 グラスを綴に手渡しながら、真希が言う。

 

「悟兄ちゃん、寂しんぼだからさ。仲間外れにしたら絶ーっ対後悔すると思うんだ。食べ物の恨みは怖いぞ!

 ま、悟兄ちゃんはこの際ついでだからさ。本当に1年生をお祝いしたくて仕方がなかったんだよ」

 

 部屋の飾り付けは綴が先導して2年生達と行ったそうだ。

 計画としては、入学祝いをした後日に五条の目の前でその話を繰り広げてやろうという筋書きだ。会話に入りたいのに入れないというもどかしい空気にしてやろうという魂胆である。

 

「謝ってくるんなら悟兄ちゃんの参加を認めてやらん訳でもない」

「いくら」

「狗巻、お前いいこと言うな」

 

 綴は狗巻の頭をわしゃわしゃと撫でる。というか何を言ったのかわかったのか。恐ろしいなこの人。

 

「食い物も1年生のリクエストだ」

「先輩、食べれるものあるんですか?」

 

 初めリクエストを聞いた時、綴に気を使う様子があったので一喝すると思い思いの料理が上がった。買い出しは2年生に行かせたが、なんとか全てあつまったのである。

 

「大丈夫、和食なら食えんこともないから」

 

 綴の言う味の濃い食べ物とは、基本的脂っこいのがほとんどで、そうでないものなら食べることはできる。ただし洋食はどうしても食べていると疲れてきてしまい、苦手意識が取れないのだ。しかも多い量を食べると吐き気をもよおしてしまう。

 

「あ、菓子類なら俺が選んだからな! 抹茶も点ててやるから、いつでも言ってくれ」

 

 そう言いながら桐箱を開けると、色とりどりの美しい和菓子がお披露目される。綴が選ぶものはセンスがいい。それはよく知っているし、それになによりこの手のものは基本美味いし、学生の自分達に手が届かないくらい高い。それを知っているからこそ、お披露目された和菓子に感嘆の声があがる。

 

「家が無駄に送ってくるからさ。貰いもんで悪いけど、俺なりに厳選してみたから味は保証する」

「すっげー!」

「もっと褒めてもいいよ!」

「凄いです!」

「最高!」

 

 エッヘンと胸を張ったあと、綴が麦茶が入ったグラスを手に取る。

 

「じゃ、1年生のみんな! 入学おめでとう! ようこそ呪術高専へ!」

 

 

「随分盛り上がっているね」

「夏油先生!」

「傑兄ちゃん、おっそいよ!」

 

 遅れやってきた夏油を招き入れ、入学祝いは続く。

 

「傑兄ちゃん、はい、グラス。何か飲みますか?」

「とりあえず麦茶で」

「了解っと、でもご飯系ほとんど食べちゃいましたよ」

「抹茶は綴が点ててくれるんだろう? なら充分だ」

 

 夏油の言葉に綴はワナワナと歓喜によって震える。夏油を神の如く慕っている綴にとって、この一言が聞けただけでこの会を開いてよかったと心の底から思えるのだ。

 

「用意してくる! お菓子何がいい!?」

「綴のオススメで」

「すぐ持ってくるから! 待ってて!」

 

 和菓子を厳選し始める綴を見ながら夏油は微笑む。

 

「本当に夏油先生が好きだな、綴先輩」

「わー、無いはずの尻尾が見える。千切れそう」

 

 そうやってそろそろお開きにしようか、となった時部屋の扉が開く音がした。

 

「あれ? なんでこんなに集まってんの?」

 

 五条悟だ。

 

「悟、綴のヨーグルト食べたんだって?」

「なんで傑が知ってんの?」

 

 嬉嬉として抹茶を点てている綴を見て、なにあれ?と夏油に尋ねる。

 

「綴の抹茶は美味しいよ。茶菓子との相性も良かった」

「ふーん……綴僕にもちょうだ……」

「嫌だ」

 

 五条の言葉に被せるかのように、綴が答えた。全身全霊の拒否の声音に五条は固まる。

 まさか、これが噂に聞く反抗期なんだろうか?

 

「悟兄ちゃん、食べ物の恨みは怖いぞ。

 よーし! ちょっと予定は狂ったけどこれでお開きにしよう!」

 

 気を付けて帰るんだぞー、と後輩達を気にかける様子は、まさに先輩の鏡と言えるだろう。

 だが……そうなのだが……。

 

「なにこの疎外感! 僕蚊帳の外なんですけど!?」

「悟兄ちゃんは俺にしたことを振り返ってみなよ」

「……ヨーグルト、そんなに食べたかったの?」

「うん。楽しみにしてたのにさ!」

 

 最近やらかしたことで思うところがあるのはそれくらいだ。

 拗ねる綴はまるで子供のようだ。伏黒のほうがよほど大人らしいと言える。だが、綴はこれでいい。このままでいい。

 

「綴、これなーんだ」

「ヨーグルト!」

「はい、これで許してよね。

 僕、手毬がいいなー!」

「わかった! すぐ持ってくる!」

 

 部屋の隅には菓子の箱が積まれている。綴はその中から箱を1つ取り出している。

 

「悟はいつまでも綴を子供扱いだな」

「実際子供だろ? 大人な綴なんて想像したくもない」

「それはたぶんお前が子供だから綴に抜かれたくないんだろ」

「はあ? 僕もう28なんですけど?」

「知ってるよ」

 

 五条はあれ、と今の状況(・・)について考える。

 なにか違和感(・・・)がないか?

 

「悟、綴はもう手を引かなくても歩ける」

 

 いつの間にか、五条は暗い場所で立っていた。

 自分がいた場所は綴の部屋だったはずだ。なのに、ここはどこだ?

 

「子供じゃないんだ」

「違う。綴は子供だ。俺がついていなくちゃいけない。俺が守らないと綴はあの時(・・・)みたいに!」

 

 あの時(・・・)とはいつのことだ?綴が死にそうになったことなど1度もないじゃないか?

 

「悟兄ちゃん」

 

 振り返ると、どう見ても今の綴よりも背の低い……しかし幼い顔立ちではない綴がそこにいた。

 

「ちゃんと、俺を見て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、そこは自室だった。

 

 

何か夢を見たような気がする。内容忘れたけど。

 

「奇遇だな、俺もなんか……幸せな夢をみたような気がするよ」

 

手毬食べたい。

 

「わかった、部屋から取ってきてやる」

 

綴。

 

「ん?」

 

ヨーグルト食べたことある?

 

「ない。俺がそういうの無理だって知ってんだろ?

 変な五条」

 

そう、変なのかな?

 

 

 

 綴の背中は、子供のように小さかった。




【夢中説夢】
・内に何も無く、頼りにならないこと。
・または、この世の全てのものには実体がなく、虚ろで儚いものであるということ。
・夢の中で夢の話をするという意味から。「夢中夢を説く」とも読む。
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