「お前、どんな女が
京都府立呪術高専高校 1年・東堂葵
「手前は何言ってんの?」
東京都立呪術高専高校 1年・甘菜綴
姉妹校交流戦にて、初対面の相手にそんなことを聞かれた綴は眉間に皺を寄せていた。その間にもベラベラと訳の分からないことを言われていたような気がするが綴はそれを右から左へ受け流す。
「男でもいいぞ」
「なんなのコイツ……」
頭が痛い。
「同じ1年、そして俺と同等……いや、それ以上の実力を持つお前の女の好みを俺は知りたい!」
「…………」
無視することにした。
しかし、好み………綴が思い浮かべたのは黒く短い髪に自分よりも背の低い
「答えるまで俺はお前を逃がさんぞ!」
「めんっどくせぇ……」
だがいつまでも東堂に絡まれるのも時間の無駄だ。これは恐らく答えるまで逃げられない。運のいいことに、この場には誰もいない。別に聞かれて恥ずかしいことでもないし……と綴は諦めてため息を吐いた。
「黒髪、短髪で……俺より、小さい人?」
ここで東堂に衝撃が走る。綴の身長は自分よりも低い。つまりこれよりも小さいということは……。
「─つは?」
「は?」
「尻は、でかい方が好みか?」
「…は?……はぁ?」
綴は念入りに2回聞き返した。
しかし何を隠そうこの綴、基本は真面目で律儀だったりするので、東堂の問いに本気で考える。
「……………………つ、慎ましいんじゃ、ない、か?」
「!!!!???」
彼女が万位が一にここにいたら聞かれたくないと、綴は小声でそう言う。それを聞いて更なる衝撃を東堂は受けた。
これだけの実力を持ち、しかしその好みに魅力を感じない。矛盾したこれは、もしや!
「なるほど、わかったぞ甘菜綴、つまりそういう事だな?」
「何が?」
「甘菜綴、いや我が
絶句。
着ていたシャツをビリビリと破く東堂を見て、綴はすぐさま仲がいいというわけでもない先輩達の所へ行きたくなった。なんだコイツわけがわからなさすぎる。
「──俺と甘菜は永遠に競い合う運命の相手だったのだ、こうして俺達は互いを高め……」
「甘菜は東堂を酷く避けるようになったな」
3年生となった東堂は、目の前にいる1年生の甘菜繚介に綴との出会いをそれはそれは熱く熱く語り、実は東堂と綴が出会った時、その場に隠れ潜んでいた加茂がそれについて訂正を入れている。
「なるほど、ありがとうございます! 東堂先輩!」
「甘菜のことなら幾らでも語れるぞ。いや、甘菜と言うとお前と被るな。今後は綴と呼ぼう」
「次に会った時の甘菜君の苦虫を噛み潰したような顔が想像つくわ」
同じく3年生の西宮は今後の綴の苦労に合掌する。
とはいえ、あの綴に好みの女性がいることについては加茂も西宮も気になるところだ。
東堂はというと、そんな自分よりも強かった頃の綴に思いを馳せる。今の綴に不満があるわけではない。むしろ、あんな呪いを受けて身体がボロボロになってもなお、生き続け戦い続ける綴を尊敬している。
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甘菜綴の高校生活は3年の先輩にドロップキックをしたことから始まった。
「なーんでそうなるかな?」
「うるせぇ」
しっかりと高専の学ランを着込み、プイとそっぽを向く綴の顔を掴み、五条は無理矢理こちらを向かせる。
「都合悪くなると顔を背けるのは綴の悪い癖だよ。
で、何があったの?」
「………気に食わなかっただけだよ。人のこと依怙贔屓だのなんだのと。俺は俺の実力でここにいるのに」
綴と五条は所謂幼馴染というやつだ。夏油もそうでこの世で1番尊敬している師であり兄。五条のほうは友人であり兄のような存在である。というか、多分この世でまともに話せる人物は五条や家入、七海に伊地知といった昔からの付き合いがある大人ぐらいではないだろうか?
だからこそ、事情を知らない人間から見れば実力を持つ大人達に囲まれ、目をかけられている綴は依怙贔屓されていると見られ、嫉妬と羨望の的になってしまっている。
「もうちょっと周りと仲良くしてみれば?」
「嫌だ、必要ない」
甘やかしすぎだ、と家入や七海に言われたことを五条は思い出す。確かにそうかもしれないが、だからといって綴を甘やかすのを止める気は無い。
綴はこれまで散々な目に合ってきたのだから、これからは楽しく学生生活を謳歌して貰いたい、そう思っていたのだが、まさか入学と同時に先輩にドロップキックする奴があるか。
「綴は本当に自分に素直だな」
「手前に言われたかねぇっての」
「呪術師ってあれだけやっても死なないし、本気で殴れる」
「1人でスッキリするなよ。このあと怒られるの僕なんだから」
中学生になってからの綴の教育者は五条だ。あの時は「綴がやっと帰って来た!」と嬉し過ぎて小脇に綴を抱えながら当時小学5年生だった伏黒に大興奮で紹介したほどである。その時の伏黒が助けずに哀れみの眼でこちらを見ていたことを綴は忘れない。許さない、絶対に許さない、絶対にだ。
「あ、そうだ。綴、犬は好き?」
「犬? 非術師よりは好きだ」
なら良かった、と五条はニンマリ笑い、机の下から綴の目の前に白い塊を置く。
「綴と
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2年生である
「先生! これ、何かの冗談ですよね!?」
尾上は綴が抱きかかえる白い塊を指差す。
「青木製鉄所から発見された、ポメラニアンの青木君(推定15歳)、立派な高専の1年生だよ?」
ヘッヘッヘッと尻尾を激しく振る青木はただのポメラニアンにしか見えない。それを当たり前のように受け入れている後輩もなんだか腹が立つ。
「3人には病院に向かってもらう。依頼してきたのは妊婦さんのようでね、その病院に入院してから不思議な現象に苛まれているようで、知り合いに相談したら高専に行き着いたらしい……」
「つまり、その妊婦さんを助ければいいんですね?」
「そう! 護衛期間は赤ん坊が産まれるまで、もしくは現象の根源を祓うこと。頑張ってよ、期待してるから」
そう言ってニンマリ笑う五条を尾上は殴りたくなった。この訳の分からないことメンツでどないせいっちゅうねん。
五条が教室から出ると、そこには綴と尾上、青木しかいなくなる。綴と青木は尾上に興味が無いと言わんばかりに1人と1匹で戯れ始める。
「あ、あのー、甘菜君?」
「なんだよ?」
タメ語かい。
「えーと……君は何が出来るのかな?」
「戦闘と捕縛」
「へ、へぇ………じゃあ、青木君は? 何か知ってる?」
「危機察知。その危機に合わせて呪力が向上する。上限はあるらしいけど」
簡単なことしか言わず、青木と遊ぶことが優先だと言わんばかりの態度に尾上はキレそうになるが、自分は先輩なのだからと言い聞かせてグッと堪える。
しかし、あまり付き合いたいと思う人間ではない。何故なら綴は3年生をドロップキック、ボコボコにして校舎に釣り上げた男なのだから、いったい次は誰が綴の地雷を踏み抜くか、同級生も先輩も不安に思っていた。
「とりあえず、伊地知さん来るまで、ここで待とうか」
「え、他にどこで待つの?」
馬鹿にされたような気分だ。
結局伊地知が来るまでの間、綴と尾上は一言も喋ることはなかった。その気まずい雰囲気を伊地知は察知するが結局なにもすることができなかったという。