呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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会話が多い気がしますが気にしない。


会者定離④

 時刻は3時半。未だに扉を殴る音が外から聞こえる。

 

「実は、私は…………この子を、望んで身篭った訳では無いんです」

 

 気まづそうに佐々木は綴と尾上から目を背ける。

 

「望んで無かった?」

「はい」

 

 2人は思わず怪訝な表情を見せる。

 

「その、私は所謂、愛人というやつで……」

「え!?」

「知らなかったんです!

 最初は本当に私は何も知らなくて……後にそれがわかって、それでも、あの人と一緒にいたくて関係を持ってしまって。ダメだってわかっていたのに……」

 

 佐々木は泣いているのか、顔を両手で覆う。

 

「子供がお腹にいるとわかって、下ろそうにもお金もないし、調べれば調べるほど怖くなって……そのままズルズルと、こんなことに。あの人にも伝えたけど、それっきり連絡はつかなくて」

 

 本当には産みたくない。誰にも頼れなくなってしまった佐々木は途方に暮れたのだろう。そうとう心身ともに疲れたはずだ、それを察したのか尾上は佐々木の背中を撫でる。

 

「本当に望んで無かったのか?」

「……はい」

「子供が死んでもいいと?」

「もちろん」

「……本当のことを言え」

 

 佐々木の表情はだんだんと暗くなっていく。

 

「甘菜君、あんまり佐々木さんを追い詰めないであげてよ」

「じゃあコイツは死ぬぞ。

 俺は非術師は大嫌いだ。無闇矢鱈に感情を振りまいて、それの尻拭いをしている人間がいるとも思わない。人との違いを認められないような生き物、救う価値なんてないと思ってる」

 

 でも

 

──「非術師は力を持つ私達が守らなくてはならない存在だ」──

 

 あの人(・・・)がかつてそう言っていたのだから、自分は非術師を無理矢理にでも守らなくてはならないのだ。かつてのあの人を殺さないために。

 

「俺が初めてここに来た時、アンタは無意識だろうがその腹を庇った。

 アンタの男と会ってないってのは嘘だ。そんでまだ何もされていないのに腹を庇ったってことは、子供を守ろうとしたってことだろ。

 その男、定期的に来て子供をどうにかしようとしてる。バレたらヤバいだろうしな」

 

 次々と言っていく綴を佐々木は信じられないものを見るような目で見て、尾上は佐々木を見つめる。

 

「呪いは元々この病院に巣食っていた。恐らく50年程前に、何かを犠牲にして破産気味だったこの病院を建て直した」

「の、呪いを? 悪い物なんじゃ?」

 

 佐々木の問いは最もだ。呪いとは人から流れ出した負の感情の塊。お世辞にも病院を建て直すことができるほどの力を持っているとは思えない。

 

「というか、よく破産気味だったとか知ってたわね」

「困った時は伊地知さん、と五条が言ってた」

 

 他にも色々とやることがあるだろうに、50年以上も前のことまで調べることになった伊地知に尾上は合掌する。

 

「話戻すぞ。

 強い呪いは呪いを寄せ付けない。まあ、悪習であることには変わんねぇけど。とにかく当時この病院は何らかの恨みでも買ってたんだろ。そんで呪詛師によって解呪とまではいかないが間違った方法を教えられた」

「………それも、伊地知さんが?」

「いや、院長室に忍び込んで」

「いつの間に!? ダメだって、そんなことしたら!」

「なりふり構ってられるか。これが当時の手紙だ」

「あああ! なんてことしてんのよ!!」

 

 不法侵入に盗難。呪術高専の力を使えば恐らくスムーズにいっていたであろう調査を、いろんな過程すっ飛ばしてやってしまった綴に尾上は頭を抱える。

 

「……いや、階級は俺の方が上で責任は俺が取るし、アンタが焦らなくても」

「あのね! 私はキミの先輩なの! 先輩が後輩の面倒見るのは当たり前なの!!」

「はぁ……」

 

 そう言いながらもしっかりと尾上は手紙に目を通す。

 

「え、これって……」

 

 尾上は目を見開いた。

 

それらしきもの(・・・・・・・)なら地下で見つけた。

 アンタは子供を思っていた、それを子供を恨む気持ちで蓋をして。

 どんな子供でも思うんだよ、愛されたいと。だから(・・・)アンタは呪われた」

 

 厳密にその事について佐々木に伝えたわけではない。しかし佐々木は心当たりがあるようで、ハッと息を飲む。

 

「アンタの本心を言えよ。子供は、()()()()()()んだから」

「わ、たしは……」

 

 知り合いに紹介されて、この病院に来た。

 お金が無いなんて嘘だ。

 下ろす勇気がなかったもの嘘。

 もし、もしもこの子が無事に産まれたら。

 あの人から逃げることができたら。

 私は、この子と一緒に────。

 

「いきたい、この子と一緒に生きたい!

 誰も味方なんていなくて、毎日辛くて、あの人も、この子を要らないって、下ろせって……なんで、この子のせいで、私ばっかりなんでこんなに辛いの? 全部この子のせい………でも、私はこの子が大好きなの。だって、だって……」

 

 エコー検査でその子を見てから、佐々木の心は定まっていた。愛おしくて愛おしくて仕方がなかった。医者から手や足がどこにあるのかを聞かされて、なんて小さくて可愛いんだろうと思った。この子は私の宝物。

 

「私はこの子が大好きなの。私に、この子を守らせて……」

「なら立て」

 

 綴は佐々木に手を伸ばした。

 

「ここを出る」

「え?」

「まだ文句があるのか?」

「いや、佐々木さんを連れて行かなくても!」

「解呪するにはこの人がいる。それはアンタもわかってんだろ?」

 

 呪霊の正体(・・)と推測の域をでないがその目的も知ってしまった尾上は、ウッと顔を引きつらせる。

 そしてなにより時間だ。2時から3時頃までなはずの赤ん坊の泣き声が3時を過ぎても収まらない。つまり術師が現れ佐々木に手が出せなくなってしまう前に、彼女を殺すつもりなのだ。

 

「逃げ込む場所は地下、アイツの核がある場所だ。広さはここと変わらない、四方はコンクリートの壁で、扉は鉄でできている」

「……『扇』は問題なく展開できるわ。ただ核が近いから呪霊の力が強まる可能性が……その場合は、多分やばいと思う」

 

 2人は速やかに情報をやり取りし合う。情報の漏れは時に恐ろしい事態を招くことは2人はよく承知していた。

 

「その中に、コレ(・・)があるのね?」

「ああ、ある」

 

 2人は覚悟を決めた、あとは……。

 

「佐々木さん、準備はいいですか?」

「はい、もちろんです」

 

 

 

────────────

 

 

 

AM 3:40

 

 

 綴は扉を壊して外へ飛び出した。扉が呪霊にぶつかり、呪霊は後方に吹き飛ぶ。

 

「今だ、青木!」

 

 尾上と佐々木を背中に乗せた青木が地下に向かって走り出す。

 綴はその場に残り呪霊を食い止める。呪霊がモゾモゾと動き出し、またあの砲撃で攻撃を仕掛けてくる。

 

──一ノ型 蕾。

 

 綴はそれを蕾で受け流した。

 

「さて、足止め足止めっと………アイツら何分でつくかな?」

 

 

 尾上と青木、佐々木は地下へ急ぐ。

 

「あの、甘菜君は大丈夫なんですか!?」

「はい! なんたって2級術師、ですから!」

 

 不自然に静かな病院を駆ける青木の上で、佐々木が綴を心配する素振りを見せる。

 

「……私、本当にこの子を望んでもいいんでしょうか?」

「佐々木さん……」

「この子は、私を恨まないでしょうか?」

「佐々木さん!」

 

 俯いていた佐々木は尾上に言われてハッと顔を上げる。

 

「大丈夫です! ほら、笑って笑って! でないとお腹の子も佐々木さんを心配しちゃうますよ! 

 これからです。これから大事にしていけば、良いんです!」

 

 尾上に勇気づけられて、佐々木は涙をこぼす。

 誰も味方がいなかった今までとは違う。今は自分を、お腹の子を守ろうとしてくれる心強い味方がいるのだと実感して佐々木は安心した。

 

「……ごめんなさい、望まない子だなんていって……守るから私が絶対に守るからね!」

 

 佐々木はそう言って精一杯笑った。

 そうこうしている間に尾上達はついに地下室へと辿り着いた。

 

「青木、合図をお願い!」

「ワオーーーンっ!!!!」

 

 その咆哮は青木がした中で今までで1番大きなものだった。青木が綴を呼んでいる間、尾上は佐々木を青木から下ろし、地下室の中へ入る。そして部屋の至る所に千代紙を貼り付けていく。

 

「尾上さん、私も手伝います」

「! は、はい、お願いいたします!」

 

 ことは一刻を争う。佐々木の申し出は有難く、札を佐々木に手渡す。貼る人間は誰でも構わない。これを作った人間が尾上であること、それがこの術には必要なのだ。

 

 

 

AM 3:45

 

 

「遅い!」

「アンタが足止めするか!?」

 

 切羽詰まった尾上はやってきた綴にそう言うが、もうこの時点でこのやり取りは戯れの1種のようなものになっていた。どちらも顔は笑っていた。

 

「この手紙に金庫の暗証番号が書いてあった。この中にある物の詳細も……俺がコレを開ける。その間は青木に足止めを……」

「甘菜君、私も行く」

「は?」

 

 ピンと腕を伸ばして尾上はそう言った。この場にいる全員が全力を出して佐々木を救おうとしている。ならば自分1人がこんな場所で守られていてはダメだと、尾上は考えたのだ。

 

「術師が死ねば結界は消える。そのリスクを背負うことで、結界の強化を計るわ。それに、青木のサポートもしたい」

 

 青木は尻尾を千切れそうな勢いで振る。

 

「……わかつた。青木、この人頼む」

「きゃんッ」

 

 それを合図に、尾上と青木は地下室の外へ出た。

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