呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

49 / 111
会者定離⑥

 地下室の扉が開く。

 尾上はそれを見て胸をホッと撫で下ろすが、無傷な佐々木に対して綴が酷い怪我をしていることに驚きを隠せなかった。

 

「甘菜君、大丈夫!?」

「耳元で叫ぶんじゃねぇよ……」

「またタメ語! 私、先輩なのに!」

 

 そこに座って、と尾上に言われた綴は尾上の圧に耐えきれずその場に座る。すると尾上は綴の応急手当を始めた。

 

「や、綴。ボロボロだね」

「来てたんか」

 

 大人しく尾上に手当てされている綴を見て、いい傾向だと五条は内心ほくそ笑んだ。綴は他人と距離を取ろうとする。

 それに気が付いたのは当時小学5年生だった伏黒と中学1年生の綴が出会った時だった。これまで非術師の人間にしか発動しなかった人見知りを伏黒と津美紀に対して起こした。

 1度人格が壊れて人懐っこさが消え失せた綴は、術師にも警戒の姿勢を見せ始めた。最初こそ五条も困惑したが、綴の素直なところや優しいところは変わらなかったと安堵した。それが綴の良いところだ、それが潰れなくて本当によかった。

 だが、人を警戒するせいでそれが隠れてしまっている。だが尾上はやはり綴と相性が良いみたいだ。変に先輩風を吹かせないが、決してへりくだる訳では無く、綴のことをしっかりと年下だと認識している。

 

「さて、彼女を病室に帰してあげようか」

 

 五条は佐々木を指差しでそう言った。

 

 

「本当にありがとうございました」

「呪いが解呪されて、本当に良かったです!

 でも、結局なんで佐々木さんを呪ったんだろ?」

「呪ったのはその人の腹の中にいる子供だよ」

 

 佐々木は腹を撫でる。これからも自分1人でこの子を守る、と覚悟を決めるために。

 

AM 5:10

 

「結局、朝になっちゃった」

「1時間とちょっとで金庫破った俺を褒めて欲しいくらいだ」

 

 さて、あとは任務の詳細を報告書にまとめて休もう。この病院の院長には高専側から介入があるらしく、きっとこの病院の栄光は無事では済まないだろう。

 

「尾上さん、甘菜君本当にありがとう」

 

 佐々木はニッコリと笑いかける。すると下で青木がキャンとそこに時分の名前が入っていないことに対して不満そうに鳴く。

 

「青木君を忘れてたわけじゃないの、ごめんなさい」

「きゃんっ」

「あんた、本当に人間の言葉がわかるのね?」

 

 礼を言われて佐々木に頭を撫でられた青木は嬉しそうに佐々木の周りを飛び跳ねてぐるぐると回っている。

 佐々木は病院の玄関まで綴達を見送ることにした。

 

「じゃあ佐々木さん、元気で!」

「ええ、あなた達も」

「高専の人に頼んであと数日で別の病院に転院できるし、きっと静かに出産できるはずです」

 

 佐々木は今、子供のことで圧力を掛けられている。ならば早く転院して誰にもバレないように出産させてあげたいという尾上のわがままを聞いた綴は、仕方がないと別の病院を手配した。

 非術師が全員嫌いというわけではない。呪霊と関わりその存在を認知できているなら綴はその人間に対して露骨に嫌な態度を取ることはない。もしそんな人間でも術師の真似事をしていればキレると確信しているが。それと、救った子供にもしものことがあれば寝覚めが悪い。

 

「そういえば、佐々木さんに高専を紹介した知り合いって何者なんですか? もしかして、元高専生とか?」

 

 高専を知る一般人は少ない。ならば関係者だろうと考えた。

 

「いえ、そんな話は聞いていないですけど……。

 この子がお腹にできてしばらくしてから会った方なんです。この病院に入院することを勧めたのも……」

 

 え?と尾上は呟く。もしも高専の関係者ならば見ただけで呪われているとわかるようなこの病院をわざわざ紹介するのだろうか?

 考えられるとすれば呪詛師。だがそうならば呪詛師の目的がわからない。いったいなんのつもりで佐々木にここを勧めたのだろう?

 

「あの、その方の名前って……」

「もちろん知っています。夏油傑(・・・)さんです。とても親切な方でしたよ。その方が呪術高専の甘菜君を指名するようにと……」

「────っ!?」

「優しい子だから、と聞いていて、それが本当で良かったと思っています」

 

 夏油傑?と尾上は首を傾げるが、綴は目を見開いた。そして佐々木の肩を掴む。

 

「場所は!?」

「え?」

「どこで会った!? 最後に会ったのはいつだ!?」

 

 その場所を佐々木から聞いて綴は病院から飛び出した。そこは病院から走って30分程離れた人気のない神社。神社に目的の人物はもちろんおらず、綴はただ声にならない叫びをあげるだけだ。

 佐々木と最後に会ったとはだいぶ前。入院してからは電話のみでの交流となり、ここ数日は全く連絡がつかないそうだ。

 

──どこにいるんだ? 何故こんなことをしたんだ?

 

 それをぶつける術もなく、綴は項垂れた。

 

 

 

────────────

 

 

 

「──で? 僕に渡したいもって?」

「はい、これ」

 

 高専に帰ってきた綴は五条に何重にも札が貼られた小さな桐箱を手渡した。

 

「これは……なるほど、アレだけ大きな呪霊になったのは、コレが原因か」

 

 そこに入っていたのは()。それはみただけですぐに両面宿儺(・・・・)の指であることがわかるほど、禍々しい呪力を纏っている。

 

「金庫から出てきた時は驚いた」

「札もほとんど意味を成してないね。あの程度の呪霊だった事が軌跡だ」

 

 綴は、それと……とこっちが本題だと言わんばかりに宿儺の指の話を切り上げる。

 

「夏油さん、あの人と接触してたみたい」

 

 2人の間に流れる雰囲気が変わる。

 

「マジ?」

「俺が冗談でこんなこと言うと思うか?」

「だよね」

 

 口調は軽いが、雰囲気は重苦しい。

 

「手掛かりはナシ。でも夏油さんは高専に頼るように助言したらしいし、何かを企んでたんだと思うよ?」

「はー、あの目立ちたがり屋め。こういう時に本名名乗るか?」

「夏油さんならやると思うぞ?」

「僕もそう思う」

 

 はぁ、と2人は同じタイミングで溜息を吐く。とりあえず夏油を見つけたら五条にすぐさま連絡してやると心に決めて綴は部屋に戻ることにした。

 

「綴、お疲れ様」

「ん、手前もなー」

 

 ほぼ1日起きていたのだから相当眠くなっているはずだ。フラフラと歩くのを見て五条は寮までついて行こうかとするが、綴の猛反対によりその場に残ることを余儀なくされる。

 

 

 

 ほぼ同時刻。

 夏油傑は失敗したなー、と呟いた。

 

「まさか悟が出てくるとはね」

 

 佐々木と知り合ったのはたまたまで、その後は計画通りに進んでいた。あの病院にいた呪霊を使役しようと画策していた時に佐々木と知り合い、あの病院を紹介した。その後、賭けではあったが佐々木が呪われたことで、こんどは高専を紹介した。高専を紹介したというよりは、今年入学した()にとっていい経験(・・・・)になるだろうと思っての行動だった。

 その後、綴が金庫を開けた時に呪霊を手に入れようとしていたのだが、綴は応援に五条を呼んでしまった。

 

「アイツ、綴に甘すぎるだろ」

 

 綴の為におあつらえ向きの呪霊を用意する自分も自分だが。

 

「さて、次はどうしようかな?」

 

 綴を甘やかす五条に対して、夏油は誰も知らぬ間に対抗心を燃やす。

 こうして(五条)(夏油)の対決が本人達も意識しない間に始まった。

 

 

 

────────────

 

 

 

「あ、綴君!」

「……なんか用?」

 

 アレから数日が経った。

 校舎を青木と歩いていると、尾上に出会った。あれから何故か尾上は綴を名前で呼ぶようになった。曰くこの界隈で甘菜姓が多すぎるとのこと。恐らくほかの甘菜と任務が一緒になったのだろう。

 

「五条先生から聞いたよ、任務だったんだよね?」

「今帰り」

「そっか、じゃあこれ」

 

 そう言って尾上は綴にペットボトル2本を渡す。

 

「?」

「水は青木のぶんね」

 

 ぶどう柄のそれを見て綴は首を傾げた。

 

「なにこれ?」

「私の奢り、お疲れ様ってことで!」

 

 綴はぽかんと尾上を見る。それはつまり、どういうことなのだろうか?もしかして、と綴は尾上を少し睨みながらペットボトルを返そうとする。

 

「俺、こういうことで懐柔されねぇから。アイツらに何言われたか知らねぇけど………」

「アイツら?」

 

 ぽかんとするのは今度は尾上だった。

 話が噛み合わない。綴はどうせ甘菜の誰かに何か吹き込まれたのだろうと思っていたのだが、尾上の反応を見るとどうやら違うようだ。

 

「よくわからないけど、私は綴君の先輩でしょ? 先輩が後輩を気に掛けるのは当たり前のことだしさ」

「いや、でも……」

「遠慮しなくていいよ!」

「なんか返す。貰いっぱなしは嫌だ」

 

 綴は財布を取り出したが、尾上に止められる。

 

「いいの!」

「俺が良くない」

「綴君は私の()()()()()なんだから、奢って当たり前!

 どうしてもって言うなら、綴君が先輩になった時に後輩に私の分まで奢ってあげてよ。私はそれで充分だから」

 

 その言葉に、綴は胸がじんわり温かくなったような気がした。

 綴を大事にしてくれる人間は沢山いる。でもそれはなんというか、()()()()()()という上からな思いがあることを綴は気付いていた。そんなことしてもらわなくていいのに。自分はもう充分強いんだから。

 しかし尾上のこれは、純粋に自分と仲良くしたいという気持ちを感じ取った。下心もなく、自分に恐怖心を持っているわけでもなく。

 

「……あ、ありがとう……ございます」

「わかればよろしい! それじゃ、私これから任務だから!

 青木もバイバイ!」

 

 尾上は綴と青木に手を振って別れる。

 

「気を付けてくださいね………尾上、先輩」

 

 

 

 

 

「……あれ? アイツさっき、敬語使ってなかった?」

 

 校門まで来た時、尾上は綴が敬語で礼を言ったことに気が付いた。そして尾上を気遣う言葉に……。

 

「先輩、先輩(・・)かぁ……」

 

 その言葉はとても小さい、まるで聞こえないでほしいと言わんばかりの声だった。恥ずかしかったのかもしれない。

 

「これから慣れてくれるといいなぁ。

 先輩、私は先輩なんだ!」

 

 うふふふ!と笑っていると尾上は同級生に怖がられた、がそれを気にする事はなかった。




まだもう少し続くんじゃー。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。