呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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会者定離⑪

「邪魔すんなよ」

 

 家入に治療をされている綴を部屋に入らず扉の前で待っていると、気に食わない人間がやって来た。自身がまだ学生だった頃、よく交流戦で夏油と一緒に言い合いやら殴り合いやらをしていた。

 

「なんの用?」

「可愛い弟に会いに来たんだよ。そこにいるんだろ? 出せよ、綴」

「やだね」

 

 甘菜紘平、甘菜家の五男であり五条とは同じ歳だ。

 

「つまんないなぁ……」

「……青木を殺したのはお前か?」

 

 五条に尋ねられた紘平はニンマリと笑う。

 

「そうそう。俺みたいに呪力あっても術式無い人間は遠距離攻撃するしかないからな」

 

 紘平は五条にライフルの形をした呪具を見せる。

 

「そういう話をしているんじゃない」

「は? ……ああ…確か綴と仲良かったんだっけ? でも仕方がないじゃん? ()()()()()()()()が攻撃されてたら誰だってああするよ」

 

 つまり綴でなければ見殺しにしているとでも言いたそうな言葉だ。いや、おそらくコイツなら見殺しにしている。

 

「綴も災難だよな。可哀想に、友達に殺されかけるなんてさぁ。

 あれ? こんなこと前にも無かったか? あ、思い出したぞ。夏油の時だ。次は誰に殺されかけるんだろうな?」

 

 本気でそう思っていないのだろう。まるでこちらを煽るかのようにニヤニヤと嗤う紘平はこの調子で綴に言葉をかけるだろう。それは善意でもなんでもなく、100%悪意でだ。

 

「お前、相変わらず綴が嫌いだな」

「嫌いじゃないって。ただ、備品(・・)のくせにうろうろ歩き回ってんのが気に食わないだけだ。大人しく飾られていたらいいのにさ」

 

 甘菜家の人間にとって、自分より歳下の兄弟は自身達が所有している備品と同じだ。それを弟や妹達も自覚しているし、疑問に思わない。そういう育ち方をしているから。甘菜家の人間からすれば、綴が異常なのだ。

 

「何回も言うけど、綴は備品でもなんでもない」

「いいや、備品だね。俺なんかと違って性能がいいから、替えがきかないからみんなに大事にされてる」

 

 紘平は呪具を背負い直す。

 

「ってか、本当にそこどいてくれない? 俺、今日は綴に用事があるんだよ」

「用事?」

「任務がここの近くでさ。ちょっと虐めに来たんだよ。そしたらあんなことになってて……」

 

 もうコイツと話したくない。五条は溜息を吐く。

 初めて交流戦で会った時、やけに夏油に絡んでくる人物が紘平だった。その時に初めて綴の兄だと知った。それまで興味の欠片もなかった甘菜家の実体を知った。感想は、そりゃ綴が家出を頻繁に繰り返すわ、だ。それと同時に弟分の綴を物扱いされたことに腹が立った。

 後から夏油に聞いた話だが、紘平は特に綴への当たりが酷いらしい。蝶よ花よと愛でられていて甘菜紬の息子として期待されて、ある程度の自由を許されている綴が気に食わないそうだ。

 

「嫉妬かよ」

「はぁ? なんで俺が備品に嫉妬しないといけないんだよ」

 

 その時、医務室の扉が開いた。

 

「うるせぇんだけど?」

 

 綴だ。

 綴は五条と紘平を交互に見てから、五条に話しかける。

 

「青木の遺体、家入さんに預けた。火葬はまた後でやるから」

「わかった。とりあえず今日は休んだほうがいい」

「じゃあ部屋に戻るわ」

 

 その場から離れようとした綴を引き止めたのはやはり紘平だだった。

 

「待てよ、お兄様に挨拶もなしか?」

「………なんでこの人ここにいんだよ?」

「綴虐めに来たんだって。

 僕がどうにかしておくから、帰っていいよ」

 

 綴は特に何も答えず廊下を進む。

 

「おい、綴!」

「それ以上綴に近くな」

 

 五条が本気になれば紘平など敵では無い。それを紘平も理解しているため、これ以上綴にちょっかいをかけることができなくなってしまう。

 

「絃栄さんにこの事言われたくなかったら早く帰れ」

「なっ!? お前、それは卑怯だぞ!」

 

 五条と絃栄の繋がりは紘平も知っている。綴を甘菜家から守っているのは次男の絃栄で、上層部から守っているのは御三家であり、最強と名高い五条だ。綴に紘平がちょっかいをかけても五条に屈することはないが、絃栄が相手となれば話は別だ。

 

「~~~っわかったよ!」

 

 紘平はそれだけ吐き捨てると高専から出て行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

【数日後……】

 

 

「綴君、出かけるよ!」

「………今から、ですか?」

「今から!」

「と、突然ですね」

 

 青木が死んでから、綴は元気がなかった。尾上もそうだったが、綴はそれ以上だった。ならば先輩の自分が頑張るしかない、と尾上は綴を誘う。

 

「綴君は行きたいところとかある?」

「いえ、特には……」

「そ、そっか………じゃあ私の買い物に付き合ってくれない?」

「荷物持ちですね、わかりました」

「言い方っ! 私そこまで酷くないよ?」

 

 尾上はぷくっと頬を膨らませる。

 

「冗談です。でも荷物は持ちますよ」

「本当にそんなことしなくても良いんだよ?」

「俺、後輩ですから。尾上先輩は先輩らしくどんと構えててください」

「え……う、うん」

 

 尾上の返事を聞いてから、綴はすぐに部屋に戻り用意を始める。

 今日はこの着物にしようか、と青木に尋ねようと青木の定位置である犬用ベッドを見る。だがそこには誰もいない。青木はもういないんだった、と綴は肩を落とした。

 

 

「綴君、コレとかどうかな?」

「だったらコッチの色の方が合うと思います」

 

 綴と尾上はデパートの服屋へやって来ていた。人混みが嫌いな綴のために、人が少ない朝早くにやって来ていた。服屋も開いている場所は少なく、綴は尾上が楽しめているかよくわからなかった。

 

「綴君、もしかして服とか好きなの?」

「……洋服を選ぶのは初めてです」

「やっぱり着物の方が好きなんだ」

 

 服を見ながら、尾上は綴に話し掛ける。

 

「……小、中学校の制服以外に洋服なんて着たことない………いや、小さい時に洋服を着ていた記憶は朧気にありますね」

「え、見たかったなぁ……」

「洋服は窮屈です」

「そんなことないよ? むしろ着るなら洋服の方が楽でいいんじゃない?」

 

 尾上は可愛らしい赤いバルーンスカートを鏡の前で身体にあてる。それを見て、綴はそれに合いそうな服を尾上に差し出した。

 

「あ、この組み合わせ可愛い! どうしよっかな……?」

「洋服のことはよくわかりませんけど、似合うと思いますよ」

「本当? んー、なら買っちゃおうかな?」

 

 尾上はニコニコと笑いながらカウンターへ服とスカートを持ってレジカウンターへ向かった。自分が尾上の物を選んだ、ということに顔がニヤけそうになるが必死になって堪える。

 

「私の買い物終わったら、次は綴君の番だね!」

「俺の?」

「何か欲しいものある? 適当にブラブラするのもアリだね」

 

 行こう、と言われて綴は尾上と一緒に歩き始める。このままだと本当にブラブラするだけで終わりそうだな、と思ったが綴はそれでもいいと感じた。とはいえ、尾上が尋ねてくれているのだから、と綴は欲しいものを考える。

 

──欲しいもの……最近寒いし青木の服………あ、いや違う。青木はもういない。

 

 また頭をよぎったのは青木のことだ。しかもこれは自分が欲しいものではなく青木に欲しいものだ。青木のことは今日は忘れろ、せっかく尾上が気分転換に連れ出してくれたのだから。

 綴は必死になって頭をひねる。

 

「……便箋って売ってますか?」

「便箋?」

「はい」

「あ、佐々木さんと文通してるんだよね。私はよく電話で話すけど、文通かぁ……私もしてみようかな? あれ? でもこの前も買ってなかった?」

「いや、その……別の人用に」

「別?」

 

 綴の言葉に尾上は反応する。綴と文通する人間が他にもいるだなんて、尾上は知らなかった。

 

「誰? もしかして……この前言ってた好きな人?」

「違います」

「えー?」

「………そろそろ、母さんの命日なので」

 

 尾上は歩いていた足を止めた。

 

「そ、そっか……ごめんね、なんか踏み込んだこと聞いちゃった?」

「いえ、大丈夫です」

 

 綴の母親と父親死んでしまっていることは、尾上は本人から直接聞いている。それ以来尾上は綴に気を使っていたが……。

 

「あの日は晴れていました。久しぶりに家族揃って出かけてて………服は洋服だったはずです」

「……そう、なんだ。仲良かったの?」

「昔は。まあ、記憶は朧気ですけど」

 

 昔は、ということは母親と父親が死んだ頃には、仲が悪くなったということだろうか?

 

「すみません、なんか暗い雰囲気にしちゃいましたね」

「ううん、大丈夫だよ!

 それより、便箋だね! 専門店はないけど、種類がいっぱいあって安いところはあるよ」

「そうなんですか?」

「百均って言うんだけどね」

「ひゃっきん……?」

「あれ? ボケのつもりだったんだけど……もしかして百均知らない?」

「はい」

 

 この後、めちゃくちゃ百均巡りをした綴と尾上であった。




甘菜兄弟、これ以上増えませんように(多分増える)
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