呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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舞台は京都ですが京都弁はわからないので、モブも標準語です。


為虎添翼

「来たな、甘菜!」

「………」

 

 6月。

 綴は不機嫌そうに眉を顰める。目の前にいるのは綴の天敵とも言える東堂葵だった。

 

 待ち合わせに指定されたそこは、テラスのある食事ができる店のようで、綴や東堂意外にも人がまばらにいる。そんな店の奥に通された綴は、先に注文して座っている東堂を何故か無性にぶん殴りたくなった。

 

「とりあえず、座ったらどうだ?」

 

 テーブルにはまだ注文した品が残っている。東堂を引っ張って店を出ることも考えたが料理を粗末に扱うことは避けたい。綴は舌打ちすると席に座った。

 

「甘菜も何か頼むか?」

「いらねぇ。さっさと食い終われ。俺は人が多い所は嫌いだ」

 

 東堂はやれやれと首を横に振る。そんな彼にイラッとしつつ、綴は椅子に座った。

 

 

 

────────────

 

 

 

 今回の任務は京都で起きている、変死についての調査及びその解決。

 なのだが、と綴はため息を吐いた。東堂と一緒に任務など久しぶりだ。なにせ1年生の時に東堂とやらかして(・・・・・)から一切一緒になったことはなかったのだ。

 

「ほんっと最悪」

「ところで、今年から弟子が入学したそうだな」

「は? 弟子?」

「伏黒とかいう……」

「………なんで伏黒が俺の弟子になってんだよ?」

「俺に聞くな。京都にいれば自然と耳に入る」

 

 別に伏黒は弟子という認識ではない。むしろ五条の初めての生徒、という感覚だ。初めて会った時は眼中に無かったが、もう高校生となると、感慨深いものがある。

 

「だが、体術を教えているのは事実だろう?」

「三日三晩頭下げられた人間の気持ちがわかるか?」

「お前がその伏黒に何かを感じたということは確かだな! でなければ甘菜が人の面倒を見るなんてするはずがない」

「人の話を聞けってんだ!」

 

 会うのが楽しみだ、とワクワクした様子の東堂は綴の話を全く聞かず伏黒がどんな好み(性癖)なのかに思いを馳せていた。

 

「…それよりも……調査しても情報が出てこねぇ」

「参ったな、今日は高田ちゃんがラジオのゲストとして参加するのに……それまでに終わらねぇと!」

「た? 何それ?」

 

 聞きなれない単語が東堂から飛び出し、疑問を口にするがすぐに後悔した。

 

「興味があるんだな!?」

 

 東堂は綴の両肩をガっと掴むとそのまま詰め寄ってくる。綴はそんな東堂の顔を押しのけようとするが何故かビクリとも動かない。

 

「ない、ないないない! ないからやめろ! ほんっっとやめろ! なんか目が怖いぞ手前!」

 

 人が往来する道で綴と東堂は攻防を繰り広げる。

 

「仕方がない! 今日の夜までに終わらせて、一緒に高田ちゃんのラジオを聞くぞ!」

「嫌だよ! 任務終わったらすぐ帰るよ! ていうかソイツのラジオじゃねぇよ! ゲストなんだろ!?」

「大丈夫だ! 低身長が好みの甘菜も高田ちゃんのファンに、俺達の同志になれる!」

「やめろー! 俺によく分からんもんを勧めんのはやめろー!!」

 

 しばらく取っ組み合いを続けたが、結局帰りの車内でラジオを聞いて後日感想を伝えることになった。

 

──だから嫌なんだよ、コイツと一緒は。

 

 遠い目をして虚空を見つめていると、東堂が飲み物を差し出してきた。よく五条が頼むなんとかフラペチーノとか言ってた飲み物の緑女性のマークが描かれたの容器に似ているような気がする。

 

「そんなに叫んだら喉が渇くぞ。

 安心しろ、ただのミルクティーだ」

「ほぼ手前のせいだよ。っつーかなんでこんなところで……」

 

 綴と東堂は屋台が出ている公園へ移動していた。このミルクティーはその屋台で買ったものらしい。

 ミルクティー、確か紅茶と牛乳を混ぜた飲み物。1度飲んだことがある。五条のゲロ甘なやつを。その後に夏油が作り直してくれた物はちゃんと飲めたので(好みかはともかく)これも飲めるだろう。しかも既製品でなく屋台で作られたもの、何故か綴の食の好みを知っている東堂ならではの気遣いだろう(何故かこういうことには気が利くから本当に腹がたつ)そして何より、紅茶は緑茶と葉っぱが同じ。その分警戒心も緩むというもの。あと純粋に好奇心が勝った。

 綴は意を決してミルクティーを飲んだ。

 そして吹いた。

 

「なんだこれ!? なんだこれ!!?」

「タピオカミルクティーだ」

「タッ!? なにそれ!?」

 

 よくわからない球体の何かが喉を直撃したことで綴はその場で盛大に噎せる。

 

「これから流行るぞ」

「知らねぇよ!! ミルクティーが飲める味だからその分腹立つ!」

「砂糖はセルフだったからな、俺が入れてきた」

「尚更腹立つわ!」

 

 東堂は自身が持っていた容器の側面を綴に見せる。容器の側面は黒い斑点があり、綴はマジマジと見ていなかったので模様かなにかだと思っていたが、東堂が軽く振るとその斑点が動いたではないか。

 

「この黒い粒がタピオカだ」

「………カエルのたまっ」

「それ以上は言うな、タピオカ狂信者が聞いていたらどうする」

「狂信……? このたぴおかには、そんな盲信されるような力が? 開発者はいったい何者なんだ? まさか、催眠系呪術を使う術師か何かか?」

「甘菜、俺はたまにお前が心配だ」

 

 ちなみにタピオカ開発に呪術師は関わっていない。タピオカはトウダイグサ科のキャッサバの根茎から製造したデンプンのことであるが綴がその事を知る機会はこの先もないだろう。

 

「この、たぴおか……餅みたいだな………」

「気に入ったか?」

「いや、勿体ないから飲むのであって、これはもう2度と飲まん」

 

 よっぽど喉に直撃したのが衝撃的だったようだ。虚無の目をしてタピオカミルクティーを啜る。

 

「1年の時に食わされたパクチーよりはマシだわな」

「あれもなかなか酷い顔をしていたぞ」

 

 パクチーを食べた時は「非術師はこんなもん流行らせて何がしたいんだ!? 臭いとかただのカメムシじゃねぇか!?」とのたうち回りながら叫んでいた。

 綴がタピオカミルクティーをやっと飲み終えた時、どこからが声が聞こえてきた。

 

「ねぇ、知ってる? この間また死んだんだって」

「知ってる。また女子生徒なんでしょ?」

「次私らかもよ?」

 

 春から夏へ移行するための合服に身を包んだ女子生徒達が話し込んでいる。

 

「ユウコさんの掲示板、やっぱり本物なんじゃ?」

「馬鹿なこと言わないでよ。そんなのあるはずないって」

「でも、私らに掲示板のこと教えてくれた隣のクラスのあの子も……」

 

 それを聞いていた綴と東堂は目を見合わせることはせずとも、同じことを考えていた。

 

「東堂、その掲示板ってどこにあるか知ってるか?」

「恐らくインターネット上の掲示板だろうな」

「……………?」

 

──いんたーねっと、とは確かパソコンを使う為に必要な物だったはず。そう、五条が言ってた。パソコンの中に入ってる百科事典みたいなもんだって…俺も1度、使ったことある……その上に掲示板が立ってるのか? いったい誰に見せるために? そんなところでお知らせ情報貼って誰が見るんだ?

 

 パソコン初心者にさえ足を踏み入れることができない綴は目をグルグルさせながら考える。使ったと言っても中学の時の自由研究で五条に借りた時くらいだ。

 

「ユウコさんの掲示板だったか」

「え、なんで手前携帯電話なんか出してんだ?」

 

 正確にはスマホだが、突然の東堂の行動に綴は驚く。パソコンじゃないのか、その掲示板があるのは?と更に混乱する。なにか言いたくても言えない。何故なら綴はそういうことに慣れていないから。

 

「あったぞ」

「え?」

 

 東堂が見せてきたスマホにはしっかり検索結果欄に「【拡散希望】ユウコさん【ホラー】」と書かれている。

 

「……け、携帯電話に、パソコンの画面が………あれ?なんか俺の知ってる画面と違う?」

「お前がパソコンを使ったことがあるのが衝撃的だがな、何が違うんだ?」

「ここに文字がない」

 

 綴が指差したのはインターネットのポータルサイトのロゴマーク。

 

「俺が五条に貸してもらった時はこの下に、『ケー、アイ、ディー、エス』ってあった」

 

 ケー、アイ、ディー、エス。kids(子供)………。

 ……………………。

 

「………え? なに? パソコンの使い方教える? スマホ変えよう? は? 英語? 成績聞いてどうすんだよ。別にあんなの無くても生きていけるし。五条もそれでいいって………」

 

 東堂は思わず綴に同情した。

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