呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

6 / 111
3巻読んだ後→順平……順平ぃぃい。



05話


「──と、言うわけで…綴も悠仁と同じ任務についてもらうから!」

「何がどうなしてそうなった」

 

 作務衣を羽織る手を止めて、甘菜はにこやかに笑う五条の太ももを蹴る。しかし、堪えている様子のない五条に舌打ちをして、いつもの1日の支度を始める。

 

「相変わらずだね、カップラーメン」

「簡単だから」

「半分残すのに?」

「ほっとけ」

 

 

 

────────────

 

 

 

「見えますか? これが呪力の残穢です」

「いや、全然見えない」

 

 甘菜は非常に憂鬱な気分である。

 

──今日は、一応休みだったはずなんだけどなー。

 

 この日に予定は無かった。予定が詰まって連日任務、なんてことはよくあるのに珍しくこの日は何も無かった。久々に学校の方に顔を出そうか、それとも疲れを取るために学校をサボるか……2択を選んでいた甘菜は、五条にその全てを打ち砕かれることとなる。

 

「先輩も見えてるんだよな」

「見えてんに決まってんだろ」

 

 甘菜はそう言いながら、ゴーグルを装着する。作業用ゴーグルのような形で、黒の半透明レンズが特徴だ。これは見られている、と気づけば襲ってくる呪霊が多く存在するため、視線を隠す目的で着用している物だ。

 

「甘菜君、ここからは別行動です。貴方は中を、私と虎杖君は外を見ます」

「了解」

 

 何とか残穢を見ることができるようになった虎杖を見て、甘菜はひとまず安心する。

 今日虎杖に引率するのは、1級呪術師の七海建人。最近よく一緒に任務へ行く間柄の人物だ。七海ならば虎杖に色々なことを教えられると信じている。五条は適当だから。

 

「おい、虎杖」

「なに?」

「今回の任務、俺は七海さんと別行動が多くなる。七海さんは手前と行動するし、なら手分けして当たろうってことだ。場合によっては手前が1人で行動することもある。

 だから、俺が助けてくれる、てことはまず無いと思ってくれ……生きたいなら、精々七海さんから見て学ぶこった」

 

 甘菜は遠回しに、心配していると虎杖に伝える。助けが来ると思って油断するなよ、でも一応そばに七海もいるし、虎杖も強くなってる、七海も凄い呪術師だから学ぶことまだあるよ。これを素直に言えない自分に少し嫌悪した。

 

「わかった。甘菜先輩も気をつけてな」

「………おう」

 

 どうやら甘菜の言葉の意味は虎杖に通じたようだ。何となく照れくさい気持ちになってそっぽを向くと、そこにいたのは七海だ。目が合った。(ゴーグルとグラサンをしているため、本当に目が合ったかは確かでないが)

 

「………な、何スか?」

「……いや、少し珍しいものを見ていただけですよ」

 

 珍しいもの。それは甘菜の言動に対しての、虎杖の受け取り方についてだ。虎杖は短期間でよく甘菜のことをよく理解できている。素直になることができず、何度も他の呪術師達と喧嘩をしていた甘菜だが、今回はその心配もなさそうだ。

 

「……気にしないでください。とにかく、そちらは頼みました」

「はいはい」

 

 

 

────────────

 

 

 

 甘菜綴は建物内にいた呪霊を捕縛する。袖から出ている細い糸に絡まり、呪霊はもがけばもがくほど自由が無くなっていく。そのまま、腕を軽く振るだけで呪霊は粉々にバラけた。

 今現在、この建物内には甘菜の糸が張り巡らされている。呪力に反応する特殊な糸は、目的のものを感知すると相手を捕縛することができる。しかし、捕縛してもその後は追撃できないため、甘菜自身がその場へ行かなければならない。

 

「とにかく、中にいるのはコイツらだけ……と」

「甘菜君」

 

 糸を解除しながら呟いていると、後ろから七海に話し掛けられる。

 

「そっちも終わったんすか?」

「はい……甘菜君、携帯電話は携帯してください」

「……」

 

 七海に言われて、甘菜はいつも携帯電話を入れているポケットを探るが、目的の物がないとわかると、深くため息を吐いた。恐らく七海は甘菜に電話をしてきたのだろう。しかし甘菜は携帯電話を寮に忘れていたため、その電話に出ることができなかったと……。

 

「すみません」

「それよりも、今回の件について報告しなければならないことが」

 

 なんのことだろう。甘菜は筒を背負い直すと、前にいる七海が差し出すスマホを受け取るために歩を進める。

 

「コレです」

 

 七海からスマホを受け取ると、そこに映っていたものに驚き目を見開く。呪霊らしきものが画面に映っている。呪霊は写真の類には残らない。そして、腕時計を腕にしている。

 

「……まさか」

「まだ断言はできませんが、恐らくはそうでしょう。

 ……甘菜君、頼めますか?」

「……持って帰るんでしょ? 俺がやります」

 

 筒に呪力を込めると、直ぐに大きくなる。

 元々そのつもりで甘菜にこのことを報告してきたんだろう。

 

「虎杖は?」

「外で待ってもらっています」

「……そうですか」

 

 甘菜はそれだけを言うと、自分がバラした呪霊…元人間の死体を筒の中に入れた。

 

「あとは……屋上ですね?」

 

 七海に確認すると、甘菜はそのまま筒を背負って屋上へ行ってしまった。七海は甘菜の背中を見送ってから建物の外へ出ることにした。

 

 

 

 彼にしては珍しく他人のことを気にかけている。

 七海は虎杖のことを気に掛けている甘菜に、少し意外だと感じていた。虎杖が甘菜をよく理解していたこともそうだが、甘菜は基本的に他人と距離を置きたがる、特に非呪術師には。それでも、1度懐へ入れていまえばとことん面倒見がよくなるが、そうでなければ……それはきっと七海の一学年先輩であるあの男(・・・)が原因なのだろう。

 たとえ呪術師であろうとも、たった数日の付き合いで甘菜が気に掛けることはない。その甘菜が、虎杖を気に掛けていることに七海は甘菜の成長を感じていた。

 

 これも、恐らく五条の思惑通りなのだと思うと、少し感動も薄れるが……。




4巻に向けて一言→真人は帰れ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。