呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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呪霊は瞬殺する。


為虎添翼③

 目を瞑ると人間の呪力が感知できる。

 市内全域、という訳にはいかないがやらないよりはマシだという判断で、綴は糸を張っていた。

 

「どうだ?」

「特に周りに何か問題があるって訳では無いな……」

 

 あの後、五条からは【ユウコさん】からの被害者はこの市以外にはいないだろうと聞かされた。

 つまり、この掲示板を見てもこの市を出れば【ユウコさん】から逃げられる、という可能性がある。

 とはいえ【ユウコさん】が人間を襲う順番はランダムであるため、そうハッキリと断言することはできないが……。

 

 時刻は夕方。

 もう午後の16時を過ぎている。女子生徒がよく通るような場所を選んでそこにいるのだが、全く【ユウコさん】が現れる気配はない。

 

「そうか……なら、他にも何か策を考えたほうが……」

 

 そう東堂が言いかけた時、糸の端に人間出は考えられない重さと一般人にしては多い呪力を感じ取る。

 

「………左から何か来る。あの掲示板で見た物語と似たような呪力だ」

 

 そちらには目も向けずに綴はポツリと東堂に声を掛ける。

 まだ姿は見えないが、こちらに向かってゆっくり歩いてくる。

 

「これは……誰かの後ろにくっついてるな」

「次のターゲットだな」

「おそらく」

 

 人間を襲う気配がないそれをしばらくその場で待っていると、ついに綴と東堂の前にそれが現れた。

 

 2m以上ありそうな巨体に不釣り合いな小さな手足と頭。何より特徴的なのは縦に大きい口だ。その口は横から見ると身体と同化していることがわかる。

 それがもう既に次のターゲットである女子生徒の後ろをついて歩いていた。

 

「甘菜」

「わかってる」

 

 綴は即座にその女子生徒の手首に糸をまきつける。

 

「これで居場所はいつでもわかるはずだ」

「それは常時発動していてもいいのか?」

「そこまで消費するようなもんでもねぇから、今日1日は大丈夫だろ」

 

 それを聞いて東堂は安心する。

 元々残りの寿命が近いとされている綴は、無茶をするとそれが縮むと聞いている。それはどうしても避けたい。

 東堂と綴は、互いに意識し切磋琢磨(東堂の一方的な感情)する関係にある。東堂はこの関係を続けたいと思っている。綴のおかげで刺激され強くなった部分もあり、東堂は綴に対して尊敬の念も籠るライバル心を燃やしているのだ。

 

「ここで後追って気付かれたら面倒だからしばらくしてから行くぞ」

 

 

 

 

 

【17:30】

 

 

「──と、その時高田ちゃんが」

「待て、なんでそこで出てくる。鬼から逃げきったら賞金貰えるその番組みには出ていなかったんじゃねぇの?」

「高田ちゃんはゲスト出演だ。出番こそ短かったがとても素晴らしい名演技をだな……」

 

 隣にいて何も喋らない、というもの気まずいしそれこそ周りの人間に怪しまれては困るので、綴と東堂はたわいない話をして件の女子生徒の家まで向かう。

 

「甘菜がここまで高田ちゃんに興味をもっとはな……やはりそれだけ高田ちゃんが魅力的なんだな」

「いや、ムカつくけど手前の話し方が上手いだけだ」

 

 そう、ムカつくことに東堂の説明はわかりやすく、度々こちらが思わず笑ってしまいそうな、そんな話し方をしているため飽きがこない。人間、好きなものを語るとこんな風になるのかと感心してしまうほどだ。

 

「東堂、この家だ」

 

 太陽が傾きかけた空を背景に、女子生徒の家が佇んでいる。

 

「たしかに呪霊の呪力が感じられるな」

()()()()()()()()()だ」

「OKだ。それがわかっていれば()()()()()()()

 

 と、その時だった。家の中から女子生徒の悲鳴が聞こえてきた。

 

「東堂!」

「わかっている!」

 

 東堂はそう言うと手を叩いた。

 「不義遊戯」

 手を叩くことで、術式範囲内にある“一定以上の呪力を持ったモノ”の位置を入れ替えることができる術式。それを用いて綴と女子生徒の手首に巻いていた糸の場所を入れ替えた。

 

 女子生徒の部屋の中は【ユウコさん】の生得領域となっていた。女子生徒自体は気を失っており倒れている。綴は即座に女子生徒の安全を糸で覆い安全を確保、同時にまた糸の束を用意すると、その瞬間東堂が現れた。

 

「やっぱりコイツを外に出すのは無理か?」

「中に入るのは簡単だが、出るのは難しいようだ。人間は特に」

 

 女子生徒を指差しで尋ねるが、東堂は首を振る。

 綴が突入した時点で、次に東堂が女子生徒と入れ替わる予定だったがそれができなかったため、糸の束を用意したのだ。

 

「しかし、なかなか広いな」

「1つの市内とはいえあんだけ噂になって恐れられてんだ。ここまで成長していても不思議じゃねぇよ」

 

 【ユウコさん】は綴と東堂に気が付くと突進してくる。

 

「ま、手こずらないだろうが」

 

 綴は糸を目の前に張る。すると【ユウコさん】はその糸に足が絡まり派手に倒れる。それを東堂が横から殴る。

 

「動きは鈍いな」

「そりゃあんだけ足が短かったらな」

 

 転がっていった【ユウコさん】を呆れたように見つめる綴だが、【ユウコさん】からは目を離さない、東堂も同様である。

 【ユウコさん】が起き上がると、綴と東堂は構える。何を言っているか理解ができないが【ユウコさん】は2人になにやら恨み言を言っているようだと感じる。この呪霊にそこまでの知能があるとは思えないが、獲物を殺すところを邪魔されて不満だという感情くらいはあるのだろう。

 

 再び【ユウコさん】がこちらへ突進してくる。

 

「甘菜呪流体術 二の型・牡丹」

 

 綴の拳は【ユウコさん】を貫いた。

 

『いや……だって、まだ』

「………」

 

 そう聞こえたような気がしたが、ハッキリとは聞こえず【ユウコさん】の身体は崩れた。

 

「甘菜、早いとこ逃げるぞ」

「あ、そっか」

 

 【ユウコさん】を祓ってしまえば生得領域は崩れてしまう。

 綴と東堂は部屋の窓を開けてすぐに部屋を出た。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

「甘菜! 今、何時だ!?」

「6時ぴったり」

「まだ時間に余裕があるな!」

 

 すると東堂はよしっと拳を高々と振り上げるとスマホを取り出す。

 

「なんでスマホ?」

「本当に何も知らないんだな」

 

 スマホでもラジオが聞けると東堂は軽く綴に説明するが、綴はちんぷんかんぷんなようだ。

 

「甘菜、一緒に聞くぞ!」

「なんで!? だから帰りに聞くって言ってんじゃん!?」

「高田ちゃんの魅力を伝えるためだ!」

「やめろー! 顔を近づけるんじゃない!!」

 

 その後ギャーギャーと道端で叫ぶ綴の声を聞き付けた警察に東堂が事情聴取され、歌姫が呼び出されたのであった。

 

「大変だったわね」

「もうやだアイツ」

 

 しかしあの東堂と会話が続くとは凄い。それだけ東堂が綴を認めているということになるが、綴がウザ絡みに耐性がつきすぎているからなのだろう。

 結局、綴は東堂から土産を貰ってからわかれて新幹線の駅のホームまで歌姫に送って貰っていた。

 

「庵さん、俺本当にアイツ無理なんですけど」

「でも嫌いじゃないんでしょ?」

 

 その歌姫の問いには答えなかったが、きっと肯定の意味なのだろう。綴が本気で東堂を嫌っているなら律儀に話に付き合うこともしないだろう。

 

「五条のがまだマシ。あの人、俺の嫌いなこととか知ってるし」

「その感性は分からないわ」

 

 おそらく、五条が人の嫌がることをしないのは綴ぐらいだと思うが。

 

「そういえば、東堂から何を貰ったの?」

「ああ、これなんですけど………なんですか、これ?」

「あー、ワックスね」

 

 青い新品の容器を筒の中から取り出すと、綴は歌姫に尋ねる。ワックス、という聞き慣れない言葉に耳を傾げるが歌姫はワックスがどういう意図で使うものかを説明した。

 

「髪を固める?」

「もしくは整えたりするものよ」

「だからアイツ髪が鬱陶しいとかなんとか言ってたのか」

「そういえば、髪伸ばしてるの? 去年に比べてだいぶ長くなったわね」

 

 綴は少し色が落ちてきた髪を触る。

 

「……なんか、五条は切りたがるんですけどね。俺は、ほら……ちょっと、()()()()()()

 

 綴が真似したい人物……それはおそらく去年の12月24日に五条に殺された………。

 

「……なら前髪にワックス使ってみたら?」

「あー、そうやって使うのか。何度やっても失敗するから……まぁ、まだ髪が短くてできないんですけどね」

 

 すると、丁度新幹線がやってきた。

 

「また梅シロップ送ります」

「本当に? 私あれ毎年楽しみにしてんのよね! お酒によく合うし」

 

 そうやって綴は京都から東京へ帰って行った。ちゃんと携帯型ラジオを聞きながら。




【為虎添翼】
・強いものに、さらに勢いをつけること。
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