その日、伏黒恵は五条悟に連れられて新幹線の駅まで来ていた。
五条は伏黒を駅の前で待つように伝え、伏黒はその言葉の通り待っていた。ちなみに津美紀は友達と一緒に遊びに行っている。
なにやら会わせたい人が今日から埼玉で暮らすのだとかなんとか。
しばらくすると五条が小脇に自分よりも少し背の高い金髪少年を抱えて走って帰ってきた。
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「ほら恵! 綴だよ!」
新幹線から降りて直ぐに、迎えに来ていた五条と出会い周りの目も気にせずに「生綴だー! 本物だー!」と頬ずりしたかと思えば、急に小脇に抱えられて駅を出て愛想のない少年に紹介された。小脇に抱えられたまま。
「………」
「ほらほ2人共表情かたーい!」
そう言うと五条は小脇に抱えていた綴を地面に立たせるとグ二グ二と頬を引っ張る。
「うるっせぇ」
「綴が口も態度も悪くなってる!? 反抗期!?」
五条の手を綴が叩き落とすと、五条があからさまにショックを受けていることがわかった。
「綴は今年で埼玉の中学校に入学することになっててね。今日はその準備。筆記用具とか買いに行こ」
「それ俺いるんですか?」
「綴と仲良くして欲しいんだよ。埼玉に知り合いほとんどいないし」
かと言って知り合いの多い東京で面倒を見ることは難しい。
何故なら東京にいればただでさえ子蜘蛛として上層部から受ける圧が重いというのに更に重くなる可能性があるのだ。早急に子蜘蛛を祓いたい考えだろうが、そのせいで綴が子蜘蛛の力に耐えられなくなることも考えられる。それは嫌だ。だから五条は綴が高専に入るまでの間できるだけ綴と上層部の繋がりを完璧でなくても切っておきたかった。
「ってなわけでレッツゴー!」
五条は綴と伏黒の手首をガッチリ掴むとそのまま目的の場所まで歩き出した。
目的地に着くまでほとんど喋っていたのは五条だったが、綴はその五条との受け答えをまともにしていた。それを伏黒は不思議な気持ちで眺めていた。五条との話をここまで受けて答えることができる人間がいたことに驚きを隠せなかったのだ。しかもイラついている様子もない。
「ってか本当に金髪にしたんだ」
「めっちゃ止められたけど。
ってか五条、新幹線に一緒に乗ってた家の奴わざと置いてきただろ」
「えー? なんのことかなー?
そんなことより買い物終わったらご飯どこ行く?」
「どこでも」
「そんなこと言ってたらデパートのフードコートにしちゃうぞ?」
会話が途切れない。
最初に対面させられた時のあの気まずい無言はなんだったのだろうかと思うほど、綴は五条とよく喋る。
「恵は?」
「え?」
「ご飯、どこで食べたい?」
「……俺もどこでも大丈夫です」
「えー? お寿司でも焼肉でもなんでも良いんだよ!? 2人共よく無さすぎ、本当に子供?」
隣からため息を吐く声が聞こえる。綴だ。綴は盛大に五条にわかりやすくため息を吐いてから口を開く。
「じゃあ五条が食べたい物」
「おっけー、デパートのフードコート行こっか」
最初からフードコートに行きたかったんじゃないだろうか?と疑いたくなるほどの即決だったが。どこでもいい、と言っていた綴の表情が更に不機嫌そうなものになる。そんな綴を見て五条はしたり顔だ。
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着いた場所はよくあるデパート。
しかし着物姿の綴はそこで浮きまくっていた。
「中学校何がいるんだっけ?」
「筆記用具は向こうに全部置いてった」
「あー、あのクソダサいヤツ」
綴の使っていた物はほとんどが本人が選んだものでは無い。全て決められていたものだ。だから思い入れなんてものは当然なく、綴はあっさりとそれらを捨ててしまった。
「じゃあ……筆記用具見に行こっか」
そこで伏黒は気が付いたのだが、五条はずっと綴の手首を掴んだままだ。まるで子供にするかのような行動に首を傾げる。綴よりも年下の自分の方はもうとっくに解放されているというのに。
すると五条と目が合った。すぐにそらそうとするが、五条は伏黒の言いたいことがすぐにわかったようで、綴に聞こえないようヒソッと話す。
「綴からは絶対に目を離さないでね」
「それってどういう………」
「五条、あそこ呉服屋ある」
「綴、あそこに綴の求めているものはないと思うよ」
結局聞けなかったが、五条がそう言った理由は案外すぐに伏黒も知ることとなる。
「ちょっと会計してくるから、綴と恵はそこ座って待ってて。綴、動くなよ。絶対にそこから動くなよ」
「なんで俺だけ念入りなんだよ」
文房具屋前にあるソファーに腰かける。何人も載せてきたソファーはお世辞にも座り心地がいいとは言えないが、ここまで振り回されてきた分、ホッと一息つくことができた。そう、伏黒は気を抜いたのだ。隣をちらりと見ると、綴は何処にもいなかった。
「………………え?」
ちょうど会計から帰ってきた五条に慌てて綴がいなくなったことを五条に伝えると普段見れないくらい五条が慌てふためきはじめる。
「だから、目を離すなと!」
「一瞬ですよ!? 一瞬目を離しただけですよ!?」
「覚えておいて、恵。綴はその一瞬で迷子になる」
そんな12歳いるわけない、と言いたかったが実際目の前で起きてしまえば何も言えない。だから五条はずっと綴の手首を掴んでいて、目を離さないといけない会計で綴を伏黒に任せたのだ。
「でもそれは最初に言っておいてください」
「それが綴に聞かれたらしばらく不機嫌になって口聞いてくれないから嫌」
迷子になられるのと口聞いてくれないのどっちがマシなんだ。
「とにかく綴の興味のありそうな場所行くか」
五条は伏黒を連れて先程の呉服屋や和菓子屋など様々な場所を探しに行くが一向に見つかる気配がない。
「元の場所に戻ってるとかはないんですか?」
「多分ない。移動したなら絶対元の場所の道順なんて覚えてない」
最終手段だ、と五条は綴の呪力を探る。初めからそうしていれば良かったんじゃ?と思ったが、この時五条はかなりテンパっていた。
そうして綴を見つけたのは人通りの少ない階段近くの椅子だった。
「こんな所にいた」
「遅い」
何故かキレ気味である。
「なんでこんな所に?」
「頭痛い。早く飯でもなんでも食べて帰ろう」
綴は(非術師の)人混みが嫌いだ。五条を待っている間どうしても我慢できなかったらしい。だからといってなにも言わずに伏黒から離れるのはどうかと思ったが。
「……やっぱり、ご飯買って帰ろっか」
そもそも綴がデパートに来たこと自体が奇跡だ。伏黒に
この後、買って帰った惣菜は全て綴の舌に合わなかったが、五条がカップラーメンを持ち出したことにより、好奇心が勝った綴がどうにかして食べれるように水で薄めたりするのだが、それはまたの機会とする。
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水で薄めたカップラーメンを美味しそうに食べる綴は、もうすでに食事を終えた伏黒にも勧めてみるが断られる。
五条は携帯電話に連絡が入り席を外している。
「……俺、なんかお前の顔好きじゃねぇわ」
は?と綴の顔を睨みつけるが、綴は何処吹く風でカップラーメンを啜っている。
「呪術師らしくない」
「どういう意味だよ」
「そのまんま。五条が良く話してたから興味があったけど、なんか想像と違った」
いったいどんな風に五条から話を聞いていたんだろうか。
「ま、俺よりマシだろうけど」
綴はテーブルの上にカップラーメンを置く。まだ中身は入っているが、もういらないらしい。
「俺もお前も呪術師になるしか選択肢がなかったとはいえ、まだだいぶマシだ」
そう言うと綴は目を瞑って寝てしまった。
「あれ、綴寝た?
どう恵、綴とは仲良くなれそう?」
「俺、顔が好きじゃないって言われたんですけど」
すると五条は爆笑した。
「なに笑ってるんですか?」
「いや、初対面にしてはかなり打ち解けてるなって!」
さっきのを聞いていったいどうそんな判断ができるんだ。
「綴はね、人混みが嫌いなんだよ、特に非術師の。そんで術師でも最初は警戒してる。昔、色々あってね。
だから……もしも恵が禪院に行ってたら、こんな感じになってたかもしれないね」
綴はもしもの伏黒だった。
甘菜家に搾取された結果が綴だった。
「大丈夫、綴は恵のこと嫌いじゃない。だっていつもの綴なら自分から話しかけることなんてまずしないから」
【芝蘭結契】
・よい感化をもたらす才能・人徳にすぐれた人との付き合い。
・「芝蘭」は、レイシとフジバカマ。ともに香りがよい草で、性質・才能・人徳にすぐれた人のたとえ。
番外編
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①
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②
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③