呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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宣戦布告

 子蜘蛛、と呼ばれているが、私はもう何百年も生きた呪いである。

 私はとても弱く、兄弟に喰われそうになってボロボロになりながら逃げていた。

 

 とにかくお腹が空いていた。

 そこに現れた弱った人間の子供を見つけた。

 食べようと食いつけば、私は気が付いた時にその子の中にいた。

 初めは戸惑ったがすぐに乗っ取ってやろうと呪力を子供の身体中に張り巡らせようとするが、だんだん意識が遠のいていく。

 

 目の前にいる男が、何度も何度も子供に呼びかけていたことは覚えている。

 後から気がついたことだがどうやらこの男は操霊呪術を使い、完璧とは言えないが、私を大人しくさせることが出来たようだ。

 危なかった、もう少し弱っていたら私はこの男に完全に使役されていた。

 

 その男のせいで、しばらく子供を乗っ取ることもできず、子蜘蛛に変えることもできず、ただただぼーっと子供の様子を見る日々だった。

 

 その子供の名前は『綴』と言うらしい。

 

 綴は人間に傷付けられていた。

 死にたいと思いながら死ねないのは、私が生きようとしていたからだ。

 そうやっていくうちに、綴の自我はだんだん摩耗していった。

 初めのうちはそんな綴を嘲笑っていた。なのに、だんだんこの子供が可哀想に思えてきた。

 

 何百年生きてきて、憎いはずの人間をそんなふうに思うだなんて……。

 私はいったいどうしてしまったんだろうか。

 

 私はそもそも両面宿儺を殺すために産まれた、人間の都合によって作られた呪霊。

 呪霊にされた母の憎しみを私達も継いでいる。しかし本質は()()()()()()()なのだ。そのために生まれてきたのだ。

 もしかしたら、私はこの子供に()()を見出していたのかもしれない。

 人間を守ろうだなんて思わない。でも、私はこの子供をまるで我が子のように感じていたのは確かだった。

 

 どうにかしてこの子を私が存命させなければならない。

 それは使命感にも近いものだった。

 

 そんなことを考えていたある日、その考え全てが吹き飛んだ。

 私が必死で繋いでいた小さな命は、突然やってきたあの男によっていとも簡単に救われた。

 安心した反面、すごく不快な思いになった。

 この頃になると、綴は私のものであるという思いが強くなっていた。

 

 あの男、五条悟が私は大嫌いだった。

 彼に睨まれた時、私の頭を占めたのは恐怖の2文字。

 いつか絶対に殺してやると心に決めた。あんな男に綴をくれてやるものか。

 

 そんなある日、綴がやっと自我を取り戻した。

 私が何度も話しかけたのに、五条悟に()()()()()()()と感じた瞬間にほんの少しだけ自我が浮上した。

 余計に嫉妬で狂いそうになった。

 

 なのでそこから、夏油傑の呪いを解くことに集中した。

 綴と早く同化することを優先していた。

 初めに胃の機能を停止。でもあまりやりすぎると餓死してしまうので、やり過ぎないようその辺の配分も考えないと。

 

 もっと子蜘蛛を食べれば綴ともっと早く同化できる。

 夏油傑の呪いは結局完璧には解けなかったが、少しずつなら綴と同化できるとわかった時は本当に嬉しかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 綴の自我が完璧に表へ出ていない時、私は少しだけ表へ出たことがある。

 久々の地面は不思議な感じがした。

 

 

「綴ー! ただい……」

 

 部屋に入ってきたのは五条悟だ。

 ああ、本当に大嫌い。

 

「…………お前、綴じゃないな?」

 

 直ぐに見破ってきた。

 

「……だったら何?」

 

 心底鬱陶しそうにそう言ってやる。

 勿論綴の見た目、綴の声で。

 

「子蜘蛛か」

「そうよ? 今は綴の自我がほぼないから出てこれたけど。普通ならこうはいかないわね。

 そう殺気立たないでちょうだい。私、貴方と戦う気ないから」

 

 五条悟の六眼を見て、本当は身震いするほど怖かったがなんとかそれを耐える。

 

「なんで今頃になって出てきた」

「宣戦布告ってやつよ。本当はそこの紙に書こうかと思ってたのだけど……直接言うわ」

 

 私はそう言いながら愛おしそうに両腕で綴の身体を抱くようにする。

 その瞬間の五条悟の顔と言ったら、笑えるくらい怒っていた。あんな顔に私がさせたのだと、一矢報いたような心地になった。

 

「この子は私の子供よ。私、綴と一緒になるの。わかる?

 この子と一緒に成体になって、次の子供を産むの。あら? それって綴と私の子供ってことになるのよね?」

 

 五条悟は思わず掴みかかってきた。

 そういうところはまだまだ子供ね。

 ダメじゃない、この身体はまだ綴のものなんだから。

 

「私は綴が好きよ。綴があの虫かごにいる間、私が綴を守ってたのよ?

 ならそのお礼に綴を貰っても別にいいでしょ?」

「………綴はお前には渡さない」

「どうやって? このままいけば必ず綴と私は同化する。

 あの夏油傑とか言う男に呪われたから、その速度は遅いけど」

 

 でもいつかその時はくる。

 

「傑が?」

「あら、知らなかったの?」

 

 夏油傑が私を呪ったから、綴が助かったことをこの男は知らなかったらしい。

 綴の状態を見て、人々は奇跡だとか原因の解明とか、耐性があるだとか言っているが、実はそんなものではない。

 単純に綴の師である夏油傑の決死の思いが実を結んだに過ぎないのだ。

 

「忌々しい。本当に忌々しい。あの男が死んだとしても残る呪いよ。

 成体になった暁には真っ先に栄養分にしてやるわ」

 

 その時、意識が遠のいていく感覚を覚える。

 限界だったみたいだ。

 

 気がついた時には、また綴の意識の裏にいた。

 

「あー、楽しかった♡」

 

 本当にタノシカッタ。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 床に倒れる綴を五条は抱き上げベッドに戻す。

 頬を触ると暖かく、胸は上下している。それを見て、やっと安心することができた。

 

「……傑ー、やるならもっと完璧にしろよなー」

 

 届くことの無い思いを呟く。返ってくる返事はもちろんない。

 

「大丈夫、なんとかするから。絶対に、絶対に……」

 

 絶対にあんな子蜘蛛と同化なんてさせてたまるか。

 時間は親友が稼いでくれている。

 思いつく限りのことはできるだけやったが、結局どうすることもできなかった。

 

「それでも」

 

 もう一度、あの無垢な笑みを見たかった。

 

 毎日毎日いくら最強を自称していても、神経をすり減らす日々。

 そんな日々の中で変わらず自分に笑いかけてくれた綴。

 媚びを売るわけでも、恐れているわけでもない、純粋な笑顔。

 

 あんな呪霊の言うことにいちいち反応するだなんて、自分でも自分らしくないと思う。

 

「俺が守るから」

 

 だからずっと……どうか、この子が子供のままでいてくれますように、と柄にもなく願っている。




完結に向けて…
まだ原作のほうで渋谷事変が続くと予想しています。
その間、書かないでいると恐らく書き方を忘れてしまいそうになります。
なので引き続き原作のキャラ達に綴のことについてを書いていきます。

もしこのキャラは綴についてどう思っていたか、など見たいものがありましたら気軽にコメント欄へ……。

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